26 / 75
第三章 彼と彼氏と友達
26.優しいその手は誰のモノ?
しおりを挟む
「少し沁みるけど、我慢な?」
「……っ」
わたしの膝に触れる彼の手はとても優しくて、消毒液を湿らせた綿をポンポンと軽く押してくるその強さですらも、七瀬の優しさそのものが伝わってくる。
「よしっ、これでいい。これでばい菌とか大丈夫なはず。それにしても綾希は強いな。明らか痛そうなのに泣きも喚きもしないとか、お前って本当にすげぇのな。なのに立てなくて動けないとか……マジか?」
痛いのは痛いけど、流石に泣かないでしょ。
「泣いて治るなら泣く」
「や、そうだけど。じゃなくて……まぁ、いいや」
「七瀬のその手は神の手?」
「正真正銘、俺の手。綾希に優しくするための手な」
七瀬はいつからこんなことを平気で言うようになったのだろうか?
こんなにもわたしなんかを好きとか、本当に本気?
だとしても、出来れば保健室にはあまり長くいたくない。だって、ここには沙奈がいて、目の前の七瀬にキスを――考えたくないしとても嫌な場所って感じがする。
「そういえば保健医の人は?」
「ここの先生はサボりが多いんじゃね? 俺が寝てた時もいなかったし、いなくても綾希の膝を消毒出来たしな。え、俺って凄くね!?」
七瀬は確かに凄いけど隙はあるんだよね。
「凄い凄い……それで、ばい菌じゃない誰かを侵入させたんだ」
「お前――それ、まだ気にしてんのか? や、そうだろうけど……俺はどうすればいい?」
沙奈がここで七瀬にしたことをわたしが実行する……ううん、そんなベタな仕返しなんてやりたくない。
だけど、七瀬の言う通り彼の手がわたしのためのものだと言うならそれでいい。今はそれだけでももらっておく。
「ど、どうした?」
「七瀬の手が欲しい」
「えっ!?」
驚く彼の手を握って、わたしの口に彼の指を近付けた。
「――え」
「七瀬がわたしの唇をなぞる。それでいい……」
「ん? 雨の日にお前がやってたアレのことか。あぁ~、そうか。分かった」
「うん。それで……」
直接キスをするとかそれはまだ無理。だけど、せめて彼の優しさと温もりと気持ちを感じてみたくて、キスの代わりにしてもらうことにした。
「な、なんか、かえってやばい事してる気がするな……」
七瀬の優しい指がわたしの唇をなぞってる。
「別に手を握るとかでも良かった。けど、ここでは打ち消せないから」
「……保健室でのこと、ごめんな、綾希」
謝られながらも、キスよりも七瀬を感じられた気がした。
「その、俺はもう油断とかしないって誓う。だから、綾希はそんな心配とかするな」
「うん」
「そ、そろそろ戻るか?」
「嫌です」
何だか物足りないような、そんな気になって少しだけわがまま。
「いやっ、今はまだ体育祭だし。校内にいたら流石にまずいだろ。……や、女子たちが騒いでたけどそれが関係してるのか」
勘の鋭い七瀬に向けて軽く頷いた。
「それなら、外に出ても俺がお前のそばにいる。だから外に戻るけどいいよな?」
「ん、よろしく」
「あぁ」
キスをしたわけでもないのに、七瀬は顔を赤くしながらわたしより先に保健室を出た。
「もう一人で歩けるだろ?」
「努力する」
「是非してくれ。そうじゃないと、真面目な話、本気で俺自身が制御できなくなる」
「ん……?」
七瀬も何かを我慢していた?
彼と付き合ってまだまだほんの数十日くらい。とりあえず、七瀬の優しさは凄く理解出来た。
そして体育祭が終わったら、次はまた勉強とかでお世話になる。
「輔は優しい」
「……まぁな。でも、綾希だから」
「ありがと」
「ほら、行くぞ」
そう言うと、七瀬はわたしの唇に触れていない手を差し出した。
彼の気持ちに、そしてその手に触れるわたしは彼氏と一緒に廊下を歩き出す。
「……っ」
わたしの膝に触れる彼の手はとても優しくて、消毒液を湿らせた綿をポンポンと軽く押してくるその強さですらも、七瀬の優しさそのものが伝わってくる。
「よしっ、これでいい。これでばい菌とか大丈夫なはず。それにしても綾希は強いな。明らか痛そうなのに泣きも喚きもしないとか、お前って本当にすげぇのな。なのに立てなくて動けないとか……マジか?」
痛いのは痛いけど、流石に泣かないでしょ。
「泣いて治るなら泣く」
「や、そうだけど。じゃなくて……まぁ、いいや」
「七瀬のその手は神の手?」
「正真正銘、俺の手。綾希に優しくするための手な」
七瀬はいつからこんなことを平気で言うようになったのだろうか?
こんなにもわたしなんかを好きとか、本当に本気?
