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ゴディ
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俺はソドリア国の第一王子、ゴディだ。
勿論この国の国王の息子なのだから、王位継承権第一位で次期国王となる。
俺はナイザール公爵家の令嬢、カトレアと先日離婚した。
彼女は婚約期間の二年、王子妃として一年間、合わせて三年も私の傍にいた。にも拘らず、カトレアは私の子を身ごもらなかった。(まぁ、ほとんど閨を共にしていなかったから当たり前と言えば当たり前なのだが)
彼女は城に仕える者たちから『田舎者の山猿』だと言われるような、パッとしない王子妃だった。
しかし、頭は良かった。俺の執務を代わりにこなし、文句を言わずに静かに俺の命令に従った。
容姿もそこそこだし、公爵家の血筋なのだから従順な妻として置いてやっても良かった。扱いやすい存在だったけれど、俺の愛人であるイアナが俺の子を身ごもったのだ。それにより、カトレアとは離婚することになり、彼女は廃妃となった。
この国では即妃は認められない、だから後継者を身ごもったイアナを新しく正妃に迎えた。
カトレアは仕事面で役立っていたので、事務官として政務を手伝えるよう、居場所を与えてやることにした。三年間俺の執務を手伝っていたのだ、それくらいは温情として与えてやってもいいだろうと考えた。
「カトレアがいないだと!」
朝から俺は側近に向かって大声をあげた。元王子妃であるカトレアがいなくなったという報告を受けたのだ。
急に離婚だと言ったから、彼女もショックを受けただろうから、三日間は休みをやった。
俺はわざわざ昨夜、彼女の部屋へ行き明日からは仕事をするようにと伝えた。今日は四日目の朝、彼女は仕事を行う予定だった。
「行くところなどないから、離婚しても城においてやると言ったのに、人の親切を仇で返すとは、いったいどういうつもりなんだ……」
「ゴディ様、カトレア様は隠れているのではないでしょうか。荷物を持ち出した様子はありませんし」
「まったく手が焼けるやつだ」
俺は朝の準備を終えて、カレアの自室である王子妃の部屋へ向かった。彼女には一週間で王子妃の部屋を出て行くように伝えたから、多分従者が言うように、拗ねているのだろう。
彼女の自室へ行くと、部屋の中で待機している侍女に事情を聞いた。
「いったいカトレアは何処へ行ったんだ?」
「それが、朝になっても起きられた様子がなく、元妃様の食事をいつものように自室に運びましたら、部屋にはいらっしゃいませんでした」
「彼女の朝の支度は誰が手伝ったのだ?」
「いえ……その、いつもはご自分で支度をなさいますので、私たちは見ていません。私たちは、朝の食事をカートで運び、お部屋までお持ちするだけでしたので」
「彼女の朝の支度を、今まで誰も手伝っていなかったのか?」
侍女た互いに顔を見合わせ、きょとんとした表情を浮べていた。
年配の侍女がひとり、前に出て説明した。
「公の場に出るときは、ドレスを着るのに手伝いがいりましたので……その、準備は手伝っていました。けれど普段、何もない時は簡易なドレスをお召しになりますので、手伝いは必要がありませんでした」
「公な場に出る必要がないときは、それほどきちんとした格好をする必要はないですし、カトレア様は公式な会を欠席されていましたので」
たしかに、最近はずっとイアナを伴っていた。
「だが、最低限の身だしなみは整えておくべきだろう」
「ご自分で、できていらっしゃいましたので」
いや、洗面には水がいるし、髪を整えたり着る物を準備する侍女がいるはずだ。
彼女は一人でやっていたのか?仮にも王子妃だぞ。
「その……殿下は特に使用人をそばに置く必要はないとおっしゃいました。カトレア様は、ほとんど自室にはいませんでした。朝から夜遅くまでふらっと何処かへ行かれていましたしサボってらっしゃいました」
俺の執務を手伝っていることは、できるだけ伏せるようにと言い聞かせていたからか。
こっそり、目立たぬように彼女は専用の執務室、書庫の裏にある資料室に来ていた。
「カトレアがいないといろいろ面倒だ」
「けれど、役立たずの王子妃ですから、誰も気にしていませんでしたので……」
それにしても……誰も、彼女の行動を把握していないなかったのか。
彼女に付き人がいない方が、仕事を頼みやすく、従者は誰も付けなかった。あえて侍女たちには、彼女に構う必要はないと申し付けた。確か、何年も前にそう言った記憶がある。
「そうは言っても、一日のスケジュールを誰も把握していないなどおかしいだろう。カトレアにも昼食やお茶は必要だったであろう。彼女は昼は自室で摂っていたのか?食堂でか?」
「いいえ、昼食は用意していませんでした。必要だとも聞いていません」
適当にどこかで食べているだろうと思っていたが、まさか昼食を抜いていたのか?
