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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~
第111話 鎌鼬④
しおりを挟む「さあ、第二ラウンドといこうぜ!」
『竜巻槍』はたしかに強力で汎用性の高い、厄介な魔法だった。
これが終わったら【魔導士】に教えるのもいいかもな。できるかわからないが。
【魔導士】の加護は【全属性理解】でしかないからな。【緻密な魔力操作】だったら難なくできるんだろうけど。
まあ、物は試しだ。
第二ラウンドとは言ったが、互いに魔力、体力共にかなり消費している。オレは特に体力だ。
この状態で『回復』――の込められたミスリル。万が一に備え、3つ持っている――なんか使ったら戦況は確実に悪くなるだろう。
使えば、攻撃を受ける。
一応『全快』の込められたミスリルも2つ持っているが、これはそもそもが希少なので、なるべく使いたくない代物だ。
『――『飛撃』』
鎌鼬《かまいたち》は袖から爪を覗かせ、『飛撃』を放った。
腕は2本だから、『飛撃』も2発。十字を描き、迫る。『飛撃』で迎え撃てば霧が発生し、視界が悪化する。
仮面のおかげで若干見えやすいとは言え、魔力由来の霧だから視界は完璧ではない。
ならここは……
オレは前へ走り、地面を滑り、『飛撃』の下をかいくぐった。
雨で濡れていて、かつ石畳でよかった。とてもよく滑る。
そして起き上がりざまに、オリハルコンを刀に変え、横に大きく振るう。
「――『剛撃』 ――『飛撃』」
もちろん、この攻撃が通るとは思っていない。
予想通り、鎌鼬は軽々と跳躍し、避けた。
正直、上に避けてくれるとは思わなかった。
「――『晶拳』」
今回は先を尖らせた『晶拳』でお送りします。
限界ギリギリの魔力を込めたので、防御もあまり意味を成さないでしょう。それでは……。
なんて思っていたら……
『――『風舞』』
そう呟くと鎌鼬《かまいたち》は、空中でジャンプした。
さらにもう一度……。そして……。
『――『縦風』』
オレの真上に移動した鎌鼬は上から下へ突風を吹かせる魔法を自分にかけ、もの凄いスピードで落下してきた。
風の効果なのか、回転も加わっている。
――やばい! 速すぎる!!
避けようとした瞬間、目の前に鎌鼬が轟音とともに落ちてきた。
その際に発生した衝撃でオレは5、6メートルほど後ろに飛ばされる。
足に風を纏わりつかせていたのか、あのスピードで整備された地面に激突しても大したダメージを受けているようには見えない。
地面も大きく抉れている。
クレーターとから鎌鼬はゆっくりと出てくる。
その歩み方には余裕すら見え隠れしているように思えた。
先ほどの『風舞』の効果が残っているのか、未だに体に風が纏わりついている。
厄介な魔法だ。空中歩行すら可能にする。
風って、火力はあまり高くはない魔法なんだが……使う者によってこんなに厄介なものになるのか……。
オレもあまり人のこと言えたものではないが……。オレは『水晶』に拘り過ぎているのか。
まあ、水晶は物質だもんな。二酸化ケイ素だったか?
