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Fellow

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心地好い原っぱの上、彼は私の隣で青空を見上げ足を崩して座っている。

「退屈か?」

思わず私がそう訊いたのは、彼の瞳が酷く虚ろであったからだ。

「どうだろうなあ。」

彼は頭をぼりぼりと搔いた。これは彼の昔からの癖で、私にはもう慣れたことだった。
薬に塗れた彼は、もう殆ど昔の事など憶えていなかった。
無論、私のことも例外ではない。私はひとつ溜息を吐いた。
無意識に大げさになったそれに彼は気付いて、

「そっちはどうだい?」

と訊き返してきた。私は彼を視た。
心地好い小麦色に焼けた肌には、虚ろな目が出鱈目に輝いていた。
まるで以前の“お前”のように……
私は知らぬ内に泣いているのに気付いた。それを木綿の袖で隠しながら、彼に言った。

「嫌、なんだ、……おれはさむしい人間のようだ、」

言葉の端には失笑が見え隠れしていた。私はそれに尚泣いた。
彼は私にどんな表情かおを向けているのだろう、私をどんな人間と思って嘲て視ているのだろう。
だがそう思う私に彼は確かに言った。

「なら、おれもさむしいんだろうな。」

以前の彼の生き生きとした表情が、まざまざと瞼の裏に映っては消える。
日向ぼっこで焼けた肌に差す日光の照り、庭の匂い、弱いからだで愉しそうに笑う“お前”。彼の白い歯が唇から覗いて笑っているその様が、目の上に展開されていく。
私は笑ってなみだを搔き消した。裾から彼を視て言う。

「なんだ、まるでこの世にふたりぽっちの様に言うじゃないか」
彼は若干唇から歯を覗かせて笑った。

「良いだろう、互いに互いを補えば。どうやら君はおれの大事な人らしいからな。」
私はその姿に以前を重ねていた。
あの幸せな、過去となった記憶を……
青々とした原っぱに私は大の字に寝転がり、彼に顔を向けて言った。

「嗚呼そうさ!“私”は、“お前”の、大事な大事な、






ヒトだったんだよ!」

私の心は、快晴よりも深く深く晴れ渡っていた。

Fellow  Fin.

初稿:1月下旬頃
アルファポリス版:3月12日
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