いや、彼女は文句を言っていなかったからそれは必要なかったのだ。
「まぁ、痩せていたからな。カトレアは小食だったのだろう。食べずにいても別に問題はない。それは構わないが、とにかく何処にいるのか、さっさと捜し出せ。いろいろやらなければならない事があるんだ」
三日も仕事をさぼられたせいで、俺の執務が山積みになっている。迷惑極まりない。さっさと仕事を始めさせなければ、事務官たちも苛立ってくるだろう。
「……そうですか。承知しました」
居ようが居まいがどうでもいいカトレアを、わざわざ捜すのが面倒だと思っている様子で、侍女たちは渋々返事をした。
「部屋の引っ越しの準備がまったくできていませんので、もしかしたら王子妃の部屋から出て行きたくなくて、拗ねていらっしゃるのではないですか?」
「そうです。ゴディ殿下、カトレア様はきっとご自分で荷物をまとめるのが嫌だったんですわ」
侍女たちの口から、次々と憶測が飛び出した。カトレアがいなくなった理由をそれぞれに想像している。
だが、カトレアが俺に何も言わず何処かへ行ったことはなかった。三日後には仕事に戻るように命じたのに、従わないなどありえないだろう。いったい、カトレアは何を考えているんだ。
俺は強い苛立ちから、無意識に歯を噛みしめた。
「確かに、それはあるかもしれませんわね」
奇麗にドレスを着飾ったイアナが、騒ぎを聞きつけて侍女を引き連れてやってきた。
*******************
現代もの『モラハラ』完結したのでよろしければお読みください。m(__)m
勿論この国の国王の息子なのだから、王位継承権第一位で次期国王となる。
俺はナイザール公爵家の令嬢、カトレアと先日離婚した。
彼女は婚約期間の二年、王子妃として一年間、合わせて三年も私の傍にいた。にも拘らず、カトレアは私の子を身ごもらなかった。(まぁ、ほとんど閨を共にしていなかったから当たり前と言えば当たり前なのだが)
彼女は城に仕える者たちから『田舎者の山猿』だと言われるような、パッとしない王子妃だった。
しかし、頭は良かった。俺の執務を代わりにこなし、文句を言わずに静かに俺の命令に従った。
容姿もそこそこだし、公爵家の血筋なのだから従順な妻として置いてやっても良かった。扱いやすい存在だったけれど、俺の愛人であるイアナが俺の子を身ごもったのだ。それにより、カトレアとは離婚することになり、彼女は廃妃となった。
この国では即妃は認められない、だから後継者を身ごもったイアナを新しく正妃に迎えた。
カトレアは仕事面で役立っていたので、事務官として政務を手伝えるよう、居場所を与えてやることにした。三年間俺の執務を手伝っていたのだ、それくらいは温情として与えてやってもいいだろうと考えた。
「カトレアがいないだと!」
朝から俺は側近に向かって大声をあげた。元王子妃であるカトレアがいなくなったという報告を受けたのだ。
急に離婚だと言ったから、彼女もショックを受けただろうから、三日間は休みをやった。
俺はわざわざ昨夜、彼女の部屋へ行き明日からは仕事をするようにと伝えた。今日は四日目の朝、彼女は仕事を行う予定だった。
「行くところなどないから、離婚しても城においてやると言ったのに、人の親切を仇で返すとは、いったいどういうつもりなんだ……」
「ゴディ様、カトレア様は隠れているのではないでしょうか。荷物を持ち出した様子はありませんし」
「まったく手が焼けるやつだ」
俺は朝の準備を終えて、カレアの自室である王子妃の部屋へ向かった。彼女には一週間で王子妃の部屋を出て行くように伝えたから、多分従者が言うように、拗ねているのだろう。
彼女の自室へ行くと、部屋の中で待機している侍女に事情を聞いた。
「いったいカトレアは何処へ行ったんだ?」
「それが、朝になっても起きられた様子がなく、元妃様の食事をいつものように自室に運びましたら、部屋にはいらっしゃいませんでした」
