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第1話 追放された「最弱」魔導士
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王都アルディナの大広間。その中心で立たされていた青年リオンは、ひどく居心地の悪い沈黙の中にいた。
絢爛たる鎧をまとった勇者パーティの面々が、冷ややかな目で彼を囲んでいる。天井の高い大理石の間には、風も通らず、ただ怒声だけが反響していた。
「リオン、お前はもうパーティから外す。今日限りだ」
そう言い放ったのは、黄金の剣を腰に下げた男――勇者アレンだった。
その隣で、神聖なローブを纏った聖女セシリアがため息をつく。
「正直、最初からいる意味が分からなかったのですわ。弱い上に、魔力の制御もまともにできない。支援魔法一つ満足に使えないなんて、足手まとい以外の何ものでもないですもの」
「そ、それは……」
リオンは何か言い返そうとしたが、喉がこわばって言葉にならなかった。
彼の魔力量は確かに少ない。どんなに努力しても、炎を灯すだけで膝をつくほどだ。
だが、いつの日か仲間の役に立てると信じてここまでやってきた。王国認定の冒険者となり、勇者パーティ入りまで果たしたのも、全ては彼の根気の賜物だった。
それなのに、結果はあまりにあっけなかった。
「……わかった」
絞り出すようにその一言を告げると、アレンの眉がぴくりと動いた。
「文句を言わないとは思わなかったな」
「俺が残っても、迷惑をかけるだけだ。だから、ありがとう。ここまで付き合ってくれて」
そう言ってリオンは背を向けた。
広間の扉を押し開けると、冬の冷たい風が彼の頬を打つ。光満ちる世界の中へ足を踏み出す瞬間、背後から誰かのひそひそとした嘲笑が聞こえた。
「やっと厄介払いができたな」「今度の遠征は楽になるわね」
聞こえないふりをして歩き出す。けれど胸の奥で、何かが崩れ落ちた。
王国の大通りを抜けると、露店の人々が彼に珍しいものを見るような目を向けた。
噂はもう広まっているのだろう。「勇者パーティを追放された最弱魔導士」。
それは、嘲笑と失望の象徴のような言葉だった。
リオンはその日、王都を離れた。行くあてもなく、ただ歩き続ける。
川沿いの道を北へ向かい、いつしか夜の帳が降りる頃、小さな森の脇に辿り着いた。
焚き火の一つも起こせない彼は、ただ石に腰を下ろし、冷えたパンをかじった。
「……俺って、何のために魔導士になったんだろうな」
小さく呟いた声は、静かな森に吸い込まれていく。
そんなときだった。ふいに風が止まり、林の奥から微かな光が漏れた。
青く淡い光がゆらゆらと漂い、幾重にも重なっていく。それは、まるで誰かが彼を呼んでいるようだった。
恐る恐る歩み寄ると、光の中心に古びた石碑があった。
表面には、古代文字のようなものが刻まれている。リオンには読めるはずもない。
けれど、不思議とその意味が心の奥に染み渡ってくる。
――汝、選ばれし器なり。千の神々、汝を見守らん。
「……何だ、これ」
次の瞬間、光が爆ぜた。リオンの身体を包み、温かな波動が全身を駆け抜ける。
熱くも痛くもない。心地よい光が、彼の中の何かを満たしていく。
だが、本人はそれが何なのか理解できない。ただ立ち尽くすばかりだった。
光が収まったとき、リオンは膝をついた。
夜空には満天の星。先ほどまでの異様な光景が幻だったかのように消え去っている。
「……何だったんだ、今のは……」
自分の手を見る。どこも異常はない。
だが、その指先から、ほんのわずかに白銀の光が揺れていた。
気のせいかと思い、手を振っても消えない。
やがて疲労と眠気が押し寄せ、リオンはそのまま石碑の前で眠りに落ちた。
翌朝、眩しい日差しで目を覚ましたリオンは、辺りを見回した。
森の中から微かな水流の音が聞こえる。喉が渇いていた。
川を見つけ、水をすくい上げると、顔を映した水面が一瞬、金色に輝いた。
驚いて目をこすっても、もう普通の水面に戻っていた。
「寝ぼけてるのか……はは、まいったな」
