プロローグで主人公が死んでしまう話【アンソロジー】

おてんば松尾

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ゴディ

それから数ヶ月が経過した。

国を挙げてイアナとの結婚式が執り行われた。
豪華な装飾、贅を尽くした料理、そして煌びやかな衣装に身を包んだ王族たち。
国民はその様子を見て、自分たちの貧しい暮らしとのギャップに納得できないようだった。
結婚式後、次第に不満の声が大きくなり、やがてそれは王家への不信感に変わっていった。

未だにカトレアは見つからない。城の中をくまなく捜索したが、彼女の姿はどこにもない。
カトレアがいないせいで、政務はめちゃくちゃな状態だった。王子である私の肩には、王国の未来が重くのしかかっていたが、私一人ではその重責に耐えられる自信がなかった。
会議の席では、複雑な法律や経済の話に頭を悩ませ、貴族たちの陰謀や策略に翻弄されるばかりだ。
父である国王は、政務にもっと真剣に取り組めと私を叱責した。
それもこれも全て、カトレアが出て行ったせいだ。私は怒りを抑え、ぎゅっと拳を握り締めた。

カトレアからの手紙には、国民の税金で得た物はすべて置いていくと書かれていた。宝石や高価なドレスもそのままに、彼女は何も持たず城を去ったようだ。金もないのだからすぐに戻ってると思っていたが、その予想は外れた。

彼女はやはり死んでしまったのだろうか。そんな考えが頭をよぎったが、認めるわけにはいかなかった。

「殿下、カトレア様を捜すのはもう諦めて、政務に力を注いでください。貴族たちからも不満が出ています」
「ゴディ、もうカトレア様は帰ってこないのでしょう?あの人が使っていた宝石よりも良いものを買って欲しいわ、ドレスも足りないから作らなくちゃいけないし」

イアナが執務室にやって来て能天気に私にまとわりついてくる。

「悪いな、今は忙しくて手が離せない」

「そんなこと言って、ずっとカトレアを捜してばかりいるじゃないの!」

落ち着け…と自分に言い聞かせるように、無理やり笑顔を作った。

「今までは、妃である者が私の執務を手伝っていた」

「妃?ってカトレア?あの人に何ができたのかしら、邪魔をしてただけでしょう?」

「まぁ、そうだな。書類をまとめたり、分類したり、簡単な仕事を頼んでいただけだ」

「それなら、私でもできるわ、手伝いましょうか?」

ありえないことを言う。
先日、イアナに結婚の祝いをもらった貴族たちに礼状を書かせたが、酷いものだった。
字も汚いし文章も幼稚で、王子の妃とは思えない礼状だった。全て書き直させ、二度手間もいいところだった。カトレアならまだしも、イアナに王子の執務の手伝いなど出来るはずがない。

「ありがたいが、君は今大事な体だろう。侍女長と王子妃担当の者にドレスの件は頼めばよい」

「ええ!そうするわ。早速王家御用達のデザイナーを呼ばなくちゃ」

「イアナの好きにすればよい」

まったく面倒だ、いちいち私に聞かなくとも、王子妃の予算を使って好きにすればよいだろう。
眉間に深いしわを寄せながら頭を抱えた。
背後の壁に掛かる古い時計が、規則正しく時を刻んでいる。その音が私の耳には、まるで自分を嘲笑するかのように響いていた。


***


かつて繁栄を誇った我が国ソドリアは、今やその輝きは失われつつあった。国の財政は傾き、国民は不安に包まれていた。街の市場も、かつての賑わいが嘘のように静まり返り、活気が失われていた。

「王子妃の散財が激しく、財政を圧迫するほどになっています」
「妃の予算で何とかしろ」
「それでは賄えません。陛下の御子を産むのだから、粗末な物は置けないとおっしゃっています」

国民の生活は厳しくなる一方で、日々の糧を得るのも一苦労だという。それにもかかわらず、イアナは豪華な贅を尽くした生活を続けている。民の怒りは新しい妃へと向かい、その行動を諫めない夫である私にも火の粉が飛んできた。
カトレアと離婚し、イアナを選んだ自分の過ちだった。

妃であるイアナは従者たちにも冷酷で、誰もが彼女の怒りを恐れていた。彼女の声は冷たく、侍女や側近に命令を下すたびにその者たちの心に恐怖を植え付けた。

「まだ、カトレアは王都にいるんじゃないか?」

私はまだ、カトレアのことを諦めてはいなかった。

「いい加減にしてちょうだい!カトレア、カトレアって、なんであんな山猿のことばかり言ってるの?あなたは国王になるんでしょう?私を幸せにするのが仕事でしょう?最近プレゼントの宝石は安物になっているし、私の世話をする者も減っているわ、どうしてなの?」

王子妃の予算を君が使いまくっているからだとは言えなかった。

あんなに愛していたイアナはもはや、恐ろしい怪物のようになっていた。
彼女の冷酷な性格は、私の決断にも影響を与え、国全体に不安をもたらした。イアナの存在は、まるで暗い影のように私の背後に常に付きまとっていた。


そんな時、カトレアらしき女が王都の大使館で働いているという噂を耳にした。
私はさっそく憲兵に銘じて、大使館へ人をやった。

『大使館は治外法権の場だ。勝手に憲兵が立ち寄れる場所ではない。ちゃんと先触れを出してから来るように』

憲兵たちは、大使館のレオン大使にそう言って追い返されたという。確かに先ぶれは必要だろう、いくら大使館は治外法権だとはいえ、ここは我が国なんだぞ、そして私は王子だ。

「直接、私が大使館に出向く。先触れを出しておけ」

そう決めた矢先に、私は国王から呼び出された。

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