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幸せな日常 ◇◇美鈴視点
Girl’s talk(ゆりちゃんとふたたび)
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一昨日の晩。
親友のゆりちゃんから、今週の土曜日に会えないかなと電話がかかってきた。
お正月の帰省以来、なんとなくゆりちゃんと話したり会ったりしたりする機会が増えたような気がする。弾みがつくというのかな。
その日は維月さんと会う予定も他の用事もなかったから、ちょっと急なお誘いではあったけど、「いいよ」と返事をした。
お泊まりもオッケーかと尋ねられ、日曜は維月さんと会う約束があるけど、昼までならつきあえるよと、お泊まりも「オッケー」と応じた。
今回のゆりちゃんの来訪は、単にわたしの顔を見たかったというのもあったようだけど、自動車の免許を習得し、車も買ったということで、その「お披露目」が一番の目的だったみたい。
「ドライブつきあって」
というゆりちゃんの欲求を飲み、近場をぐるっとめぐるだけのドライブとショッピングを楽しんだ。ゆりちゃんがアパートに来たのは正午過ぎ、そしてアパートに戻ったのは日暮れ前。夕食はわたしのアパートで、ということになった。
ゆりちゃんは運動神経も反射神経もよく、物怖じしない剛毅な性格だから、車の運転も怖さより楽しみの方が勝ってるらしく、助手席に乗せてもらったけれど、ハラハラドキドキはあまりしなかった。ありがたいことにスピード狂でもなくて、安心して乗っていられた。毎日運転するようにしてるらしいから、運転慣れしてきたのかも。とはいえ、「県外まで来たのは初めてだけどね」とゆりちゃんは苦笑した。それでも遠出したくて堪らなかったらしい。
「ところでさ、すずは車の免許取らないの?」
「うーん、今のところ、予定はないかな」
金銭的に余裕もないし、今はさほど必要性を感じていない。バスに電車と、交通機関もそこそこ充実しているから、車がなくても移動に不便を感じることはない。
「でもさ、すず、駐車場借りてるじゃん? いずれ免許取るために借りてるのかと思ったけど?」
ゆりちゃんのマイカーを停めてる駐車場のことだ。アパート近くの駐車場、運よく空きがあって契約した。
言うのはちょっと恥ずかしかったけれど、月極めで借りている駐車場は、維月さんのためのものだと、ゆりちゃんに説明した。
「あ、そっか。彼氏のためかー」
ゆりちゃんは納得し、にまにまと笑う。「すずらしいよね」と言うゆりちゃんの口調にはほんのちょっぴり苦みというか、呆れたような色が混じってたような気がする。
「そういうとこ、ほんとすずは気遣いするよねー。ま、そこがすずの良いとこだけどさ」
暗に、遠慮しすぎと言われている気がしないでもない。ゆりちゃんはわたしのことを「甘え上手」だと言い、そのくせ同じくらい「甘え下手」だと笑う。
「甘え下手なのが甘え上手に繋がってるんだよね、すずの場合」
「そう……?」
自分ではよく分からない。けれど、甘えが強いなと我ながら情けなくなってしまうことはある。
ゆりちゃんにも、色々と頼って甘えてきた。いままで、何度もゆりちゃんは心の支えになってくれた。くだらない愚痴でも、それに耳を傾けてくれる友達がいるのって、本当に心強い。
前の会社を、逃げだすようにして辞めて、自分の愚かさ、弱さが嫌になった時期があった。辛いことからって逃げだして、立ち向かおうとすらしなかった自分が惨めで、ネガティブになるばかりの日を送ってた。
でも、そんな日々をなんとか乗り越えてこられたのも、ゆりちゃんを含む友人達のおかげだと思う。
泣き事を聞いてくれ、励ましてくれたり叱ったりしてくれた。
あれから環境を変えて、わたし自身も少しは変わってきたのかなって上向きに考えられるようになった。それは、「高倉維月さん」の影響も大きい。維月さんとの出逢い……存在は、わたしの心に変化を与えてくれた。
「そーいやさ」
