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ルクレツィア国
第78話:戦友
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14歳のフェローは、冒険者の依頼を受け山に薬草を取りにきていた。万病に効くと名高い「ニヒツ 」。道のりは困難なものの、魔物とは直接退治することのない仕事だった。
「んっしょっ……」
断崖絶壁に脚をかけ、力いっぱい身体を起こすと、側面に生えているニヒツを手に取る。用意していた籠に入れると、器用に山をするりと下った。
「なんとか今月も生きてられ――」
しかし、帰りの道中、予想外の魔物と遭遇した。全身は深い毛で覆われ、クマのような魔物。歯牙《しが》が鋭く、手の爪は人間の肉を簡単にそぎ落とす。
その体躯は、3メールを超える。
「熊爪《グリズリーアロー》……」
フェローは剣を構えると、必死に抵抗したがとても敵う相手ではなかった。絶体絶命の危機を救ったのが「カルム」と名乗る男だった。
それから数ヵ月、カルムはフェローと行動を共にした。そんなある日、
「フェロー、俺は祖国へ帰る。お前も来い、その勇気と努力はうちで生かせ。絶対に強くしてやる」
その言葉を信じ、カルムと東へ渡った。ラコブニーク王国ではなく、リーンズという小国だったが、カルムはフェローのような孤児の少年少女を大勢救っていたことをのちに知った。
いや、”集めていた”
リーンズ国は常に戦争状態で、魔物や魔族だけではなく国同士の争いも絶えなかった。フェローはそこの軍事少年兵として所属。しかし、そこでの生活は、存外《ぞんがい》楽しかった。
「キミの名前は?」
「……フェロー」
「だけ?」
「悪い?」
「いや、いいけど……ボクたちは今日から仲間だ。同じ班のみんなを紹介するよ――」
少年兵のほとんどが、両親を殺されたり、生まれてからずっと孤児だったり、そんな仲間と過ごす日々も悪くなかった。
厳しい訓練を受けたのち、何度も戦争に参加した。相手は魔物ではなく、人間との戦争の方が多かったかもしれない。死んでいく仲間を見ていくうちに
フェローの心は以前と変わっていった。守りたい、誰かを守れる力がほしいと。
そんなとき、フェローは魔力を向上させるための禁忌魔法があると打診される。魔族の血を受け入れることで、今より何倍も強くなる、と。
当時は妄信的な幼い子供だった。皆を守れるなら、両親の仇がとれるならと、二つ返事で答えた。しかしその代償は想像を絶していた。
目隠しをされ手足を拘束されると、身体のいたる所から液体という名の劇薬を投与された。夜通し魔法を身体中に詠唱され、耐え難い苦痛が何か月も続いた。
無限にも思える体感時間の末、フェローは魔族と人間のハーフとして生まれ変わった。今まででは考えられなかったほどの魔力を身体に有し、不死とまではいわないが、老いる速度も格段に低下した。
しかしそれでも戦況は何も変わらなかった。望まぬ戦いによって、仲間は一人、また一人と失った。
「カルム、あたしはこんなことがしたかったんじゃない」
「ふざけたことを言うな。お前は仲間を見放すのか? 両親の復讐のためにも今は目の前の敵と戦え」
次第にフェローは不信感を抱きはじめた。
それから数か月後、親友の最後の一人が死んだとき、フェローはついにリーンズから出国することを決めた。夜遅くに一人で作戦を決行したとき、兵士が見知った顔の死体を運んでいるのを目撃した。戦争で戦って死んだと報告された戦友だった。
フェローはいきり立ち、兵士を問いただすと、集められた少年兵のほとんどは実験台として利用されていたことを知った。それから直接関与していた人物を探し出すと、すべてを吐かせた。
魔族を禁忌魔法で召喚し、その中心に魔力の高い人柱を経由させ、フェローのような混血種を作り出していたこと、あまりにも自身が無知で浅はかだったと後悔した。すぐにその場から去ると、二度とこの国には戻らないと決めた。
それから数年後、リーンズは戦争に敗北して国は解体された。フェローは冒険者としてふたたび活動をはじめ、地位を確立させていった。しかし奢らず、冒険者としての誇りも決して忘れなかった。
