旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾

文字の大きさ
41 / 47

その後のアイリス

しおりを挟む

「お嬢様、もう、毎日ですよ」

マリーが大きな花束を抱えて私のアパルトマンの仕事部屋にやって来た。

ムンババ大使から毎日のように花束が届く。
彼も仕事が忙しく、会う機会はあまりないが、ご機嫌伺いのカードには、いつも私を気遣う言葉が添えてある。

突然思いもよらない告白をしてきた時は、なんて大胆な人なんだろうと思った。
けれど丁寧に言葉を添えたプレゼントはお花だけでなく、人気の菓子の事もあれば可愛い小物だったりもする。
皆さんでどうぞと書かれたカードに彼からの使用人たちに対しての思いやりが感じられた。

プレゼントもそんなに沢山しないで下さいとお願いしたら、自分が勝手にしているだけだからと言われた。

笑顔を見せてそう言われると、断れなくなってしまい今に至る。

ムンババ様は大人の男性で世慣れている。
とても魅力的な方で、女性だけでなく男性からも人気が高い。



「ほんとにね。もう飾る花瓶がないわ」

「アパルトマン全体が花だらけです。玄関もロビーも、賃貸している方のお部屋も」

マリーは次はどこに飾ろうかと花束を抱えながら悩んでいる。
大通りに面していて庭がないけど、お花はいつでも鑑賞できるわね。
ふふっと笑った。

寝る間もないほど忙しかった日々は少し落ち着いた。ここにも使用人を雇えるようになったし、ロビーには警備員もいる。
誰にも文句を言われず、全て自分の好きなようにできるのってすごく楽しい。

今回の公爵家の不祥事は、大きくなり過ぎた貴族のお家騒動で片が付いた。
公爵家は下劣な屋敷の者たちに騙され、良いように利用され莫大な損害を被った。
管理体制の杜撰さが招いた結果で、ある意味自業自得であると嘲笑された。
そしてこれを教訓に王都の貴族たちが、自分の屋敷の体制を見直し、使用人教育を徹底したように思う。

公爵家は降爵され王都の屋敷は売却された。今後、前公爵たちは領地に帰り慎ましく暮らしてゆくのだろう。

王家にとっては筆頭と言っても過言ではない公爵家だったが、後釜にお父様が納まった事で大きな騒動には発展しなかった。
これから王宮での発言権が増すことにお父様はご機嫌だった。

そもそも、私が王太子妃になっていれば、お父様が王宮での権力を手に入れる事ができた。
形は変わったが、結果的に望みは叶ったんだと思う。

だからだろうか、私がお父様の家に戻らず、ここで暮らしていくと言っても文句を言われなかった。

ただ危険な場所だとまずいと思ったのか、このエリアの治安維持に努めているようで、近所の怪しい業者や建物などは知らない間に潰れていった。
自費で警備員を雇い、日に何度も巡回警備をしているのもお父様のような気がする。

スノウが私へ支払った慰謝料は、王都の公爵家の屋敷を売った費用を充てたようだった。
お父様はそれをそのまま私へと渡した。

慰謝料、持参金、支度金。私が買った鉄道株の配当金、駅前の土地の借地料、このアパルトマンの権利と家賃収入。

私は大金持ちになった。

でも、アパルトマンの権利と家賃収入は、名義を変えて、今度結婚するマリーとジョンへ祝い金として渡そうと思っている。


彼女たちが幸せになることは私にとって何よりも喜ばしい事だ。

二人の子供が生まれたら、きっとすごく優秀だろう。
私がその子の家庭教師として教育してもいい。
まだ来ぬ未来だけど、想像すると楽しい。


王太子殿下は私に城で働くことを勧めた。けれどそれは丁重にお断りする。

彼はやはりこの国の王子で、国の事を一番に考えている。自分を犠牲にしてでも国民の為に尽くすのが殿下だし、王太子としての責務だろう。

だけど、それに私は巻き込まれるつもりはない。

彼は私の能力を買ってくれている。それは分かるけれど、惑わされて自分を見失うのはもううんざりだった。



あれから古参の外交官たちは職を追われ、もう出仕はできなくなった。

三分の一の職員は残った。
皆若手で、スノウの行った試験に優秀な成績を残した者たちだった。

大規模な人事異動もあり、語学が堪能な者たちが外交室に回され、左遷されていた外交官たちが戻ってきた。

定期的に能力を確認するための面接や試験を実施するようで、その勉強分上乗せして給金に反映させていくという。

外交大臣もそのうち誰かが任命されるだろう。

偏屈な外交官たちがいなくなり、風通しの良い職場環境になった。
後は後進の者たちに任せるしかないだろう。

アパルトマンの窓から春の暖かくなった風が入ってくる。
王都の通りの喧騒は程よい活気の音を私の耳に届けた。




しおりを挟む
感想 524

あなたにおすすめの小説

心配するな、俺の本命は別にいる——冷酷王太子と籠の花嫁

柴田はつみ
恋愛
王国の公爵令嬢セレーネは、家を守るために王太子レオニスとの政略結婚を命じられる。 婚約の儀の日、彼が告げた冷酷な一言——「心配するな。俺の好きな人は別にいる」。 その言葉はセレーネの心を深く傷つけ、王宮での新たな生活は噂と誤解に満ちていく。 好きな人が別にいるはずの彼が、なぜか自分にだけ独占欲を見せる。 嫉妬、疑念、陰謀が渦巻くなかで明らかになる「真実」。 契約から始まった婚約は、やがて運命を変える愛の物語へと変わっていく——。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。    第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。  その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。  ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。  私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

処理中です...