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「慰謝料請求と財産分与についてです。不貞行為に対する慰謝料は300万円と設定しました。ご主人には資産があるため、もう少し高い金額を提示することも可能でしたが、財産分与を考慮してこの額にしました。共有財産には不動産、預貯金、有価証券、保険などが含まれます。共有財産の名義が全てご主人であっても、原則としては半分ずつ分けることになりますので、優香さんは半分を受け取る権利があります」
「こ、こんな金額払えるはずがないだろう!なんで俺の資産だけ半分にしなくちゃいけないんだ、俺の名義だろう」
「え、でも、私、自分名義の貯金ないわよ?」
「は?そんなものは自分の責任だろう。君の収入が低いのはどうでもいい。なんで俺の貯金を優香に半分も渡さなければならないんだ」
「それは結婚後の共有財産であるためです。もちろん、このマンションの権利も半分になります」
渡辺先生は結婚前の資産は含まれていないことを説明した。
「どこで調べたんだ!勝手に俺の口座を確認したのか!」
「心配する必要はないわよ。マンションが売れれば、生活は困らないでしょう。これからはローンの支払いもなくなるから、あなたの給料をそのまま自由に使えるわよ」
「嫌だ、絶対に嫌だ!このマンションを売りに出すなんて考えられない。ここを手に入れるためにどれほど苦労したか。そんな一方的な主張は許されるわけがない。訴訟でも何でも、戦ってみせる。裁判で決着をつけるまでだ」
「馬鹿ね。あなたに勝ち目なんてないわよ。裁判起こしたら、会社の知るところとなるでしょうね。麻衣さんと会社の経費で旅行に行ったことがバレてもいいの?妻へのモラハラとか、社内不倫とか、大袈裟なことになっちゃうと、左遷くらいで済まないんじゃないかしら」
「そんなことを会社に言えば、名誉棄損で訴えてやる」
「訴えると、また大変なことになるでしょうね。忙しくなりそうですね。頑張ってね」
「お前……ふっざけるな!」
「ご主人が会社の経費として不倫にかかわる交際費を計上することは、倫理的にも法律的にも問題があります。税法違反や横領罪に該当する可能性がありますね」
渡辺弁護士が、ゆっくり分かりやすいように彼に告げる。低く抑えた声で、しかし明確に威圧感を込めて言葉を発する。
「そ、それは、脅しですか?そんなことをしてもいいと思っているのか!」
「いいえ、このまま協議離婚という形でこちらの条件を呑んでいただけたら、裁判にもなりませんよ」
「そんな……優香、違うんだ。ただの遊びだっただけで」
彼の声がうわずったかと思うと、弥彦さんはガタンと音がなるほどテーブルに額を付けて私に頭を下げた。
「頼む離婚はしないでくれ。離婚はしない。財産は分与しない」
もう体裁を気にしている余裕はないのだろう。弥彦さんは、わなわなと震えながら、次第に泣き声へと変わっていった。
額には冷や汗が滲み、震える手は、自分を支えきれないように見えた。
「あなたの意見は受け入れられないわ。弥彦さんは有責配偶者なんだから、離婚する場合には財産分与が必要です。このマンションも売却して分与に含めなければならないわ」
「冗談じゃない!そんなことをするはずがない。ちょっと待て!このマンションがどれほどの価値があると考えているんだ?価格はこれから上昇する。投資物件としての価値もあるのだから!」
「では、このマンションを売却した場合の金額を出しましたので、その金額から残りのローンを差し引き、残金の半分を優香さんに渡してください。その後、売却するも住み続けるもご主人の自由です」
渡辺先生は事務的に告げた。
「このマンションは絶対に手放さない!」
「そんなの知らないわよ。計算して残りのローンの額を引いたら、3760万だったわ。だから、そのはんぶんの1880万を私に支払ってね」
「そんな金額有るはずないだろう!」
