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黒服の女
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外山健は、ホテルのベッドに腰を下ろしていた。
黒服の女は彼の正面に立ち、腕を組んで見下ろしている。
「そのメガネ、見せてくれる?」
健は少し戸惑いながら外した。
女はそれを手に取り、左手のバングルでフレームを軽く撫でた。
金属の光が、メガネのレンズに反射して微かに揺らめく。
「よくできた玩具(おもちゃ)ね。」
「AI搭載のメガネです。LUMIという……」
健が答えると、女は無言で頷き、メガネを返した。
再びかけると、LUMIが小さくノイズを発した。
まるで喘ぐように、電子音が震える。
「LUMI、どうした……?」
健は困惑し、女を見上げた。
黒服の女はそのまま彼の隣に腰を下ろした。
白く細い指が、健の頬をゆっくりなぞる。
その指先が冷たい。
「ステルスナノ素材──完全に姿を消せる技術よ。」
女の声は静かで、どこか哀しげでもあった。
「藤井康平の開発した素材は、量子コンピューターとリンクしていて、ほぼ完璧だと言われている。
日本政府はこの技術が公になることを恐れているの。」
(この女……公安か?)
「マティック・ソリューションズの藤井研究室も、いずれ政府の管理下に置かれるでしょう。
でも、それを狙っている連中がいる。テロ組織、国家、企業──あらゆる勢力が、ステルスナノ素材のデータを奪おうとしている。
もはや一企業だけで防げる段階じゃない。」
健は言葉を失っていた。
女は少し間を置き、表情を変えずに言った。
「そして──あなたは疑われているの。」
「……は?」
「私の所属する組織だけじゃない。
テロ組織も、闇企業も、外国のスパイも。
“あなたがどこかにデータを流すつもりではないか”とね。」
「な、なんで……俺が?」
女の視線が鋭く光る。
「量子制御室に入ったでしょう。
アクセス権を持つ人間は限られている。
中原沙英も同じ。
だから、あなたたちは“候補”になった。」
健の背筋に冷たい汗が流れた。
「取引をしないなら、あなたはいずれ殺されるわ。」
「は……?」
「このまま行けば、数日後──もしかしたら今日かもしれない。
あなたはもう巻き込まれている。
無関係だとしても、証拠隠滅のために消される。」
「……中原は?」
女の表情がわずかに揺れた。
「彼女も、危ない。
でも取引に応じれば、二人とも助けてあげる。」
健は混乱していた。
「取引って……何の話だ?」
黒服の女は少し視線を伏せ、ため息をついた。
「USBを探して、私たちに渡して。」
「USB? ……藤井室長の、あれか?」
「分かってるみたいね。話が早いわ。」
「でも、どこにあるかなんて……」
「VR会議室。そこに入れば分かるはず。
私たちも、そこまでしか情報を掴めていない。」
健は息を呑んだ。
「君は……いったい何者なんだ?」
女は胸元に手を滑り込ませ、ゆっくりと小さな銃を取り出した。
それは見慣れない形状をしていた。黒光りするボディに、先端の照準器が微かに青白く瞬く。刻印には小さく「QSK-9」の文字。
「Walther QSK-9。Quantum Stabilized Kinetic。」女は淡々と名を添えた。
「量子ロック照準システムを搭載した精密射撃用モデルよ。音もしないし、出所がわかる者はほとんどいない」
銃口を彼に向けるその手つきは冷徹だった。
「取引をするか、しないか──それだけよ。」
外山健は喉を鳴らした。
言葉を選ぶ余裕はなかった。
「……わかった。やってみる。」
その瞬間、女の目がわずかに柔らいだ。
けれど次の瞬間には、再び氷のような冷たさを取り戻していた。
黒服の女は彼の正面に立ち、腕を組んで見下ろしている。
「そのメガネ、見せてくれる?」
健は少し戸惑いながら外した。
女はそれを手に取り、左手のバングルでフレームを軽く撫でた。
金属の光が、メガネのレンズに反射して微かに揺らめく。
「よくできた玩具(おもちゃ)ね。」
「AI搭載のメガネです。LUMIという……」
健が答えると、女は無言で頷き、メガネを返した。
再びかけると、LUMIが小さくノイズを発した。
まるで喘ぐように、電子音が震える。
「LUMI、どうした……?」
健は困惑し、女を見上げた。
黒服の女はそのまま彼の隣に腰を下ろした。
白く細い指が、健の頬をゆっくりなぞる。
その指先が冷たい。
「ステルスナノ素材──完全に姿を消せる技術よ。」
女の声は静かで、どこか哀しげでもあった。
「藤井康平の開発した素材は、量子コンピューターとリンクしていて、ほぼ完璧だと言われている。
日本政府はこの技術が公になることを恐れているの。」
(この女……公安か?)
「マティック・ソリューションズの藤井研究室も、いずれ政府の管理下に置かれるでしょう。
でも、それを狙っている連中がいる。テロ組織、国家、企業──あらゆる勢力が、ステルスナノ素材のデータを奪おうとしている。
もはや一企業だけで防げる段階じゃない。」
健は言葉を失っていた。
女は少し間を置き、表情を変えずに言った。
「そして──あなたは疑われているの。」
「……は?」
「私の所属する組織だけじゃない。
テロ組織も、闇企業も、外国のスパイも。
“あなたがどこかにデータを流すつもりではないか”とね。」
「な、なんで……俺が?」
女の視線が鋭く光る。
「量子制御室に入ったでしょう。
アクセス権を持つ人間は限られている。
中原沙英も同じ。
だから、あなたたちは“候補”になった。」
健の背筋に冷たい汗が流れた。
「取引をしないなら、あなたはいずれ殺されるわ。」
「は……?」
「このまま行けば、数日後──もしかしたら今日かもしれない。
あなたはもう巻き込まれている。
無関係だとしても、証拠隠滅のために消される。」
「……中原は?」
女の表情がわずかに揺れた。
「彼女も、危ない。
でも取引に応じれば、二人とも助けてあげる。」
健は混乱していた。
「取引って……何の話だ?」
黒服の女は少し視線を伏せ、ため息をついた。
「USBを探して、私たちに渡して。」
「USB? ……藤井室長の、あれか?」
「分かってるみたいね。話が早いわ。」
「でも、どこにあるかなんて……」
「VR会議室。そこに入れば分かるはず。
私たちも、そこまでしか情報を掴めていない。」
健は息を呑んだ。
「君は……いったい何者なんだ?」
女は胸元に手を滑り込ませ、ゆっくりと小さな銃を取り出した。
それは見慣れない形状をしていた。黒光りするボディに、先端の照準器が微かに青白く瞬く。刻印には小さく「QSK-9」の文字。
「Walther QSK-9。Quantum Stabilized Kinetic。」女は淡々と名を添えた。
「量子ロック照準システムを搭載した精密射撃用モデルよ。音もしないし、出所がわかる者はほとんどいない」
銃口を彼に向けるその手つきは冷徹だった。
「取引をするか、しないか──それだけよ。」
外山健は喉を鳴らした。
言葉を選ぶ余裕はなかった。
「……わかった。やってみる。」
その瞬間、女の目がわずかに柔らいだ。
けれど次の瞬間には、再び氷のような冷たさを取り戻していた。
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