理科の先生がなんか言ってたな。あの、元素記号を覚えていたとき。NaMgAl「Si」P……。「SiO₂」か。
元素まで操れたら酸素を発生させて火属性魔法を強化できるな。無理だけど。
魔法としての水晶は「二酸化ケイ素」ではなく「水晶」なんだよな。
水魔法、または水に雷魔法を放てば酸素と水素に分解されるらしいけど。自分の力で分解することはできないってことだ。
それに対し、風はものを動かすことに精通している。空気を動かす魔法だもんな。
例えば、オレが火の魔法を扱えたなら、地面に高火力の火を起こせば空気が暖められ、上昇する。
……できないことを考えるべきではないな。
相手は風だ。
駿のように火ではない。あいつの火力はおかしい。水晶が溶けるってどんなだよ。
鎌鼬の風はオレの水晶を砕く。つまり、砕かれた水晶まで操ればいい。
ただ、そこまで魔力が繋がるのか。これが問題だ。
試してみよう。
……悉く失敗。『晶壁』を出して試してみたが、失敗。
水晶が残っている間は残存魔力を使用しているのだろうな。接続できなかった。
プログラミング……も、外部から形を変えられたら正常に機能しなくなる可能性がある。
プログラミングはたしかに、相手の意表を突くいい手段だ。だが、こういった弱点がある。
完璧なものはこの世にはないってことだな。
つまり、やつの風魔法も弱点がある。……と言いたいところだが、そうではなさそうだ。
まず、『風舞』だが、これは時間制だ。制限をつけることで、威力・効果を良いものにしている。
あとは風魔法全般に言えることだが、風とは力だ。
それに向きが加わる……ベクトルだな。それを緻密に操作することで威力の高い魔法を生み出している。
あと、風は所詮、空気を動かしているだけにすぎない点だ。
オレが『晶盾』で『縦風』を一時的とは言え、防ぐことに成功したのはそれが理由だ。
単調な風は、遮蔽物があれば機能を失う。
鎌鼬が水晶を砕くことができるのは、ベクトルを複数に向けているせいだ。
同時に多方向から力を受ければ内部崩壊を起こす。接続が弱い部分から離れるのだ。
水晶においては、劈開面を利用されているとも言える。
『――『風舞』』
持続時間が過ぎたのか、鎌鼬《かまいたち》が再び魔法を自分に掛ける。
先ほどから動きを観察していてわかった『風舞』の効果は以下の通りだ。
・敏捷力の上昇
・感知力増強
・空中歩行
一言で言ってしまえば、『風衣』の上位互換だろう。
完全に死角となる所数か所から同時に――他の魔法で周りを囲み、魔力の察知を防いだ上で――放ったが、あと一歩のところでノールックで避けられてしまった。
厄介な。ただでさえ『風衣』は使う人によっては面倒な魔法なのによ……。
『ふぅ……だいぶ感覚も戻ってきたか……』
「へぇ……そいつは何より。で? どうする?」
『……痛みは与えん。そこで大人しく横になって――』
「――まさか」
誰がはいそうですかってなるかよ! オレは最期まで足掻くし、死ぬつもりは毛頭ない!
オレは鎌鼬との距離を詰め、居合斬りを放つ。
もちろん、いちいち鞘を刀身に合うように出している。
放ったらすぐに消す。鞘がないと……締まらないからな!
鎌鼬は後ろに身を引いて攻撃を躱し、そのまま後ろに大きく下がった。
その最中に『風砲』を複数初放ってきたが、すべて避け、再び距離を詰める。
そのとき、オレは奇妙な感覚に襲われた。
…………力が溢れる? 地面を蹴る力も、スピードも上昇している気がする。
そして何より、鎌鼬の一挙手一投足が手に取るようにわかる。
そして同時に、理解した。
神器の覚醒に一歩近づいたのだ、と。
おそらく、加護にもなっている【理解】が完全体になったのだろう。
それに伴い、全知もレベルアップしたと見ていいか? 知識量が増えた? いや、理解力が増加したっぽいか。
「ああ……頭が冴える…………!」
脳がスッキリして、とても気持ちがいい。脳内を冷たい水が流れているようだ。
……とはいえ、このパワーアップは戦力差が拮抗している状況においては有効的だったのだろうが。
悔しいが、鎌鼬の方が実力は上…………だった。
鎌鼬も時間が経過するによって、使える魔法が増えてきていたようだ。先ほどのセリフからの推測だがな。
後退を止めた鎌鼬は再び『竜巻槍』を放とうと、チャージに入った。
周りに風の球を置くことで、防御は整えている。
その分、集中力が持っていかれるからチャージ時間も伸びるが、費用対効果としては最適なラインを見極めた上での行動だ。
さてさて……あの風の球は見た感じ、範囲内に異物を感知すると爆発する仕組みだろうな。
ってか、【理解】が完全化した…………違うな。【思考加速】か、これは。直感でそう判断した。
たしかに、考え事をしているときの体感時間の割に、雨が見えそうなほど周りの時間が遅い。
考えろ…………効果的な何かを……!
…………あ、いいこと思いついた。
「――『隕晶』」
鎌鼬の上5メートル地点に『隕晶』を出現させる。
先ほどよりも一回りほど大きい、最大サイズだ。
その圧倒的質量で押しつぶすこともできるが、それは幸運な場合のみだ。
それに、発現直後は一瞬にも満たない僅かな時間だが、静止する。
その僅かな時間で、鎌鼬は余裕で脱出する。
その背後で、『隕晶』が地面に接する。
その瞬間、オレは手招きをする。
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