見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ

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42.前借り

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「金のあるところとは?」
 オルゴンに問われ、アツリュウは得意顔になって、椅子に座った。

「ミヤビハラ家の固有財産を使おう、ロドリゲスがいる家に金目のものがわんさかあった。あれを根こそぎ売って、さらにミヤビハラ家所有の家から土地から利権から全て売れば相当な金になる」
 どうだ!と素晴らしい考えだろうが!と皆を見渡した。

「それはできません」
 ソバ執行官が厳しい口調でアツリュウを見た。

「ミタツルギ代行にはその権限はございません」
 それはアツリュウも初めから分かっている話だった。アツリュウにミヤビハラ家の財産を使う権利は無い。

 今、エイヘッドには二人の領主代行がいる、1人はミヤビハラ家嫡男ロドリゲス、そしてもう1人が領主代行ミタツルギ家アツリュウだ。

 セウヤ殿下に任命されたアツリュウは、領主としての権限をもっている。しかし、ロドリゲスがエイヘッドですることを、止める権限は持たされていない。そして、逆もしかり、ロドリゲスはアツリュウを止める権限をもっていない。

 セウヤ殿下は意地が悪い。二人で競えということだ。

 しかし、金の使い方については問題が起きる。租税を始め領地で生まれた金を、どちらが受け取るのかという問題が。そこでセウヤ殿下がよこしたのが、ソバ執行官だ。

 領地の財務についてはアツリュウが全ての権限をもち、ロドリゲスは手を出せない。

 ロドリゲスが領地の金を動かした場合、ソバ執行官は彼の権限で、それを無効にしたり、金をアツリュウに戻したりできる。

 セウヤ殿下が付けてくれた、財務のうえでアツリュウを守ってくれる人なのだ。

 しかし、彼はアツリュウだけに味方する訳ではない。

 ミヤビハラ家は廃されておらず、今のところ何の罰もうけていない。だからミヤビハラ家の固有財産はバンダイのものである。

 それをアツリュウは自由にできない。ソバ執行官はミヤビハラ家の固有財産をアツリュウから守る。

 エイヘッドの財産について、セウヤ殿下の意向の通りに、アツリュウとロドリゲスの線引きをする事、それがソバ執行官の仕事なのだ。

「それは分かっています」
 笑顔でアツリュウはソバ執行官に答えた。

「でも、私が海賊騒ぎを解決し、領主代行から領主になれば、ミヤビハラ家は廃されることは間違いないと私は思うのですが、ソバ執行官どう思いますか?」

「そうですね、あなたが領主になれば、ミヤビハラ家は廃されるかは分かりませんが、エイヘッドを退去させられることは間違いないでしょうね」

「そうなった時、ミヤビハラ家の財産はどうなると思いますか? 私の物になるのでは?」

「それは難しい質問です。あなたの物になるかもしれないし、シュロム王家の預かりになるかもしれない、私には明確なお返事はできません」

 ソバ執行官は冷静な表情を崩さないが、アツリュウが何を言いたいのか測りかねている様子だ。
 
「私の物でも、セウヤ殿下の物でも、どちらでも同じことだ。私はその金をセウヤ殿下から前借することにする」
 アツリュウは、もう一度「まえがりだ!」と言ってにっこりと笑顔できっぱりといった。

「前借するって、どういう意味だ」
 オルゴンがいつもの調子で、アツリュウに聞いた。

「セウヤ殿下に、俺が領主になったときに生まれる、ミヤビハラ家の財産を没収したときの金を、前借させろと掛け合ってみる。前借だから払うのはセウヤ殿下だ、ミヤビハラ家の金に直接手を付けるのとは違う。だったら問題ないですよね、ソバ執行官」

 ソバ執行官は「セウヤ殿下が出してくださるのなら、問題ないです」と即答した。

「じゃあ、金の問題は解決だ」

「解決って、もしお前が海賊騒ぎを解決できずに、領主になれなかったら借りた金はどうするんだ」
 オルゴンが呆れて聞く。

「別に返せなくてもいいんじゃないか? だって、そもそもここエイヘッドの問題を解決するための金を、ミヤビハラ家が払うんだ、至極真っ当な使い方だろ」

「だが、セウヤ殿下から借りておいて、返せませんでは済まないだろう?」
「その時は決まってるだろ、話が元に戻るだけだ」

 アツリュウは笑って言った。
「エンドバード領で肩代わりすればいい、ミタツルギ家の俺がした失態の尻拭いを、ミタツルギ家がする。そういうこと」

 オルゴンが、そんなに簡単に言うなと、不機嫌な声をだした。
「そうかな、最初に援助してもらうか、最後に借金を肩代わりしてもらうか、先か後かの違いで、金を払ってもらうことは同じだろ」

