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ラコブニーク王国
第72話:合流
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アイレ達は街を走り抜けていた。入口で規則正しく動いていた兵士たちの姿は見当たらなかった。
それでも警戒を絶やさず、何が起きても動けるようにフェアは感知を絶やさなかった。
「レムリはどこにいたの?」
手足が瘦せ衰え、頬がこけて肌が傷だらけになっているレムリを見ながら、胸が締め付けられるような気持ちでフェアが言った。
「……くそみてーな場所だよ。レムリが元気になったら、俺がこの国を潰してやる」
「あたしが言えた義理じゃないけど、復讐に囚われすぎないようにしな。あんたのその眼、ヴェルネルにそっくりだよ」
アイレはグレースの言葉に言い返すことはしなかった。
「まずは冒険者ギルドに向かおう」
「大丈夫なの?」
「レッグってやつは、多分レムリのことを知らなかった。きっと冒険者ギルドも知らない」
「もしリンがあいつらの仲間だったら――」
「そん時は俺が殺る」
アイレは抑えきれない殺意で溢れていた。今この状態で、誰かが進路を妨げるようなことがあれば、子供であれど躊躇なく殺せるだろう。そんな気分だった。
痩せこけたレムリを背負っているアイレがよっぽど怪しく思えたのか、通り抜けるたびに、街がざわつく。その様子から、やはりレムリの存在は市民にも周知されていないようだった。
ようやくたどり着いた冒険者ギルドの扉を開けると、そこにはリンと見慣れた脊の高い男が何か話していた。
「アイレくん! …‥その女性は?」
「ひぇ~! ど、どうしたんですかッ!?」
高くもなく、低くもなく、落ち着いたアズライトの声が3人の安心を誘う。最初にここへ来たのは、間違いではなかった。
「なんでここにいるんだ!?」
「君たちの身を案じてきたんだ。その女性が例の……?」
「レムリだ。今すぐにここを出たい。ルチルはどこにいる?」
アズライトはレムリの姿を確認すると、その痛々しい姿に気が付いた。
「なんてことを……。ルチルっ!」
アズライトが名前を叫ぶと、冒険者ギルド内の一部の次元が歪み大きな穴が開いた。
見慣れた黒い窓からルチルが現れる。
「えぇッ!? な、なんですかコレッ!? え、え、エルフ!?」
「ルチル、今すぐ治してくれ」
アイレは丁寧にレムリを下ろすと、ルチルは何も言わずにレムリに治癒魔法を施した。
「酷い……誰がこんなことしたの……」
誰かがレムリの心配をするたびに、アイレは胸が締め付けられた。
「この国の宮殿にいた奴らだ。リン、お前は関与してないよな?」
アイレは鋭い口調でリンを睨んだ。
「ええッ!? わ、私ですかッ!?」
「アイレくん、彼女は何も知らない。冒険者ギルドは、国の権力に囚われず個々の組織を確立している」
突然の問いかけに怯えたリンを、アズライトが庇う。
「ならいい。ルチル、どうだ?」
「……身体の傷は全部治せる。でも、心が魔力でごちゃごちゃになってる。上手く説明ができないけど、意識がすぐに戻るかどうか……」
「どういうことだよ。大丈夫だよな?」
「わからない……」
「わからないってなんだ? ハッキリしてくれよ!」
明らかに苛立ちを見せるアイレに、フェアが、
「ちょっとアイレ! ルチルは一生懸命してるでしょ! 落ち着いてよ!」
ルチルを庇うようにアイレの肩を掴んだ。
「これが落ち着いてられるかよ! お前になにがわかるんだよ!!!!!」
パギダに切断された小指から血が滴り、その傷が痛むたびにレムリが何をされていたのかが頭を過らせていた。フェアが言葉に詰まった姿を見て、グレースが、
「あんたまじで――」
何かを言い終わる前に、冒険者ギルドの扉が強く叩かれた。
兵士たちの騒ぐ音が聞こえる。続けざまにフェアが、
「……20人ぐらい外にいるわ。急いでここから離れないと」
「あの、どういうことなんですかッ!?」
「まずはここから出よう」
「傷は全部治したよ。かなり……痛めつけられてたみたいだった」
ルチルがアイレを気遣いながらも、ハッキリと言った。アイレは殺意を抑えながら、
