4 / 156
零頁:追放の書記
4.書記、勇者戦を開幕する
しおりを挟む「エンジさま! リウは日課の狩りをするので、お先に戻るにぁ」
「うん、気を付けてね!」
「はいにぁ~!」
眠っていたリウはスッキリしたのか、勢いよく岩窟の中へと戻って行く。
俺は眠り草以外の特性を知りたくなったので、他の花に触れまくってみることにした。どこまで広がっているか分からない花畑。遠くには行かず、なるべく岩窟に近い花だけに絞ってみた。
眠り草のすぐ近くに痺れ草があり、触れるとすぐに痺れた。触れただけなのに全身に回るのが早い。
これは猛毒草だろうか……。
(まずい……意識が朦朧として来た)
すぐ全身に麻痺が回り目の前が真っ暗になった。
しかし意識ははっきりしていて、【耐性S】の他に【編集】という文字が浮かんで来た。
(……何だこれ?)
迷っている余裕は無い。少しでも気を抜くとそのまま闇に沈みそうだ。
迷わず頭の中で編集を選ぶ。
すると途端に全身を駆け巡っていた麻痺はすぐに消え失せた。
手の平から何かの力を出せそうな感覚になった。魔法の類に変わった感じだ。
眠りの能力と麻痺能力。これらを編集出来るようになったのは心強い。
「エ、エンジさま~~!! いい所に! た、大変にぁ~!」
戻りかけにリウの方から向かって来た。
熱烈に迎えられたのかと思っていたが、慌てぶりはただ事じゃない。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「ひ、昼間なのに襲って来たにぁ~~!!」
「襲って来た? 例の不明な敵が?」
まさかログナの学院に討伐依頼でもあったのだろうか。
(それとも、ラフナンがここに来たか……?)
「はいにぁ! 食べられそうな山菜や木の実を摘んでいたら、ピカピカなのを着ていた人間が向かって来たにぅ」
「ピカピカ?」
「と、とにかく人間が数人来ているにぁ!!」
朝方にいつも襲って来ていたのは、ここを訪れようとしていたログナの人間なのでは。
「石も木の矢も飛んで来ていないんだね?」
「にぅ! でもでも、早く何とかしないと~」
リウの姿を見られた以上、ここがバレるのは時間の問題。
だが入って来られるわけにはいかない。ここは先手を打つことにする。
「いいかい? 俺が外の人間を追い返して来るから、リウは奥で隠れてて」
「はいにぁ!」
「あ、その前に……」
覚えたてではあるが、リウの頭を撫でながら試す。
「にぅ? ふぁぁ……むむぅ~何だか眠く……」
上手くいったようで、撫でたらすぐに眠気を感じたようだ。
寝惚けるような動きを見せている。
「おっと、危ない危ない。お、奥で休んでてね」
「ふみぅ」
魔法に変わっているなら離れた所にいる相手に放てないものだろうか。
そんなことを思っていたら、外から甲高い声が響いた。
「我が名は勇者ラフナン! 拠点を不法に占拠している賊!! 隠れていないで、今すぐそこから出て行くんだ!! こちらとしても手荒な真似はしたくない」
自ら勇者と名乗る辺りよほど正直な性格をしている。賊と決めつけているのもおかしい。たとえギルドの依頼で来たとしても、あまりに来るのが早すぎる。
ここは大人しく引き返してもらおう。
「何もしないと約束して欲しい! それなら今すぐ外に出る!!」
「いいだろう! 何者かは分からないが、キミには何もしないと誓おう!」
さすがに勇者と名乗る以上卑怯な真似はしないだろう。そう信じて姿を見せることにした。
岩窟から外に出ると、勇者と俺を騙した仲間たちの姿があった。
「おい、まさか追い出された書記か? ラフナンさん、あいつですよ!」
「勝手に拠点に住むなんて、国への反逆なんじゃ?」
「……なるほど、冒険者でもないエンジくんか。そうだろうと思っていたけど、一丁前にここで生活を始めていたとはね」
放置していたはずの拠点に来るなんて、勇者は暇なのだろうか。
「何しにここへ?」
「以前からここに見回りに来ていた者がいてね。どうやら岩窟に得体の知れない獣が棲みついていると。危ないから近づけない……そう言われたら依頼を受けるしかないだろう?」
リウは確かに獣で間違いない。
しかし見回りで石と木の矢を投げるのはどうなんだ。
怖くて近づけないから威嚇していた、の間違いじゃないのか。