「セウヤ殿下を納得させる自信はあるのか?」
 スオウ隊長の問いに、アツリュウは「あります」と即答した。

「すぐにセウヤ殿下に書簡を送る。4日で届き、早くて返事が来るまでに8日くらいかな、遅くとも10日のうちには答えてくれるだろう……殿下は断らないと思うよ、バンダイにはもう生き残る道は無いと言っていた。あと、俺が失敗しても殿下は損しない。大丈夫、俺に任せておけ、殿下から必ず前借してみせる」

 はははと笑い声がした。見るとソバが笑っていた。

「面白い方だ、あなたは。そんな自信満々に、前借してみせると宣言する人を初めて見た。それも殿下から前借とは。」
 彼は失礼といって、また冷静な表情にもどった。しかし今まであった冷たさが消えていた。

「それでは、私がミヤビハラ家の固有財産の総資産額を査定しておきましょう。エイヘッド領内、そしてモーリヒルドの都に所有する財産も利権も含めて」

「ありがとうございます。ソバ執行官。是非おねがいします」

「それでだな、オルゴン。俺は金が前借できたら買いたいものがある」

「まだ、金は手に入ると決まったわけではないが、なんだ」

「まず困窮者への食糧は第一として、その次に今、エイヘッド領内でたまっている木材やら石材をだな、領主代行の俺が買い取ってやる。それで、エイヘッド領内でぼろぼろになっている、港やら橋やら道やら補修する。他には木材を安価で領民に提供し、家の建て替えなども促進する。建設に人はいるから仕事も増える。だぶついた木材も売れるから商人たちもひとまずは満足するんじゃないか?」

「そこまでするには金は足りないとは思うが……まあいいんじゃないか……おまえ意外に頭がよくまわるな。ちょっと見直した」

 オルゴンが不本意そうに小さい声で言うので、ふふんと鼻で笑ってまあなと言ってやった。

「人の金だと思えばバンバン使える。明日の商業ギルドとの面談では、そのように言っておく。俺がそのたまっている木材を買ってやると」

「まだ、セウヤ殿下の確約を頂くまえに、話を進めるのは危険ではないのか」
 オルゴンの言葉に、そこにいる他の者も彼の意見に賛同した。セウヤ殿下の返事を待つべきだと。

「いや、違うね。エイヘッドにいる人間は、ずっと領主ミヤビハラ家の元に生きて来た。そりゃ不満はあるだろう、でもだからと言って、ミタツルギ家の俺に明日から乗り換えますなんてことには絶対にならない。余所者よそものの俺がここで生き残るには、エイヘッドで最も力のある人間達、すなわち商業ギルドを味方につけることが絶対条件だ」

 アツリュウはまた立ち上がった。

「エイヘッドは瀕死ひんしの状態だ。俺はそこに手を差し伸べる、でも、何も持っていない状態で手を出すんだ。そしてこう言う、俺を領主にすれば、助けるぞと、だから、俺を領主にするために協力しろと。そうすれば、ミヤビハラ家がため込んだ金を、俺が全部エイヘッドのために使うと約束する。商業ギルドが俺の後ろ盾になれば、セウヤ殿下の了承もさらに得やすくなる」

「どうかなあ、アツリュウ様、ぱっと見ただの頼りない若者ですからね、商業ギルドの方々って年配のおえらい感じの方でしょう。アツリュウ様の熱意が伝わりますかねえ」

 キボネがのんびりした口調でいった、お前に頼りないと言われるのは不本意だが、若くて頼りないのは事実だ。

「大丈夫、とっておきの一言がある。これを言えば商業ギルドは俺の側に付くしかなくなる、ロドリゲスの話はもう聞かなくなる」

「なんですか?」キボネが聞く、皆がそれはなんだと俺の次の言葉を待っている。

「エイドドアドの軍港をぶっ壊す」

「ええ、あの立派な軍港を壊すんですか? もったいないし、できるんですかそんなこと」
 護衛の4人がザワザワ騒いだ。

「できないな、代行の俺には、でも領主になったらできる。気に入らない余所者よそもののミタツルギの息子でも、これを言われたら、商業ギルドの人たちは俺に領主になって欲しいだろうね。まあそういうことだから、明日の面会は心配するな、上手くやっとく」
 アツリュウは勢いよくオルゴンに告げた。

「ずいぶん威勢いせいのいいことだ」
 スオウ隊長が冷ややかに言った。

「領地のことについては私の職務の範疇外はんちゅうがいであるので、申し上げることはなにもない。しかし代行、海賊襲撃事件の解決がなければ、エイヘッドに人が戻らない問題は残ったままだ。あなたが、最優先で取り組むべきことは海賊事件だ。今後の我々の動きについてご指示を頂きたい」

 スオウ隊長の言葉に、アツリュウは、急に勢いを無くした。
「そっちの話はですね……なんとも……」

 深いため息をついて、アツリュウは肩を落とした。
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