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「時間通りにどうも。余計な待ち伏せもないようで何よりだ」
吐き捨てるような、乱暴な声だった。開けた人気のないビルの上。激しい風に煽られても微動だにしない少年は面倒そうに服のポケットに両手を突っ込んでいる。
目の前には〝阿修羅〟のリーダーこと生徒会長様と副会長様、と〝ウロボロス〟のリーダー、黒龍と白龍が揃っていた。
「お前が〝伽藍〟?」
「そう、お探しの伽藍だ。本名は物部戯藍。先日はどうも。見事に罠に嵌めてくれやがって」
「こうでもしないとお前出てこないだろ」
「そうなる前に諦めて欲しかったんですよ、会長様?俺が誰だろうとどうでもいいだろうに。何か不利益をもたらした訳でもない、前に出て来ないように徹底して隠れてたのは知ってただろうが」
「それでも不確定要素は見逃せない。何かするにしても情報が欲しいと思うのは普通だろう」
その言葉にふん、とくだらなそうに鼻を鳴らした。彼は何処までも苛立ちを隠さないで言葉に嫌味を添える。
「第三勢力にぶん回されている人が言うと説得力があるものだな。俺が手を出さないとどうしようもなかったくせに」
「恩でも着せる気か?」
黒龍の言葉に錆びた目を向けた戯藍は吐き捨てる。
「興味ねぇよ、そんなもん。お前達に望むものなどあるとでも?そんなにも魅力的(笑)ならもうちょっと考えて発言すりゃどうなんだ」
「…じゃあ、生徒会に入ったのも君の策略かな?僕らに近付きたかった、とか」
瞬間、爆発的なまでの怒気が空気を焼いた。今までの取り繕っていた仮面が剥がれ落ちる。
「ぶっ飛ばす」
ぶわりとその身体から漆黒の炎が吹き出した。あらゆる概念を焼き尽くす彼の【固有魔法】が発現する。床を舐めるように炎が走った。鋭い警告音が鳴り響く。
『ユーザー様、危険領域を突破しかねません。即座に能力をおさめてください』
「うるさい」
シュレディンガーの警告を一蹴して彼は地面を蹴っ飛ばす。副会長へ迫った彼は拳を叩き込もうとした。すべてを燃やす漆黒の炎を纏ったまま。副会長は反応できない。それほどに彼は速かった。このままぶん殴れば存在ごと消滅するか、はたまた生きたまま火だるまになるか、だ。
ぎょっとした会長が抑え込もうと割り込む仕草を見せたが、あまりにも遅い。彼がぶっ飛ばすといえばぶっ飛ばすのだ。
拳が叩き込まれようとした瞬間、たおやかな手が彼の手首を掴んで止めた。
「離せ、燃やすぞ」
白龍だった。白の麗人は見た目にそぐわぬ腕力で彼の手首をぎりぎりと締め上げている。骨が軋むほどの痛みだというのに戯藍は顔色ひとつ変えなかった。顔色は変えないが全力で抗っているのか、掴まれた手首には血管が浮いている。
戯藍の脅しに白龍は淡々と答える。
「燃やせるものなら」
ごう、とその言葉に応えて戯藍の身体から炎が上がる。じゅぅと肉の焼ける音が響いた。ピーーッッ!!と甲高い警告音が響き、少年の身体を黄金の鎖が縛り付ける。あっという間に彼は全身を拘束された。同時に鎖は白龍達を跳ね除けるように距離を取らせる。腕を掴んでいた白龍に至っては鎖が強制的に引き剥がしていた。
「それ、は…」
「ああ、ああ。鬱陶しい。忌々しい」
縛り上げられた自分の身体を見下ろして、激しく舌打ちする戯藍。困惑に満ちた視線から逃れるように鬱陶しそうに身動ぐと錆びた赤光の瞳が全員を射抜いた。
「これが隠していた理由だ。俺の能力の代償、養父からの贈り物。目立ちたくない理由の一つ。理解したな?」
深く息を吸って彼は吐き出す。同時に燃え上がる炎が落ち着いていった。完全に炎を身の内へ隠すと全身を縛り付けていた鎖も消える。
「お前達にそんな価値があると思い上がる方がどうかしている。誰も彼もが自分のことを好きになってくれるとでも?」
嘲るような声だった。穏やかに、相手に対して礼を尽くすようないつもの戯藍ではない。
「二度と、ふざけたことを吐かすなよ。もう一度あれば、ぶっ壊すからな」
唸るような声で宣言すると、黒龍達に視線を向ける。
「言ったように俺は喧嘩に興味はない。覇権争いだろうが縄張りだろうが好きにしろ。それに俺を巻き込むな。要求はそれだけだ」
「ならば何故手を出した」
「自分に降りかかるものがあるからに決まってるだろう。そうじゃなければ誰が手を出すか。お前達が間抜けだから、俺が動く羽目になったんだよ、無関係なはずの俺がな」
嫌味を存分に混ぜ込んだ言葉を吐き出して多少スッキリしたのか、少しだけ戯藍は雰囲気を柔らかく変えた。
「わかったら、俺にもう関わるなよ。あぁ、面倒くさい……やりたくなかったのに」
