恋愛蜜度のはかり方

るうあ

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君を、想う。 ◆◆維月視点 (各お題利用)

君を想う気持ちに迫られて気がくるいそうだ なんとかしてくれ神様

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 まどろんで夢を見ていたが、肌寒さに目を覚ました。
 軽く息をつき、窓の外に目をやった。
 ――そろそろ夜明けだ。空が白み始めている。
 閉めないままのカーテンの向こう、窓の外に見える空は、雨は上がったもののまだ少し曇っていた。
 雨天に戻るか晴天になるか、昨夜は天気予報を見なかったせいで分からない。
 梅雨入りも間近い。今日は曇天模様かもしれない。髪を手櫛で整えつつ、身体を起こし、そのまま腕を伸ばして部屋の明かりを消した。
 普段、電気を点けたまま寝てしまうようなことはない。
 彼女が泊まった日だけだ。
 彼女――美鈴はいつも「灯かりを消して」と懇願する。だが俺は「勿体無い」と笑い、当然断る。
 そして美鈴は顔を赤らめて、言い返してくるのだ。
「電気点けっぱなしの方が勿体無いですっ」
 むろん照れ隠しだ。わかっている。
 勿体無いのは……、と、その先を俺に言わせたいのだろうか。
 言えば、また恥ずかしがって怒るだろう。その顔を見るのも、愉しいのだが。
 俺の傍らで眠っている美鈴を、改めて見つめた。
 乱れた髪、涙でこごった頬、僅かに開いた口からこぼれる寝息は安らかだ。寝息に合わせ、胸元が上下している。
 身体を横向けて寝入っている美鈴は、組んだ両手を顔のすぐ側に置いている。離そうにも、離せない両手。……手首を、ネクタイで縛られているせいだ。
 解けかかっているネクタイの端を、掴んで少しだけ引いてみた。
 美鈴はまだ目覚めない。
 痛々しいほどに白い肌が、俺を惑わせる。
 夢にまで現れ、俺を誘い燃え立たせた彼女は、はたして今、どんな夢を見ているのだろうか。

 うなじにも、肩にも、胸元にも、赤い痕がいくつも残っている。おそらくは背中にも、そして内腿のきわどい場所にも、それはあるだろう。
 ――やりすぎたかな、と思わないでもない。
 だが一瞬の後悔は、恍惚とした悦楽の熱へと取って代わる。
 ふつふつと湧き上がる、嗜虐の衝動。
 歯止めがきかなくなりそうで、自分自身が恐ろしかった。
 かつて、これほどの熱情を抱いた女はいなかった。
 まさかこれほどまでに溺れるとも、思わなかった。
 知らず、ため息がこぼれ出る。懊悩ゆえの甘く熱い吐息。
 信じてもいない神様とやらに救いを求めたくなる。苦しくて胸が張り裂けそうだ、なんとかしてくれ、と。
 それを告白しても、美鈴は半信半疑といった顔を返してくるだろう。
 だから、その想いを態度で示すしかないんだよ、美鈴?
 はにかみやで、疑りぶかい君のためにね。


 過去、付き合っていた女を抱いた時、あるいは一夜限りの関係の女を抱いた時、俺なりの愛を示すため、知る限りの技巧を用い、それなりに情熱を傾けた。淡白だったとは思わない。だが、常にブレーキを踏める状態でいたことは、否めない。
 ――が、今ではどうだ。
 アクセルを踏みっぱなしで、減速することを忘れ、ブレーキの存在すら失念しかけている。
 それを知らず、美鈴は拗ねて文句をつけるのだ。
「維月さんばっかり余裕で、ずるい」
 あまつさえ、「意地悪しないでください」と上目遣いに俺を見つめて言うのだ。
 俺を酔わせ、狂わせ、意地悪にさせるのは美鈴だ。
 無邪気で無自覚な美鈴に、どれほど心を掻き乱されている事か。
 だからこそ「仕返し」をしたくなる。美鈴を乱したくなる。
 美鈴の手を縛った時の、あの愉悦。
 戸惑い、慄き、美鈴は瞳を潤ませた。
「やめて」と哀願しながら、結局美鈴は束縛を解かなかった。
 二重三重に巻いたネクタイを、そっとはずした。
 きつく結んだつもりはなかったが、やはり手首には縛りつけた痕が残り、鬱血こそしていなかったが、赤くなっていた。
 美鈴の手首をそっとさすり、呟いた。
「ごめん」、と。
 してしまった行為を詫び、続けてしてしまう行為をあらかじめ謝罪しておく。
 美鈴が、俺を称したその言葉通りに、もう一度……いや何度でも実践してやろう。

 ……さぁ、次はどんな手で、美鈴を啼かせようか?
 はだけたままの美鈴の肩に接吻してから再び横たわり、頬杖をついて美鈴の寝顔を見つめた。
 次第に明るくなっていく空を、早起きの鳥達が忙しなく飛び交っている。
 鳥達の囀りを遠くに聞きながら、美鈴の「鈴を振るような美しい」啼き声を思い返し、気持ちを昂ぶらせる。

 ――そして、数分後。
 夜とはまた一味違った啼き声を、俺は存分に堪能する。
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