と、ゆりちゃんがおもむろに尋ねてきた。
「すずって、彼氏に対して敬語だよね? 敬語っていうか、ですます口調っていうか。なんで?」
「え、なんでって言われても……」
指摘されてようやく気づいた。今頃気づいた自分が、妙でもある。
たしかに、「ですます口調」だ。維月さんに対して。敬語っていったって、かなり崩れてはいる。
年上だし、会社では「上司」なのだから当たり前と思って、……ううん、当たり前ってことすら特に意識してなかったかも。おつきあいする以前からの口調と、ほぼ変わっていないような気がする。多少、馴れ馴れしくはなったかもしれないけれど。
「十歳上だっけ?」
「ううん、七歳」
「七歳……ってことは、あ、もう三十路! さんじゅうっ?!」
「あ、……うん、そうだね」
わたしは苦笑で応えた。だってゆりちゃんがあんまり大げさに驚くから。
でも、たしかにびっくりかも。ゆりちゃんみたいにのけぞるほど驚きはないにしても。
「三十歳」って、なんとなくもっと遠い存在みたいに思ってた頃もあった。世代が違うっていうのはやっぱり大きい気がして、ちょっとだけ戸惑いを覚えてしまうのは無理もないと思う。
維月さんを目の前にした時にその「戸惑い」は表面には出てこないけれど、他人から指摘されると年の差を改めて感じてしまう。七歳なんてたいしたことないって思うし、一方でギャップというか、差はあるなとも感じる。
「三十ったって、まぁ、今は四十歳も五十歳も見た目若いもんね。あたしの知り合いにもうすぐ五十の人いるけど、綺麗だもんなぁ。無理に若づくりしてるって感じじゃなくて。年齢聞いてびっくりしたもん。高校生の子どもが二人もいるとかマジ? みたいな」
「自然に若くって綺麗な人っているよね。男の人でもそういう人いるよ。童顔っていうのもあるけど、二十代なのかなぁと思ってたら、三十半ばだったりって」
「いるいる! うちの職場にもいるわー。むりやりな若づくりしてる人もいるっちゃいるけど。うん、でも、アンチエイジング大事! お肌の曲がり角ももう曲がっちゃったし、ケアしておかないとねぇ」
「うん、だよね。いま、ちょっとハチミツのスキンケアにはまってて」
「すずって、意外に新しもの好きだよね? あと限定もの好き」
「それはゆりちゃんだって同じじゃない? 期間限定ビールとかアイスとか買ってきてるし。ご当地グルメとかも好きでしょ?」
「もうこれ女子の性じゃない? まんまと乗っちゃうよね、限定とかさー。最近はオマケ付きには惹かれなくなったけどネ」
などと、まったりお喋りに脱線はつきもので、話題はあっちこっちにそれまくって、気がつけば夜もすっかり更けていた。
ゆりちゃんもイケる口だから、お喋りのお伴はお酒。今夜は泊っていくとはいえ、あまり強いアルコールは出さなかった。翌日にお酒が残ったらマズいもんね、とゆりちゃんもちゃんと自制して、途中からお茶に切り替えた。
「話、逸れまくったけど。彼氏はさ、すずの喋り方、あんま気にしてない? タメ口でいいよとか言われたことない?」
「うん……ない、かな」
付き合い始めに、名前で呼んで欲しいと乞われたくらい。
「ふーん」
ゆりちゃんは首を捻る。どうやら維月さんの顔を思いだしているらしい。
ゆりちゃんを維月さんに会わせたのはまだ一度だけ。ちょっと前にあった同窓会、その帰りに維月さんがわたしを車で迎えに来てくれて、その時ゆりちゃんも一緒に送ってもらった。初対面と言うこともあって、ゆりちゃんは維月さんにあまり話しかけず、わたしと維月さんの会話を黙って聞くか、相槌を打っているくらいだった。車中ということもあったし、時間も短かったから、ずっと喋り続けていたわけじゃないけど、ゆりちゃんはわたしと維月さんの会話を後部座席で聞いて不思議に思ったらしい。
不思議といっても、変だという意味ではなく、ただなんとなく、「なんでかな」と首を傾げた程度とのこと。
でも、言われてみると、わたしもちょっと気になってきた。
今の今までほとんど気にしてなかったのに。変だって、維月さんに思われてなければいいけど、どうだろう……?