「ルチル、窓を頼む」
と、頼んだ。ルチルは静かに「みんなでいこう」を詠唱すると、再び黒い窓を出現させた。
「アイレくん、行こう。インザームが待ってる。リンさん、あなたも来たほうがいい」
アイレはルチルを背負うと、すぐに窓をくぐった。ルチルとアズライトもそれに続いて
フェアとグレースも無言でついて行った
リンは残されたまま、あわてふためいていたが、ギルドの扉が破られると迷わず窓の中に飛び込んだ。
「な、なんじゃ!?」
ラコブニーク王国の数キロ先、どちらかというと東よりの何もない砂砂漠《すなさばく》。
岩の木陰で太陽から隠れていたインザームの元に、アイレ達が現れた。
レムリの姿を見るやいなや、足先から頭のてっぺんまで身体を震わせながら、大粒の涙を流した。痛々しい傷跡はすでに治癒されて綺麗な肌になっている。
「レムリ……生きておったのか……」
「ああ……」
アイレはインザームが喜んでいる姿とレムリが囚われていたラコブニーク王国から抜け出したことで、少し冷静さを取り戻していた。
「えーとッ、すみません、一体どういうッ!? こ、ここは!?」
困惑しているリンをよそ目に、アズライトが早口で、
「ここはラコブニーク王国からそう離れてはいません。転移魔法のことは知られてないと思いますが、急いで離れましょう」
「そうじゃの……道中、色々聞かせてもらうぞ」
インザームが力強くアイレの肩を叩き、レムリを背負った。まだ意識は取り戻していない。
「どこへ行くんだ?」
「さらに東にルクレツィアという国があります。ラコブニーク王国と敵対関係にありますが、それを逆手に取りましょう。それに私の知り合いもいるはずです」
「……わかった。行こう」
アイレはインザームの背中で眠っているレムリを眺めたあと、
「ルチル、フェア、グレースさっきは本当に悪かった」
深く頭を下げた。
「……大丈夫だよっ、安全な場所に移動したらレムリさんの身体をまた看てみるね」
「気にしないで、今は無事を喜びましょう」
「ま~あたしは~二人がいいならそれで~」
それぞれアイレの背中を叩いた。
「えッと……、ルクレツィアってなんですかッ!?」
そしてすぐにルクレツィアに向けて歩き出した。
それでも警戒を絶やさず、何が起きても動けるようにフェアは感知を絶やさなかった。
「レムリはどこにいたの?」
手足が瘦せ衰え、頬がこけて肌が傷だらけになっているレムリを見ながら、胸が締め付けられるような気持ちでフェアが言った。
「……くそみてーな場所だよ。レムリが元気になったら、俺がこの国を潰してやる」
「あたしが言えた義理じゃないけど、復讐に囚われすぎないようにしな。あんたのその眼、ヴェルネルにそっくりだよ」
アイレはグレースの言葉に言い返すことはしなかった。
「まずは冒険者ギルドに向かおう」
「大丈夫なの?」
「レッグってやつは、多分レムリのことを知らなかった。きっと冒険者ギルドも知らない」
「もしリンがあいつらの仲間だったら――」
「そん時は俺が殺る」
アイレは抑えきれない殺意で溢れていた。今この状態で、誰かが進路を妨げるようなことがあれば、子供であれど躊躇なく殺せるだろう。そんな気分だった。
痩せこけたレムリを背負っているアイレがよっぽど怪しく思えたのか、通り抜けるたびに、街がざわつく。その様子から、やはりレムリの存在は市民にも周知されていないようだった。
ようやくたどり着いた冒険者ギルドの扉を開けると、そこにはリンと見慣れた脊の高い男が何か話していた。
「アイレくん! …‥その女性は?」
「ひぇ~! ど、どうしたんですかッ!?」
高くもなく、低くもなく、落ち着いたアズライトの声が3人の安心を誘う。最初にここへ来たのは、間違いではなかった。
「なんでここにいるんだ!?」
「君たちの身を案じてきたんだ。その女性が例の……?」
「レムリだ。今すぐにここを出たい。ルチルはどこにいる?」
アズライトはレムリの姿を確認すると、その痛々しい姿に気が付いた。
「なんてことを……。ルチルっ!」
アズライトが名前を叫ぶと、冒険者ギルド内の一部の次元が歪み大きな穴が開いた。
見慣れた黒い窓からルチルが現れる。
「えぇッ!? な、なんですかコレッ!? え、え、エルフ!?」