「彼女の朝の支度は誰が手伝ったのだ?」
「いえ……その、いつもはご自分で支度をなさいますので、私たちは見ていません。私たちは、朝の食事をカートで運び、お部屋までお持ちするだけでしたので」
「彼女の朝の支度を、今まで誰も手伝っていなかったのか?」
侍女た互いに顔を見合わせ、きょとんとした表情を浮べていた。
年配の侍女がひとり、前に出て説明した。
「公の場に出るときは、ドレスを着るのに手伝いがいりましたので……その、準備は手伝っていました。けれど普段、何もない時は簡易なドレスをお召しになりますので、手伝いは必要がありませんでした」
「公な場に出る必要がないときは、それほどきちんとした格好をする必要はないですし、カトレア様は公式な会を欠席されていましたので」
たしかに、最近はずっとイアナを伴っていた。
「だが、最低限の身だしなみは整えておくべきだろう」
「ご自分で、できていらっしゃいましたので」
いや、洗面には水がいるし、髪を整えたり着る物を準備する侍女がいるはずだ。
彼女は一人でやっていたのか?仮にも王子妃だぞ。
「その……殿下は特に使用人をそばに置く必要はないとおっしゃいました。カトレア様は、ほとんど自室にはいませんでした。朝から夜遅くまでふらっと何処かへ行かれていましたしサボってらっしゃいました」
俺の執務を手伝っていることは、できるだけ伏せるようにと言い聞かせていたからか。
こっそり、目立たぬように彼女は専用の執務室、書庫の裏にある資料室に来ていた。
「カトレアがいないといろいろ面倒だ」
「けれど、役立たずの王子妃ですから、誰も気にしていませんでしたので……」
それにしても……誰も、彼女の行動を把握していないなかったのか。
彼女に付き人がいない方が、仕事を頼みやすく、従者は誰も付けなかった。あえて侍女たちには、彼女に構う必要はないと申し付けた。確か、何年も前にそう言った記憶がある。
「そうは言っても、一日のスケジュールを誰も把握していないなどおかしいだろう。カトレアにも昼食やお茶は必要だったであろう。彼女は昼は自室で摂っていたのか?食堂でか?」
「いいえ、昼食は用意していませんでした。必要だとも聞いていません」
適当にどこかで食べているだろうと思っていたが、まさか昼食を抜いていたのか?
いや、彼女は文句を言っていなかったからそれは必要なかったのだ。
「まぁ、痩せていたからな。カトレアは小食だったのだろう。食べずにいても別に問題はない。それは構わないが、とにかく何処にいるのか、さっさと捜し出せ。いろいろやらなければならない事があるんだ」
三日も仕事をさぼられたせいで、俺の執務が山積みになっている。迷惑極まりない。さっさと仕事を始めさせなければ、事務官たちも苛立ってくるだろう。
「……そうですか。承知しました」
居ようが居まいがどうでもいいカトレアを、わざわざ捜すのが面倒だと思っている様子で、侍女たちは渋々返事をした。
「部屋の引っ越しの準備がまったくできていませんので、もしかしたら王子妃の部屋から出て行きたくなくて、拗ねていらっしゃるのではないですか?」
「そうです。ゴディ殿下、カトレア様はきっとご自分で荷物をまとめるのが嫌だったんですわ」
侍女たちの口から、次々と憶測が飛び出した。カトレアがいなくなった理由をそれぞれに想像している。
だが、カトレアが俺に何も言わず何処かへ行ったことはなかった。三日後には仕事に戻るように命じたのに、従わないなどありえないだろう。いったい、カトレアは何を考えているんだ。
俺は強い苛立ちから、無意識に歯を噛みしめた。
「確かに、それはあるかもしれませんわね」
奇麗にドレスを着飾ったイアナが、騒ぎを聞きつけて侍女を引き連れてやってきた。
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