老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

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ラコブニーク王国

第70話:復活

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  アイレはレムリを背負いながら、地上へ向かって階段を駆け上っていた
 
 「ちきしょう……」

 安全などこかへ早く移動しないといけない。心臓の動機とは裏腹に、頭が冴えていくようだった。
 神速は、残りの魔力を考えるとあと一回程度。もしかしたら使えない可能性もある。

 敵と遭遇してしまった場合、どういう対処をすればいいのか、脳内で幾多の戦闘趣味レーションを重ねた。それから、ほどなくすると、パギダに拷問されていた部屋まで辿り着くことができた。
 フェアとグレースは一体どこにいるんだ……。
 
 呼吸を整えながら、背負っているレムリの様子を確認した。だいぶやつれているが、息はしている。白い肌と黒い髪が本当に懐かしい。しかし、30年経過してるとは思えない。
見た目は、ほとんどアイレと変わらない。すぐにでも、治癒魔法をしてもらわないと……。

 アイレはレムリを優しく地面に下ろすと、地上に上がる階段の先に耳を傾けた。
やはり、兵士たちの声が聞こえる。
 足音を消すように、ゆっくりと歩くと、心臓が爆音のように身体中に響いた。

 静かに魔力を漲らせ、ダンジョンの武器を出現させると、談笑していた兵士の一人の首を掻っ切った。

「おまえ、どうや――」

 続けざまにアイレは二人目の兵士の心臓を一突きした。返り血が服にかかり、いつもなら少しは申し訳ないと思うが、今は何度も切り付けたい欲望が溢れ出るようだった。

 すぐに地下に戻ると、レムリを再び担ぐと、宮殿の出口へ向かった。すると――

「駆け落ちは許可してないんだけどなぁ」

 アイレの道を塞ぐように、瑠璃色の髪をしたレッグが現れた。

「おまえがやったのか?」

 反射的に言葉が出た。レッグは華奢な見た目と違って力が強い。アイレの腕を施錠したときに凄まじい力を感じた。

「んー。どうだろう? でも、逃げるのは良くないよ」

 レッグは何か含みがある言い方をしたが、その場から退く気配はない。
 
「……どけ」

「やだね。それに仲間を見捨てていいの?」

 レッグが言っているのは十中八九、フェアとグレースのことだろう。引っかけて、こちらの言葉を誘うような雰囲気には見えない。

「ほら、後ろ」

 レッグの言葉にアイレは後ろを振り向いたが、誰もいなかった。再び前を向くと
レッグが距離を詰めて蹴りを繰り出していた。

 アイレは寸前のところで避けると、鼻先がズキズキと痛んだ。当たれば間違いなくただではすまない。

「今の避けれるんだ、凄いじゃん」

 レッグはさも嬉しそうにした。戦いを楽しんでいるタイプに見える。

「俺は……助けたいだけなんだ。今は見逃してくれないか」

「やだよ。だって楽しいじゃん。逃げたくてたまんないわけでしょ?」

 アイレを小馬鹿にするかのように、鼻歌混じりで笑みをこぼした。その態度を見て、アイレはレムリをゆっくりと地面に下ろすと、緩急をつけて地を蹴った。

「え?」

 アイレはそのまま短剣を鋭く突き出すと、レッグの顔面をズタズタにしようとした。
 レッグはなんとか体を捩りながらアイレの攻撃を紙一重躱しが、頬に赤い線が一筋走る。

「次、歯を見せて笑ってみろ。あの世で後悔するぞ」

 アイレのその言葉で、レッグは笑うのを止めた。その手に武器はなく、魔力を漲らせるだけだったが、身体中から漲っているのが眼で見える。

 アイレは再び距離を詰めると、レッグの頸動脈を狙った。ほんの数センチでも、致命傷になりうる場所。レッグはそれを見てしゃがんで躱すと、手を支点に体を回転させながら、低い姿勢でアイレの足に攻撃を仕掛けた。

 慣れない攻撃で、アイレは後方に跳躍したが、それを誘っていたかのようにレッグが前蹴りを繰り出す。

 アイレは短剣を盾にするように交差をさせると、レッグの蹴りを防いだが、衝撃で身体が後ろにずれる。

「絶対決まったと思ったのに」

 レッグが次の言葉を喋る前に、アイレは再び攻撃を仕掛けた。首、心臓、眼、躊躇なく連撃を繰り出した。

 急がないと行けない。レムリが、フェアが、グレースが。その心配が、アイレのいつもの冷静は判断を少し狂わせた。

「攻撃が単調になってきてるけど、そこに倒れてる汚い女が心配?」

 レッグの一言でアイレは心臓を締め付けられるような気持ちでと共にキレた。大振りの仕掛けを、レッグはそれを見逃さなかった。

 ギリギリで撃を避けると、返しざまにアイレの右わき腹に蹴りで一撃を入れた。
 骨が軋み、あばらが数本折れる。苦痛で顔を歪ませながら、アイレはそのまま吹き飛び回転しながら地面に吹き飛んだ。

「ねぇ、笑ってるよ? いいの?」

 アイレはゆっくりと立ち上がると、深呼吸をした。後何回できるかどうかもわからないが、ここが正念場だと思った。

「――神速《ディビーツ》」

 アイレはその言葉を呟くと、レッグの反応速度が追いつかない速さで動いた。笑いながら、アイレを見ていた首を狙って両手で短剣を鋏《はさみ》のように。

 人間を殺すのはアイレにとってもあまりしたくない。だが、今はそんな気持ちが微塵も過らないほど、怒りに満ちていた。
 レッグの首がアイレの短剣に触れると、綺麗に切断され血を飛び散らせながら空中を飛んだ。身体に残った鮮やかな切断面が、その鋭さを証明している。

 やがれレッグの首は地面に落ちると、糸が切れたように身体も倒れた。

 アイレは呼吸を整え、少しだけ膝をつくと、利の余韻にもひたらずすぐにレムリの元へ戻った。しかし、背中からじゅくじゅくと奇妙な音が耳に入る。

 嫌な予感がして振り向くと、地面に落ちているレッグの首の血が空中を漂っていた。飛び散った肉片も、骨もまるで逆再生のように身体を形成した。

 再びレッグの体が完全に出来上がると、何ごともなかったかのように首をポキポキと鳴らした。

「ふう、さんきゅー。アイ」

 レッグが後ろを見ずにお礼を言った。その背には練色《ねりいろ》の髪をした少女が掌を翳していた。年齢は10歳ぐらい。
 
「ばかレッグ。なんで油断してるの?」

「わりぃわりぃ。こいつ素早くてさ」

 レッグは再び、身体中に魔力を漲らせた。
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