「あるでしょう?あなたの貯金から出せばいいでしょう。ああ、もちろん結婚してからの共有財産だから、それを半分にして、あなたの分から1880万払えるならってことだけど。大丈夫?無理なら、マンション売却の方向で話をすすめましょう」
「マンションは、このマンションは俺の命だ……」
「それは無理。とりあえず、モラハラに対する80万円、不倫の慰謝料300万円を支払った後の残金で計算しているわ。慰謝料を除いた預貯金の半分が600万円で、ざっくり言うと、私に支払うべき金額は2880万円になります。覚悟して支払ってね」
「は?そんな金があるはずないだろう!」
「貯金かき集めれば、あるわよ。無理なら、マンション売れば問題ないし」
くそっ!と言いながら、カッとなって弥彦さんは私の胸元を掴もうとした。
片山さんがその腕を止め、私と弥彦さんの間に割って入って彼を睨みつけた。
「駄目ですよ、手を上げたら、警察を呼びます。この部屋の中でのことは全て映像に残ってますよ」
「第七百七十条、夫婦の一方は、配偶者に不貞な行為があった場合、離婚の訴えを提起することができる。これは民法で定められている法定離婚事由にあたります。相手がけがをした場合は傷害罪が成立します。奥様に暴力をふるえばもっと大変なことになります」
渡辺弁護士が大きな声で忠告する。その姿勢と態度が、相手に対する警告を示している。
「手を挙げたらあなたの支払う慰謝料が増えるわ。警察沙汰になるけど、大丈夫?」
「くそっ!全部あいつが……麻衣のせいで……」
「麻衣さんは私たちの離婚を強く望んでいたわ。彼女は、あなたの妻がどれほど苦労しているかも知らずに、その後釜に収まりたいんですって。弥彦さんと結婚しても贅沢はできないのにね。毎日どれほど節約レシピを考えたか」
「そんな貧しい生活はさせてないだろう!ちゃんと食事はできていた」
「そうね。私が苦労して家で作っていたものね。あなたがいない日は毎晩菓子パンで済ませていたことなんて知らないでしょうね」
「そんな苦労はさせてないはずだ」
「どの口が言う?」
「頼む、もう少しだけ考える時間をくれ。出て行けなんて言わないから」
「出て行くわよ。もう二度とあなたとは会わないから」
「なんで、こんなことに……」
彼の声はかすれ、その音量はだんだん小さくなっていった。
「どうするのよ?麻衣さん来月にはアパートを引き払うって言ってたわよ?すぐに住む場所探してあげなきゃ」
「こ、こんな金額払えるはずがないだろう!なんで俺の資産だけ半分にしなくちゃいけないんだ、俺の名義だろう」
「え、でも、私、自分名義の貯金ないわよ?」
「は?そんなものは自分の責任だろう。君の収入が低いのはどうでもいい。なんで俺の貯金を優香に半分も渡さなければならないんだ」
「それは結婚後の共有財産であるためです。もちろん、このマンションの権利も半分になります」
渡辺先生は結婚前の資産は含まれていないことを説明した。
「どこで調べたんだ!勝手に俺の口座を確認したのか!」
「心配する必要はないわよ。マンションが売れれば、生活は困らないでしょう。これからはローンの支払いもなくなるから、あなたの給料をそのまま自由に使えるわよ」
「嫌だ、絶対に嫌だ!このマンションを売りに出すなんて考えられない。ここを手に入れるためにどれほど苦労したか。そんな一方的な主張は許されるわけがない。訴訟でも何でも、戦ってみせる。裁判で決着をつけるまでだ」
「馬鹿ね。あなたに勝ち目なんてないわよ。裁判起こしたら、会社の知るところとなるでしょうね。麻衣さんと会社の経費で旅行に行ったことがバレてもいいの?妻へのモラハラとか、社内不倫とか、大袈裟なことになっちゃうと、左遷くらいで済まないんじゃないかしら」
「そんなことを会社に言えば、名誉棄損で訴えてやる」
「訴えると、また大変なことになるでしょうね。忙しくなりそうですね。頑張ってね」
「お前……ふっざけるな!」
「ご主人が会社の経費として不倫にかかわる交際費を計上することは、倫理的にも法律的にも問題があります。税法違反や横領罪に該当する可能性がありますね」
