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最終章 ~最強の更に先へ~

第148話  【戦闘狂】の【水晶使い】、【最強】の更に先へ

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「神に祈……りはしないか。お前自身が神だもんな」
「くっ!」

 オレの眼の前に転がるのは、かつて、この世界で自身を神とする宗教を起こそうとした者。
 実の師匠どころか、家族、友人すら殺した者。
 他世界に干渉し、40人もの子供を誘拐した者。
 魔物連合盟主として、『人』と魔物で残酷な争いを引き起こした者。
 一度討たれたものの、執着心から生き残り、数千の刻を生きた者。
 あげくの果てに、このオレを殺そうと画策した者。

 いい所がまるで一つもない。
 正真正銘の……

「お前はクズだ」
「待ちなさい! 貴方は私に感謝してると言いましたね!?」
「言った」
「私を生かしませんか? きっと、この世の役に立つでしょう。貴方がこの世界を去ったとき、誰がこの世界を守れますか?」
「ターバがいるだろう?」
「あの者では役不足です! どうか私を!!」

 意地汚く足掻くのはいい。
 だが、それと同時にオレの精神に侵入するのは……なんとも救いようのない奴だ。
 精神体から破壊するとしよう。

「――『叡智の書庫』」

 オレは、オレの心の中に侵入した神の精神体を魔法に巻き込んだ。
 
 神の見ているオレの心の中の風景を、書庫に変える。
 もちろん、脱出は不可能。オレの領域で魔法を扱うことは禁止だ。

 オレルールが、ここでは通用する。

 神が驚いているようだ。
 それもそうだろうな。

 神は最初、オレの家の中にいた。
 そして、適当な扉に手を掛けたのだろう。その扉の先がトイレとも知らずに。トイレ行きたかったのか?
 それは置いといて。
 
 神が扉を開いたその先に書庫を用意したまで。
 神が入った瞬間、扉は施錠したが。

『図書館のルール……。お静かに』

 オレルール。お静かに。
 魔法の詠唱禁止。無詠唱も、もちろん禁止。

 神を罠に嵌めるため、そう書かなかった。

 神の体は未だ外で命乞いをしている最中だ。
 ここは時間の感覚が引き延ばされている。あまり時間を掛けない方が良さそうだ。

「ここは……?」

 神は手近な本棚から一冊の本を取り出した。

「堕天使と聖なる悪魔……?」

 途端、本が光り輝き、閉じた。

「物語が一瞬で……?」

 掛かったな。

 途端、本棚が倒れた。
 本棚が光り輝き、元の位置に戻った。

 そこに神の姿はなかった。





 神は真っ暗な空間に立っていた。

「まさか、こんなところにまで入ってくるとはな」
「貴方は!? ――!?」
「ここはまだ書庫の中だ。魔法は使えないぞ」
「それは貴方とて同じこと! 作成者であっても、ルールでしょう?」

 間違いない。ルールは製作者すら縛る。
 否。
 製作者も縛るからこそ、強い縛りとなる。

「そうだな。魔法は使わない、魔法はな……。物語は最終局面だ。――『永遠とわの地獄』」

 本……活字ってのは、著者の念が多少なりとも入り込むものだ。
 オレはそれを具現化する。

 いや、本の題名に沿った魔法が生み出される、と言うべきか。
 本を想像し、その中身を具現化する。

 例えば『永遠の地獄』。その名から想像される通り、永遠の地獄。
 
 暗闇からチューブ状の……うなぎのようなものがはい出てきた。
 その口には、びっしりと何重にも細かい牙が並んでいる。
 出てきたチューブ状の物体は、ストローより細い。それが何百と這い出てきている光景は、とてもおぞましいものだ。

 まあ、それで終わらせるはずもなく。
 とはいえ、拷問の執行官がこいつらであるのは間違いない。

 チューブは神の体を縛り上げる。
 舌を抜き、爪を剥ぎ、歯を抜き……あとは省略させてもらおう。食事中の方がリバースしては申し訳ない。



 ともかく、数時間後――現実世界では数秒でしかない――には、神は見るも無残な姿に変わり果てていた。
 定番の「くっころ」? 言わせない。
 舌を抜いて、声帯も引き抜いたからな。喉も潰れている。
 