ものすごく些細なことなのに、一度気になってしまうと、どうしても頭から離れなくなってしまうらしい。
「ま、べつに彼氏が気にしてないんなら問題ないし、いいんじゃないの?」
と、話題を振ってきたゆりちゃんは、そう結論付けた。「変なこと訊いてごめんねー」と言い添えて、あとはもうその話題に戻さなかった。
わたしも「そうかな」とこの時は納得して流し、考え込んだりはしなかった。けれど、……――
――けれど。
くだらないことと分かってても、なんだかちょっぴり気にかかってしまって、放っておけなくなってしまった。
だから、思いきって(思いきるほどでもないことなのだけど)維月さんに尋ねてみた。
わたしの維月さんに対する喋り方、いわゆる「ですます口調」、気になりますか、と。他人行儀というか、不自然というか、そんな風に思われてないか、心配で。
親友のゆりちゃんから、今週の土曜日に会えないかなと電話がかかってきた。
お正月の帰省以来、なんとなくゆりちゃんと話したり会ったりしたりする機会が増えたような気がする。弾みがつくというのかな。
その日は維月さんと会う予定も他の用事もなかったから、ちょっと急なお誘いではあったけど、「いいよ」と返事をした。
お泊まりもオッケーかと尋ねられ、日曜は維月さんと会う約束があるけど、昼までならつきあえるよと、お泊まりも「オッケー」と応じた。
今回のゆりちゃんの来訪は、単にわたしの顔を見たかったというのもあったようだけど、自動車の免許を習得し、車も買ったということで、その「お披露目」が一番の目的だったみたい。
「ドライブつきあって」
というゆりちゃんの欲求を飲み、近場をぐるっとめぐるだけのドライブとショッピングを楽しんだ。ゆりちゃんがアパートに来たのは正午過ぎ、そしてアパートに戻ったのは日暮れ前。夕食はわたしのアパートで、ということになった。
ゆりちゃんは運動神経も反射神経もよく、物怖じしない剛毅な性格だから、車の運転も怖さより楽しみの方が勝ってるらしく、助手席に乗せてもらったけれど、ハラハラドキドキはあまりしなかった。ありがたいことにスピード狂でもなくて、安心して乗っていられた。毎日運転するようにしてるらしいから、運転慣れしてきたのかも。とはいえ、「県外まで来たのは初めてだけどね」とゆりちゃんは苦笑した。それでも遠出したくて堪らなかったらしい。
「ところでさ、すずは車の免許取らないの?」
「うーん、今のところ、予定はないかな」
金銭的に余裕もないし、今はさほど必要性を感じていない。バスに電車と、交通機関もそこそこ充実しているから、車がなくても移動に不便を感じることはない。
「でもさ、すず、駐車場借りてるじゃん? いずれ免許取るために借りてるのかと思ったけど?」
ゆりちゃんのマイカーを停めてる駐車場のことだ。アパート近くの駐車場、運よく空きがあって契約した。
言うのはちょっと恥ずかしかったけれど、月極めで借りている駐車場は、維月さんのためのものだと、ゆりちゃんに説明した。
「あ、そっか。彼氏のためかー」
ゆりちゃんは納得し、にまにまと笑う。「すずらしいよね」と言うゆりちゃんの口調にはほんのちょっぴり苦みというか、呆れたような色が混じってたような気がする。
「そういうとこ、ほんとすずは気遣いするよねー。ま、そこがすずの良いとこだけどさ」
暗に、遠慮しすぎと言われている気がしないでもない。ゆりちゃんはわたしのことを「甘え上手」だと言い、そのくせ同じくらい「甘え下手」だと笑う。
「甘え下手なのが甘え上手に繋がってるんだよね、すずの場合」
「そう……?」
自分ではよく分からない。けれど、甘えが強いなと我ながら情けなくなってしまうことはある。
ゆりちゃんにも、色々と頼って甘えてきた。いままで、何度もゆりちゃんは心の支えになってくれた。くだらない愚痴でも、それに耳を傾けてくれる友達がいるのって、本当に心強い。
前の会社を、逃げだすようにして辞めて、自分の愚かさ、弱さが嫌になった時期があった。辛いことからって逃げだして、立ち向かおうとすらしなかった自分が惨めで、ネガティブになるばかりの日を送ってた。
でも、そんな日々をなんとか乗り越えてこられたのも、ゆりちゃんを含む友人達のおかげだと思う。
泣き事を聞いてくれ、励ましてくれたり叱ったりしてくれた。
あれから環境を変えて、わたし自身も少しは変わってきたのかなって上向きに考えられるようになった。それは、「高倉維月さん」の影響も大きい。維月さんとの出逢い……存在は、わたしの心に変化を与えてくれた。
「そーいやさ」
と、ゆりちゃんがおもむろに尋ねてきた。
「すずって、彼氏に対して敬語だよね? 敬語っていうか、ですます口調っていうか。なんで?」