ぶつくさ呟きながら彼は身を翻す。呆気に取られていた夜叉が手を伸ばそうとしても振り返ることなく、ビルの屋上から消えてしまった。
吐き捨てるような、乱暴な声だった。開けた人気のないビルの上。激しい風に煽られても微動だにしない少年は面倒そうに服のポケットに両手を突っ込んでいる。
目の前には〝阿修羅〟のリーダーこと生徒会長様と副会長様、と〝ウロボロス〟のリーダー、黒龍と白龍が揃っていた。
「お前が〝伽藍〟?」
「そう、お探しの伽藍だ。本名は物部戯藍。先日はどうも。見事に罠に嵌めてくれやがって」
「こうでもしないとお前出てこないだろ」
「そうなる前に諦めて欲しかったんですよ、会長様?俺が誰だろうとどうでもいいだろうに。何か不利益をもたらした訳でもない、前に出て来ないように徹底して隠れてたのは知ってただろうが」
「それでも不確定要素は見逃せない。何かするにしても情報が欲しいと思うのは普通だろう」
その言葉にふん、とくだらなそうに鼻を鳴らした。彼は何処までも苛立ちを隠さないで言葉に嫌味を添える。
「第三勢力にぶん回されている人が言うと説得力があるものだな。俺が手を出さないとどうしようもなかったくせに」
「恩でも着せる気か?」
黒龍の言葉に錆びた目を向けた戯藍は吐き捨てる。
「興味ねぇよ、そんなもん。お前達に望むものなどあるとでも?そんなにも魅力的(笑)ならもうちょっと考えて発言すりゃどうなんだ」
「…じゃあ、生徒会に入ったのも君の策略かな?僕らに近付きたかった、とか」
瞬間、爆発的なまでの怒気が空気を焼いた。今までの取り繕っていた仮面が剥がれ落ちる。
「ぶっ飛ばす」
ぶわりとその身体から漆黒の炎が吹き出した。あらゆる概念を焼き尽くす彼の【固有魔法】が発現する。床を舐めるように炎が走った。鋭い警告音が鳴り響く。
『ユーザー様、危険領域を突破しかねません。即座に能力をおさめてください』
「うるさい」
シュレディンガーの警告を一蹴して彼は地面を蹴っ飛ばす。副会長へ迫った彼は拳を叩き込もうとした。すべてを燃やす漆黒の炎を纏ったまま。副会長は反応できない。それほどに彼は速かった。このままぶん殴れば存在ごと消滅するか、はたまた生きたまま火だるまになるか、だ。
ぎょっとした会長が抑え込もうと割り込む仕草を見せたが、あまりにも遅い。彼がぶっ飛ばすといえばぶっ飛ばすのだ。
拳が叩き込まれようとした瞬間、たおやかな手が彼の手首を掴んで止めた。
「離せ、燃やすぞ」
白龍だった。白の麗人は見た目にそぐわぬ腕力で彼の手首をぎりぎりと締め上げている。骨が軋むほどの痛みだというのに戯藍は顔色ひとつ変えなかった。顔色は変えないが全力で抗っているのか、掴まれた手首には血管が浮いている。
戯藍の脅しに白龍は淡々と答える。
「燃やせるものなら」
ごう、とその言葉に応えて戯藍の身体から炎が上がる。じゅぅと肉の焼ける音が響いた。ピーーッッ!!と甲高い警告音が響き、少年の身体を黄金の鎖が縛り付ける。あっという間に彼は全身を拘束された。同時に鎖は白龍達を跳ね除けるように距離を取らせる。腕を掴んでいた白龍に至っては鎖が強制的に引き剥がしていた。
「それ、は…」
「ああ、ああ。鬱陶しい。忌々しい」
縛り上げられた自分の身体を見下ろして、激しく舌打ちする戯藍。困惑に満ちた視線から逃れるように鬱陶しそうに身動ぐと錆びた赤光の瞳が全員を射抜いた。
「これが隠していた理由だ。俺の能力の代償、養父からの贈り物。目立ちたくない理由の一つ。理解したな?」
深く息を吸って彼は吐き出す。同時に燃え上がる炎が落ち着いていった。完全に炎を身の内へ隠すと全身を縛り付けていた鎖も消える。
「お前達にそんな価値があると思い上がる方がどうかしている。誰も彼もが自分のことを好きになってくれるとでも?」
嘲るような声だった。穏やかに、相手に対して礼を尽くすようないつもの戯藍ではない。
「二度と、ふざけたことを吐かすなよ。もう一度あれば、ぶっ壊すからな」
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「言ったように俺は喧嘩に興味はない。覇権争いだろうが縄張りだろうが好きにしろ。それに俺を巻き込むな。要求はそれだけだ」
「ならば何故手を出した」
「自分に降りかかるものがあるからに決まってるだろう。そうじゃなければ誰が手を出すか。お前達が間抜けだから、俺が動く羽目になったんだよ、無関係なはずの俺がな」
嫌味を存分に混ぜ込んだ言葉を吐き出して多少スッキリしたのか、少しだけ戯藍は雰囲気を柔らかく変えた。
「わかったら、俺にもう関わるなよ。あぁ、面倒くさい……やりたくなかったのに」
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