さよならまでの六ヶ月

おてんば松尾

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彼が旅行から帰ってきたら、不倫相手のことを訊こうと心に決めている。

彼からは言い出さないかもしれない。
それならそれで、私から水を向けてあげればいい。

私は準備を整えていった。

この神社は私がいなくなれば兄が跡を継ぐことになるだろう。
もし無理だと言ったら他所から神主さんに来てもらえばいい。

私にだけ後継ぎという重荷を背負わせて、自由奔放に生きている兄だ。
万が一家族と縁を切って、そのままアメリカにいるつもりなら、それはそれで仕方がない。
両親に諦めてもらうしかないだろう。

この先の五ヶ月、私はできるだけ穏やかに過ごそうと決めた。
神職は自分に向いていると思う。
だから生まれ育ったこの場所で、いつもと同じように過ごして、そしてちょっとだけ美味しい物を食べたり、贅沢品を買ったりしようと思う。

最近全然行けてなかったけど、映画も観に行こう。
エステとかスパなんかもいいかもしれない。
行ったことがないからハードルが高いかもしれないけど。

朝の冷たい空気、静寂に包まれた時間帯。
拝殿の中に入ると、清い空気に包まれ、キリリと身が引き締まる感覚を覚える。
神聖な空間で、目を閉じゆっくり呼吸をして心を無にする。
そしていつも通り、神様に奉仕する。

凛と清廉した雰囲気が、心の中の邪な気持ちを洗い流して、綺麗にリセットされていく。

「小春、なんだか吹っ切れた顔になっているね」

「神様。おはようございます。状況を切り替えるために、いったんすべてを断ち切ると決めたら心が軽くなりました」

「そうなんだ」

「ええ。もうすぐですね。神様のもとに行くのが少し楽しみになってきました」

「そうなの?」

「ええ。だってどこにだって入り込めるんでしょう?映画館に行ってタダで映画が観られるなんて凄くないですか?」

ハハハと神様は笑った。

「それだけじゃないよ。僕はなんだってできる。一緒にエステだってスパだって行けるんだよ。僕は女の子に変身もできるしね」

神様は何でもありなんだと感心してしまった。

私は部屋の断捨離も始めた。
死んだ後に黒歴史的な物が出てきたらちょっと恥ずかしい。

それから社務所の整理も始めた。
私の後に神職で来た人が分かりやすいように書類もまとめた。

うちの神社にアルバイトに来てくれていた人たちの履歴書が出てきた。
拓也さんの浮気相手の女の子の履歴書もある。

「敵を知ることは必要だよ」

ふっと後ろから声が聞こえた。

「気になりますね。だから、我慢しないで隅から隅まで読ませて頂きます」

そう言うと、彼女の履歴書に目を通した。


木下優香 二十二歳

この時は大学四回生だった。
確か巫女の衣装に憧れて、一度は着てみたかったとアルバイトに申し込んで来たんだった。

年末年始の忙しい時期、短期のアルバイトさんだったから、巫女の衣装目当てでも何でも、雇ったんだわ。

今は二十四歳か。私の四つ下ね。

「化粧が濃いね」

「そうですね。ギャルメイクですね。彼の好みも変わったのね」

拓也さんは派手な女性は好きではなかった。
綺麗にネイルした爪を見て、あれでどうやって米を砥ぐんだと不思議がっていたのを覚えている。

「就職は決まっているわね。予定って書いてあるけど企業名も書いているし、これは上場企業に内定決まっていますっていうマウントね」

「この会社って一流企業なの?」

「商社だし、お給料は良いんじゃないかしら」

仕事帰りにジムで会っていたのかしら……

「大丈夫?」

「え?」

「泣いているよ」

気が付かないうちに頬に涙が流れていた。
なんで泣いているんだろう。

「悲しいのかしら……」

「そうだね。悲しいんだ。おいで」

彼は両手を広げて私を抱きしめてくれた。
神様には体温があった。

「ふふ、人間みたいです」

「僕は人間と変わらない。ちょっとだけ、偉い人間なんだ」

「ふふ……」

私は神様の胸を借りて、遠慮せずに泣きたいだけ涙を流した。
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