シェル、クリアと出会うまでパーティー組まなかったのは、死んでいった仲間を忘れられなかったからなのかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェローがすべてを話し終わっても、誰も言葉を発しなかった。沈黙に耐えきれなかったのかフェローが、
「あたしは化け物なんだ。そして、レムリさんがもし人柱だったら……あたしは苦しめた一人かもしれない」
深々と頭を下げた。魔力の高い人柱がレムリだという可能性はなかったが、カルムが関与しているとなれば可能性は高い。
そんな姿を見て、インザームはフェローの体を持ち上げた。
「頭をあげるんじゃ、悪いのは非人道的な行為をした連中じゃ」
「どこまでがその実験に関わっているのか、すべてを解き明かす必要もありそうですね」
「あたしもそいつらみたいなクズは許せない」
「ルチルも大嫌い」
「……許せませんッ! 絶対に正義は勝ちますッ!」
アズライト、グレース、ルチル、リンそれに続いた。
「レムリを苦しめた人たちの罪を必ず償わせましょう」
「……レムリがもしその人柱で利用されてたとしたら、色々とおかしくないか?」
フェアが真っ直ぐ見据えて、アイレが疑問を抱いた。
「あたしもそう思ってる、それを裏付けする出来事もあるしな」
「裏付け?」
フェローの言葉にアイレが眉を潜める。
「レッグってやつは蒼い髪だっただろ?」
「ええ、そうだけど……」
「アイは金髪で、アームの髪は赤じゃなかったか?」
フェアが頷き、フェローは3人の特徴を的確に答えた。名前は伝えたが、髪色は教えていない。
「そいつらは30年前に死んだはずのあたしの戦友だ」
「キミの名前は?」
「……フェロー」
「だけ?」
「悪い?」
「いや、そんなことないよ。ボクたちは今日から仲間だ、みんなを紹介するよ」
「ボクがレッグで、ここのリーダーをしてる」
「そこで筋トレしてるバカそうなのが、アーム」
「バカはよけーだろ!」
「で、そこの小さいのがアイ、凄い魔法を使えるんだ」
「よろしく」
「皆《みんな》、彼女の名前はフェロー。今日からボクたちの仲間だ」
「んっしょっ……」
断崖絶壁に脚をかけ、力いっぱい身体を起こすと、側面に生えているニヒツを手に取る。用意していた籠に入れると、器用に山をするりと下った。
「なんとか今月も生きてられ――」
しかし、帰りの道中、予想外の魔物と遭遇した。全身は深い毛で覆われ、クマのような魔物。歯牙《しが》が鋭く、手の爪は人間の肉を簡単にそぎ落とす。
その体躯は、3メールを超える。
「熊爪《グリズリーアロー》……」
フェローは剣を構えると、必死に抵抗したがとても敵う相手ではなかった。絶体絶命の危機を救ったのが「カルム」と名乗る男だった。
それから数ヵ月、カルムはフェローと行動を共にした。そんなある日、
「フェロー、俺は祖国へ帰る。お前も来い、その勇気と努力はうちで生かせ。絶対に強くしてやる」
その言葉を信じ、カルムと東へ渡った。ラコブニーク王国ではなく、リーンズという小国だったが、カルムはフェローのような孤児の少年少女を大勢救っていたことをのちに知った。
いや、”集めていた”
リーンズ国は常に戦争状態で、魔物や魔族だけではなく国同士の争いも絶えなかった。フェローはそこの軍事少年兵として所属。しかし、そこでの生活は、存外《ぞんがい》楽しかった。
「キミの名前は?」
「……フェロー」
「だけ?」
「悪い?」
「いや、いいけど……ボクたちは今日から仲間だ。同じ班のみんなを紹介するよ――」
少年兵のほとんどが、両親を殺されたり、生まれてからずっと孤児だったり、そんな仲間と過ごす日々も悪くなかった。
厳しい訓練を受けたのち、何度も戦争に参加した。相手は魔物ではなく、人間との戦争の方が多かったかもしれない。死んでいく仲間を見ていくうちに
フェローの心は以前と変わっていった。守りたい、誰かを守れる力がほしいと。
そんなとき、フェローは魔力を向上させるための禁忌魔法があると打診される。魔族の血を受け入れることで、今より何倍も強くなる、と。