「そんなことの為に仲間を引き連れて来たなんて、大げさすぎなのでは?」
「だから見てのとおり、回復士は連れて来なかった。書記のキミと獣がもう一匹程度なら、警戒する必要も無かったね」
回復士の女の子が一緒じゃないのはそういうことか。
「普通の獣じゃなく、可愛い女の子ですよ」
「あぁ、それは失礼したね。そういうことだから、今すぐそこから出て行ってもらおうか!」
相変わらず回りくどく、言い方だけは無駄に丁寧な勇者だ。
「むにぁ? あれ、エンジさま?」
「――ま、まだ出て来ちゃ駄目だよ、リウ」
「にぁにぁ!? ピカピカな敵!」
なでなで眠り魔法で眠らせていたリウが、予定より早く目を覚ましてしまった。
すぐに落ち着かせないと。
「に、逃げるにぁ~~!!」
「落ち着いて、リウ! そっちに逃げたら駄目だよ!」
「はみぁっ!?」
リウは無駄につややかな光沢の鎧に驚いてパニックになっていた。
しかも間近に迫っていた複数の人間に驚いてしまったのか、慌てて外に向かってしまう。
「おぉっと、逃がすかよ!」
「にぁあ……は~な~せ~!!」
「コイツ、バタバタしてて面倒すぎる。ラフナンさん、どうします?」
「そのネコ族が棲みついていたとすれば、追い出さないといけないな。しっかり尻尾を掴んで逃がさないでくれ」
(なんてこった、あの子が捕まってしまうなんて)
「放せ~~!! エンジさま~助けてにぁぁ~~!」
「書記に助けを求めたって無駄だ!」
手荒な真似はしないというのは口だけだった。
「その子に酷いことをしないでくれないか」
「もちろんしないさ。ただ、逃げられても困るんでね。捕まえてさせてもらった」
初めから捕まえる気で来たくせによく言う。
「今すぐ放して、俺の所に――」
「それは出来ないな。書記のキミはともかく、ネコ族が噛みついて仲間が傷つけられるかもしれない」
「何もしないって約束したはず!!」
恐れていたことが起きてしまった。
勇者のくせにへりくつを言うとは、思った以上に面倒な奴かも。
「……キミには何もしないが、獣は何をするか分からない。これはあくまでも自衛によるものなんだ。聞き分けてくれないか?」
俺と勇者が立っている位置、リウと勇者の仲間がいる所は数メートル以上離れている。
勇者の仲間は魔法耐性が高くない戦士とハンター。
こうなれば頭の中でイメージして、魔法を放つしかない。
「さて、エンジくん。大人しく獣と出て行くなら――」
(麻痺を魔法に編集、離れた場所に放つには名前を付けて対象に向ける)
頭の中で思い悩んでいると、イメージと共に方法が浮かんで来た。
「対象は人間二人に絞り、獣には干渉しないものとする……」
「ん? キミは一体何を言っている?」
勇者からすれば独り言のように聞こえるだろう。
しかし気付かれてない今なら簡単だ。
「敵なす者々、放つはパラリシス!!」
リウに向けている敵意の者たちに向けて手の平をかざし、麻痺の魔法を放った。
「なっ!? 何をしたんだ? 書記エンジ!!」
「あの子を解放してもらいますよ」
手の平には僅かながら静電気のような感じが残った。
数メートル離れた場所に、魔法を放ったことの反動かもしれない。
「うぁっ……!? う、動けな……」
「ラフナンっ……!」
ラフナンの言うことを聞いていた男たちに効果が発動。
その影響か、リウを捕まえていた男の手が痺れで震えている。
「みぅっ!? う、動ける~! エンジさま~~!!」
(良かった、リウには影響が無い)
「麻痺? まさか、魔法なのか?」
「早く仲間の元へ行った方がいいと思いますが、どうします?」
「……くっ!」
捕まっていたリウはすぐにそこから逃げ出し、そのまま岩窟の中に身を潜めてくれた。
「く、くそっ!! いいか、下手な真似はするんじゃないぞ? エンジはそこで待っているんだ!」
俺では無く仲間の元に戻り際でも、どうすればいいのか迷っているようだ。
「……逃げも隠れもしないので、早く仲間を介抱した方がいいと思いますよ」
麻痺の効果は絶大だ。
どれくらい続くか分からないが、声も出せない程苦しそうに見える。
「う、うるさいっ! こんな時にあいつがいないなんて、役に立たない……あぁっ、くそ!!」
37
あなたにおすすめの小説
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる