城伯末女だけど、案外したたかに生きてます

遥風 かずら

文字の大きさ
18 / 19
第二章 お城世界の国々と

第18話 ヴァレリーの正体

しおりを挟む
「王国随一の宿屋……ここだな」
「あ、ありがとう。ここまで連れて来てくれて本当に……!」
「流石に中にまで入るわけにはいかないけど、ここまでくれば安心だろ?」
「うん」

 姉であるレラがとんでもない悪女だということを聞かされて体の力が抜けたルーシャは、ヴァレリーの優しさに甘えて宿屋が間近に見えるところまで送ってもらってきた。

 辺りはすっかり暗くなっていて、ちらほらと宿へ入っていく客の姿が見えている。いつものルーシャならお使いにここまで時間がかかることはないが、暗くなってしまったせいもあってか、宿屋の入り口前には心配そうにうろつく主人の姿があった。

「どうしよう、遅くなりすぎたせいで主人が待ち構えてる……」
「もう暗いもんな。お使いに出した下働きの娘が帰ってこなければ心配になるだろうし、仕方ないと思うぞ」
「そんなものなのかな」
「そんなもんだろ」

 二つしか違わないのに、宿の事情にも詳しいなんて彼は一体何者なんだろうか。体の不調が戻ったのも手伝って、ルーシャはそれとなくヴァレリーに訊いてみることにした。

「そういえばヴァレリーに聞きたいことがあるんだけど……」
「うん?」
「壁越しで出会った時にブルグ城に来てたみたいだけど、結局何が目的だったの?」

 答えられないこともあるだろうけど、今なら教えてくれそうな気がする。

「……あぁ、アレか。ホワイトはブルグ城の使用人をクビにされたんだったっけか。だったらあまりいい思いはいだいてなさそうだし、いいか……」

 抱いてないどころか、末女だったりするのは心の中に留めておこうと思う。

「鐘か何かを探しにきたとかって、本当は違うんでしょ?」

 鐘というと教会の鐘しか思いつかなかったけど、多分それが目的ではなかったはず。

「雑貨屋の話に出てきた悪女の話があるだろ?」
「……え、うん」
「オレはあの時、ブルグ城にいるとされた悪女レラを捕らえようと思って城に近づいたんだ」

(何だか穏やかじゃないし物騒な話になってきたけど、こんな話を私に聞かせていいものなの?)

「捕らえる……? どうして?」
「冷血なミラー将軍がブルグ城を仕切っているのは知ってるだろ?」
「う、うん」

(仕切っているというか、お母様がラスボスだから当たり前というか)

「そのミラー将軍の片腕であり、次期将軍とされてるのがレラなんだ」
「次期将軍……」

(そういえばお母様は常々私を次期将軍にするとか言ってた気がするけど、年を考えれば私を脅威と見る人はほとんどいないだろうなぁ。そもそも世間には知られてないわけだし)

「ホワイトは聞いたことがないか?」
「ううん、私は何も知らないから」
「城の使用人だとそこまで知るわけないか……」

 そう言ってヴァレリーはルーシャに苦笑してみせた。

「ヴァレリーって、本当は何者なの?」

 ここまで思わせぶりなことを言い放っておきながら、ヴァレリーは自分のことをまるで話そうとしない。そんな彼にルーシャは思い切って疑問をぶつけてみることに。

 すると。

「何者? ん~ホワイトに話しても仕方ないけど、ここまで関わっちゃってるし教えておく。減るもんじゃないしな。簡単に言えば、オレはブルグ城とは敵対関係にある人間なんだ」
「敵対? そんな、どうして……?」
「シアンテ王国が中立国ってのは知ってるだろ?」

 ジェニスがそんなことを言ってた気がする。

「えっと、どの国にも加担しない国って意味だっけ?」
「そう。表向きはそうなってる。だけど、王国はブルグ城寄りなんだ。だからこの国にいれば、少しは向こうの情報でも探れるのかと思ってここにいるってわけだ」

 ヴァレリーがまさかの敵国の人間。しかもレラのことを攫おうとしていた。こんな危なそうな人に助けられた上にちょっとだけ好意を抱いてしまったなんて、将軍の娘としては油断しすぎたかもしれない。

 だけど、こうして自分の素性を隠すこともなく堂々と口に出してくるなんて、完全にルーシャ――というより、ホワイトに対して気を許しているということなんだろうか。

 そんな相手なのにルーシャも素性を偽って教えているのは後ろめたさがあるけれど。

「そ、それじゃあ、レラ……悪女が見つかったらヴァレリーは悪女を捕らえて国に帰るの?」
「いや。悪女といえども、あの冷血将軍の娘だからな。そう簡単に捕らえるのは出来ないだろうな」
「そうなんだ……。じゃあこの国にはしばらくいるってこと?」

(どうしてこんなことを聞いてるんだろ。ヴァレリーは敵国の人間なのに)

「悪女がいてもいなくても倉庫の下っ端として仕事してるから、いるっちゃいるかな。それに、ホワイトが危なっかしいしオレが守ってやらないとな!」

(あぁ、いけないけない。他人に対して弱気な自分を見せてしまった。こんな分かりやすい弱さはないよね流石に)

「……それは嬉しいしありがたいけど、ヴァレリーが思うほど私は弱くないです」

 もしかしたら将来この人と敵として対峙することになったら変な情けをかけられそうだし、そうならないためにも強がりでも強い態度を見せておかないと。

「お? ってことは、もし悪女に遭遇しても自分一人だけで何とか出来る自信はあるってことだな?」
「な、何とかします。多分……」

 悪女と言っても正体がレラなら単純に妹として再会するだけになるだろうし、ルーシャとして与えられた三年間が報われるなら、悪女でも何でも出会えるものなら出会いたい。

「うし。なら、オレはそろそろ戻るよ。宿屋の主人の動きが慌ただしくなってきたようだし、ホワイトが顔を出さないと大騒ぎになりそうだ」

 ヴァレリーが言うように宿屋の入り口付近を気にすると、確かに人の出入りが激しくなっていて、ルーシャと同じ下働きのペテルの姿も確認出来る。

「えっと、ここまでありがとう。その……」
「……ホワイトにも色んな事情があるのは何となく分かる。だから、今度また会った時も今みたいに話すだけでいいよ。ホワイト嬢と話をするのは楽しいしな! それじゃ、また!」
「ま、またね、ヴァレリー」

 ヴァレリーはルーシャに手を振りながら、どこかの小道へと姿を消した。

「お、遅くなりました!!」

 ヴァレリーが敵国の人間と分かったのはともかくとして、ルーシャはすぐに顔を引き締め、宿屋に駆け寄ってすぐに頭を下げた。

「ホワイト!! いったい今までどこに……。とにかく、今夜は大事なお客様が来られる日だ。だから急いで支度を整えてきなさい!」
「は、はいっ!!」

 ほとんどヴァレリーが手配してくれたお使いの品々を主人に渡し、ルーシャはペルテに急かされるようにして裏口へと急ぐ。

「お嬢! 早く早く!!」
「う、うん」

(思いきり怒鳴られるかと思っていたけど、凄い心配をさせてしまったんだ……)

 ルーシャは心の中で反省しつつ、ペルテと一緒に支度部屋へと急いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました

九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」 悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。 公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。 「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」 ――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...