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第一章 塩対応な二人

第14話 上と下と左か右か 前編

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「もう少し右だ、下道! 手を右に伸ばしてみろ」
「ええ? ここからじゃ分かんないっす」

 昨日見つけた謎の手紙のことはひとまず気にしないでおくとして、今日は男子棟の方で備品交換をしている。

 霞ノ宮の女子たちも一応生徒会メンバーに加わったが、こっちの教員はまだ正式に認めていないらしい。少なくとも統合が成立するまでは、男子棟でのことは男子だけでやれという意味だと思われる。

「下道じゃらちが明かないな。よし、上田! 俺の上に乗れ」
「分かった。やる」
「っと……上田。左だぞ? 古くなってるのが分かるだろ?」
「これ? いや、違う……?」

 上田は普段は会計オンリー。備品交換をやる機会はほぼ無いに等しい。一方の下道も本来は書記ではあるが、一緒に女子棟に行っている内に簡単な交換くらいは出来るようになった。

「やはり厳しいのか、上田……」
「すまない。その代わり、計算する……」
「――となると、純か」
 
 今日はこの場に純だけがいなく、下道と上田に電球交換を頼んでいた。しかし、肩車をされた高さが想定外だったのか全然仕事がはかどっていない。

 純といえば例の手紙の犯人という疑いがあるが、本人がこの場にいても聞くに聞けない案件だ。俺はさすがにの趣味が無いだけに、もし本物だったら何て声をかければいいのか分からなくなる。

「副会長遅いっすねー」
「あいつ、今、女子棟」
「え? そうなのか? 何も聞いて無いぞ」

 純が一人だけで女子棟に行っているとは驚きだ。

 まさか交流会の時に院瀬見に言われていたことが関係してるとかじゃないよな?

「しょ、翔輝会長! 副会長がハーレム状態っす!!」
「……ん? ここは三階の廊下だぞ? 用事があったとしてもわざわざ女子が来るか?」
「向こうから女子が歩いてくるのは間違いないっすよ!」

 下道の女子センサーはかなり優れていて、遠目からでもすぐに反応する。女子を前にすると会話が出来なくなるのが弱点ではあるが。

「翔輝会長。おれ、ハーレム無理。部屋戻る。あと、頼む……」
「お、おい、上田!」
「上田くんは仕方ないっすねー。会長! オレは留まって副会長にあやかるっすよ」

 上田は女子に免疫が無いから無理もないか。それにしても純だ。女子棟に行っていると思えば、まさか複数の女子を引き連れて来るとは。

 その中に院瀬見の姿は無いものの、見知った推し女の姿が確認出来る。

「翔輝会長。ごめん、今戻りました!」
「……お疲れ。で、周りの女子たちは何だ?」
「えっと、彼女たちは今度のサプライズで協力してくれることになって、翔輝会長にも顔を覚えてもらおうかなって連れて来たんだけど……」
「あぁー……」

 下道の言葉に騙されるところだったな。そんなことだろうと思ってた。とりあえず名前はともかく、顔だけでも覚えておくか。

 女子たちに軽く会釈しながら顔を眺めていると、紛れていた推し女の二見ふたみが俺の前に出る。

「すみません、そこの……。院瀬見さんから言づてがあるんですけど?」
「生徒会長な。俺が何がしたか? 二見」
「別にしてないですけど。じゃなくて、何で男子なのかなって思ってるだけです!」

 二見といえば、日本庭園で俺をいぶかし気な目で大いなる誤解をした推し女だ。院瀬見をかなり慕っているわけだが、俺を呼んでいる院瀬見には文句を言えないから俺に矛先を向けているんだろうな。

「……北門副会長。女子棟に呼ばれてるらしいから、俺は抜けるけどいいか?」
「いいんじゃないかな。翔輝は優秀だから女子たちの顔を覚えただろうし」

 それは褒め過ぎだ。

「南翔輝に言っておきますけど、ウチは諦めませんから!」
「よく分からないけど諦めなくていいんじゃないのか? 知らんけど」
「と、とにかく、院瀬見さんが待ってるんですから、早く行って!」

 きっと院瀬見の熱狂的な推し女なんだろうな。選抜で落ちたらしいし、神のような存在と思っている言い方だった。

 俺は副会長と下道を残し、女子棟に向かうことに。

 女子棟に行くには面倒でも一階の連絡通路に行く必要がある。男子棟の学食を一度は通る必要があるだけに、途中で担任に見つかるとかなり面倒な事になりかねない。

 統合後は女子棟のカフェに統一して欲しいところだな。

 女子棟に入り廊下を右に左に迷いながら歩いていると、何やら見知らぬ女子たちからの視線が俺にきているような感じを受ける。

 まさかあの二見のせいじゃないだろうな?

「ほら、あの人……」
「嘘、アレが? フツーすぎじゃない?」

 聞こえるように言ってるんだろうが、失礼過ぎるぞ。だが生徒会長だしここは冷静にならねば。

「すみません、院瀬見さんの居場所を知りませんか?」

 院瀬見が俺を呼んでいるとか言っていたが、どこなのか教えてくれなかった。ここはモブ女子たちに聞くしかない。

「あの、古根の生徒会長さんですね?」
「そうです」
「兄がいつもお世話になっています……。院瀬見さんのところには私が案内します。 どうぞ……」

 兄? 

 誰のことだそれは。しかし雰囲気だけで判断すればそれはおそらく。

 正体不明の妹の後ろをついて行くと、またもや男子棟では見慣れない部屋の前に着いた。

「……カウンセリングルーム?」
「いいえ、ここは保健室も兼ねているんです……院瀬見さんはこの中にいます。じゃあ、私はこれで失礼――」
「あ、君の兄って……上田?」
「…………失礼します」

 正解だったか。何となく上田に似てたな。妹がいるのに女子が苦手なのか。

 それはともかく、俺の目の前には力を込めないと開きそうに無い重そうなドアが見えている。統合後は自由に入ることになるんだろうが、女子棟の保健室兼カウンセリングルームはどういう感じになっているのか少しだけ興味がある。

 そもそも何でここに院瀬見がいて俺を呼んでいるのか。

「くっ、開かない……何でだ?」

 女子が利用する部屋のはずなのに全くもってドアが開かない。これも院瀬見の仕掛けた罠か?

 そうかと思えば、突然音もさせないままでドアが勢いよく開かれた。

「そこで何を遊んでいるんですか? 南」
「ひ、引き戸か。そうすると病院タイプのドアってわけか……」
「時間が無いのでさっさと部屋の中に入ってもらって、やってもらいたいことがあるんですけど?」
「何を――やれと?」
「たくさん準備してますので、とにかくとっとと中に入ってください!!」

 場所が場所だけに良からぬ想像をしてしまいがちだが、多分くだらないことだな。
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