最弱と蔑まれた魔導士、実は千の神に好かれていた件~追放されたけど本人だけ無自覚に世界最強でした~

えりぽん

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第5話 無意識の魔法、天を裂く

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夜明け前の村は、まだ冷たい霧に包まれていた。  
昨夜の戦いの痕が残る広場には、焼け焦げた大地と瓦礫の山。村人たちはそれでも懸命に復旧を始めている。  
リオンはその中心で、ぼんやりと空を見上げていた。  
――昨夜、自分が放った光。あれは何だったのか。  
神々の声に導かれるまま動いたとはいえ、自分がどこまでを意識していたのかすら定かではない。  

「リオンさん」  
振り返ると、リィナが麦の籠を抱えて立っていた。  
目の下にわずかに疲れが見えるが、微笑みを絶やしていない。  
「みんな、あなたのおかげで助かりました。誰も死ななかったんですよ」  
「……そうか。よかった」  
そう言いながらもリオンは、自分の胸がざらつくように痛むのを感じていた。  
助けられたのは村だけ。もしあれが王都を襲っていたら――想像の先で、金の髪の勇者アレンの顔が浮かぶ。  

「なあ、リィナ。今回の魔獣、言葉を話してたよな。あれ、普通じゃないんだろ?」  
「ええ。魔獣は本来、理性を持ちません。でも昔の伝承に、“神の祠を汚した魔物は理性を持つ”という話があります」  
「祠……」  
リオンは前夜に聞いた石碑のことを思い出す。  
あれも祠の一部なのかもしれない。もしそうなら、千の神々の存在は神話ではなく現実の力として息づいていることになる。  

二人が話していると、村の南門の方で騒ぎが起きた。  
「リオン殿、急いでくれ!」  
走ってきた村長の顔は青ざめている。  
「どうしました?」  
「村の外に、空の裂け目のようなものが見えるのです!」  
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。  
リオンとリィナは顔を見合わせると、一目散に南の丘へと向かった。  

丘の上に立ち、見た。空の彼方に巨大な傷のような光の亀裂が走り、その周囲から黒い雲が渦を巻いている。  
「……なんだ、あれ」  
「魔導の暴走? でも、王都でもこんな規模は……!」  
風が強まり、地面を削る砂の嵐が起こる。リィナの髪が乱れ、彼女が思わずしがみついてくる。その肩越しに、リオンは空を睨んだ。  

――来る。  
第六感が告げていた。何かが、この世界の理を破壊しながら出現しようとしている。  

「村に戻れ、リィナ!」  
「でもあなたは!?」  
「俺は行く、確かめたい!」  
リオンは叫ぶと同時に丘を駆け下りた。足元で土が弾け、木々の影が揺れる。  
彼の身体を白銀の光が包み、足取りが地を滑るように加速した。  

空の裂け目の真下――そこに、青白い雷光と共に何かが降り立った。  
それは人の形をしていた。だが肌は黒く、翼の形をした影が背から伸びている。  
「下界の者よ。力を宿す器はどこだ」  
地響きのような声。喉奥が凍るような冷気。  
リオンは本能的に悟った。これは魔獣とは違う、“天から落ちた何か”だと。  

「お前が裂け目を作ってるのか」  
「愚かなる問い。加護の器を追う。阻むものは滅す」  
次の瞬間、空気が弾けた。  
それは音ではなく圧力。目には見えぬ衝撃が地面を抉り、木々を粉砕する。  
リオンは咄嗟に防壁を張り、吹き飛ばされながらも姿勢を保った。  

白い砂煙の中で、また神の声が響いた。  
――汝の眠る力を解き放て。天を裂くは汝の光のみ。  

「解き放つ? どうやって……!」  
リオンが歯を食いしばると、胸の奥が熱を帯び、視界の端に無数の紋章が浮かんだ。  
二枚の羽、円環、光の線。全部が身体の内側に刻まれていく。  
頭の中が真白になり、手を上げた瞬間、衝撃が世界を貫いた。  

轟音とともに、天空を覆う裂け目が光で満たされた。  
それは炎でも電撃でもなく、ただ“純粋な秩序”そのものの光。  
風が止み、時間が凍ったように感じられる。  
そして、影の存在は叫びもせず、ひとすじの光に貫かれた。  

その瞬間、リオンの視界に見たことのない景色が流れ込んできた。  
無数の神々が座す白亜の階段、黄金の大樹、そしてそこで彼らを見守る巨大な影。  
――我らが子、お前を見ている。  
理解できぬ早口の祈りが続き、意識が遠のく。  

気づけば、再び地上にいた。  
空の裂け目は消え、ただ青空が広がっている。  
リオンは地に手をつき、荒い息をついた。  
全身が重く、頭が割れるように痛む。それでも心の奥は不思議と静かだった。  

「リオンさん!」  
駆け寄ってきたリィナが抱きしめようとするのを、彼は片手で制した。  
「大丈夫か……村は?」  
「みんな無事です。裂け目が消えたあと、風も止んで……。あなた、いったい何をしたの?」  
リオンは答えられなかった。自分でも覚えていない。ただ、無意識に魔法を使っただけだ。  

「神々の力を……呼んだのかもしれない」  
「あなたが?」  
リィナは信じられないという顔で見つめていた。  
だが彼女の胸の奥でも、別のものが共鳴していた。光の残滓が彼女の髪に降り、淡い翼のような影を映す。  

「ねえ、リオンさん。天を裂いたのはあなたの力。でも、私の中にも何かが流れ込んできたんです」  
「何か?」  
「心に直接、声が聞こえました。『神の器、導きを共にせよ』って」  
その瞬間、リオンの背筋を寒気が走った。  
“加護の器”を狙っていた存在が言っていた――“娘と共に滅ぼす”。  
つまり、リィナもまた選ばれし存在。共鳴の対象なのだ。  

「なら、これから先は二人で行くしかないようだな」  
そう言ったリオンの顔に、わずかな笑みが浮かぶ。  
だがその笑みは、どこか覚悟を秘めていた。  
神々の恩寵とは祝福であり、同時に試練でもある。  

夕刻、村長が二人を呼んだ。  
「リオン殿、リィナ殿。どうやら王都から新たな使者が来るらしい。勇者パーティの残りの者たちが一緒だ」  
その報せに、リィナが息を呑む。リオンはすぐに表情を引き締めた。  
「アレンたちが……?」  
「はい。村を視察すると。魔獣討伐の件も絡んでいるとか」  

ようやく平穏を取り戻した村に、再び嵐の影が迫る。  
リオンは小さく息を吸い、澄み渡る空を見上げた。  
雲ひとつないその青の中に、かすかに銀色の線が光っている。  
それは、消えたはずの“裂け目”の名残だった。  

そして、その線が一瞬だけ脈動したのを、彼は確かに見た。  
――運命は、まだ終わっていない。
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