戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月

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第三章 ~戦闘狂の水晶使い~

第115話  人狼バルクス②

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 間一髪で攻撃を避けた。
 相手の姿を確認するため、後ろに下がったが、そこには何もいなかった。
 
 だが、折れた木の枝があった。敵意を持つ何もかがそこにいたのは確定だな。

『――『回復遅延ディレイヒール』』

 そんな声がどこからともなく聞こえてきた。
 
『――『偽軍シャドウアーミー』』

 すると、周囲から真っ黒な人狼が姿を現した。1体だけではなく、数えるのも嫌になるが、おおよそ10体。

「――『秘剣・吹風すいふう』 ――『秘剣・流水りゅうすい』」

 それぞれの剣に風と水を纏わりつかせる。そして――

「――『飛撃』」

 その場で一回転すると、それに合わせて水と風を纏った『飛撃』が真っ黒な人狼目掛け、飛ぶ。
 真っ黒な人狼は悉く消滅し、辺りの木々も倒れた。

 その時、背中に熱を感じた。斬られたようだ。だが、傷は浅い。
 先ほど聞こえた『回復遅延ディレイヒール』の効果なのか、回復が遅れそうだ。
 手数を曝すことになりそうだから、今は耐えよう。

 もう一度辺りをよく見渡すと、俺は違和感を覚えた。だが、その正体はわからない。

 頭上に気配を感じ、見上げるも、何もいない。
 今度は背後に……何もいない。



 風が吹き、木々が揺れ、鳥の鳴き声すら聞こえてくる。
 だが、そんな平和そうな光景とは裏腹。いくら警戒してもし足りないほどだ。
 木々のざわめきも、鳥のさえずりも不気味に聞こえる。 

 再び背後に気配を感じ、振り返る。
 
『――『陽光フラッシュ』!』

 影から飛び出してきた何かが魔法を放ち、俺の視界は白一色となった。
 これを攻撃と認知し避けるために、反撃も視野にいれつつ、前に飛び出す。

 頬を何かが切り裂き、血が流れる。
 光の発生源はすぐ横にいるのはわかる。だけど、眩しくて直視できないし、正確な位置は把握できない。
 下手に動けば反撃カウンターを食らう。

 俺はそのまま前に走り抜け、振り返り様に『飛撃』を放つ。

『ぐっ!』

 命中した。
 それと同時に光も収まる。仮面のおかげで、視力への被害も最小限に抑えられた。まだチカチカするし、範囲も狭いんだけど。

「お前はなんだ?」 

 そこにいたのは人狼だった。
 連合の魔物である証として、体には赤い痣がある。
 あの痣の形…………もしかして……。

『死人に答えるはずが……ないだろう?』
「冥土の土産はくれないのか? 魔物連合第十隊隊長さんよ?」
『!!』

 ああ、本当に隊長だった。

 これまでに得た情報から判断するに、目の前の隊長は種族柄暗殺向きではあるが、直接戦闘能力もかなり高い。
 
『……隠していても仕方がないか。そう、我は魔物連合第十隊隊長、バルクス。……冥土の土産にはなったか?』
「まさか。お前の首は実家への土産として貰っていく。冥土への土産話としては、お前を倒した武勇伝が最適なところだな」
『ぬかせ! ――『火纏い』』

 途端、バルクスの体が炎に包まれる。
 ラインの話じゃ、5本の爪全てから『飛撃』を発射できるらしいが……何年前の話だっけな? 成長して手札も増えているかもな。

『――『回復遅延ディレイヒール』 ――『飛撃』』

 バルクスが両手を振るうと、5つずつ、合計10の『飛撃』が交差しながら迫ってくる。
 いずれも炎を纏っている。おそらく、『回復遅延ディレイヒール』も付与されている。
 【不死】があるとは言え、これは切り札だ。安易に見せびらかしていいものじゃない。

 かといって、掻い潜るほどの隙間もないし、面積も広い。
 食らっていいものでもない……こんなときは……。

 バックステップで後退。背後に木が迫ってきたところで180度回転し、木を走って上る。
 さすがに枝が邪魔になるが、そこまで高く上らない。
 少し上った(走った)ところで木を蹴り、木の前に着地する。
 顔を上げると、ちょうど、先ほど上った木が炎に切り刻まれる瞬間だった。

 立ち上がり、すぐにまたしゃがむ。
 頭上をバルクスの腕が通り過ぎる。
 俺はそのまま斜め後方に向け、

「――『土衣』」

 防御を固めて思いっきりジャンプする。

『ウっ……!!』

 すると、俺の頭は見事、バルクスの顎に命中した。『土衣』の効果でこちらにダメージはない。……いや、頭頂部だったから少し痛い。
 その代わり、向こうはかなりのダメージのようだ。ただでさえ硬い頭を更に硬くしたから。硬くなるのは表面だけだけどさ。