だとしても、出来れば保健室にはあまり長くいたくない。だって、ここには沙奈がいて、目の前の七瀬にキスを――考えたくないしとても嫌な場所って感じがする。
「そういえば保健医の人は?」
「ここの先生はサボりが多いんじゃね? 俺が寝てた時もいなかったし、いなくても綾希の膝を消毒出来たしな。え、俺って凄くね!?」
七瀬は確かに凄いけど隙はあるんだよね。
「凄い凄い……それで、ばい菌じゃない誰かを侵入させたんだ」
「お前――それ、まだ気にしてんのか? や、そうだろうけど……俺はどうすればいい?」
沙奈がここで七瀬にしたことをわたしが実行する……ううん、そんなベタな仕返しなんてやりたくない。
だけど、七瀬の言う通り彼の手がわたしのためのものだと言うならそれでいい。今はそれだけでももらっておく。
「ど、どうした?」
「七瀬の手が欲しい」
「えっ!?」
驚く彼の手を握って、わたしの口に彼の指を近付けた。
「――え」
「七瀬がわたしの唇をなぞる。それでいい……」
「ん? 雨の日にお前がやってたアレのことか。あぁ~、そうか。分かった」
「うん。それで……」
直接キスをするとかそれはまだ無理。だけど、せめて彼の優しさと温もりと気持ちを感じてみたくて、キスの代わりにしてもらうことにした。
「な、なんか、かえってやばい事してる気がするな……」
七瀬の優しい指がわたしの唇をなぞってる。
「別に手を握るとかでも良かった。けど、ここでは打ち消せないから」
「……保健室でのこと、ごめんな、綾希」
謝られながらも、キスよりも七瀬を感じられた気がした。
「その、俺はもう油断とかしないって誓う。だから、綾希はそんな心配とかするな」
「うん」
「そ、そろそろ戻るか?」
「嫌です」
何だか物足りないような、そんな気になって少しだけわがまま。
「いやっ、今はまだ体育祭だし。校内にいたら流石にまずいだろ。……や、女子たちが騒いでたけどそれが関係してるのか」
勘の鋭い七瀬に向けて軽く頷いた。
「それなら、外に出ても俺がお前のそばにいる。だから外に戻るけどいいよな?」
「ん、よろしく」
「あぁ」
キスをしたわけでもないのに、七瀬は顔を赤くしながらわたしより先に保健室を出た。
「もう一人で歩けるだろ?」
「努力する」
「是非してくれ。そうじゃないと、真面目な話、本気で俺自身が制御できなくなる」
「ん……?」
七瀬も何かを我慢していた?
彼と付き合ってまだまだほんの数十日くらい。とりあえず、七瀬の優しさは凄く理解出来た。
そして体育祭が終わったら、次はまた勉強とかでお世話になる。
「輔は優しい」
「……まぁな。でも、綾希だから」
「ありがと」
「ほら、行くぞ」
そう言うと、七瀬はわたしの唇に触れていない手を差し出した。
彼の気持ちに、そしてその手に触れるわたしは彼氏と一緒に廊下を歩き出す。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日7時•19時に更新予定です。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
無彩色なキミに恋をして。
氷萌
恋愛
『お嬢様
私に何なりと御用命ください』
紺色のスーツを身に纏い
眉目秀麗で優しい笑顔を持ち合わせる彼は
日本有するハイジュエリーブランド
“Ripple crown”の代表取締役社長兼CEOであり
わたしの父の秘書・執事でもある。
真白 燈冴(28歳)
Togo Masiro
実は彼
仕事じゃ誰にでも優しく
澄んだ白い心を持つ王子のようなのに…
『何をご冗談を。
笑わせないでください。
俺が想っているのは緋奈星さま、貴女ただ1人。
なんなら、お望みとあれば
この気持ちをその体に刻んでも?』
漣 緋奈星(21歳)
Hinase Sazanami
わたしに向ける黒い笑顔は
なぜか“男”だ。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
堅物上司の不埒な激愛
結城由真《ガジュマル》
恋愛
望月かなめは、皆からオカンと呼ばれ慕われている人当たりが良い会社員。
恋愛は奥手で興味もなかったが、同じ部署の上司、鎌田課長のさり気ない優しさに一目ぼれ。
次第に鎌田課長に熱中するようになったかなめは、自分でも知らぬうちに小悪魔女子へと変貌していく。
しかし鎌田課長は堅物で、アプローチに全く動じなくて……
【完結】君にどうしようもない位に執着している僕です
まゆら
恋愛
淡い恋のお話。初恋だったり、片想いだったり‥ほんのり甘くて儚い想い。
大好きな君を溺愛したい!
どうしようもない位に執着してる‥
異世界転生した君を探してまた恋をする‥
君と僕、時々貴方と私。
1話完結になっております。
君と僕は常に違う君と僕です。
時々、続編っぽいのもあります。
僕はちょっと気弱で優しい男子多め。
Twitterの140字から生まれた恋物語。
長い文章を読みたくない君も読んでくれたらいいと思うと短くなってく!
毎日、君が大好きって伝えたい!
君に出逢えて変わった僕だから。
僕の世界は君から始まる
僕の世界は君で終わる
愛してやまないこの想いを
さとう涼
恋愛
ある日、恋人でない男性から結婚を申し込まれてしまった。
「覚悟して。断られても何度でもプロポーズするよ」
その日から、わたしの毎日は甘くとろけていく。
ライティングデザイン会社勤務の平凡なOLと建設会社勤務のやり手の設計課長のあまあまなストーリーです。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる