氷の魔王子に囚われた女騎士は快楽に縛られる

ケロリビ堂

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1.囚われた薔薇

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 薄暗い小部屋の中で、女騎士リアーナは下着だけを身に着けた姿で拘束され、立たされていた。ここは彼女が戦っていた敵国グラナヴェルの玉座の間の側にある、王に下賜するためのものを置いておく一時的な倉庫である。それは彼女が一人の人間としてではなく、ただの戦利品として扱われていることを意味していた。
 白い鎧を身に着け戦場を駆けたリアーナは女性でありながら祖国アステリアでは名高い騎士であり、一人で何人もの敵を斬り伏せる剛腕で知られていたが、今はただ何も言わない兵士に両手を後ろ手に拘束され、空を睨んでいるだけだった。しかしその生命を感じさせるエメラルド色の瞳は意思に溢れ、未だ彼女の剣は折れていないことを示している。
 そんな彼女が見据える先には扉が一つ。誰一人口を開かない静寂の中、冷たい靴音だけがカツカツと響いてきた。
 ぎい、ときしむ音を立てて、その扉が静かに開く。入ってきた者の姿は部屋の暗さですぐには見えなかったが、蠟燭の明かりに照らされて次第にあきらかになった。
 黒い髪に冬の空を映した淡い薄氷のような青い瞳。静かに燃える焔がその顔を禍々しく照らすと、グラナヴェルの王族の特徴である少し尖った耳が露になる。その姿は彼女が戦場で何度も剣を交えた男。

(王子カイレオン……。戦場で仲間たちの命を幾度も奪った残虐非道な氷の魔王子……!)

 憎い敵の姿を見て体に力が入ったのに気が付いた兵士がリアーナの手首をつかむ力を強める。その締め付ける痛さが彼女にさらなる緊張を強いた。

「女騎士リアーナよ。我が父、国王ドゥミトリスは此度の戦の勝利を導いた褒賞として、アステリアの女を二人、俺に下げ渡した。一人はお前、そしてもう一人は……アステリアの姫、アミシアだ」
「……く」

 リアーナの焔のような赤金の巻き毛をひと房、黒革の指先ですくい上げ弄びながらカイレオンの顔が近づいてくる。その顔はぞっとするほどの美貌だが、彼の口から出た名前を聞いたリアーナにとってそんなものに価値はない。

「姫様は無事なのだろうな、魔王子よ」
「魔王子? ああ俺のことか。アステリアではそんな風に呼ばれていたのだったな。アミシア姫は今は牢にいるだろう。敗戦国の捕虜とはいえお前と姫は今は俺のものだ。俺が命じなければ誰にも害されることはない」

 その言葉を聞いて、リアーナは一瞬だけ安心した。しかしすぐにカイレオンを睨みなおす。グラナヴェルに負けて捕虜になった敗戦国の姫君たちが何人も歴史の闇に消えているというのは有名な話だったからだ。ある姫は下級兵士に下げ渡され、ある姫は荒れ地を引き回されて沼に沈められたともっぱらの噂だった。アミシア姫だけは同じ目に遭わせたくはない。そう誓っていたのに、今こうやってその元凶である男の前で裸同然の姿で引っ立てられている屈辱に、リアーナは歯を食いしばる。

「姫様と私をどうするつもりだ」
「……さあ? どうされたい? 女騎士よ。お前はどうしたら今のこの状態から敬愛する姫を守れると思う?」

 魔王子カイレオンは薄く切れそうな笑みを浮かべて、リアーナの問いに被せるような問いを口にした。その目の青は色が薄すぎて瞳孔だけが黒く目立っている。それが自分の引き締まり、かつ豊満な肉体を値踏みするように見ていることに気が付いたリアーナは彼が自分に言わせたい言葉を察し、その下衆さに吐き気を感じながらもそれを口にする。

