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7.魔女と奴隷と甘い味
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「大丈夫ですよオーウェン様。ちゃんと夫婦だって思ってもらえましたって」
帰る道すがら、露天商に貰った棒つき飴をはむはむ咥えながら、オーウェンに話しかけるザジ。オーウェンはと言うと、いつもは背筋を伸ばして颯爽と箒の上に立っているのに、今は大きな体を折り曲げて三角座りで一人反省会をしている。
「弟子ってことにしておいたほうがよかったかもしれない……。立ってるだけで飴ちゃん貰えるような子供に手を出す変態野郎と思われてるかもしれない……」
独り立ちして数年で弟子を取るのは驕っているようで嫌だったので、夫婦と言うことにしようと思ったのだが、会う人たちの視線が思ったより生温い、あー……ね。という感じなのが気になって、だんだん立っていられなくなってしまったオーウェンだった。
「……アンタ、実際何歳なのさ。聞いてなかったけども」
「え? んー……(に)じゅう……ごさいです」
「子供じゃないか!!」
「冗談です。成人はしてます。ケイト族はみんな小さいしあんまり外見が変わらないんです」
成人していることは隠しておけと奴隷商に言われたが、子供に手を出すことを忌避しているというなら話は別だ。だが、年上だとなると怖気づきそうな男だなとも思ったので濁しておく。
ザジの態度は初日よりかなり砕けてきていて、奴隷の態度としては主人を舐めくさっているのだが、オーウェンはそれには特に気付いていないようだった。は、ボクちゃんが。ザジは心の中でちょっとバカにした。
「オーウェン様」
すいっと滑るように進む箒の上でザジは初日のように向き直り、ずりずりとオーウェンのほうににじり寄った。
「オーウェン様はもしかして、童貞なのですか?」
「は? ばっ……!! 何!? ちが……、いや。違わない……違わない……。ここで見栄を張る意味がない。そうさ。アタシは童貞だ。童貞じゃ悪いのかい」
赤面したまま口をひん曲げて視線を逸らすオーウェンの反応を見て、ザジのくりくりの目がすっと細くなる。
「悪いとかはないです。でももう夫婦だって言って回ってしまったので、あんまりザジに対してそういう感じだと綻びが出ちゃいますよ。夫婦の振りをするというのが命令なら、ある程度はザジはオーウェン様に手を出して欲しいのですが」
「へ? いやそんな……振りだけでいいのに……」
「まず、キスでもしてみましょうよ」
「キスはダメだよ!! キスは好きな人とだけするもんなんだろ!!?」
奴隷買っておいて何言ってんだコイツ……。こんなでかい図体で、よくこの年まで汚れることなくこの感じでこられたこと……。かあさんとやらが相当可愛がってたんだろうな……。めんどくさ……とザジは思い、げんなりした気持ちになった。
(あたしは奴隷になるために調教で好きでもない男のちんぽも肛門も舐めさせられたのに、なんかこういうのめちゃくちゃムカつく……)
恥辱を受けた経験自体は忌まわしいものであるのに、それが完全なる無駄だっとなると悔しい。この感情がなんなのか自分でもわからず、ザジはいつの間にか意地になっていた。
「じゃあもうとりあえずおまんこしましょうよ!!!」
「ひえ! アンタ大声でなんてことをわああっ!!! うわあーっ!!!!」
「わ! きゃーっ!!!!!????」
ガサガサガサッ!!!! バサッ!!! バキバキッ!!!!