渡辺弁護士が、ゆっくり分かりやすいように彼に告げる。低く抑えた声で、しかし明確に威圧感を込めて言葉を発する。
「そ、それは、脅しですか?そんなことをしてもいいと思っているのか!」
「いいえ、このまま協議離婚という形でこちらの条件を呑んでいただけたら、裁判にもなりませんよ」
「そんな……優香、違うんだ。ただの遊びだっただけで」
彼の声がうわずったかと思うと、弥彦さんはガタンと音がなるほどテーブルに額を付けて私に頭を下げた。
「頼む離婚はしないでくれ。離婚はしない。財産は分与しない」
もう体裁を気にしている余裕はないのだろう。弥彦さんは、わなわなと震えながら、次第に泣き声へと変わっていった。
額には冷や汗が滲み、震える手は、自分を支えきれないように見えた。
「あなたの意見は受け入れられないわ。弥彦さんは有責配偶者なんだから、離婚する場合には財産分与が必要です。このマンションも売却して分与に含めなければならないわ」
「冗談じゃない!そんなことをするはずがない。ちょっと待て!このマンションがどれほどの価値があると考えているんだ?価格はこれから上昇する。投資物件としての価値もあるのだから!」
「では、このマンションを売却した場合の金額を出しましたので、その金額から残りのローンを差し引き、残金の半分を優香さんに渡してください。その後、売却するも住み続けるもご主人の自由です」
渡辺先生は事務的に告げた。
「このマンションは絶対に手放さない!」
「そんなの知らないわよ。計算して残りのローンの額を引いたら、3760万だったわ。だから、そのはんぶんの1880万を私に支払ってね」
「そんな金額有るはずないだろう!」
「あるでしょう?あなたの貯金から出せばいいでしょう。ああ、もちろん結婚してからの共有財産だから、それを半分にして、あなたの分から1880万払えるならってことだけど。大丈夫?無理なら、マンション売却の方向で話をすすめましょう」
「マンションは、このマンションは俺の命だ……」
「それは無理。とりあえず、モラハラに対する80万円、不倫の慰謝料300万円を支払った後の残金で計算しているわ。慰謝料を除いた預貯金の半分が600万円で、ざっくり言うと、私に支払うべき金額は2880万円になります。覚悟して支払ってね」
「は?そんな金があるはずないだろう!」
「貯金かき集めれば、あるわよ。無理なら、マンション売れば問題ないし」
くそっ!と言いながら、カッとなって弥彦さんは私の胸元を掴もうとした。
片山さんがその腕を止め、私と弥彦さんの間に割って入って彼を睨みつけた。
「駄目ですよ、手を上げたら、警察を呼びます。この部屋の中でのことは全て映像に残ってますよ」
「第七百七十条、夫婦の一方は、配偶者に不貞な行為があった場合、離婚の訴えを提起することができる。これは民法で定められている法定離婚事由にあたります。相手がけがをした場合は傷害罪が成立します。奥様に暴力をふるえばもっと大変なことになります」
渡辺弁護士が大きな声で忠告する。その姿勢と態度が、相手に対する警告を示している。
「手を挙げたらあなたの支払う慰謝料が増えるわ。警察沙汰になるけど、大丈夫?」
「くそっ!全部あいつが……麻衣のせいで……」
「麻衣さんは私たちの離婚を強く望んでいたわ。彼女は、あなたの妻がどれほど苦労しているかも知らずに、その後釜に収まりたいんですって。弥彦さんと結婚しても贅沢はできないのにね。毎日どれほど節約レシピを考えたか」
「そんな貧しい生活はさせてないだろう!ちゃんと食事はできていた」
「そうね。私が苦労して家で作っていたものね。あなたがいない日は毎晩菓子パンで済ませていたことなんて知らないでしょうね」
「そんな苦労はさせてないはずだ」
「どの口が言う?」
「頼む、もう少しだけ考える時間をくれ。出て行けなんて言わないから」
「出て行くわよ。もう二度とあなたとは会わないから」
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