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異世界転生
第1話:始まり
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「俺はずっとここいるから、大丈夫だよ」
十歳ほどの少年が慈愛に満ちた目で、病室のベッドに横たわる老人の手を握っている。老人の身体はありとあらゆるチューブで繋がれていた。少年が来てから一度も目を覚ましてはいない。しかし、その瞳には涙が浮かんでいた。
少年は返事がなくとも励ましの声をかけ続ける。しかし、ほどなくして老人の命の灯は消え去ってしまう。
それを教えてくれた電子音が、室内に鳴り響いても少年は手を離さない。数十秒後、白衣を着た医者と看護師が現れ、二人の仲を引き裂いた。手慣れた手つきで老人の遺体をどこかに運んでいく。
残された少年は静かに立ち上がると、病室を後にした。悲しさで溢れているが、涙は流れていない。
いくつかの廊下を経由して、自分の部屋の扉を開いた。そして、ベッドにもぐりこむ。
天井を見上げて、自らの手を天にかかげる。
「俺も……おなじようになるんだな」
老人のことを考えながら、少年は想いを馳せた。あんなこともあったな、こんなこともあったなと思い返していると、いつのまにか涙を流しながら眠っていた。
翌日、少年は目を覚ますと、何ごともなかったかのように部屋を後にした。
細い廊下を通って、処置室と書かれたドアを開く。どの部屋も白を基調としている。
目の前の椅子に座ると、無言で腕を差し出した。白衣を着た医者は、少年の腕に注射を打つと、いつものだよ、と言って薬を飲ませる。
少年は、ありがとうとお礼を言って、処置室から出ると、賑やかな声に導かれがら歩いた。
開けた場所に出ると、子供たちがいっぱい遊んでいる。上の表札には自由室と書かれていた。見渡す限りに、もふもふの絨毯が敷き詰められている。そこでは、子供たちが楽しそうおもちゃであそんでいる。
少年は靴を脱いで、絨毯の上を飛び跳ねながら、親友の元に向かった。
ここは、日本から少し離れた孤島。ルナー症候群と呼ばれる症状を患っている子供たちが収容されている施設だ。
別名、早老症と呼ばれていて、ある一定の年齢を過ぎると、老化現象が進んで死に至る。昨晩の老人は、まだ十一歳の男の子だったのだ。
老人を看取った少年は、おもちゃを手に楽しそうな声をあげていた。隣には、親友の二人が立っている。
「俺はナイト! アイレだ! 二人を守ってあげる!」
アイレはおもちゃの剣を掲げている。右手には何かの蓋を盾のように持っていた。
「俺は勇者、ヴェルネル! 世界の平和はボクが守るよ!」
「私は魔法使いレムリ! 魔法でびゅーん!」
親友の二人は、ヴェルネル、レムリと名乗った少年少女だった。三人はアニメの主人公のように堂々としている。
言わずもがな、三人は同様の病気を患っている。いずれは、昨晩の老人のように老衰で死亡してしまう。
この病気に明確な治療法は存在しない。
三人はお揃いの洋服に身を包んでいた。この施設の子供たちはいくつかの洋服の中から自由に選ぶことができる。青と白のストライプのシャツに、縦じまが入った黒いズボンとスカート。どこか気品を感じさせる、まるで高貴な学校の制服のようだった。
「やっぱり、決めセリフって恥ずかしいかも……」
魔法使いの恰好をしていたレムリが、頬を赤らめながら言った。それを見かねたアイレとヴェルネルが言い合いをはじめる。
「大丈夫だよ! 僕がレムリをまもってあげるから」
「いや、俺がレムリをまもる!」
「僕だ!」「俺だ!」
その理由は、どちらがレムリを守れるか。次第に喧嘩はヒートアップしていく。レムリはなんとか喧嘩を止めようとしたが話しを聞いてくれない。そして、ハッと閃いて注目を集める為に咳払いをした。