いつの間にか二人は森の結界の中に入っており、箒の操作を誤ったオーウェンはザジを乗せたまま小道の曲がり角を曲がり損ね、そのまま勢いよく茂みに突っ込んだ。
「いたたたた……なんだってんだい全く……嫌だねぇ……」
突っ込んだ先は苔が群生している場所で、落下の衝撃を苔が吸収してくれて怪我はしないで済んだようだ。
「あの娘は……?」
衝突のショックでザジについて思い至るのが一瞬遅れ、オーウェンは身を起こす。そして腕の中に小さな暖かい存在が息をしているのに気が付いた。どうやら衝突の瞬間に咄嗟に抱きしめて守っていたようだ。ザジは驚きすぎたのか目を回してしまっていた。
「あ……」
その場に群生している苔が可愛らしい白い花を咲かせていて、花畑のような様相を呈している真ん中で可愛い女の子を抱きしめている。そんな状況を理解するなりオーウェンの心に、奴隷市場でザジを初めて見たときにやってきた『ズガン』の奴がまたやってきたのを感じた。
「……けっ、怪我をしてないかい?」
小さなほっぺたをぺちぺちと叩いて様子を伺う。ザジはうっすらと目を開けると周りをきょろきょろと見回した。大丈夫そうだ。
「まったく、飛んでる間にヘンなこと言うんじゃないよ……大事故になったらどうすんだい」
「飴ちゃんどっかいっちゃった……」
ザジはまだぼんやりしているのか、食べかけの飴のことなどを気にしている。棒が刺さったりしなくてよかったな、とオーウェンは思った。
(それにしても……)
腕の中の娘は本当に胸が苦しくなるほど可愛らしい。そしてどうやら……自分はこの娘に何かしら、してもいいらしい。むしろしてくれ、という会話をさっきまでしていたはずだ。
(していいのか……?)
そんなことあるだろうか。そんな男にだけ都合のいいことがあっていいのだろうか。
「オーウェン様、ザジを守ってくださったのですか?」
ぐるぐると考えに耽っていると、腕の中から鼻にかかった声が話しかけて来た。どうやら意識がはっきりしたらしい。
「怪我がないならいいんだ。帰るよ……っ!!?」
抱きしめていた腕を緩めてザジを解放し、立ち上がろうとしたオーウェンは、急に襟首を掴まれてぐっと下に引っ張られる。そしてそのまま、唇に柔らかな感触が触れるのを感じた。
ちゅ……ちゅく……ちゅる……♡ ちゅっ♡ ちゅっ♡
オーウェンが固まっていると、ザジは彼の唇を割り開いて中まで小さな舌を差し入れ、絡ませてくる。彼女の舌は花で香りを付けた飴の甘い味がした。
「ん……、んう……んむ、ふうっ……」
初めて味わう女の唇の感触。鼻だけで息をし続け、出てしまう声にオーウェンは翻弄される。
ザジはオーウェンの口腔内をたっぷりと蹂躙し、名残惜しく舌を吸いながら唇を離した。蜜の混じった粘液が二人の唇をキラキラと繋いで、そして切れる。
「うふふ。一回やっちゃったらもう百回やっちゃってもおんなじですよオーウェン様。いっぱいキスして慣れていきましょうね。さあ、帰りましょう。なくなったものはありませんか?」
そう言って、小さな手がオーウェンの手を握って立ち上がりを促す。突然の大人のキスに放心していたオーウェンは、のろのろと立ち上がった。箒は反対側の茂みに突き刺さっており、下げたカバンもぶら下がったままになっている。
オーウェンは突き刺さった箒を引き抜き、ザジが乗るのを待つといつものように飛び乗った。長い前髪が表情を隠してしまっていたが、隙間から覗く耳が真っ赤になってしまっているのがザジからは見えた。
「……」
黙ってしまったオーウェンにザジは話しかけることをせず、静かな二人を乗せたまま、魔女の箒は庵への道を飛んだ。
(さっきアタシは何をされた? キス? キスだった? キスって唇を合わせるだけじゃないのか? あんなべろべろ食べるような……ええ?)
