騎士の浮気は当たり前〜10年間浮気してた相手と別れた翌日妻に捨てられた俺の話〜

おてんば松尾

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「なんなの!このクリームを塗ってから、かゆくてたまらないわ」

「で、でも……おっしゃっていたお店の物を買ってきました」

「背中もブツブツになったじゃない。なんなのこれ?」

下っ端の娼婦に買ってこさせたボディクリームが粗悪品だった。

「返品してきなさい!」

私はその子にクリームを投げつけた。
瓶は頭にあたって、彼女の額から血が流れた。

「なにしてるの!血が出てるじゃない」

娼婦たちが集まってくる。

「酷い、支配人に言うわよ」

「そんな事はどうだっていい。私の肌が荒れる方が問題よ」

「気に入られているからって、何でも思い通りにできるはずないわ!」

「言いたければ言いなさいよ、あんたより私の方が価値があるわよ」

ベテランの娼婦が仲裁に入ってきた。

「支配人は、金を稼げる娼婦を大事にする。金が稼げない子はどんどん待遇が悪くなる。そんなのは何処の世界でも一緒。上手く立ち回りなさい」

彼女は若い子たちに諭すように言った。

「ミラさん……そんなのズルいわ」

「贔屓にされているからって酷いわ」

ぐずぐずと泣き出す若い子たち。
まだ十代の子は、泣けば許されると思っているようだ。

「私はここでも一番人気があるし、金持の客も新しく入った私に、どんどん金をつぎ込んでいる。支配人が必要としているのは私なのよ」

私は得意げに、上から目線で彼女たちに教えてあげる。

「みんな、子供じゃないんだから、ここで働いていくなら考えて行動しなさい。助け合わなくちゃならない時だって来るんだから」

ミラというこの女は、娼婦たちの教育担当もやっている古参の娼婦だ。

「メリンダ。あなたも、もう少し考えて発言した方がいいわ。仲間内でもめると商売にならないでしょう」

ミラは娼婦たちの機嫌をとって、上手く店を回さなければならない。いわば娼館側の人間だ。

「メリンダは少し休みを取ればいいわ。肌が治るまでゆっくりしなさい」

ミラは偉そうに私に指図する。

「私がいなければ、客が減るわよ!」

わざと嫌味っぽく言ってやった。



けど、数日たってもかゆみが治まらず、娼婦専門の医者に診てもらった。

漆にかぶれたような状態だと言われ、塗り薬をもらった。

ボディクリームの中に漆の成分が入っていたんじゃないかと思う。
店の娼婦たちの誰かがやったに違いない。

ミラが言うように、娼婦たちとも上手くやって行かなければならないようだ。

仕方がないから、ルーファスから貰ったジュエリーを店の子にいくつかあげた。
ダサいブローチや髪留めなら、たいして惜しくはない。

そして、しばらく休みを取ってゆっくりする事にした。

私には帰る場所があるし、そろそろグレンも寂しがっているだろう。


***


仕事ができない間、久しぶりにグレンのアパートに帰ったが、彼は留守だった。
屋台で一番高い串焼きを買った。
きっと喜んでくれるだろうと思い、部屋の中で待っていた。


「ああ……帰ってたんだ」

開口一番グレンが言った言葉はそれだった。
会いたかったとは言わないのね。

グレンは仕事で家に帰らないことが多い。だから私が帰らなくても文句を言われる筋合いはない。
けれど、怒りもせず、逆に喜んでもいない彼の曇った顔に苛立った。

「休みだから、久しぶりに戻ってきたわ」

私はそれでも、彼の機嫌を取ろうと話しかける。

「娼館も休みがあるんだな……」

グレンは私が娼館で働いていることを知っているのね。
けど、この町で女が働ける場所はそういう所しかないから、悪いことをしている訳じゃないわ。

「私は自分なりにお金を稼ごうとしてるのよ、もっと労う言葉はないの?」

久しぶりに会ったのに、グレンの覇気のない態度に腹が立った。

「そうか……お疲れ様。嫌なら辞めればいい。体を売る仕事だろう。あまり良いとは言えない」

「ほっといてよ。あなただって、嫁がいたのに、私と浮気してたんだから別にいいじゃない」

自分の事を棚に上げて、人の仕事にとやかく言うのはおかしいわ。
グレンは言い返さず相槌を打った。

「……そうだな」

眉間にシワを寄せて、さも自分が被害者のような言い方にムカついた。

「連れてくるだけで、何もしない男が何言ってるのよ」

ずっと私を抱きもしないで、腑抜けもいいところだ。

「すまない。生活できるだけの金は渡しているつもりだ」

「は?あんな、はした金でどうやって暮らせっていうの?無理に決まってるじゃない!」

「だから貧乏な暮らしになるって説明しただろう!」

グレンは声を荒げた。
私に向かってそんな態度を取るなんて許せない。
一緒に来てあげたのよ。しかもお金を稼いでいるし、感謝されて当然の私に対して失礼だ。

「貧乏なんて嫌だわ。私は自分で稼げるし、もっといい暮らしができるのよ」

「すればいいだろ。もっといい暮らしをしたければそうしろよ」

なんて無責任な男なの!
こんなに計画性がない人だとは思ってなかった。
ショックのあまり、一気に頭に血が上った。

「今更何言ってんのよ!ここに連れて来たのはあなたでしょ?出て行くわよ!」

「出て行くんだな。勝手にしろ、もう、殺されても何されても俺一人なんだし構わない」

何を言っているのこの人、殺されるとか意味がわからない。

「わけわかんない。二度と戻ってこないから」

「そうか……わかった」

10年よ?10年一緒にいたのになんなのその冷たい態度。
前は、大人で騎士の制服が似合ってかっこいい男だった。
こんな幼稚な人ではなかった。

今のこの人はただの情けない中年だ。

こんなグレンとは……一緒にいられない。



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