「ルチル、今すぐ治してくれ」
アイレは丁寧にレムリを下ろすと、ルチルは何も言わずにレムリに治癒魔法を施した。
「酷い……誰がこんなことしたの……」
誰かがレムリの心配をするたびに、アイレは胸が締め付けられた。
「この国の宮殿にいた奴らだ。リン、お前は関与してないよな?」
アイレは鋭い口調でリンを睨んだ。
「ええッ!? わ、私ですかッ!?」
「アイレくん、彼女は何も知らない。冒険者ギルドは、国の権力に囚われず個々の組織を確立している」
突然の問いかけに怯えたリンを、アズライトが庇う。
「ならいい。ルチル、どうだ?」
「……身体の傷は全部治せる。でも、心が魔力でごちゃごちゃになってる。上手く説明ができないけど、意識がすぐに戻るかどうか……」
「どういうことだよ。大丈夫だよな?」
「わからない……」
「わからないってなんだ? ハッキリしてくれよ!」
明らかに苛立ちを見せるアイレに、フェアが、
「ちょっとアイレ! ルチルは一生懸命してるでしょ! 落ち着いてよ!」
ルチルを庇うようにアイレの肩を掴んだ。
「これが落ち着いてられるかよ! お前になにがわかるんだよ!!!!!」
パギダに切断された小指から血が滴り、その傷が痛むたびにレムリが何をされていたのかが頭を過らせていた。フェアが言葉に詰まった姿を見て、グレースが、
「あんたまじで――」
何かを言い終わる前に、冒険者ギルドの扉が強く叩かれた。
兵士たちの騒ぐ音が聞こえる。続けざまにフェアが、
「……20人ぐらい外にいるわ。急いでここから離れないと」
「あの、どういうことなんですかッ!?」
「まずはここから出よう」
「傷は全部治したよ。かなり……痛めつけられてたみたいだった」
ルチルがアイレを気遣いながらも、ハッキリと言った。アイレは殺意を抑えながら、
「ルチル、窓を頼む」
と、頼んだ。ルチルは静かに「みんなでいこう」を詠唱すると、再び黒い窓を出現させた。
「アイレくん、行こう。インザームが待ってる。リンさん、あなたも来たほうがいい」
アイレはルチルを背負うと、すぐに窓をくぐった。ルチルとアズライトもそれに続いて
フェアとグレースも無言でついて行った
リンは残されたまま、あわてふためいていたが、ギルドの扉が破られると迷わず窓の中に飛び込んだ。
「な、なんじゃ!?」
ラコブニーク王国の数キロ先、どちらかというと東よりの何もない砂砂漠《すなさばく》。
岩の木陰で太陽から隠れていたインザームの元に、アイレ達が現れた。
レムリの姿を見るやいなや、足先から頭のてっぺんまで身体を震わせながら、大粒の涙を流した。痛々しい傷跡はすでに治癒されて綺麗な肌になっている。
「レムリ……生きておったのか……」
「ああ……」
アイレはインザームが喜んでいる姿とレムリが囚われていたラコブニーク王国から抜け出したことで、少し冷静さを取り戻していた。
「えーとッ、すみません、一体どういうッ!? こ、ここは!?」
困惑しているリンをよそ目に、アズライトが早口で、
「ここはラコブニーク王国からそう離れてはいません。転移魔法のことは知られてないと思いますが、急いで離れましょう」
「そうじゃの……道中、色々聞かせてもらうぞ」
インザームが力強くアイレの肩を叩き、レムリを背負った。まだ意識は取り戻していない。
「どこへ行くんだ?」
「さらに東にルクレツィアという国があります。ラコブニーク王国と敵対関係にありますが、それを逆手に取りましょう。それに私の知り合いもいるはずです」
「……わかった。行こう」
アイレはインザームの背中で眠っているレムリを眺めたあと、
「ルチル、フェア、グレースさっきは本当に悪かった」
深く頭を下げた。
「……大丈夫だよっ、安全な場所に移動したらレムリさんの身体をまた看てみるね」
「気にしないで、今は無事を喜びましょう」
「ま~あたしは~二人がいいならそれで~」
それぞれアイレの背中を叩いた。
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そしてすぐにルクレツィアに向けて歩き出した。
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