男女の性愛の機微に関することでは、どうやら自分よりもザジのほうが詳しいらしい。そっち方面の経験に乏しい自分はただ目を白黒させてやられ放題だ。
オーウェンは、男としてそういう経験を積んでみたいという気持ちと、だからといってありがたくそれに乗ってしまっていいのか? という気持ちの中で右往左往していた。
帰る道すがら、露天商に貰った棒つき飴をはむはむ咥えながら、オーウェンに話しかけるザジ。オーウェンはと言うと、いつもは背筋を伸ばして颯爽と箒の上に立っているのに、今は大きな体を折り曲げて三角座りで一人反省会をしている。
「弟子ってことにしておいたほうがよかったかもしれない……。立ってるだけで飴ちゃん貰えるような子供に手を出す変態野郎と思われてるかもしれない……」
独り立ちして数年で弟子を取るのは驕っているようで嫌だったので、夫婦と言うことにしようと思ったのだが、会う人たちの視線が思ったより生温い、あー……ね。という感じなのが気になって、だんだん立っていられなくなってしまったオーウェンだった。
「……アンタ、実際何歳なのさ。聞いてなかったけども」
「え? んー……(に)じゅう……ごさいです」
「子供じゃないか!!」
「冗談です。成人はしてます。ケイト族はみんな小さいしあんまり外見が変わらないんです」
成人していることは隠しておけと奴隷商に言われたが、子供に手を出すことを忌避しているというなら話は別だ。だが、年上だとなると怖気づきそうな男だなとも思ったので濁しておく。
ザジの態度は初日よりかなり砕けてきていて、奴隷の態度としては主人を舐めくさっているのだが、オーウェンはそれには特に気付いていないようだった。は、ボクちゃんが。ザジは心の中でちょっとバカにした。
「オーウェン様」
すいっと滑るように進む箒の上でザジは初日のように向き直り、ずりずりとオーウェンのほうににじり寄った。
「オーウェン様はもしかして、童貞なのですか?」
「は? ばっ……!! 何!? ちが……、いや。違わない……違わない……。ここで見栄を張る意味がない。そうさ。アタシは童貞だ。童貞じゃ悪いのかい」
赤面したまま口をひん曲げて視線を逸らすオーウェンの反応を見て、ザジのくりくりの目がすっと細くなる。
「悪いとかはないです。でももう夫婦だって言って回ってしまったので、あんまりザジに対してそういう感じだと綻びが出ちゃいますよ。夫婦の振りをするというのが命令なら、ある程度はザジはオーウェン様に手を出して欲しいのですが」
「へ? いやそんな……振りだけでいいのに……」
「まず、キスでもしてみましょうよ」
「キスはダメだよ!! キスは好きな人とだけするもんなんだろ!!?」
奴隷買っておいて何言ってんだコイツ……。こんなでかい図体で、よくこの年まで汚れることなくこの感じでこられたこと……。かあさんとやらが相当可愛がってたんだろうな……。めんどくさ……とザジは思い、げんなりした気持ちになった。
(あたしは奴隷になるために調教で好きでもない男のちんぽも肛門も舐めさせられたのに、なんかこういうのめちゃくちゃムカつく……)
恥辱を受けた経験自体は忌まわしいものであるのに、それが完全なる無駄だっとなると悔しい。この感情がなんなのか自分でもわからず、ザジはいつの間にか意地になっていた。
「じゃあもうとりあえずおまんこしましょうよ!!!」
「ひえ! アンタ大声でなんてことをわああっ!!! うわあーっ!!!!」
「わ! きゃーっ!!!!!????」
ガサガサガサッ!!!! バサッ!!! バキバキッ!!!!