「ふたりともやめて!――私は自分の身は自分で守れるわ」
「第五話のセリフだ」
「あの時のやつだ!」
レムリの狙いは成功。アイレとヴェルネルは興奮しながら声をあげた。その言葉は、三人が毎週欠かさずに見ているアニメの台詞だった。
施設では、治療を除いて自由に行動することができる。自室に籠ることも可能だが、三人は殆どの時間を一緒に過ごしていた。
アニメの時間になると、三人は必ずテレビの前に移動する。
アニメのストーリーはこうだ。現実世界で死亡した主人公は異世界に転生する。その後、勇者となり、魔法使いと騎士と共に世界を救っていく。
いつしか三人は、このアニメみたいに異世界で旅をしたいと思っていた。いずれは死ぬ運命にあるからこそ、本気で感情移入していた。
また、アイレ、ヴェルネル、レムリというのは本名ではない。なぜなら、本名はアニメの主人公っぽくはないと、自分たちで名付けた。
当人以外はその呼び名に困ったが、それでも止めなかった。
転生したとき、自分たちの名前を忘れない為に。
アニメを見終えると、戦いごっこがはじまる。おもちゃの剣と盾、魔法使いの杖を持って冒険のはじまりだ。しかし、これに決まった終わりはない。誰かが疲れ果てるまで、永遠に続くのだ。
そんなある日、三人が自由室で遊んでいると、レムリのパパとママが面会にやって来た。レムリの両親は、仕事の休みや合間があれば駆けつけてくれる。
一方で、アイレとヴェルネルは天涯孤独だった。二人とも、両親がいない。物心つくころから孤児院出身で、外の世界についてもわからないことのほうが多い。なぜなら、直接この施設に入所したからだ。似た者同士の二人はすぐに仲良しになった。
八歳のアイレにとって、九歳のヴェルネルは頼れるお兄さんだった。
いつしか二人は、右拳を前に突き出して合わせるポーズを家族の絆としてするようになる。
後から入所したレムリは、二人のポーズを羨ましく思って、拳を合わせたところに両手を被せた。それからは三人の家族の絆となった。
そして、三人にとっては苦しくも幸せな三年が過ぎた頃に、レムリの容態が悪化した。十三歳の誕生日を迎えた翌日だった。
サラサラで綺麗だった黒髪は、見る影もないほど真っ白になり、透明感のあある白い肌は、まるで老婆のようにガサガサになった。
手足は骨が浮き出るほどに痩せ衰えて、数時間ほどで視界が完全に失われた。
知らせを聞いたアイレは、自室で身体を震わせていた。今まで大勢の仲間を看取ってきたアイレにとっても、レムリは特別だったからだ。しかし、一人にさせるわけにはかないと、自らを奮い立たせた。すぐに、ヴェルネルの部屋に向かった。
「ヴェルネル、いいか?」
扉を叩いて、ドアを開ける。部屋の隅っこでヴェルネルがうずくまっていた。間違いなく、ヴェルネルも知っている。
「アイレ……」
「行こう。レムリを一人にさせるのはダメだ」
項垂れているヴェルネルに、アイレは優しく声をかけた。しかし、ヴェルネルは立ち上がろうとはしない。目を瞑ったまま、涙を流している。
「無理だ……俺は怖い。レムリの姿を見ることができないんだ。死ぬなんて、ありえないだろ……俺たちはまだ……子供なのに……」
現実逃避するかのように、ぶつぶつと呟きはじめた。とはいえ、アイレは気持ちが十分に理解できる。レムリの最後の姿を見るのは、それほどつらいのだ。けれども、一緒に来てほしかった。
「……俺はレムリの元へ行ってくる」
その言葉を残して、アイレはレムリの病室へ走った。その後、ヴェルネルは悲鳴のように泣き叫んだ。
扉の前でアイレは深呼吸をしていた。絶対に泣かないように、何があってもレムリを怖がらせないようにと言い聞かせた。
ゆっくり扉を開くと、レムリは老人のようにベッドで横になっている。
身体には無数のチューブ。
それでも、心は揺れ動かない。揺れ動かせない。ベッドの横に備え付けられている椅子に座ると、声をかけた。
「レムリ、待たせてごめんな」
それから、優しく手を握った。ほんの少し力を入れるだけで、壊れそうな華奢な手になっている。下唇を噛みながら、涙を流さないように堪えた。
「ヴェルネルは怪我をしちゃってこれないんだ。でも、すっごく心配してた」
アイレは嘘をついた。レムリの意識があるかどうかはわからない。それでも、きっと届いていると信じて声をかけ続けた。レムリが死ぬことはわかっている。ならば、最後は寂しい想いをさせたくない。
一方、レムリは微かな意識があった。なんとか力を振り絞って、アイレの声を聞いていた。手には暖かいぬくもりを感じている。涙を流す機能はすでに失われているが、心は安心していた。
一人じゃない、私は――一人じゃない、と。
それに、レムリはわかっていた。ヴェルネルは自分の最後を見ることはできない。なぜなら、ヴェルネルは誰よりも優しいからだ。
そんな彼が、親友である私の姿を見れるわけがない。けれども、ヴェルネルには感謝でいっぱいだった。今までありがとう、だから、気にしないでとヴェルネルに声をかけていた。
そして、意識が途切れそうになった瞬間、レムリはアニメを思い出していた。
現実世界で死亡した主人公が、異世界に転生して旅をする。困った人を助けながら、自由を謳歌する。誰よりも強く、気高く、誇り高い冒険者のことを。
レムリは心の中でまだ生きたいと願った。その声は誰にも届かない。けれども、誰よりも強く叫んだ。
最後の最後に、力を振り絞って僅かに口を開いた。隣にいるアイレでさえも聞こえない声で、
「……みんな、大好きだよ」
アイレとヴェルネル、パパとママ、施設にいる全ての人に贈る言葉だった。
そして、レムリは息を引き取った。胸元には、小さい頃に母親からプレゼントでもらった『レムリアンシード』の水晶を身に付けている。それを自身の名前に付けていた。
レムリは僅か十三歳で、その生涯を終えた。
十歳ほどの少年が慈愛に満ちた目で、病室のベッドに横たわる老人の手を握っている。老人の身体はありとあらゆるチューブで繋がれていた。少年が来てから一度も目を覚ましてはいない。しかし、その瞳には涙が浮かんでいた。
少年は返事がなくとも励ましの声をかけ続ける。しかし、ほどなくして老人の命の灯は消え去ってしまう。
それを教えてくれた電子音が、室内に鳴り響いても少年は手を離さない。数十秒後、白衣を着た医者と看護師が現れ、二人の仲を引き裂いた。手慣れた手つきで老人の遺体をどこかに運んでいく。
残された少年は静かに立ち上がると、病室を後にした。悲しさで溢れているが、涙は流れていない。
いくつかの廊下を経由して、自分の部屋の扉を開いた。そして、ベッドにもぐりこむ。
天井を見上げて、自らの手を天にかかげる。
「俺も……おなじようになるんだな」
老人のことを考えながら、少年は想いを馳せた。あんなこともあったな、こんなこともあったなと思い返していると、いつのまにか涙を流しながら眠っていた。
翌日、少年は目を覚ますと、何ごともなかったかのように部屋を後にした。
細い廊下を通って、処置室と書かれたドアを開く。どの部屋も白を基調としている。
目の前の椅子に座ると、無言で腕を差し出した。白衣を着た医者は、少年の腕に注射を打つと、いつものだよ、と言って薬を飲ませる。
少年は、ありがとうとお礼を言って、処置室から出ると、賑やかな声に導かれがら歩いた。
開けた場所に出ると、子供たちがいっぱい遊んでいる。上の表札には自由室と書かれていた。見渡す限りに、もふもふの絨毯が敷き詰められている。そこでは、子供たちが楽しそうおもちゃであそんでいる。
少年は靴を脱いで、絨毯の上を飛び跳ねながら、親友の元に向かった。
ここは、日本から少し離れた孤島。ルナー症候群と呼ばれる症状を患っている子供たちが収容されている施設だ。
別名、早老症と呼ばれていて、ある一定の年齢を過ぎると、老化現象が進んで死に至る。昨晩の老人は、まだ十一歳の男の子だったのだ。
老人を看取った少年は、おもちゃを手に楽しそうな声をあげていた。隣には、親友の二人が立っている。
「俺はナイト! アイレだ! 二人を守ってあげる!」
アイレはおもちゃの剣を掲げている。右手には何かの蓋を盾のように持っていた。
「俺は勇者、ヴェルネル! 世界の平和はボクが守るよ!」
「私は魔法使いレムリ! 魔法でびゅーん!」
親友の二人は、ヴェルネル、レムリと名乗った少年少女だった。三人はアニメの主人公のように堂々としている。
言わずもがな、三人は同様の病気を患っている。いずれは、昨晩の老人のように老衰で死亡してしまう。
この病気に明確な治療法は存在しない。
三人はお揃いの洋服に身を包んでいた。この施設の子供たちはいくつかの洋服の中から自由に選ぶことができる。青と白のストライプのシャツに、縦じまが入った黒いズボンとスカート。どこか気品を感じさせる、まるで高貴な学校の制服のようだった。
「やっぱり、決めセリフって恥ずかしいかも……」
魔法使いの恰好をしていたレムリが、頬を赤らめながら言った。それを見かねたアイレとヴェルネルが言い合いをはじめる。
「大丈夫だよ! 僕がレムリをまもってあげるから」
「いや、俺がレムリをまもる!」
「僕だ!」「俺だ!」
その理由は、どちらがレムリを守れるか。次第に喧嘩はヒートアップしていく。レムリはなんとか喧嘩を止めようとしたが話しを聞いてくれない。そして、ハッと閃いて注目を集める為に咳払いをした。
「ふたりともやめて!――私は自分の身は自分で守れるわ」
「第五話のセリフだ」
「あの時のやつだ!」
レムリの狙いは成功。アイレとヴェルネルは興奮しながら声をあげた。その言葉は、三人が毎週欠かさずに見ているアニメの台詞だった。
施設では、治療を除いて自由に行動することができる。自室に籠ることも可能だが、三人は殆どの時間を一緒に過ごしていた。
アニメの時間になると、三人は必ずテレビの前に移動する。
アニメのストーリーはこうだ。現実世界で死亡した主人公は異世界に転生する。その後、勇者となり、魔法使いと騎士と共に世界を救っていく。
いつしか三人は、このアニメみたいに異世界で旅をしたいと思っていた。いずれは死ぬ運命にあるからこそ、本気で感情移入していた。
また、アイレ、ヴェルネル、レムリというのは本名ではない。なぜなら、本名はアニメの主人公っぽくはないと、自分たちで名付けた。
当人以外はその呼び名に困ったが、それでも止めなかった。
転生したとき、自分たちの名前を忘れない為に。
アニメを見終えると、戦いごっこがはじまる。おもちゃの剣と盾、魔法使いの杖を持って冒険のはじまりだ。しかし、これに決まった終わりはない。誰かが疲れ果てるまで、永遠に続くのだ。
そんなある日、三人が自由室で遊んでいると、レムリのパパとママが面会にやって来た。レムリの両親は、仕事の休みや合間があれば駆けつけてくれる。
一方で、アイレとヴェルネルは天涯孤独だった。二人とも、両親がいない。物心つくころから孤児院出身で、外の世界についてもわからないことのほうが多い。なぜなら、直接この施設に入所したからだ。似た者同士の二人はすぐに仲良しになった。
八歳のアイレにとって、九歳のヴェルネルは頼れるお兄さんだった。
いつしか二人は、右拳を前に突き出して合わせるポーズを家族の絆としてするようになる。
後から入所したレムリは、二人のポーズを羨ましく思って、拳を合わせたところに両手を被せた。それからは三人の家族の絆となった。
そして、三人にとっては苦しくも幸せな三年が過ぎた頃に、レムリの容態が悪化した。十三歳の誕生日を迎えた翌日だった。
