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3 ピクニック
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* ティナside
私はティナ・ルノー。
ルノー伯爵家の一人娘だ。
夫のブライアンはクレメンツ侯爵家の次男で、ルノー伯爵家に婿入りした。
政略結婚ではあったが、互いに愛情を育み、愛しい娘ミリアにも恵まれ、幸せな結婚生活を送っていた。
しかし二年前、ブライアンの実兄であるクレメンツ侯爵のカインが不慮の事故で急逝する。
カインが結婚して六年目のことである。
彼は妻のエリザベスと息子ジェイを残し、長男として爵位を継いでいた。
この死をきっかけに、ブライアンは兄に代わって侯爵家の執務を手伝うこととなる。
爵位そのものは、カインの息子ジェイが継ぐことになっていた。
しかし、ジェイが成人するまでは、後見人としてブライアンが実務を担わねばならなかった。
前侯爵の父親もすでに他界している。
現在の侯爵家には、ブライアンの母・カリオペ、妻のエリザベス、そして息子のジェイが暮らしていた。
屋敷には多くの使用人がおり、日々にぎやかに過ごしていたが、その全体を取り仕切るには、ブライアンの存在が欠かせなかった。
一方で、私の実家であるルノー伯爵家は父母とも健在で、執務も問題なく進んでいた。
私自身も積極的に伯爵家の執務に協力していて、ブライアンがルノー伯爵家の仕事に携わることはほとんどなかった。
結果として、彼は侯爵家に拘束される日々を送り、侯爵邸に泊まることも多かった。
最近ではルノー伯爵邸に帰ってくるのは週二日ほどになっていた。
「すまないティナ。侯爵家の執務を任せられるものが見つかるまで、もう少しだけ我慢してほしい」
夫は、ほとんど屋敷に帰れないことを申し訳なく思っているのだろう。
「そう……わかったわ」
「君とミリアがしっかりしていてくれるから、僕は安心しているよ」
大変な時であるから、私はできるだけ夫に協力しなければならないと思っていた。
けれど、ミリアはまだ五歳だ。ものわかりのいい子ではあるが、父親を恋しく思う年頃でもある。
寂しげな娘の姿を思うと胸が痛むが、私にはどうすることもできなかった。
「早く落ち着くといいわね。こっちのことは気にしないで」
「ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ。愛している、ティナ」
安心したように微笑むブライアンの顔を見て、「今だけ」と自分に言い聞かせ、我慢しようと決めた。
結婚してからずっと、私とブライアンの夫婦仲は良かった。
誠実で思いやりがあり、責任感が強い夫のことを誇らしく思っていた。
ブライアンも私を愛し、家族を守るためなら何でもすると誓ってくれた。
(今、ブライアンが実家へ行ったまま帰ってこなくても、娘が寂しい思いをしたとしても、彼も大変な時期だわ。私たちは迷惑をかけないようにしなくては……)
侯爵家の長男がいなくなったのだから、夫がジェイをしっかり指導しなくてはならない。
私はブライアンを一生支えていける良き妻であろうと思った。
娘のミリアも父親のことを大好きだったし、会える時間は少なくても、ブライアンは家族を愛していると信じていた。
侯爵家では、エリザベスもカリオペも実務をしなかった。
家政の仕事が苦手だったようだ。
夫を亡くし、失意の中で暮らしているのだから仕方がないのだろう。
そう思い、私はエリザベスの侯爵夫人としての怠慢を気に留めないようにした。
だが、次第に「父親を失ったジェイが可哀想だ」という理由で、ブライアンの関心は甥に傾いていった。
娘のミリアの記念日や誕生日も仕事を理由に欠席することが増え、伯爵家でのイベントへは参加しなくなっていた。
「誕生日を父親に祝ってもらえないジェイが可哀そうだから。少し落ち着くまでは目立つ祝い事は控えたほうが良い」
「けれど……もう時間も経っているから……」
ミリアだってまだ幼い。
せっかくの誕生日を父親に祝ってもらえないという、寂しい思いはさせたくなかった。
「いつまでも、お兄様の死を引きずっていてはならないでしょう。いつかは、前を向かなければいけないと思うわ」
「……君はなんて冷たいんだ。いつかはいつかであって、今ではないんだよ?」
「父を亡くした子への配慮」というのは分かっていても、亡くなって二年も経っている。
私はブライアンの彼女たちに対する態度が行き過ぎではないかと感じるようになった。
休日に家族で出かける際も、エリザベスとジェイは私たちに同行した。