当時は妄信的な幼い子供だった。皆を守れるなら、両親の仇がとれるならと、二つ返事で答えた。しかしその代償は想像を絶していた。
目隠しをされ手足を拘束されると、身体のいたる所から液体という名の劇薬を投与された。夜通し魔法を身体中に詠唱され、耐え難い苦痛が何か月も続いた。
無限にも思える体感時間の末、フェローは魔族と人間のハーフとして生まれ変わった。今まででは考えられなかったほどの魔力を身体に有し、不死とまではいわないが、老いる速度も格段に低下した。
しかしそれでも戦況は何も変わらなかった。望まぬ戦いによって、仲間は一人、また一人と失った。
「カルム、あたしはこんなことがしたかったんじゃない」
「ふざけたことを言うな。お前は仲間を見放すのか? 両親の復讐のためにも今は目の前の敵と戦え」
次第にフェローは不信感を抱きはじめた。
それから数か月後、親友の最後の一人が死んだとき、フェローはついにリーンズから出国することを決めた。夜遅くに一人で作戦を決行したとき、兵士が見知った顔の死体を運んでいるのを目撃した。戦争で戦って死んだと報告された戦友だった。
フェローはいきり立ち、兵士を問いただすと、集められた少年兵のほとんどは実験台として利用されていたことを知った。それから直接関与していた人物を探し出すと、すべてを吐かせた。
魔族を禁忌魔法で召喚し、その中心に魔力の高い人柱を経由させ、フェローのような混血種を作り出していたこと、あまりにも自身が無知で浅はかだったと後悔した。すぐにその場から去ると、二度とこの国には戻らないと決めた。
それから数年後、リーンズは戦争に敗北して国は解体された。フェローは冒険者としてふたたび活動をはじめ、地位を確立させていった。しかし奢らず、冒険者としての誇りも決して忘れなかった。
シェル、クリアと出会うまでパーティー組まなかったのは、死んでいった仲間を忘れられなかったからなのかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フェローがすべてを話し終わっても、誰も言葉を発しなかった。沈黙に耐えきれなかったのかフェローが、
「あたしは化け物なんだ。そして、レムリさんがもし人柱だったら……あたしは苦しめた一人かもしれない」
深々と頭を下げた。魔力の高い人柱がレムリだという可能性はなかったが、カルムが関与しているとなれば可能性は高い。
そんな姿を見て、インザームはフェローの体を持ち上げた。
「頭をあげるんじゃ、悪いのは非人道的な行為をした連中じゃ」
「どこまでがその実験に関わっているのか、すべてを解き明かす必要もありそうですね」
「あたしもそいつらみたいなクズは許せない」
「ルチルも大嫌い」
「……許せませんッ! 絶対に正義は勝ちますッ!」
アズライト、グレース、ルチル、リンそれに続いた。
「レムリを苦しめた人たちの罪を必ず償わせましょう」
「……レムリがもしその人柱で利用されてたとしたら、色々とおかしくないか?」
フェアが真っ直ぐ見据えて、アイレが疑問を抱いた。
「あたしもそう思ってる、それを裏付けする出来事もあるしな」
「裏付け?」
フェローの言葉にアイレが眉を潜める。
「レッグってやつは蒼い髪だっただろ?」
「ええ、そうだけど……」
「アイは金髪で、アームの髪は赤じゃなかったか?」
フェアが頷き、フェローは3人の特徴を的確に答えた。名前は伝えたが、髪色は教えていない。
「そいつらは30年前に死んだはずのあたしの戦友だ」
「キミの名前は?」
「……フェロー」
「だけ?」
「悪い?」
「いや、そんなことないよ。ボクたちは今日から仲間だ、みんなを紹介するよ」
「ボクがレッグで、ここのリーダーをしてる」
「そこで筋トレしてるバカそうなのが、アーム」
「バカはよけーだろ!」
「で、そこの小さいのがアイ、凄い魔法を使えるんだ」
「よろしく」
「皆《みんな》、彼女の名前はフェロー。今日からボクたちの仲間だ」
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