いつの間にか二人は森の結界の中に入っており、箒の操作を誤ったオーウェンはザジを乗せたまま小道の曲がり角を曲がり損ね、そのまま勢いよく茂みに突っ込んだ。
「いたたたた……なんだってんだい全く……嫌だねぇ……」
突っ込んだ先は苔が群生している場所で、落下の衝撃を苔が吸収してくれて怪我はしないで済んだようだ。
「あの娘は……?」
衝突のショックでザジについて思い至るのが一瞬遅れ、オーウェンは身を起こす。そして腕の中に小さな暖かい存在が息をしているのに気が付いた。どうやら衝突の瞬間に咄嗟に抱きしめて守っていたようだ。ザジは驚きすぎたのか目を回してしまっていた。
「あ……」
その場に群生している苔が可愛らしい白い花を咲かせていて、花畑のような様相を呈している真ん中で可愛い女の子を抱きしめている。そんな状況を理解するなりオーウェンの心に、奴隷市場でザジを初めて見たときにやってきた『ズガン』の奴がまたやってきたのを感じた。
「……けっ、怪我をしてないかい?」
小さなほっぺたをぺちぺちと叩いて様子を伺う。ザジはうっすらと目を開けると周りをきょろきょろと見回した。大丈夫そうだ。
「まったく、飛んでる間にヘンなこと言うんじゃないよ……大事故になったらどうすんだい」
「飴ちゃんどっかいっちゃった……」
ザジはまだぼんやりしているのか、食べかけの飴のことなどを気にしている。棒が刺さったりしなくてよかったな、とオーウェンは思った。
(それにしても……)
腕の中の娘は本当に胸が苦しくなるほど可愛らしい。そしてどうやら……自分はこの娘に何かしら、してもいいらしい。むしろしてくれ、という会話をさっきまでしていたはずだ。
(していいのか……?)
そんなことあるだろうか。そんな男にだけ都合のいいことがあっていいのだろうか。
「オーウェン様、ザジを守ってくださったのですか?」
ぐるぐると考えに耽っていると、腕の中から鼻にかかった声が話しかけて来た。どうやら意識がはっきりしたらしい。
「怪我がないならいいんだ。帰るよ……っ!!?」
抱きしめていた腕を緩めてザジを解放し、立ち上がろうとしたオーウェンは、急に襟首を掴まれてぐっと下に引っ張られる。そしてそのまま、唇に柔らかな感触が触れるのを感じた。
ちゅ……ちゅく……ちゅる……♡ ちゅっ♡ ちゅっ♡
オーウェンが固まっていると、ザジは彼の唇を割り開いて中まで小さな舌を差し入れ、絡ませてくる。彼女の舌は花で香りを付けた飴の甘い味がした。
「ん……、んう……んむ、ふうっ……」
初めて味わう女の唇の感触。鼻だけで息をし続け、出てしまう声にオーウェンは翻弄される。
ザジはオーウェンの口腔内をたっぷりと蹂躙し、名残惜しく舌を吸いながら唇を離した。蜜の混じった粘液が二人の唇をキラキラと繋いで、そして切れる。
「うふふ。一回やっちゃったらもう百回やっちゃってもおんなじですよオーウェン様。いっぱいキスして慣れていきましょうね。さあ、帰りましょう。なくなったものはありませんか?」
そう言って、小さな手がオーウェンの手を握って立ち上がりを促す。突然の大人のキスに放心していたオーウェンは、のろのろと立ち上がった。箒は反対側の茂みに突き刺さっており、下げたカバンもぶら下がったままになっている。
オーウェンは突き刺さった箒を引き抜き、ザジが乗るのを待つといつものように飛び乗った。長い前髪が表情を隠してしまっていたが、隙間から覗く耳が真っ赤になってしまっているのがザジからは見えた。
「……」
黙ってしまったオーウェンにザジは話しかけることをせず、静かな二人を乗せたまま、魔女の箒は庵への道を飛んだ。
(さっきアタシは何をされた? キス? キスだった? キスって唇を合わせるだけじゃないのか? あんなべろべろ食べるような……ええ?)
男女の性愛の機微に関することでは、どうやら自分よりもザジのほうが詳しいらしい。そっち方面の経験に乏しい自分はただ目を白黒させてやられ放題だ。
オーウェンは、男としてそういう経験を積んでみたいという気持ちと、だからといってありがたくそれに乗ってしまっていいのか? という気持ちの中で右往左往していた。
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