乾いた笑いを漏らすリオンの背後で、ぱきりと枝を踏む音がした。
振り向くと、そこには小麦色の髪をした少女が立っていた。
年の頃は十五、六。素朴な服に身を包み、手には木の籠を抱えている。
「……だれ?」
「ご、ごめんなさいっ!旅の人?ここ、モリアの森です。危ない魔獣が出るから、こんなところで寝るのは駄目ですよ!」
少女は慌てた様子で声をあげた。
リオンは苦笑して頭を掻いた。
「そうか……ありがとう。ここらの人?」
「はい、すぐ近くの村に住んでるんです。もしよかったら、休んでいきませんか?」
森を抜けると、小さな村が広がっていた。木造の家が並び、のどかな空気が漂っている。
村人たちは見知らぬ男に少し警戒の目を向けながらも、少女――リィナと名乗った――の案内でリオンを受け入れてくれた。
温かいスープをもらいながら、久しぶりに人の優しさを感じる。
けれど、その平穏も長く続かなかった。
昼過ぎ、村の外れから悲鳴が上がった。
「魔獣だ!森の奥から出てきたぞ!」
村人たちが逃げ惑う中、リオンもリィナも外へ飛び出した。
現れたのは熊のような巨体に黒いオーラをまとった魔獣。牙をむき出しにして、村を薙ぎ払おうとしている。
「リィナ、下がって!」
リオンは思わず叫んだ。だが、体が勝手に動いた。
頭の中で、何かが囁く。
――願え、我らが子よ。
その瞬間、手をかざしたリオンの前に、白銀の光輪が現れた。
次いで大気が震え、無数の光が集束する。
「や、やめろっ……!」
彼は焦って手を引っ込めた。けれど、光は止まらない。
眩い閃光が天を突き抜け、轟音と共に魔獣を呑み込んだ。
爆風が過ぎ去ると、足元に焦げた大地だけが残っていた。
魔獣の影は跡形もない。
リィナはただ呆然とリオンを見つめていた。
「……りょ、リオンさん、いまの……魔法、ですか?」
「え? いや、俺はただ……手を上げただけで……」
自分の手を見つめながら、リオンは言葉を失った。
その表情には、恐怖も混じっていた。
このとき彼はまだ、自分が千の神々に祝福された存在であることを知らない。
ただ一つ確かなのは、彼の力が世界の理を揺るがすほどのものだということ。
そして、この日――最弱と呼ばれた男の伝説が、静かに始まりを告げたのだった。
絢爛たる鎧をまとった勇者パーティの面々が、冷ややかな目で彼を囲んでいる。天井の高い大理石の間には、風も通らず、ただ怒声だけが反響していた。
「リオン、お前はもうパーティから外す。今日限りだ」
そう言い放ったのは、黄金の剣を腰に下げた男――勇者アレンだった。
その隣で、神聖なローブを纏った聖女セシリアがため息をつく。
「正直、最初からいる意味が分からなかったのですわ。弱い上に、魔力の制御もまともにできない。支援魔法一つ満足に使えないなんて、足手まとい以外の何ものでもないですもの」
「そ、それは……」
リオンは何か言い返そうとしたが、喉がこわばって言葉にならなかった。
彼の魔力量は確かに少ない。どんなに努力しても、炎を灯すだけで膝をつくほどだ。
だが、いつの日か仲間の役に立てると信じてここまでやってきた。王国認定の冒険者となり、勇者パーティ入りまで果たしたのも、全ては彼の根気の賜物だった。
それなのに、結果はあまりにあっけなかった。
「……わかった」
絞り出すようにその一言を告げると、アレンの眉がぴくりと動いた。
「文句を言わないとは思わなかったな」
「俺が残っても、迷惑をかけるだけだ。だから、ありがとう。ここまで付き合ってくれて」
そう言ってリオンは背を向けた。
広間の扉を押し開けると、冬の冷たい風が彼の頬を打つ。光満ちる世界の中へ足を踏み出す瞬間、背後から誰かのひそひそとした嘲笑が聞こえた。
「やっと厄介払いができたな」「今度の遠征は楽になるわね」
聞こえないふりをして歩き出す。けれど胸の奥で、何かが崩れ落ちた。
王国の大通りを抜けると、露店の人々が彼に珍しいものを見るような目を向けた。
噂はもう広まっているのだろう。「勇者パーティを追放された最弱魔導士」。
それは、嘲笑と失望の象徴のような言葉だった。
