きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

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第三章 彼と彼氏と友達

23.甘えの人と誤解の人

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 あんまりよく見えなかったりしたけれど、リレーで走ってる時の七瀬は確かに見惚れるくらいに格好良かった。他の女子が騒ぐのも何となく分かった。

 そんな七瀬にタオルでも持っていってあげることに。七瀬がどこにいるのかと姿を探すと、蛇口付近にいるみたいだった。

 ――なので、サプライズっぽく気配を消しながら近付いてみる。

「ふぅぅ~あっつーー!」

 ……うん、なるほど。

 頭から水をたっぷりと浴びて、犬みたいに頭を振った七瀬って光り輝くんだ。雨で濡れた時は気にしなかったけど、水とか汗が首筋に滴ってる七瀬ってやばいって分かった。

「……ん? そこにいるのは綾希か。珍しいな、タオル持って大人しく待ってるなんて」

 見惚れてたらあっさりばれた。

「七瀬が光ってた……」
「ん? 俺が何? てか、タオル渡してくれないのか?」 

 このままタオルを渡さないとまた風邪ひきそう。

「はい、タオル」
「サンキュな!」

 わたしから受け取ると、七瀬は滴り落ちる汗を隈なく拭いてみせた。

「ふぅっ。ってか、応援してたろ?」
「え、うん……」
「俺がいるところからでも綾希がはっきり見えた。マジで座ってたな。あと、何となくだけどちゃんと届いてた」

 本当に何となく見てただけなのに七瀬の方が気にしてたんだ。

「え? 負けてもいいって思ってたけど、届いた?」
「届いてたから意地になって勝った。ってことで、タオルサンキュ!」

 七瀬はそう言いながら、わたしの顔に向かってタオルを投げてきた。

「……濡れてるし、七瀬の匂いが半端ない……」
「素直じゃねえから綾希に返しとく。俺はとりあえず、自販でなんか買ってくる。綾希も飲むだろ?」
「いる。それと七瀬。家の人が来てるから、わたしはそこにいる。あそこのテント辺りだから」

 運営委員会のテント付近に指差して、場所だけ教えてあげた。

「オッケー。分かった、買ったらすぐ行く」

 兄だけ無駄に来てるのがどうにも納得いかない。七瀬が戻る前に説教しないと絶対駄目だ。

 わたしだけに甘えたい兄に説教すれば、きっと大人しく帰ってくれるはずだし。

 そう思いながら向かうと、

「おーー!! 愛しの妹、綾ちゃんの帰還だ! 綾ちゃん、午後の競技に出るんだよね? 応援するよーー」

 周りを気にしない恥ずかしい兄の声が物凄く目立ってた。

「……何でここに? それもスーツのままで」
「そりゃあ、お兄ちゃんだから! スーツ姿なのは早退してきたからだよ」
「あ、そう。出口、あっちだから」

 この空気が読めない感じ、あいつにそっくり。

「相変わらず冷たいなぁ。そこが綾ちゃんらしいんだけど。……ん? そのタオルで汗でも拭いてくれるのかな? 遠慮なく……」

 えっ、嘘……?

「やめて!! それ、わたしのタオルだし。何で渡さなきゃいけない? 引っ張らないで」
「綾ちゃんのタオルなら問題ないよ。だから、その手を離してくれると嬉しいなぁ」
「絶対に渡さない」

 わたしの兄は吐き気がするほどわたしを溺愛する人。そして空気とか色々読めない人。人目とか関係なしにわたしに存分に甘えてくる。

 そもそもわたしが兄を大好きだと思っていたのは、中学に上がるまでだった。それなのに、兄だけはわたしを卒業出来てない。

「しつこい!」

 七瀬が使ってくれたタオルを渡すわけにはいかない。

 だから必死に抵抗し続けたら、

「おい、お前……綾希のタオルを離せよ! 嫌がってんだろ」

 鉢合ったら駄目だけど、やっぱり遭遇しちゃった。

「綾ちゃんのタオルを借りようと思っただけだ。嫌がるはずないだろ。と言うか、誰だお前?」
「――綾ちゃん? 綾希、こいつストーカーだろ? 体育祭にスーツで来てる時点で怪しすぎんぞ」
「あー……えーと」
「お前こそ誰だよ? 綾ちゃんをナンパでもしてんのか?」

 予想はしてたけど、スーツで来るとは思ってなかった。

 でも七瀬の言う通り確かに怪しい。でも一応兄だし、七瀬の誤解をまず解かないと面倒なことが起きそう。

 それでもタオルは絶対に渡さない。
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