「……私には何をしてもいい。その代わり姫には手を出すな……っ」
「ほう? 何をしてもいい? くくく、面白い。その言葉、撤回は認めぬぞ……」
「んんッ……!」

 望んでいた言葉を引き出せたカイレオンは長身の上背を折り曲げ、髪を弄んでいた手をリアーナの顎に移すとそれを上向かせ、彼女のばら色の唇を奪った。

「んッ……ん……ふうッ……」

 男の味を知らなかった乙女の唇が無遠慮に征服されていくことに屈辱を感じながらも、リアーナの心はまだ折れない。ガリッ、と音がして、カイレオンが驚き飛びのいた。その唇からは一筋の真っ赤な血がつうと垂れている。

「……なるほどな。心までは好きにさせないとでも言いたいのか? お前の態度次第で姫の扱いが変わるのだぞ。一度は許すが、今後俺を傷つけたら姫の安全は保障しない」
「……」
「おい。準備を整えさせて俺の部屋にその女を連れて来い」

 リアーナの歯で破られた唇から流れる血をぺろりと舐めとると、カイレオンは兵士に次の指示を出すとそのまま踵を返した。ドアノブに手をかけながらもう一度リアーナのほうに振り向く。

「ああ、念のため。俺への危害も許さないが、お前自身への危害も許さん。間違っても舌を噛んで死のうなど考えるのではないぞ?」
「……誰が!」
「くくく」

 冷たい笑いを漏らしながら、カイレオンは来た時と同じように冷たい靴音を響かせて遠ざかっていった。

(ああ姫様。リアーナはあなたを守るためならどんな辱めも……)

 リアーナは鉄錆の味を噛みしめながら、アミシア姫の無事を祈る。かつての姫の笑顔を思い出すとこれからの屈辱の日々も耐えられると信じながら……。
 リアーナが今いるグラナヴェル王国は冷血王と言われる苛烈な王が治める国で、あちこちに侵略戦争を仕掛けては土地を勝ち取っていた。そんな中リアーナの属していたアステリア王国は何度かグラナヴェル王国と和平交渉を試みていた。王族同士の式典や晩餐会が行われたが、グラナヴェル王国が提示してくる和平案があまりにもアステリア王国に不利なものばかりであったため和平はならず、アステリア王の努力むなしく戦になってしまった。
 戦は長きにわたり、その中でリアーナとカイレオンは何度も刃を交えた。どちらかが死ぬまでその決着はつかないだろうとリアーナは思っていたが、最後の戦いの日、姫を守りながら戦っていたリアーナは姫ともども生け捕りになり、捕虜になってしまったのだった。

(王も王妃も殺されてしまった……。姫だけがアステリア王家の生き残り。私の戦いはまだ終わっていない。姫だけは絶対に守り抜く……)

 姫への忠誠と彼女を守る義務を心に刻むことで足を踏みしめていられるリアーナだったが、非道であると噂されるカイレオンの虜囚になったわが身がどんな凌辱をうけるのかという恐れも胸の奥に存在していた。先ほどの無理やりの口づけは、リアーナにとって初めてのものだった。乙女である彼女が戦場で純潔を奪われる危惧は最初からあった。そうなった場合、その身を汚される前に舌を噛んで死ぬか、汚されてなお牙をむくか選ばなければいけないと騎士見習いのころから指導の騎士に言い含められていた。しかし、先ほど自害を封じられてしまった彼女は、残りの選択肢を選ばざるを得ない。

(元より、この身が汚れたとて私は膝を折ったりしない……!!)

 しばらくして、小部屋に数人の侍女が現れ、リアーナにガウンを着せると別室についてくるように促した。このまま下着姿で廊下を歩かされ嘲笑を浴びせられるのだと思っていたリアーナは、思わずほっと息をついてしまったのを侍女たちに聞かれるのが恥ずかしくて咳ばらいをした。
 そのままどこに連れていかれるのかと思ったリアーナだったが、侍女たちが彼女を案内したのは貴族の奥方が使うような豪華なパウダールームだった。予想外のことに目を白黒させているリアーナによってたかって化粧を施すと、侍女たちはクローゼットの奥から一着のドレスを持ってやってくる。

「カイレオン殿下からこちらを着せるように言いつかっております」
「な、なんという……これを、私に着ろと!」

 それはカラスの濡れ羽のように輝く漆黒の豊かなドレスだった。
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