リオンはその日、王都を離れた。行くあてもなく、ただ歩き続ける。
川沿いの道を北へ向かい、いつしか夜の帳が降りる頃、小さな森の脇に辿り着いた。
焚き火の一つも起こせない彼は、ただ石に腰を下ろし、冷えたパンをかじった。
「……俺って、何のために魔導士になったんだろうな」
小さく呟いた声は、静かな森に吸い込まれていく。
そんなときだった。ふいに風が止まり、林の奥から微かな光が漏れた。
青く淡い光がゆらゆらと漂い、幾重にも重なっていく。それは、まるで誰かが彼を呼んでいるようだった。
恐る恐る歩み寄ると、光の中心に古びた石碑があった。
表面には、古代文字のようなものが刻まれている。リオンには読めるはずもない。
けれど、不思議とその意味が心の奥に染み渡ってくる。
――汝、選ばれし器なり。千の神々、汝を見守らん。
「……何だ、これ」
次の瞬間、光が爆ぜた。リオンの身体を包み、温かな波動が全身を駆け抜ける。
熱くも痛くもない。心地よい光が、彼の中の何かを満たしていく。
だが、本人はそれが何なのか理解できない。ただ立ち尽くすばかりだった。
光が収まったとき、リオンは膝をついた。
夜空には満天の星。先ほどまでの異様な光景が幻だったかのように消え去っている。
「……何だったんだ、今のは……」
自分の手を見る。どこも異常はない。
だが、その指先から、ほんのわずかに白銀の光が揺れていた。
気のせいかと思い、手を振っても消えない。
やがて疲労と眠気が押し寄せ、リオンはそのまま石碑の前で眠りに落ちた。
翌朝、眩しい日差しで目を覚ましたリオンは、辺りを見回した。
森の中から微かな水流の音が聞こえる。喉が渇いていた。
川を見つけ、水をすくい上げると、顔を映した水面が一瞬、金色に輝いた。
驚いて目をこすっても、もう普通の水面に戻っていた。
「寝ぼけてるのか……はは、まいったな」
乾いた笑いを漏らすリオンの背後で、ぱきりと枝を踏む音がした。
振り向くと、そこには小麦色の髪をした少女が立っていた。
年の頃は十五、六。素朴な服に身を包み、手には木の籠を抱えている。
「……だれ?」
「ご、ごめんなさいっ!旅の人?ここ、モリアの森です。危ない魔獣が出るから、こんなところで寝るのは駄目ですよ!」
少女は慌てた様子で声をあげた。
リオンは苦笑して頭を掻いた。
「そうか……ありがとう。ここらの人?」
「はい、すぐ近くの村に住んでるんです。もしよかったら、休んでいきませんか?」
森を抜けると、小さな村が広がっていた。木造の家が並び、のどかな空気が漂っている。
村人たちは見知らぬ男に少し警戒の目を向けながらも、少女――リィナと名乗った――の案内でリオンを受け入れてくれた。
温かいスープをもらいながら、久しぶりに人の優しさを感じる。
けれど、その平穏も長く続かなかった。
昼過ぎ、村の外れから悲鳴が上がった。
「魔獣だ!森の奥から出てきたぞ!」
村人たちが逃げ惑う中、リオンもリィナも外へ飛び出した。
現れたのは熊のような巨体に黒いオーラをまとった魔獣。牙をむき出しにして、村を薙ぎ払おうとしている。
「リィナ、下がって!」
リオンは思わず叫んだ。だが、体が勝手に動いた。
頭の中で、何かが囁く。
――願え、我らが子よ。
その瞬間、手をかざしたリオンの前に、白銀の光輪が現れた。
次いで大気が震え、無数の光が集束する。
「や、やめろっ……!」
彼は焦って手を引っ込めた。けれど、光は止まらない。
眩い閃光が天を突き抜け、轟音と共に魔獣を呑み込んだ。
爆風が過ぎ去ると、足元に焦げた大地だけが残っていた。
魔獣の影は跡形もない。
リィナはただ呆然とリオンを見つめていた。
「……りょ、リオンさん、いまの……魔法、ですか?」
「え? いや、俺はただ……手を上げただけで……」
自分の手を見つめながら、リオンは言葉を失った。
その表情には、恐怖も混じっていた。
このとき彼はまだ、自分が千の神々に祝福された存在であることを知らない。
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