ブライアンの隣に座るのは常にジェイで、出かける先も剣術試合や乗馬など、幼いミリアには無理な場所ばかりだった。
さらに、ブライアンの目を盗んでは、ジェイがミリアに意地悪をしていた。
体を押したり髪を引っ張ったりするのは日常茶飯事だった。
「男の子は元気だからしょうがないわね」
笑って謝りもしないエリザベスに私は腹が立った。
ミリアの大事にしていたペンダントは壊され、お気に入りの人形が、翌日焼却炉から見つかったこともあった。
そして、人形を取り上げられたと訴えるミリアの言葉は信じてもらえなかった。
「ミリアが自分で庭に持って行って失くしたんだ」とジェイは嘘をついた。
ブライアンはジェイの言葉を真に受けて、彼を叱ることはなかった。
それは違うと私が訴えたとしても、子ども同士のことだから大人が口を出すのは良くないと言われて、おしまいになった。
やがてミリアは「ジェイが一緒なら行きたくない」と言い出し、家族での外出も少なくなっていった。
そんな折、久しぶりに「家族だけで湖へピクニックに行こう」という話が持ち上がった。
街から馬車で一時間ほどの自然豊かな場所で、春の花も咲き、ゆっくり過ごすには最適だと話していた。
「久しぶりに家族三人で出かけられるわね」
「お父様に遊んでもらえたら嬉しいわ」
「そうね。たくさんサンドイッチを持って行きましょう」
「クッキーを焼いてもらって、お父様と一緒に食べたい」
ミリアもとても楽しみにしていた。
だが当日。
私とミリアを迎えにきた侯爵家の馬車には、肝心のブライアンが乗っていなかった。
「どうしても、ジェイ様もご一緒にと仰いまして……急遽、エリザベス様とジェイ様はブライアン様と先に現地へ向かわれることになりました」
迎えに来た侯爵家の御者に告げられ、私は言葉を失った。
「ブライアン様は、よろしければ今晩は侯爵邸に泊まられてはいかがかと仰せでした」
それが私たちに対する彼の謝罪のつもりかしら?
ならば、勘違いもいいところだ。
「そうね」
間違ってもそんな気はなかったが、適当に返事をした。
「久しぶりなのだから、泊まってくるといい」
馬車の前まで送ってくれた父は、そう言って私たちを送り出してくれた。
夫がいない状況では誰にも文句は言えず、結局、娘とともに黙って馬車に乗り込み、湖へと向かうしかなかった。
ブライアンたちは先に湖に到着していて、楽しそうに三人で話をしていた。
(まるで、あっちが本物の家族のようね……)
私は娘に気づかれないようにそっと息を吐いた。
馬車は二台だったが、そのうち一台は別の用途に使われる予定があるらしく、夕方に再び迎えに来る手筈になっていた。
ここは、安全な場所で、使用人は家族水入らずで過ごすために連れてこなかった。
結果、湖畔に残されたのは、三人乗りの馬車一台。
そして、事件は起こった。
ミリアが湖に落ちたのだ。
馬車に乗れるのは三人だけだったが、それならばエリザベスが残ればよかった。
それが無理でも、床に座らせれば、ミリア一人分のスペースくらいは十分に確保できたはずだった。
それでも、ブライアンはそうしなかった。
途中で別の馬車を呼び寄せるよう手配することもできた。
あるいは、屋敷に戻ってから侯爵家の馬車を湖へ向かわせるよう、きちんと指示を出すべきだった。
だが彼は、それを失念していたのだ。
その時は、何でもない些細な手違いのように思えた。
けれど後に、それが取り返しのつかない過ちへと繋がるとは、彼自身、夢にも思っていなかったのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
*作者より*
【侍女、護衛がピクニックについてこなかったことについて】
本来であれば、そこも丁寧に描写すべきでしたが、物語の構成上「連れてこない」という設定にしております。
その点を気にされる読者の方がいらっしゃること、また、私の力不足で修正できないこと、深くお詫び申し上げます。
第3話にて「ここは安全な場所で、使用人は家族水入らずで過ごすために連れてこなかった」との一文を加えております。
他にも設定が緩い箇所があるかと思いますが、私の中で描いているファンタジーの世界観として、ご寛容いただけますと幸いです。
《ルノー伯爵家》
ティナ・ルノー :ブライアンの妻
ブライアン・ルノー=クレメンツ :ティナの夫、クレメンツ侯爵家の次男
ミリア・ルノー(五歳) :ティナとブライアンの娘
《クレメンツ侯爵家》
エリザベス・クレメンツ :故カインの妻、元男爵令嬢
カイン・クレメンツ :侯爵家長男、故人
ジェイ・クレメンツ(八歳) :エリザベスとカインの息子