 ガシッと体が後ろから掴まれた。
 そしてその尖った爪が突き立てられ……腹が切り裂かれる。

『……硬いな……』
「『土衣』の効果がまだ残っているからな」

 俺の体は『土衣』のおかげで硬くなっている。爪が鋭いとはいえ、そこまで深く入らなかったようだ。
 深くはないが、広い範囲で傷がついた。服を直して、傷跡を隠す。

 この隙に【不死】を発動させ、傷を癒す。体中の傷、ダメージが消え去る。
 魔力由来じゃないから、敵に感知されることはない。



 そのとき、都市の騎士団駐屯地から『通話トーク』が入った。

『【双剣士】様! 最悪の事態です!』
『ん、どうした? 今は連合の隊長と交戦中なんだが』
『はい! 都市が完全に包囲されました! 【双剣士】様について出て行った20人はすでに帰還済みで、遅延戦闘に入っております』

 都市が完全に包囲? そんなに数がいるのか、くそ!

『すぐに終わらせてそちらへ向かう! 念の為、応援を要請しておいてくれ!』
『かしこまりました! ご武運を……』
『そっちもな!』

 すぐに向かわないとな。その為には、こうするしかない。
 剣に付与していた水と風を消す。そして新しく火を付与する。
 
「――『秘剣・発火』 ――『重撃』」

 両方の剣に火を付与し、『重撃』も付与する。

『――『火纏い』』
 
 バルクスは体に火を纏った。火の攻撃が効きにくいのかもしれない。

『――『飛撃』』
 
 10本の炎を纏った『飛撃』が飛んでくる。
 先ほど同様、下を潜ることはできないし、高くて跳び越えることもできそうもない。
 でも、先ほどの一撃から威力は学んだ。強行突破できる。

 さっきの『飛撃』は木を一本倒すだけに留まっていた。2本目は傷をつけただけで、倒れてはいなかった。
 つまり、俺が剣を振るえば――

「はっ!」

 ――いとも簡単に消え去る。
 ミスリル級のやつらと同等か、それ以下の威力しか持っていないようだ。
 爪でそれだけあれば十分なんだケド……。こいつはここで倒しておこう。

 正直、勝率は加護を含めなければ、五分と五分。
 加護を使えば勝てるだろうけど、この加護の存在は切り札となりえる。敵に知られるのはかなり不味い。
 死なないとは言え、無敵でも最強でもない。実際、寿命では死ぬんだし。

『ぐぬ……』
「簡単に突破されたことがそんなにショック?」

 バルクスに近づき、ハイキックで頭を蹴り飛ばす。

『ぐがっ!』

 飛び様に胸を薄く斬られた。が、服を直して傷も治す。

『ちっ……――『フラ――』』
「仲間を呼ばせなるわけないだろ」
 
 バルクスの腹目掛け、『重撃』を込めた後ろ回し蹴りを放つ。

 ラインから聞いた話じゃ、『陽光フラッシュ』を放ったあと、仲間がやってきたらしい。
 だから、魔法詠唱中に強い衝撃を加え、魔法の発動を阻止した。
 普通は成功しない魔法の強制中断だが、普段より強い魔法を発動させようとしていたこともあって、簡単に阻止させることができた。

『――『偽軍シャドウアーミー』』

 バルクスの影が膨れ上がり、真っ黒な人狼が這い出てきた。
 先ほどはわからなかったが、これは影の魔法か。実体は……あるようだな。足跡ができている。
 それが10体。10体で固定かな。
 それぞれ、爪を振り上げて迫ってくる。

「――『飛撃』」

 炎を纏った2つの『飛撃』が、10つの影を両断する。すると、影は跡形もなく消え去った。
 そして俺は剣を逆手に持ち替え、後ろに向け突き出した。

『う゛……』

 確かな手応えを感じ、振り返ると、真っ黒な人狼・・・・・・が立っていた。

「!?」
『こっちだ』

 上から声がしたため、上を向くと、何かが俺の前に着地した。

『さらばだ、【放浪者】。――『魔爪フェンリルファング』』

 その瞬間、体に熱が走る。
 見ると、人狼の指から延長線上に、紫色の爪が伸びていた。

 その爪は俺を内部から引き裂き、俺の体には8つもの大きな、深い深い傷ができた。誰がどう見ても、致命傷だ。
 そして俺は倒れ込んだ。

  
 
 
 

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