モラハラ夫に鉄槌を

おてんば松尾

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「それでは、ご主人から80万円を優香さんに支払うということでモラハラに対しては終わりました」

「さっさと支払いますよ。もう二度とこの話にはならないということを約束して下さいね」

「もちろんよ。私も納得したわ。じゃぁ次ね」

弥彦さんが「次?」と言いながら、眉間に不思議そうなしわを寄せた。

「次はご主人の不貞に対する離婚の件です」

「は?」

弥彦さんは驚いて、私を睨みつけた。

「あなたの不貞による離婚問題よ。不倫の証拠はあるから、そっちの慰謝料もよろしくね」

「不貞?何を言っているんだ、証拠なんてあるはずないだろう」

「それが、あるのよ。調査会社を利用したわ。探偵の片山さんがばっちり証拠を押さえてる。もちろん離婚調停してもいいけど、体裁悪いわよね?社会的立場っていうのもあるしね」

「不倫の証拠なんてあるはずはない」

そこで、片山さんが後を引き継いでくれた。

「調査会社を経営しています。片山です」

「ああ、なるほどね」

「私は優香さんに依頼を受け、ご主人の笹山弥彦さんの調査をしていました。これが調査報告書です」

片山さんは、出張先で木村麻衣とホテルの部屋へ出入りする彼の写真を見せた。東京に帰って来てからの、ビジネスホテルへの出入りもしっかり押さえている。SNS上にあげられていた木村麻衣の画像も添付してあった。

「「何を言っているんだ……優香、君が探偵を雇うなんて、そんな金はなかったはずだろう?一体全体、どうやって?そもそも、優香が探偵に依頼するための資金を準備できたというのは、不自然だ。私に知られずに資産を隠していたのか」

「母に借りたの。私たちのお金を使ったわけではないから心配しないで。そもそもそんなお金なんて私にあるわけないじゃない」

「お義母さんに……」

彼は母が女手一つで私を育てていたことを知っている。苦労してきた母親を巻き込むなんて信じられないという顔をした。

「資料を見ていただいたら分かるように、木村麻衣さんとの関係は二年に及びますね。最初のメッセージのやり取りがその頃です」

「ふざけるな、そんなはずないだろう。だいたい俺は不倫なんてしていない」

「証拠があると言っているのに、なかなか認めないのね。往生際が悪いわ」

「いや、俺は認めない。ホテルに入ったからと言って、行為に及んだとは限りませんよね?彼女は私の会社の部下です。仕事の話をするのに個室の方が話しやすかっただけです。場所はファッションホテルでもないビジネスホテルですしね」

「麻衣さんから300万円の慰謝料を受け取ったわ。私たちは離婚することになるので、あなたは彼女と再婚すればいいんじゃない?」

「麻衣が慰謝料?彼女が認めたのか?ふざけるな!俺は麻衣となんて一緒にならない」

「彼女はあなたと結婚する気みたいよ。私が離婚してくれるなら慰謝料は払いますって言ってくれた」

「そんな馬鹿な。彼女とはそういう付き合いはしていない」

彼はテーブルの上をドンと叩いた。

「大きな音で威嚇しないで下さい」

渡辺先生が彼を注意する。

「あなたとは出会ってすぐに関係を持ったのよね。一緒に泊まった場所とか、もらったプレゼントとか全て教えてくれた」

「そんなことは認めないし、それは彼女の虚言だ」

「そうなのね。麻衣さんはあなたのために慰謝料を支払ったのに気の毒ね。全財産だと言ってたから、弥彦さんは責任を取る必要があるわね。彼女を路頭に迷わせるなんて、とても可哀想」

「だから、彼女が勝手にそう言っているだけだ」

「彼女は私たちの離婚を望んでいるわ。300万円をすぐに支払ったから、今のアパートから出て行かなくちゃいけないんだって。住む場所がなくなるから、ここに住む予定だって」

「なに、何言ってるんだ!さ、300万……一緒に住めるわけないだろう」

「タワマンが手に入るんだから、300万くらい安いものなんですって」

「離婚するつもりはない。麻衣からそんな話は聞いていない。何を突然言い出すんだ?」

弥彦さんの態度からは、あからさまに焦りが見えた。

「私はもうマンションを出ていくので、その後のことは関知しないわ。裁判で争うことになるかもしれないけど、あなたが勝つ見込みはない。私が請求する金額を支払ったほうが、余計な手間は省けると思うわよ」

「いいや、俺は浮気はしていない。離婚なんて認めない」

「これは、先日、木村麻衣さんとの話し合いのときの映像です。どうぞ、そのパソコンで確認してください」

片山さんはUSBメモリを弥彦さんに渡した。


あの日、木村麻衣に呼び出された時、私たちは喫茶店で話し合いをしていた。その時の様子は、お店の監視カメラにバッチリ録画されていたし、音声も録音されている。

片山さんはその動画を彼に渡し、弥彦さんに内容を確認するように言ったのだった。
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