カリオペ・クレメンツ :ブライアンとカインの母
私はティナ・ルノー。
ルノー伯爵家の一人娘だ。
夫のブライアンはクレメンツ侯爵家の次男で、ルノー伯爵家に婿入りした。
政略結婚ではあったが、互いに愛情を育み、愛しい娘ミリアにも恵まれ、幸せな結婚生活を送っていた。
しかし二年前、ブライアンの実兄であるクレメンツ侯爵のカインが不慮の事故で急逝する。
カインが結婚して六年目のことである。
彼は妻のエリザベスと息子ジェイを残し、長男として爵位を継いでいた。
この死をきっかけに、ブライアンは兄に代わって侯爵家の執務を手伝うこととなる。
爵位そのものは、カインの息子ジェイが継ぐことになっていた。
しかし、ジェイが成人するまでは、後見人としてブライアンが実務を担わねばならなかった。
前侯爵の父親もすでに他界している。
現在の侯爵家には、ブライアンの母・カリオペ、妻のエリザベス、そして息子のジェイが暮らしていた。
屋敷には多くの使用人がおり、日々にぎやかに過ごしていたが、その全体を取り仕切るには、ブライアンの存在が欠かせなかった。
一方で、私の実家であるルノー伯爵家は父母とも健在で、執務も問題なく進んでいた。
私自身も積極的に伯爵家の執務に協力していて、ブライアンがルノー伯爵家の仕事に携わることはほとんどなかった。
結果として、彼は侯爵家に拘束される日々を送り、侯爵邸に泊まることも多かった。
最近ではルノー伯爵邸に帰ってくるのは週二日ほどになっていた。
「すまないティナ。侯爵家の執務を任せられるものが見つかるまで、もう少しだけ我慢してほしい」
夫は、ほとんど屋敷に帰れないことを申し訳なく思っているのだろう。
「そう……わかったわ」
「君とミリアがしっかりしていてくれるから、僕は安心しているよ」
大変な時であるから、私はできるだけ夫に協力しなければならないと思っていた。
けれど、ミリアはまだ五歳だ。ものわかりのいい子ではあるが、父親を恋しく思う年頃でもある。
寂しげな娘の姿を思うと胸が痛むが、私にはどうすることもできなかった。
「早く落ち着くといいわね。こっちのことは気にしないで」
「ありがとう。そう言ってくれると思っていたよ。愛している、ティナ」
安心したように微笑むブライアンの顔を見て、「今だけ」と自分に言い聞かせ、我慢しようと決めた。
結婚してからずっと、私とブライアンの夫婦仲は良かった。
誠実で思いやりがあり、責任感が強い夫のことを誇らしく思っていた。
ブライアンも私を愛し、家族を守るためなら何でもすると誓ってくれた。
(今、ブライアンが実家へ行ったまま帰ってこなくても、娘が寂しい思いをしたとしても、彼も大変な時期だわ。私たちは迷惑をかけないようにしなくては……)
侯爵家の長男がいなくなったのだから、夫がジェイをしっかり指導しなくてはならない。
私はブライアンを一生支えていける良き妻であろうと思った。
娘のミリアも父親のことを大好きだったし、会える時間は少なくても、ブライアンは家族を愛していると信じていた。
侯爵家では、エリザベスもカリオペも実務をしなかった。
家政の仕事が苦手だったようだ。
夫を亡くし、失意の中で暮らしているのだから仕方がないのだろう。
そう思い、私はエリザベスの侯爵夫人としての怠慢を気に留めないようにした。
だが、次第に「父親を失ったジェイが可哀想だ」という理由で、ブライアンの関心は甥に傾いていった。
娘のミリアの記念日や誕生日も仕事を理由に欠席することが増え、伯爵家でのイベントへは参加しなくなっていた。
「誕生日を父親に祝ってもらえないジェイが可哀そうだから。少し落ち着くまでは目立つ祝い事は控えたほうが良い」
「けれど……もう時間も経っているから……」
ミリアだってまだ幼い。
せっかくの誕生日を父親に祝ってもらえないという、寂しい思いはさせたくなかった。
「いつまでも、お兄様の死を引きずっていてはならないでしょう。いつかは、前を向かなければいけないと思うわ」
「……君はなんて冷たいんだ。いつかはいつかであって、今ではないんだよ?」
「父を亡くした子への配慮」というのは分かっていても、亡くなって二年も経っている。
私はブライアンの彼女たちに対する態度が行き過ぎではないかと感じるようになった。
休日に家族で出かける際も、エリザベスとジェイは私たちに同行した。
ブライアンの隣に座るのは常にジェイで、出かける先も剣術試合や乗馬など、幼いミリアには無理な場所ばかりだった。
さらに、ブライアンの目を盗んでは、ジェイがミリアに意地悪をしていた。
体を押したり髪を引っ張ったりするのは日常茶飯事だった。
「男の子は元気だからしょうがないわね」
