ハグレモノ

あまゆるまち(旧:氷上ましゅ。)

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俺は人生に疲れてしまったハグレモノ。
特に生きる理由も無く、生きている意味も無く、









死ぬ意味さえ、無い。



短くとも長くとも思えたこの25年、人の為になることだけをして来たつもりだ。

小中高は親に恥をかかせないよう、塾にも行かず通信教育も受けず家庭教師もつけずに良い方の成績を取って、みなにそれを恨まれないように、自らご丁寧に勉強会を開き、分からないところがあれば1から10まで全て教えてやった。

美術も音楽も保体も技家も、それなりに良い方の成績を取った。

大学では、こんな俺がしたいことなんてさらさら無かった為、無理のないぐらいの大学の医学部に入った。

そこでも、平均より上の成績を取って、単位も取って、とりあえず卒業した。

選挙権が与えられると、迷わず会場に足を運び、親がいつもぶつぶつと言っていた人の名前を書いた。

献血ができるようになると、そこにも迷わず足を運び、血を分けた。

髪の毛も、男だったがそれなりに長く伸ばして、売ったり分けたりした。

服も要らなくなったらリサイクルに回し、会計の残った小銭は、なるべく募金箱に入れた。




どれも、苦では無かった。

俺はそれなりに、人から感謝される事をして来たつもりだった。

大学を卒業し、無事社会人デビューなるものを果たした。

成績も学校での生活態度も良かったためか、すぐに就職先も決まり、一人暮らしが始まった。

毎日毎日、働いた。

ブラックだとかグリーンだとか、はたまた超がつくほどのホワイトか分からずとも、何の疑念も持たずしっかりと働いた。

自分が最低限の質を保った生活が出来ればいいのだ、そう思い何も愚痴を叩かずただ、黙々とデスクにつく毎日だった。

同僚との絡みも良く、上司からの信頼も厚い。




平凡な、人。


会社ではよく頑張った、社会でもよく頑張った。

会社からの帰り道を歩く最中さなか、不意に唐突にこんな考えが過ぎった。


「生きている、意味って?」

俺はそれがわからなくなった。
思い出してみれば、学生時代の友人との思い出という名のついた記憶なんて、これっぽっちもありゃしないのだ。
わからない、わからない、
何がわからないのかさえ、わからない。

焦燥感が身体を突き抜け、極寒の中にも関わらず顔から大量の汗が吹き出て除雪された跡の残る冷たいコンクリートの上に落ちた。

こんな事は読んで字のごとく生まれて初めてで、無性に吐き気がしたのを覚えている。

息を荒くしながら家に着いてふと自室の狭いワンルームを見た時に初めて思った、


本当に、ここに人が暮らしているのか?


殺風景過ぎる部屋で、そのは独りで膝を抱えて、風呂に行く気力も飯をう気力も無くし、ずっとまとわりついていた孤独と初めて対面した様な気がした。

頭の中で誰かが囁く、

「終わらせちゃえば、良いんじゃあない?」

俺はその半月後、勤めていた会社を辞めた。

特に仲良さげに付き合っていた同僚が、一度家に来た時があった。
家にあげる前から同僚が口を開いた。

「なぁ影島、今度また、飲み行こうぜ。
お前が居なくなっちまって、皆心配してんだ。
お前、単純に良い奴だからさ、」

少しだけ話をして、同僚には帰ってもらった。
俺は冷たい玄関に腰を落とし、そのまま静かに泣いた。
スウェットから伝わる冷たさに、何もかもが吸われてしまいそうだった。

泣いて踏ん切りがついたある頃、俺はこのワンルームを引き払って、誰一人として寄り付かなくなった実家に帰った。

そのまま自室の整理をし、売れるものは売ってその金で近所にある昔ながらのラーメン屋に立ち寄った。

醤油ラーメンの濃い味が喉に引っかかって、思わず涙が出た。

ラーメン屋の店主の無愛想な顔が、やけに羨ましく感じられた。

懐かしい実家に帰って自室に残った学習椅子に座ると、何故かよく分からない笑みがこぼれてきた。

「ははは………あはははは」

学生時代からあまり出す機会のなかった不器用な笑みが声を連れて喉から掻き出される。
俺はもうそのまま狂った笑顔で笑い続けた。
そして晴れた空の下、俺は実家の屋上の上に立った。
高校の時から着ていたジャージ上下を着て、高校の時ただの興味で買い、ぼろぼろになった白のコンバースを履いて。

そして、今に至る。

身を投げる前に、少し引っかかったことがあったので、スマホを取り出した。

俺はそのままメッセージアプリを開き、ただ1人家に訪ねてきた元同僚にメッセージを打ち込んだ。

送信の表示の後、俺は何も迷うことなくアプリを消去した。
頬に何故か涙が伝う。
俺はそれを無理に笑ってかき消しながら、スマホの音声アシスタント機能を立ち上げた。

声をあげる。

「Hey,Siri. 俺が生きている事の利益を教えて?」

清々しかった。

「…少しお時間をください」

無機質な音声は時間をかけてそう言った。

「あなたが生きている事の意味は私には分かりません。ですが」
「私が活動をし続けている限り、私を求めてくれる人は居ます。だから」
「あなたが生きている事で誰かがあなたを求めることが出来るのでは無いのでしょうか?」

機械的で淡々とした声が返ってきた。
俺はスマホを持った手を下ろし、呟いた。

「そんなの、橋田以外に居ねーよ」

呟いた瞬間、涙が溢れ出した。
俺はもう何もせず、ただただスマホに向かって声を飛ばした。

「Hey,Siri. 今まで、ありがとな」

2拍置いて、返答があった。

「…少しお時間をく」

言いかけて、手に持ったスマホが震えた。
手首を返して画面を見る。
橋田だった。
俺はそのまま緑に光る応答のボタンを押した。
耳には当てず、スピーカーをオンにする。

「影島!!お前正気か!?」

切羽詰まった橋田の声が響く。

「ざっけんじゃねぇよ!!家引き払ったと思ったら、「じゃあな」なんて一言、メッセージよこしやがって!!
残される側のこともちったあ考えろ!!」

涙混じりの声が、スマホから流れてくる。
俺は虚ろな目でスマホを足元に置いた。

「おい聞いてんのか影島!!」

聞いてるよ、橋田。お前、やっぱ良い奴だよ。

「電話出たなら一言くらい喋れよ!!」

はは、そうだよなぁ、電話出たのに喋らねぇのなんか、おかしいよなぁ、

「おい影島?影島!?」

もう、これで良いんだ。

俺はそのまま、もう誰一人として寄り付かなくなった実家から身を投げた。

「影島、影島あああああ!!」

もう良いよ、橋田。
お前、喉弱いんだからそんなに叫んだら喉、潰れるって。
お前、カラオケで3曲歌っただけで、喉、死んでたよなぁ、

そんなことを思ってる間にも、身体はどんどん落ちて行く。

落下していく途中で、様々な記憶がまざまざと、まるで絵本を読んでいるかの様に断片的に、そしてとてつもなくリアルに蘇ってきた。

俺はゆっくりと、かつ確実に目を閉じた。

短くも長くも思えたこの25年間は、俺の意思によって、あっけなく閉ざされることとなった。

ハグレモノの俺に、1番相応しく、そして



1番悲しく、1番残酷に。
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