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連続する違和感と薄れる意識

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ワイングラスに映った店内が、ゆっくりと揺らめいて雰囲気を作る。

ニシジマは慣れた様子でワインに口をつけると、ワイングラスをテーブルに置いて微笑んだ。

「わざわざ会社まで、お礼の品やプレゼントを届けてくれるなんて…」

ニシジマはそう言うと、いままで見せたこともないような複雑な表情でレナを見た。

…なんだろう、この視線…

まるで、品定めされているかのよう。

頭の先から手の先まで、まるで舐めるようにジロジロと見つめていく。

先ほどまでのニシジマと変わりはないはずなのに、また、鳥肌が立った。

「あれ?寒い?」

そう聞いたニシジマは、いつもの穏やかで紳士的な表情をしていた。

…気のせいかな。

レナは、「いえ、大丈夫です」と言い、イヤーカフからのアオイの指示どおり、

「父が、ご挨拶したかったと残念がっていました。なかなか、ニシジマさんにはお会いするチャンスがないみたいで」

と言葉を続ける。

「そうなんだ。じゃあ、昨日はせっかくのチャンスだったのに、もったいなかったね。俺もお会いしたかったよ」

「そうなんです。運の悪い父親で…」

アオイの指示どおり続けると、ほんの一瞬だけ、ニシジマの表情が緩むのが見えた。

…え…?いま、笑った…?

どこにも笑う会話なんてなかったはずなのに。

レナが固まっていると、

「佐藤さんところには、担当が無理ばかり言っているからね。本当に申し訳ないよ。俺のほうから、もう少し、佐藤さんの負担を軽くするよう言っておくよ」

ニシジマはそう言ってやさしく微笑んだ。

さっきの笑いは、何だったんだろう?

気のせいだったのかな?

「はい…よろしくお願いします…」

答えながらレナは、なんとなく頭がボンヤリとしていることに気がついた。

あれ…?なんでだろう…眠い…?

「レナさん…?」

テーブルを挟んだだけの距離にいるニシジマの声が、やたらと遠くに聞こえる。

「レナさん…?」

ニシジマの声がだんだんと遠くなり、誰かにカラダをしっかりと支えられているような感覚だけがあった。

誰…?

ニシジマさん…?

なんとなく、周囲に人の動きがある…

あれ?私…

どうなるんだろ…う…?

ゆっくりと、全身の力が抜けていくのがわかった。

目を開けようとしても開かない。

真っ暗な闇のなか、周囲の音が微かにしか感じられなくなり、意識が薄らいでいくのを感じた。
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