笑って謝りもしないエリザベスに私は腹が立った。
ミリアの大事にしていたペンダントは壊され、お気に入りの人形が、翌日焼却炉から見つかったこともあった。
そして、人形を取り上げられたと訴えるミリアの言葉は信じてもらえなかった。
「ミリアが自分で庭に持って行って失くしたんだ」とジェイは嘘をついた。
ブライアンはジェイの言葉を真に受けて、彼を叱ることはなかった。
それは違うと私が訴えたとしても、子ども同士のことだから大人が口を出すのは良くないと言われて、おしまいになった。
やがてミリアは「ジェイが一緒なら行きたくない」と言い出し、家族での外出も少なくなっていった。
そんな折、久しぶりに「家族だけで湖へピクニックに行こう」という話が持ち上がった。
街から馬車で一時間ほどの自然豊かな場所で、春の花も咲き、ゆっくり過ごすには最適だと話していた。
「久しぶりに家族三人で出かけられるわね」
「お父様に遊んでもらえたら嬉しいわ」
「そうね。たくさんサンドイッチを持って行きましょう」
「クッキーを焼いてもらって、お父様と一緒に食べたい」
ミリアもとても楽しみにしていた。
だが当日。
私とミリアを迎えにきた侯爵家の馬車には、肝心のブライアンが乗っていなかった。
「どうしても、ジェイ様もご一緒にと仰いまして……急遽、エリザベス様とジェイ様はブライアン様と先に現地へ向かわれることになりました」
迎えに来た侯爵家の御者に告げられ、私は言葉を失った。
「ブライアン様は、よろしければ今晩は侯爵邸に泊まられてはいかがかと仰せでした」
それが私たちに対する彼の謝罪のつもりかしら?
ならば、勘違いもいいところだ。
「そうね」
間違ってもそんな気はなかったが、適当に返事をした。
「久しぶりなのだから、泊まってくるといい」
馬車の前まで送ってくれた父は、そう言って私たちを送り出してくれた。
夫がいない状況では誰にも文句は言えず、結局、娘とともに黙って馬車に乗り込み、湖へと向かうしかなかった。
ブライアンたちは先に湖に到着していて、楽しそうに三人で話をしていた。
(まるで、あっちが本物の家族のようね……)
私は娘に気づかれないようにそっと息を吐いた。
馬車は二台だったが、そのうち一台は別の用途に使われる予定があるらしく、夕方に再び迎えに来る手筈になっていた。
ここは、安全な場所で、使用人は家族水入らずで過ごすために連れてこなかった。
結果、湖畔に残されたのは、三人乗りの馬車一台。
そして、事件は起こった。
ミリアが湖に落ちたのだ。
馬車に乗れるのは三人だけだったが、それならばエリザベスが残ればよかった。
それが無理でも、床に座らせれば、ミリア一人分のスペースくらいは十分に確保できたはずだった。
それでも、ブライアンはそうしなかった。
途中で別の馬車を呼び寄せるよう手配することもできた。
あるいは、屋敷に戻ってから侯爵家の馬車を湖へ向かわせるよう、きちんと指示を出すべきだった。
だが彼は、それを失念していたのだ。
その時は、何でもない些細な手違いのように思えた。
けれど後に、それが取り返しのつかない過ちへと繋がるとは、彼自身、夢にも思っていなかったのだ。
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*作者より*
【侍女、護衛がピクニックについてこなかったことについて】
本来であれば、そこも丁寧に描写すべきでしたが、物語の構成上「連れてこない」という設定にしております。
その点を気にされる読者の方がいらっしゃること、また、私の力不足で修正できないこと、深くお詫び申し上げます。
第3話にて「ここは安全な場所で、使用人は家族水入らずで過ごすために連れてこなかった」との一文を加えております。
他にも設定が緩い箇所があるかと思いますが、私の中で描いているファンタジーの世界観として、ご寛容いただけますと幸いです。
《ルノー伯爵家》
ティナ・ルノー :ブライアンの妻
ブライアン・ルノー=クレメンツ :ティナの夫、クレメンツ侯爵家の次男
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《クレメンツ侯爵家》
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カイン・クレメンツ :侯爵家長男、故人
ジェイ・クレメンツ(八歳) :エリザベスとカインの息子
カリオペ・クレメンツ :ブライアンとカインの母
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