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第十一話 休息の喫茶店
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三女は丸一日、眠り続けた。
三日月書房の奥にある小さな休憩室。
昭和レトロな商店街の夕焼けが、障子越しに淡く差し込む。
青年は、椅子に座ったまま彼女を見守っていた。
「……起きたら怒るぞ」
長女が呆れたように言う。
「ずっと張り付いてる」
「別に」
青年は視線を逸らす。
次女が静かに言った。
「彼女は回復してる。光も戻ってきてる」
ほっと、胸が軽くなる。
そのとき、三女の指がぴくりと動いた。
「……ん」
ゆっくりと目を開く。
「ここは……」
「書店だ」
青年が身を乗り出す。
「大丈夫か?」
三女は少し考えてから、にこっと笑った。
「うん。お腹すいた」
長女が吹き出す。
「まったくもう」
商店街の喫茶店「純喫茶ひかり」に四人で向かうことになった。
赤いソファ。
クリームソーダ。
レコードから流れる懐メロ。
モンスターたちも普通に座っている。
スライムがストローでソーダを吸い、
ゴーレムが静かにコーヒーを啜る。
不思議だが、落ち着く光景だった。
三女は、クリームソーダを両手で持ちながら言う。
「ねえ」
「ん?」
青年が顔を向ける。
「私、ちょっとだけわかった」
「何が?」
「私の光、終わらせる力なんだよね?」
青年は黙る。
妖精の言葉が蘇る。
終わりを受け止める器。
「……そうかもしれない」
「でもさ」
彼女はストローをくるくる回す。
「終わりって、悲しいだけじゃないよね?」
「え?」
「終わるから、次がある」
その言葉は、静かに胸に落ちた。
終わらせることは、消すことじゃない。
続くための区切り。
青年は、ゆっくりと言う。
「俺が書く」
三女が顔を上げる。
「闇の塔」
商店街の奥、空の亀裂の向こうに見えた黒い影。
「未完を全部、終わらせる」
次女が静かに頷く。
「合理的だ」
長女も腕を組む。
「やるなら準備してからよ」
三女が、青年の手に触れる。
「私も行く」
「危ない」
「一緒じゃなきゃ、意味ない」
彼女の瞳は揺らがない。
青年は、ゆっくりとその手を握る。
「……わかった」
喫茶店のレコードが、針を跳ねさせる。
ぶつり、と一瞬ノイズ。
窓の外、空の亀裂がわずかに広がる。
遠くで、黒い塔が脈打つ。
休息は終わる。
だが今度は、逃げるためではない。
終わらせるために向かう。
三女が、小さく笑う。
「ねえ」
「なに」
「ちゃんと、最後まで書いてね」
青年は、迷わず答えた。
「ああ」
クリームソーダの氷が、静かに溶けていく。
昭和レトロな商店街の灯りの下で、
四人は、闇の塔へ向かう覚悟を固めた。
三日月書房の奥にある小さな休憩室。
昭和レトロな商店街の夕焼けが、障子越しに淡く差し込む。
青年は、椅子に座ったまま彼女を見守っていた。
「……起きたら怒るぞ」
長女が呆れたように言う。
「ずっと張り付いてる」
「別に」
青年は視線を逸らす。
次女が静かに言った。
「彼女は回復してる。光も戻ってきてる」
ほっと、胸が軽くなる。
そのとき、三女の指がぴくりと動いた。
「……ん」
ゆっくりと目を開く。
「ここは……」
「書店だ」
青年が身を乗り出す。
「大丈夫か?」
三女は少し考えてから、にこっと笑った。
「うん。お腹すいた」
長女が吹き出す。
「まったくもう」
商店街の喫茶店「純喫茶ひかり」に四人で向かうことになった。
赤いソファ。
クリームソーダ。
レコードから流れる懐メロ。
モンスターたちも普通に座っている。
スライムがストローでソーダを吸い、
ゴーレムが静かにコーヒーを啜る。
不思議だが、落ち着く光景だった。
三女は、クリームソーダを両手で持ちながら言う。
「ねえ」
「ん?」
青年が顔を向ける。
「私、ちょっとだけわかった」
「何が?」
「私の光、終わらせる力なんだよね?」
青年は黙る。
妖精の言葉が蘇る。
終わりを受け止める器。
「……そうかもしれない」
「でもさ」
彼女はストローをくるくる回す。
「終わりって、悲しいだけじゃないよね?」
「え?」
「終わるから、次がある」
その言葉は、静かに胸に落ちた。
終わらせることは、消すことじゃない。
続くための区切り。
青年は、ゆっくりと言う。
「俺が書く」
三女が顔を上げる。
「闇の塔」
商店街の奥、空の亀裂の向こうに見えた黒い影。
「未完を全部、終わらせる」
次女が静かに頷く。
「合理的だ」
長女も腕を組む。
「やるなら準備してからよ」
三女が、青年の手に触れる。
「私も行く」
「危ない」
「一緒じゃなきゃ、意味ない」
彼女の瞳は揺らがない。
青年は、ゆっくりとその手を握る。
「……わかった」
喫茶店のレコードが、針を跳ねさせる。
ぶつり、と一瞬ノイズ。
窓の外、空の亀裂がわずかに広がる。
遠くで、黒い塔が脈打つ。
休息は終わる。
だが今度は、逃げるためではない。
終わらせるために向かう。
三女が、小さく笑う。
「ねえ」
「なに」
「ちゃんと、最後まで書いてね」
青年は、迷わず答えた。
「ああ」
クリームソーダの氷が、静かに溶けていく。
昭和レトロな商店街の灯りの下で、
四人は、闇の塔へ向かう覚悟を固めた。
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