さよならまでの六ヶ月

おてんば松尾

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私達は東京へ帰って来た。
両親からは勿論大目玉を食らう。

けれど一生分楽しい旅行だったし、私達はとても幸せだった。

大みそかから年が明けた。
新年だ。
怒涛の三が日が過ぎた。

ほとんど睡眠もとれずに、疲れ切って拓也さんと共に泥のように眠る。
それでも彼が横にいて、彼の体に守られて幸せだった。

「愛しているわ」

「……なんかずっと言ってるな」

「ええ」

拓也さんは微笑むと、私の頭を優しく撫でた。





……今日がその日だ。


朝のお供えを済ませて、いつものように神殿の神聖な空気を吸い込んだ。

まだ初詣の参拝者たちがやって来る。
お賽銭を数える仕事は今年はしなくて済むだろう。

面倒な仕事を残さなくてはならず、両親には申し訳なく思った。



私は近所の公園に歩いてきた。こなければいいのに、足は公園へ向かっている。
不思議なもので抗えない力が働く。

ああ……そういうことなんだと思った。
何度も助けようとしたけれど、誰も助けられなかった理由がわかった。

自分の意思に反して、体は勝手な動きをしてしまう。
だから私も、池のある公園へ来てしまった。


昨夜から降っている雪で、辺り一面雪の原だ。キラキラと朝日を浴びて光り輝いている。
眩しいくらいに美しい。

私はその時がくるのを待っている。

怖いなと思う。ものすごく怖い。
神様がどうやって死ぬのか、ずっと教えてくれなかった理由がわかった。
こんな怖い思いをしなくて済むように教えなかったんだ。



けれど逃れられない。

池には氷が張っていて、子供たちが氷上に石を投げて遊んでいた。

氷を割って楽しんでいるんだろう。
助走を付けて、どこまでも遠くに石を投げる。

できるだけ大きな石を探して投げてはいるけど、上手くいかないようだった。
池の上に張った氷は、けっこう厚みがあった。
手で投げられる石程度では割れそうにない。

石コロは氷上を滑って、池の中心まで行くと、トポンと水中へと沈んで行った。
中心は氷が薄いようだ。

一人の子供が石を投げていた池の氷の上に、自分の靴を放ってしまった。
勢いあまって靴だけが飛んで行ったようだった。脱げた靴は氷の上を滑った。

少年の額の辺りを見るが、余命は出ていない。
大丈夫。あの子供は死なない。

じっと見ていると、少年は池の上をゆっくりと歩きだした。
危ない。けれど、彼の余命は出ていない。
死なない。
見なければいいのに、目が離せない。

二メートルほど行くと靴が拾える。やっと靴の場所へたどり着いた。

そして、次の瞬間。

……氷が割れた。

これだと思った。

私は走った。

少年が落ちてしまった池の中へ入って行く。

そう、彼の寿命はまだ残っている。けれど私の寿命は今日まで。
私はこの少年を助けなければならない。

私の運命はここで死ぬことを意味している。

せめてもの救いは、この場所に拓也さんがいないこと。

私を助けようとして、池に入ってこない。
彼はここにいないから。

大丈夫。

彼は助けには来ない。

池の中は足がつかなかった。泳ぐしかない。
コートが水を吸って重たい。

体の自由が利かない。
子供のところまで行かなければ……
彼を助けるのが私の使命。

水の中で必死にコートを脱ぐ。
なんとか彼の側までたどり着く。
足はつかない。

彼に声をかける。
この子を持ち上げるだけの体力が私にあるだろうか。

「自力で上がりなさい!貴方の体重なら氷の上に乗れる!」

なんとかまだ原形を留めている氷の上に子供の身体を持ち上げる。
私は体力の限界がくる。

沈む……

「……小春!」


大きな水音と共に、誰かが私の腕を掴んだ。
私は力が入らない。

私の意識は深い池の水の底にゆっくりと沈んでいった。



拓也さんが、こなければ良かった。

彼だけは、せめて長生きして欲しかった。



人の運命は変えられない。

寿命は決まっている。



それはとても不条理だ。



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