「え、なんでって言われても……」
指摘されてようやく気づいた。今頃気づいた自分が、妙でもある。
たしかに、「ですます口調」だ。維月さんに対して。敬語っていったって、かなり崩れてはいる。
年上だし、会社では「上司」なのだから当たり前と思って、……ううん、当たり前ってことすら特に意識してなかったかも。おつきあいする以前からの口調と、ほぼ変わっていないような気がする。多少、馴れ馴れしくはなったかもしれないけれど。
「十歳上だっけ?」
「ううん、七歳」
「七歳……ってことは、あ、もう三十路! さんじゅうっ?!」
「あ、……うん、そうだね」
わたしは苦笑で応えた。だってゆりちゃんがあんまり大げさに驚くから。
でも、たしかにびっくりかも。ゆりちゃんみたいにのけぞるほど驚きはないにしても。
「三十歳」って、なんとなくもっと遠い存在みたいに思ってた頃もあった。世代が違うっていうのはやっぱり大きい気がして、ちょっとだけ戸惑いを覚えてしまうのは無理もないと思う。
維月さんを目の前にした時にその「戸惑い」は表面には出てこないけれど、他人から指摘されると年の差を改めて感じてしまう。七歳なんてたいしたことないって思うし、一方でギャップというか、差はあるなとも感じる。
「三十ったって、まぁ、今は四十歳も五十歳も見た目若いもんね。あたしの知り合いにもうすぐ五十の人いるけど、綺麗だもんなぁ。無理に若づくりしてるって感じじゃなくて。年齢聞いてびっくりしたもん。高校生の子どもが二人もいるとかマジ? みたいな」
「自然に若くって綺麗な人っているよね。男の人でもそういう人いるよ。童顔っていうのもあるけど、二十代なのかなぁと思ってたら、三十半ばだったりって」
「いるいる! うちの職場にもいるわー。むりやりな若づくりしてる人もいるっちゃいるけど。うん、でも、アンチエイジング大事! お肌の曲がり角ももう曲がっちゃったし、ケアしておかないとねぇ」
「うん、だよね。いま、ちょっとハチミツのスキンケアにはまってて」
「すずって、意外に新しもの好きだよね? あと限定もの好き」
「それはゆりちゃんだって同じじゃない? 期間限定ビールとかアイスとか買ってきてるし。ご当地グルメとかも好きでしょ?」
「もうこれ女子の性じゃない? まんまと乗っちゃうよね、限定とかさー。最近はオマケ付きには惹かれなくなったけどネ」
などと、まったりお喋りに脱線はつきもので、話題はあっちこっちにそれまくって、気がつけば夜もすっかり更けていた。
ゆりちゃんもイケる口だから、お喋りのお伴はお酒。今夜は泊っていくとはいえ、あまり強いアルコールは出さなかった。翌日にお酒が残ったらマズいもんね、とゆりちゃんもちゃんと自制して、途中からお茶に切り替えた。
「話、逸れまくったけど。彼氏はさ、すずの喋り方、あんま気にしてない? タメ口でいいよとか言われたことない?」
「うん……ない、かな」
付き合い始めに、名前で呼んで欲しいと乞われたくらい。
「ふーん」
ゆりちゃんは首を捻る。どうやら維月さんの顔を思いだしているらしい。
ゆりちゃんを維月さんに会わせたのはまだ一度だけ。ちょっと前にあった同窓会、その帰りに維月さんがわたしを車で迎えに来てくれて、その時ゆりちゃんも一緒に送ってもらった。初対面と言うこともあって、ゆりちゃんは維月さんにあまり話しかけず、わたしと維月さんの会話を黙って聞くか、相槌を打っているくらいだった。車中ということもあったし、時間も短かったから、ずっと喋り続けていたわけじゃないけど、ゆりちゃんはわたしと維月さんの会話を後部座席で聞いて不思議に思ったらしい。
不思議といっても、変だという意味ではなく、ただなんとなく、「なんでかな」と首を傾げた程度とのこと。
でも、言われてみると、わたしもちょっと気になってきた。
今の今までほとんど気にしてなかったのに。変だって、維月さんに思われてなければいいけど、どうだろう……?
ものすごく些細なことなのに、一度気になってしまうと、どうしても頭から離れなくなってしまうらしい。
「ま、べつに彼氏が気にしてないんなら問題ないし、いいんじゃないの?」
と、話題を振ってきたゆりちゃんは、そう結論付けた。「変なこと訊いてごめんねー」と言い添えて、あとはもうその話題に戻さなかった。
わたしも「そうかな」とこの時は納得して流し、考え込んだりはしなかった。けれど、……――
――けれど。
くだらないことと分かってても、なんだかちょっぴり気にかかってしまって、放っておけなくなってしまった。
だから、思いきって(思いきるほどでもないことなのだけど)維月さんに尋ねてみた。
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