サラサラで綺麗だった黒髪は、見る影もないほど真っ白になり、透明感のあある白い肌は、まるで老婆のようにガサガサになった。
手足は骨が浮き出るほどに痩せ衰えて、数時間ほどで視界が完全に失われた。
知らせを聞いたアイレは、自室で身体を震わせていた。今まで大勢の仲間を看取ってきたアイレにとっても、レムリは特別だったからだ。しかし、一人にさせるわけにはかないと、自らを奮い立たせた。すぐに、ヴェルネルの部屋に向かった。
「ヴェルネル、いいか?」
扉を叩いて、ドアを開ける。部屋の隅っこでヴェルネルがうずくまっていた。間違いなく、ヴェルネルも知っている。
「アイレ……」
「行こう。レムリを一人にさせるのはダメだ」
項垂れているヴェルネルに、アイレは優しく声をかけた。しかし、ヴェルネルは立ち上がろうとはしない。目を瞑ったまま、涙を流している。
「無理だ……俺は怖い。レムリの姿を見ることができないんだ。死ぬなんて、ありえないだろ……俺たちはまだ……子供なのに……」
現実逃避するかのように、ぶつぶつと呟きはじめた。とはいえ、アイレは気持ちが十分に理解できる。レムリの最後の姿を見るのは、それほどつらいのだ。けれども、一緒に来てほしかった。
「……俺はレムリの元へ行ってくる」
その言葉を残して、アイレはレムリの病室へ走った。その後、ヴェルネルは悲鳴のように泣き叫んだ。
扉の前でアイレは深呼吸をしていた。絶対に泣かないように、何があってもレムリを怖がらせないようにと言い聞かせた。
ゆっくり扉を開くと、レムリは老人のようにベッドで横になっている。
身体には無数のチューブ。
それでも、心は揺れ動かない。揺れ動かせない。ベッドの横に備え付けられている椅子に座ると、声をかけた。
「レムリ、待たせてごめんな」
それから、優しく手を握った。ほんの少し力を入れるだけで、壊れそうな華奢な手になっている。下唇を噛みながら、涙を流さないように堪えた。
「ヴェルネルは怪我をしちゃってこれないんだ。でも、すっごく心配してた」
アイレは嘘をついた。レムリの意識があるかどうかはわからない。それでも、きっと届いていると信じて声をかけ続けた。レムリが死ぬことはわかっている。ならば、最後は寂しい想いをさせたくない。
一方、レムリは微かな意識があった。なんとか力を振り絞って、アイレの声を聞いていた。手には暖かいぬくもりを感じている。涙を流す機能はすでに失われているが、心は安心していた。
一人じゃない、私は――一人じゃない、と。
それに、レムリはわかっていた。ヴェルネルは自分の最後を見ることはできない。なぜなら、ヴェルネルは誰よりも優しいからだ。
そんな彼が、親友である私の姿を見れるわけがない。けれども、ヴェルネルには感謝でいっぱいだった。今までありがとう、だから、気にしないでとヴェルネルに声をかけていた。
そして、意識が途切れそうになった瞬間、レムリはアニメを思い出していた。
現実世界で死亡した主人公が、異世界に転生して旅をする。困った人を助けながら、自由を謳歌する。誰よりも強く、気高く、誇り高い冒険者のことを。
レムリは心の中でまだ生きたいと願った。その声は誰にも届かない。けれども、誰よりも強く叫んだ。
最後の最後に、力を振り絞って僅かに口を開いた。隣にいるアイレでさえも聞こえない声で、
「……みんな、大好きだよ」
アイレとヴェルネル、パパとママ、施設にいる全ての人に贈る言葉だった。
そして、レムリは息を引き取った。胸元には、小さい頃に母親からプレゼントでもらった『レムリアンシード』の水晶を身に付けている。それを自身の名前に付けていた。
レムリは僅か十三歳で、その生涯を終えた。
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