愛だの恋だの馬鹿馬鹿しい!

蘇鉄

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第三章 期末試験と生徒会

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固有魔法なんてものを生徒が保持しているこの学園では通常の期末試験に追加して別の試験がある。学問とは別に固有魔法を使った試験だ。

「毎回思うけど俺の負担おかしくないか?」

「諦めろー、いつもやってることだろ?」

「システムの管理とか生徒に任せるもんじゃなくない?」

ガウンガウンと腹に響く重たい機械の駆動音が鳴る部屋の中で白い息を吐き出しながら戯藍は担任を見上げた。

「戯藍ちゃんの固有魔法の試験内容にもなってんだからしょーがないでしょー」

「だから試験内容がおかしいだろって話ですよ。試験期間終わるまで解放されねーし」

試験で使うのは大型のシミュレーター。VRで試験を行うのが特徴である。
固有魔法は人それぞれだ。そして中には発動するだけで危ないものもあった。それを回避しつつ、自分の能力を制御する為に使用しているのがこの大型のシミュレーターである。
金持ちどもの学園であるのでこういった場面でも好きなように金を注ぎ込める。
試験専用のシミュレーター。だいたい体育館程度の大きさのシミュレーターで学園中の生徒がログインしてもサーバーダウンしないぐらいの高スペックさだ。

『回答。当システムの方がスペックは高いと進言。軍用規格でありますので当システムを利用しても問題ありません。むんむんᕦ(ò_óˇ)ᕤ』

「はいはい。問題ないけどやる為のものじゃないから設定面倒くさいだろ絶対。重力だのなんだのを含めた物理法則を一から入力すんのとか俺はやだよ」

シュレディンガーと違って人工知能としての性質を持たないただのVR専用のシミュレーターなのだが、どうやらこのサポートAIは随分と嫉妬深いらしい。
名前も持ってない、会話も成立しない機械相手とどうやって意思疎通を図れというのか。

「というか戯藍ちゃん、この寒さの中よく素手で作業できるな。物理的に凍ったりしないの?」

パソコンにも付いていることからわかるように、規模に関わらず機械物は冷却装置が不可欠だ。馬鹿でかい機械、特にシミュレーターともなると冷凍室レベルに冷やすのが通常である。そしてそんな中で作業するとなると北国の吹雪にも耐えられるようなガッチガチの防寒仕様が必要になってくるのだった。付き添いの小幡はもっこもこの防寒コート(手袋完備である)が戯藍はコートこそ着ているものの、素手だ。

「作業の邪魔ですから。まぁ長時間じゃなければ問題なしです」

自分の能力を使って凍らないように調整しているのだがそこは言わないで良いだろう。何故そんな繊細なコントロールが出来るのかと言えばただの慣れなのだが。雑談をしながら淀みない手つきで回線を弄っていた戯藍は青いランプが点滅したのを確認してようやっと手を止めた。

「おし、これで通ったはず。先生、確認」

「あいよ」

確認の為、外に出て行った担任を見送って冷え切った床に座り込んだままの戯藍はあぐらを描いた太ももに頬杖をつく。配線を弄っていた道具を手持ち無沙汰に片手で回転させながらボヤいた。

「こんだけ高スペックなシミュレーター抱え込んでるのになんで配線を間違えるんだ?電子部門専用の職人とかいるはずだろ」

『回答。それも含めてユーザー様に対しての試験内容なのではないでしょうかと推測。学園に登録してあるユーザー様の固有魔法の使い方としては間違っておりません』

戯藍の能力は『微弱な電気を発生させる』だ。レールガンというほどの威力は出せないが停電程度ならお手の物、という設定にしてある。本来の能力である『漆黒の炎』は伏せて使わないことを前提に生活していた。
期末試験も登録されてある能力をもとに組まれるので一人一人の性質に合わせてある。本来ならば隠蔽することは不可能で、制御するために学園に通っている意味を考えれば本末転倒だ。

「俺の能力はちょいとややっこしいからなぁ」

『回答。ユーザー様の本来の能力を使うとなるとシミュレーションではシステムがハングアップしますと予測』

固有魔法は科学的に説明できない能力だ。夜叉が使っていた『距離に関係なく同じ威力を発揮する不可視の飛び道具』などが良い例だろう。
勿論、テストで使われるぐらいなのでシミュレーションではファンタジー溢れる要素も再現できるようになっている。その為のシミュレーターだ。ファンタジーな動きを求められてもきちんと再現できるように設計されてある。
そんなシミュレーターであっても戯藍の能力は再現できないのだ。

「もうちょっと優しめの能力が欲しかったなぁ。使い勝手悪い」

『回答。それは持っているからこその言葉ですよ、と忠告。無い物ねだりをしても仕方がないでしょう』

「そりゃそうだ」

ケラケラ笑ってドライバーを指先の動きだけで回転させていた戯藍に戻ってきた担任が声をかける。

「オールオッケーだってさ。お疲れさん」

「ふふん、俺がやるんです、何度も手間をかけることはしないですとも」

年相応らしく自慢げに鼻を鳴らす少年の頭を撫でてやりながら小幡はそうそう、となんてことないように付け加えた。

「その腕を見込んで生徒会から補佐役に抜擢されたぞ、良かったな」

瞬間、戯藍はものすごい表情になった。しょっぱいのと苦いのをこれでもかと詰め込んだ、あれほど感情が出てる表情もなかなかない、と後に担任は語る。
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