「かひゅー……かひゅー……」

 顔もぐちゃぐちゃだ。
 涙を流さないというその屈強な意志は認めよう。

 さて、精神体へのダメージはこれで十分か。瀕死だしな。

 そろそろ、現実に戻るか。
 こいつは……このまま放置でいいだろう。





 現実世界に意識を戻すと、神は動きが止まっていた。

 そりゃそうだ。精神を瀕死状態にして、拘束してんだから。
 文字通り、傀儡人形だ。壊そうと思えば、すぐにでも壊せる。

 さて、壊そうか。
 暴走……発狂寸前のようだし。

 オレが神器の力と融合し、得た2つの能力。
 駿は習得に年単位での時間が掛かったらしいが、オレの場合、話は別……というか、駿が神器の中でも特別レアケースだ。

 駿は魔法特化だ。その分、魔法に敏感で、繊細だ。
 まったく新しい属性は、異分子のようなものだ。最初は拒絶しようとする。だから、馴染むのに時間が掛かる。

 対して、オレのは【知】。神器の性質としては、知的好奇心の塊のようなものだ。
 だからこそ、新しいものは積極的に吸収する。

 オレが【知】に選ばれた原因がソレだな。
 水晶の魔法自体珍しいのに、それに特化し、かつ、転生者である存在。この世界から見れば、超~~~~~珍しいだろうな。

 神器特有の新属性――『光』と『闇』。
 それぞれ、対局の特性を持つ。

 例えば、駿の光は『解』、闇は『封』。最も身近な例を挙げるとすれば、封印と解呪。

 そしてオレの光は『断』、闇は『融』。断裂と融合。混ぜて……断つ!

「――『融』」

 オレは闇で神を包む。
 これで、神は逃げ場がないくなった。あとは、闇が徐々に神の深淵まで……魂の髄まで侵食するのを待つだけだ。

「――ぎゃぁあぁああああああああああああああああああ――――――!!!」

 魂に闇の手が掛かったようだ。
 肉体……そして精神。その奥に魂がある。
 肉体は続く戦闘で、HPゲージはレッド入りかけ。
 精神はオレの『叡智の書庫』で傀儡人形状態。

 魂に到達する……魂を守る防護膜がガバガバの状態。
 魂に手が掛かるのに、多くの時間は必要なかった。

 神の中にある2つの……一般人の大きさ程度の魂が1つと、小さな……1割程度の大きさしかない魂の欠片が1つ。
 小さい方が神のものだろう。大きいのがミルの魂か。
 完全に混ざり合ってしまっているな。最早、神の魂はミルの魂のたんこぶみたいになっている。

 ……すまない、ミル。
 神を討つため……お前も……お前を――討つ!!

 2つの魂を完全に融合させる。

「ああああああッッ!!! ――――――…………」

 神の断末魔が止まる。

 魂が完全に融合された。
 今オレの目の前にいるのは、ミルであり、神である。

 討たねばならない。

 オレは闇を解除する。
 精神世界の神も解放する。どちらも虫の息だ、何もできまい。

「…………終わりだ。――『断』 ――『滅』」

 オレは神を光で包む。
 光の『断』で、神の細部まで『断つ』。それが『滅』だ。
 
 そして、神の魂が散り散りに分解……消滅したのを確認した。
 オレは『晶怪人』を解除する。

 ここまでバラバラにしないと、神は殺せなかった。もう、闇での融合は不可能。
 ミルは救えない。すまない。

「終わったのか……?」

 ターバがそう聞いてきたのと同時に、神の体は塵となって空気中に溶けた。

『蓮……』
『ああ……終わったぞ』

 駿から念話が入ってきた。

 オレは叡智で、神について粗方探した。
 この世にもあの世にも、神は存在しない。完全に消滅したのを叡智で確認した。
 神の魂を、神が生まれたときから追って行く。…………………………消滅か。
 叡智がそう言っているのだから、間違いない。
 世界を超えた様子もない。

 やはり、完全消滅か。

『蓮、ありがとうな。こっちで待ってる』

 そう言い残すと、駿との念話が切れた。

 そうだ。オレは……駿が達成できなかったことを達成したんだ!!

 ――オレは……【最強】を超えたんだ!!
 





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