追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥風 かずら

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肆頁:相互成長の刻

88.魔所への審判者 

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 リウがまさかの成長、それも少女から少し大人びた姿になるなんて。いつも文句を言うレシスたちも急な変化に戸惑い続けているのか、口出しをしてこない。

「にぁ~」
「うん? どうかした?」
「エンジさまに近づけている気がするにぁ!」
「近付いて?」
「むふふふ……リウに足りなかったのは、色気だったのにぁ。これまで以上にエンジさまのお傍を離れなくて済むにぅ!」

 嬉しそうに尻尾をフリフリ、ゴロゴロと喉を鳴らし、ネコ耳を横に寝かせながら俺に甘えまくっている。

 突然のことに戸惑いながらも前に進みまくると、またしても堅そうな扉があった。

「コ、コホン! そろそろアルジさまから離れて下さるかしら?」
「そ、そうだぞー! ネコだけずるいー! ヌシさまは平等だぞー!」

 あまりにリウがべったりしていることに悔しさが募ったのか、ルールイとレッテが声を張り上げる。

「にぁう!」
「んん? リウ、どうしたの?」
「扉の前に何かがいるにぅ!」
「何も見えないけど、リウには見えるのかい?」
「にぅ」

 これもリウの特殊スキルによるものなのだろうか。俺やルールイたちは同時に首を傾げた。
 レシスも首を傾げているが、不思議な彼女はリウと同様に何かを感じ取っているようにも見える。
 
「エンジさん、わたしにも見えますよ~! でもでも、人なのか何なのかは分からないですよ~?」
「え、そうなの?」
「目をこすればハッキリ見えるかもです! よぉし、よぉおし……!!」

 何かは分かっていないようで、レシスはゴシゴシと何度も目をこすっている。相変わらず行動が読めないが、魔力感知の無いリウにだけ見えているのは一体どういうことなのか。

「エンジさま、リウが近付いてみるかにぁ?」
「危なくない?」
「攻撃性は感じられないにぅ。リウ、話して来るにぁ」
「それなら俺も一緒に行くよ。レシスとルールイ、レッテはそこで待っててくれないか?」
「えええ~? わたしも微かに見えるかもなんですよ~?」
「ヌシさま、大丈夫ですー?」
「アルジさま、お気をつけてくださいませ」
「危険が無いとはいえ、現状はリウ頼みだからね。俺が付いて行くから、待ってて欲しい」

 リウとスキル、ステータスの共有を果たしているのは俺だけだ。
 
 他の彼女たちとは明らかに異なるだろうし、まずはリウのスキルに寄り添いながら見えない何かに接触して見るしか無い。


 リウだけが見えるとされる何かに近づくと、硬く閉ざされた門の前に石像のようなものがあった。
 石像は古くからここに置かれているような佇まいをしていて、見た目は老人のようにも見える。

 レシスたちのいる少し離れた所からは何も見えなかったのに、一体どういう仕掛けがあるのか。

「危険な感じじゃないって言ったけど、これは石像……?」
「にぅ。声をかければ、エンジさまの声が届くと思いますにぁん!」
「え? 俺の声が? リウじゃなくて?」
「主人なる者の心を聞かせよ……って問いかけて来るにぁ」
「問いかけてって、そういうことなら、えーと……このまま何かを言えばいい?」
「あい」

 リウだけが石像もしくは、本来の姿である者からの声が聞こえている。これも彼女の成長によるものなのか、それとも……。

『お、俺は魔法士エンジ・フェンダー! ラーウス魔所奥地へ進みたく、魔封の門を開いた。この声が届くようならば、聞き入れたまえ!!』
 
 どう言えばいいのか、この手の合言葉やまじないは不得意なだけに、声が相手に届くかも不透明だ。

「ふんふんふん……その心に嘘偽り無しとジャッジした。しかし声無き者には無用の~にぁ?」
「んん? リウ、何て答えが?」
「ここを通すことを許すは、純粋な者とその者の傍を離れようとしない絆の為である……ですにぁ」
「えーと、つまり?」
「リウはエンジさまと、すっごくすっごく離れたくないにぁ!」
「俺もそうだよ」

 何だ、急に甘えん坊さんになってるな。

「にぅぅ! この門を開くにはエンジさまと深い交わりを~」
「深い交わり……えぇぇっ!? そ、それはつまり?」
「く、くくく、口づけをして欲しいのにぁ」

 話の流れ的に何となくそんな予感がした。リウと口づけ――今の時点でレシスたちから見える距離ではないとはいえ、この子に抱く感情にはそういうことは含んでいなかった。それだけに、突然の展開すぎる。

「リウ、エンジさまと深めたいにぁ」
「えーとこれは、あの……ふ、二人だけのヒミツ……ヒミツにしよう」
「ふんふん? 見せたくないのかにぁ?」
「そ、そうなんだよ!」
「よく分からないにぅ。だけど、エンジさまといつも一緒がいいにぁ」
「じゃあ彼女たちが近付いて来る前に――」
「――にぁぅ」

 何かイケないことをしている気がするが、リウとの口づけは、ルールイがいつも仕掛けて来るようなものではないということはハッキリと分かる。

「ふにぁ~……」

 リウは力が抜けたようになったが、もちろん口づけにそんなデバフのような効果は無い。
 
 ほどなくして、石像の姿はすでに消え、閉じていた門がいつの間にか開いていた。
 リウとの絆でも試されたのだろうか。

「エンジさーん! どうなったんですかー? ってあれれれ!?」
「ヌシさま、何かの儀式でも……わわ!?」
「アルジさま……ネコへ何かの躾でもされましたの? それでしたら、わたくしにもして頂けると……」

 間一髪、レシスたちはしびれを切らして俺とリウの所に近づいて来た。ルールイは相変わらずだが、レシスとレッテは何かに驚いて戸惑いを隠せない。

「な、何でもないよ? そうだよね、リ……う!? あれっ!?」
「にぁ?」
「ま、まさか、エンジさんは――」
「何を言うつもりか分からないけど、俺は何もしてないからね?」
「リウちゃんを大人な女性から、女の子に戻す魔法を会得したんですかっ!?」
「……何でそうなるんだよ。そんなこと出来ないって!」
「でもでも、でもですよ? こんな短時間でリウちゃんが小さく戻ってるなんて、妖術か何かで……それなら、私をムフフな女性にしてくださってもいいんですよ?」

 リウとの口づけによって閉ざされていた門は開かれた。
 しかし同時に妖艶な女性になったリウの姿は、以前の女の子に戻ってしまっている。

 魔所という場所である以上、何かが起きても驚かないようにしていたが……。リウの変化は俺の成長とは結局無関係だったのだろうか。

 それとも大人リウだからこそ石像の老人と心の会話が出来たのだとすれば、リウの潜在能力には俺の知らない能力が隠れまくっていることになる。

「にぁ~……夢でも見ていたのかにぁ。むふふ……でもでも、ヒミツにぁん!」

 どうやら俺としたことの記憶は消えていないようだ。
 そうだとすると姿こそ変化していたが、リウの能力だけが跳ね上がったことに。

「むぅ~むむむ……何だか分からないですけど、悔しさがこみ上げてくるのは気のせいですか!?」
「それはレシスの気のせいだと思いますけれど?」
「とにかく待たせてごめん。門の先も何が出て来るか分からないけど、魔所の奥まで進んで何かを得よう!」
「かしこまりましたわ、アルジさま」
「はいでーす!」
「むぅぅ~」
「エンジさま、二人だけ……ですにぁん」
「あ、うん」

 心の絆と純粋なネコ。
 リウと一緒に進むことが俺の運命ということか。
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