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王都のカフェ
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午前中に行きたい場所に足を運び昼食をとる時間が過ぎてしまった。
途中で生まれて初めて屋台の串焼きというものを買って、立ち食いをした。
「なんて楽しいのかしら。マナーなんてお構いなしね」
二人で笑いながら肉にかぶりつき、こんなにおいしいものが世の中にあったのかと感動した。
少し歩き疲れたからとマリーおすすめのカフェに立ち寄ることにする。
「混雑していますけど、何とか座れてよかったですね」
「ええ。とても人気があるのね。早くおすすめのケーキが食べたいわ」
「この際、全種類制覇したいですよね。帰りにお店の焼き菓子を買って帰りましょう。屋敷に帰っても食べられますから」
私は嬉しいわと手をたたいた。
「でも、不動産屋でお嬢様がアパルトマンの部屋を借りるなんて思っていませんでした」
「安かったんですもの。隠れ家に使えるでしょう?治安もいい地区だし、もし急に追い出されたとしても帰れる場所になるから」
今日の成果を話し合っていると、マリーが急に声をあげた。
「……あっ!」
「なに?」
マリーの視線の先には二人の若い女性がいた。
街娘の普段着を着ているけど、どこかで会ったことがあるような気がした。
「お嬢様今入ってきたお客なのですが、あの子たち公爵家のメイドです。アイリス様とは面識がないかもしれませんが、メイド長付きの雑用係みたいな仕事をしている子と、屋敷の掃除を担当してる子ですね」
「私たちってバレるかしら?」
「大丈夫です。私たちは変装していますから多分わからないでしょう」
そうしているうちに私たちの隣の席が空き、その子たちが隣のテーブルに座ってしまった。
さすがに焦ってマリーと顔を見合わせた。
彼女たちは席についたとたんに仕事の愚痴を話し出した。
普段屋敷では聞けない内容かもしれない。冷や汗をかきながらも聞き耳を立てる。
「だからね奥様には絶対に関わっちゃダメだってメイド長に言われているのよ」
「そりゃそうでしょう。あの人のせいでキャサリン様が屋敷に遊びに来てくれなくなったんですもの。そもそも旦那様は、キャサリン様を可愛がってらっしゃったでしょう。絶対公爵夫人になると思っていたのに」
公爵家のメイドたちは私の話をしている。キャサリンって誰?
『お嬢様、どうしますか、このまま話を聞きますか?』
『今席を立ったら目立ってしまうわ。タイミングを見計らいましょう。それに情報収集は大事だしね』
マリーと私は隣に聞こえないよう小さな声で話、彼女たちの会話をこっそり聞くことにした。
「キャサリン様ってメイド長の遠戚なんでしょう?伯爵令嬢だし、とても可愛らしいし、頭も良いみたいよ。学園での成績も優秀だったって」
「そうそう。伯爵令嬢で身分的にも問題なかったのにね。お顔も可愛いけど、私たちにお土産をいつも下さるわよね。有名なお菓子とか。香水をもらったって言ってる子もいたわよ」
「うそー。うらやましい。きっと彼女が奥様だったら毎日楽しかったでしょうね。あんな陰湿な王太子殿下の元婚約者なんかより、よっぽどいいわよ。そもそもお古って感じで旦那様がお気の毒だわ」
「なんかさ、夫人の予算をよこせって言ったみたいよ。メイド長が言ってたの。金の亡者よね。金に執着しているって、どこが淑女なのかしら」
「淑女の鑑だっていわれているらしいわよ。でも、旦那様も相手にしてないでしょう。ずっと一人で寝てらっしゃるわよ。どこか冷たい感じで愛嬌がないし、旦那様もその気にならないでしょう」
「時が経てば、第二夫人としてキャサリン様を迎えるかもしれないわよ。このままだったら、お子もできないでしょうし、公爵夫人の仕事だって何もしてないただの穀潰しだしね」
キャサリン様、第二婦人。初めて聞く話だ。当たり前だ、彼のことを私は何も知らない。
『お嬢様……もう、出ましょうか』
気を遣ってマリーが声をかけてくれた。
メイドたちは、どれだけスノウとキャサリン様が愛し合っているか、お似合いかということを熱心に話し始めた。
伯爵令嬢のキャサリン様……貴族の名前は殆ど記憶している。
けど、どこの伯爵か思いつかなかった。キャサリンという年ごろの娘がいる伯爵……。記憶を手繰り寄せるがなかなか顔が出てこない。
屋敷に帰ったらその令嬢について調べてみなくてはいけない。頭の中にメモをしてマリーに合図を送りカフェを後にした。
屋敷に帰り着き、マリーに実家で働いているジョンと連絡をとるよう頼んだ。
彼は私が嫁ぐときに、一緒に公爵家へ連れて行って欲しいと願い出てくれた、実家の領地経営を任されている家令だった。
父が彼を手放さず連れてくることは叶わなかった。
元は市井でも治安の悪い地区の生まれだった。そのせいかジョンはマリーと仲が良かった。
ジョンは生まれのせいで下に見られているが、学院に通えるほどの頭脳の持ち主だった。けれど貧しい家に生まれると、学校へ行くより働きに出て欲しいと家族は願う。経済的な理由で学院を断念した。
平民は教養を身につけてもお金にはならないと思っているから学ぶことを重要としない。
「ジョンはずっとお嬢様についていきたいって言っていましたし喜ぶと思います。明日にでも連絡してみます」
「ええお願いね。少し調べて欲しいことがあるの」
私の言葉にマリーは困ったような顔をした。
「お嬢様、カフェでのことは気になさらないほうがよろしいかと思います。たかがメイドたちの噂話です。信頼できる情報ではありません」
「ええ。わかっているわ。でも金の亡者っていうのは間違っていないかもしれないわね。執事からもぎ取った500万ルラの話をしていたのでしょうから」
執事に突っかかってしまった事実は消えない。品位にかける行動だった。今となっては反省している。
「世の中お金で解決できることがほとんどです。ですからお金の亡者で何が悪いのでしょう。いらないのなら、あのメイドたちは無給で働いたらいいんです」
「なんだか、開き直っているみたいで何とも言えないけど。まぁ、私の要求の仕方が下手だったってことね。夫人の予算については私が直接訊ねるのではなく、旦那様から伝えてもらうべきだったわ」
「会えない旦那様ですよね。手紙すら返ってこない」
その通りなので言葉を返せない。どうしようもない状況だったと思うと、とたん自分が惨めに思えた。
今日は疲れてしまった。
途中までは絶好調だったけど、やっぱり自分が悪く言われているのを聞くと落ち込んでしまう。
噂は一人歩きする。でも火のない所に煙は立たないともいう。
何事にも慎重に。執事に対して生意気な言い方をしてしまった。少し無謀な行動に出すぎたことを反省した。
それにしても、穀潰しの金の亡者って……ひどい言われようだったわ。
途中で生まれて初めて屋台の串焼きというものを買って、立ち食いをした。
「なんて楽しいのかしら。マナーなんてお構いなしね」
二人で笑いながら肉にかぶりつき、こんなにおいしいものが世の中にあったのかと感動した。
少し歩き疲れたからとマリーおすすめのカフェに立ち寄ることにする。
「混雑していますけど、何とか座れてよかったですね」
「ええ。とても人気があるのね。早くおすすめのケーキが食べたいわ」
「この際、全種類制覇したいですよね。帰りにお店の焼き菓子を買って帰りましょう。屋敷に帰っても食べられますから」
私は嬉しいわと手をたたいた。
「でも、不動産屋でお嬢様がアパルトマンの部屋を借りるなんて思っていませんでした」
「安かったんですもの。隠れ家に使えるでしょう?治安もいい地区だし、もし急に追い出されたとしても帰れる場所になるから」
今日の成果を話し合っていると、マリーが急に声をあげた。
「……あっ!」
「なに?」
マリーの視線の先には二人の若い女性がいた。
街娘の普段着を着ているけど、どこかで会ったことがあるような気がした。
「お嬢様今入ってきたお客なのですが、あの子たち公爵家のメイドです。アイリス様とは面識がないかもしれませんが、メイド長付きの雑用係みたいな仕事をしている子と、屋敷の掃除を担当してる子ですね」
「私たちってバレるかしら?」
「大丈夫です。私たちは変装していますから多分わからないでしょう」
そうしているうちに私たちの隣の席が空き、その子たちが隣のテーブルに座ってしまった。
さすがに焦ってマリーと顔を見合わせた。
彼女たちは席についたとたんに仕事の愚痴を話し出した。
普段屋敷では聞けない内容かもしれない。冷や汗をかきながらも聞き耳を立てる。
「だからね奥様には絶対に関わっちゃダメだってメイド長に言われているのよ」
「そりゃそうでしょう。あの人のせいでキャサリン様が屋敷に遊びに来てくれなくなったんですもの。そもそも旦那様は、キャサリン様を可愛がってらっしゃったでしょう。絶対公爵夫人になると思っていたのに」
公爵家のメイドたちは私の話をしている。キャサリンって誰?
『お嬢様、どうしますか、このまま話を聞きますか?』
『今席を立ったら目立ってしまうわ。タイミングを見計らいましょう。それに情報収集は大事だしね』
マリーと私は隣に聞こえないよう小さな声で話、彼女たちの会話をこっそり聞くことにした。
「キャサリン様ってメイド長の遠戚なんでしょう?伯爵令嬢だし、とても可愛らしいし、頭も良いみたいよ。学園での成績も優秀だったって」
「そうそう。伯爵令嬢で身分的にも問題なかったのにね。お顔も可愛いけど、私たちにお土産をいつも下さるわよね。有名なお菓子とか。香水をもらったって言ってる子もいたわよ」
「うそー。うらやましい。きっと彼女が奥様だったら毎日楽しかったでしょうね。あんな陰湿な王太子殿下の元婚約者なんかより、よっぽどいいわよ。そもそもお古って感じで旦那様がお気の毒だわ」
「なんかさ、夫人の予算をよこせって言ったみたいよ。メイド長が言ってたの。金の亡者よね。金に執着しているって、どこが淑女なのかしら」
「淑女の鑑だっていわれているらしいわよ。でも、旦那様も相手にしてないでしょう。ずっと一人で寝てらっしゃるわよ。どこか冷たい感じで愛嬌がないし、旦那様もその気にならないでしょう」
「時が経てば、第二夫人としてキャサリン様を迎えるかもしれないわよ。このままだったら、お子もできないでしょうし、公爵夫人の仕事だって何もしてないただの穀潰しだしね」
キャサリン様、第二婦人。初めて聞く話だ。当たり前だ、彼のことを私は何も知らない。
『お嬢様……もう、出ましょうか』
気を遣ってマリーが声をかけてくれた。
メイドたちは、どれだけスノウとキャサリン様が愛し合っているか、お似合いかということを熱心に話し始めた。
伯爵令嬢のキャサリン様……貴族の名前は殆ど記憶している。
けど、どこの伯爵か思いつかなかった。キャサリンという年ごろの娘がいる伯爵……。記憶を手繰り寄せるがなかなか顔が出てこない。
屋敷に帰ったらその令嬢について調べてみなくてはいけない。頭の中にメモをしてマリーに合図を送りカフェを後にした。
屋敷に帰り着き、マリーに実家で働いているジョンと連絡をとるよう頼んだ。
彼は私が嫁ぐときに、一緒に公爵家へ連れて行って欲しいと願い出てくれた、実家の領地経営を任されている家令だった。
父が彼を手放さず連れてくることは叶わなかった。
元は市井でも治安の悪い地区の生まれだった。そのせいかジョンはマリーと仲が良かった。
ジョンは生まれのせいで下に見られているが、学院に通えるほどの頭脳の持ち主だった。けれど貧しい家に生まれると、学校へ行くより働きに出て欲しいと家族は願う。経済的な理由で学院を断念した。
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「ジョンはずっとお嬢様についていきたいって言っていましたし喜ぶと思います。明日にでも連絡してみます」
「ええお願いね。少し調べて欲しいことがあるの」
私の言葉にマリーは困ったような顔をした。
「お嬢様、カフェでのことは気になさらないほうがよろしいかと思います。たかがメイドたちの噂話です。信頼できる情報ではありません」
「ええ。わかっているわ。でも金の亡者っていうのは間違っていないかもしれないわね。執事からもぎ取った500万ルラの話をしていたのでしょうから」
執事に突っかかってしまった事実は消えない。品位にかける行動だった。今となっては反省している。
「世の中お金で解決できることがほとんどです。ですからお金の亡者で何が悪いのでしょう。いらないのなら、あのメイドたちは無給で働いたらいいんです」
「なんだか、開き直っているみたいで何とも言えないけど。まぁ、私の要求の仕方が下手だったってことね。夫人の予算については私が直接訊ねるのではなく、旦那様から伝えてもらうべきだったわ」
「会えない旦那様ですよね。手紙すら返ってこない」
その通りなので言葉を返せない。どうしようもない状況だったと思うと、とたん自分が惨めに思えた。
今日は疲れてしまった。
途中までは絶好調だったけど、やっぱり自分が悪く言われているのを聞くと落ち込んでしまう。
噂は一人歩きする。でも火のない所に煙は立たないともいう。
何事にも慎重に。執事に対して生意気な言い方をしてしまった。少し無謀な行動に出すぎたことを反省した。
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