老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

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ルクレツィア国

第80話:不意打ち

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 シェルが帰ってきたという情報を聞きつけ、アイレは訓練場にガルダスとアズライトを残してフェローたちの部屋の扉を開いた。それに気付いたシェルが、

「アイレ!」
「大丈夫だったか?」

 嬉しそうに駆け寄る。部屋にはフェローとクリアの姿。

「もちろんだよ、今ちょうど話していたところだ」
「何がだ?」
「ホムトフの兵士をつけていたら、シンドラたちの根城《アジト》を見つけたんだ。ヴェルネルやセーヴェルもいたよ」
「ヴェルネルが!? 何をしてたんだ?」
「何をしていたかはわからない。でも、魔物を召喚したり、兵士に指示を出していたよ。戦いが終わったことで油断しているはずだ、今度は僕たちから仕掛ける」

 シェルはフェローに冒険者を募るように伝えていた。その話はすでにルクレツィアに話も通っていて、今夜にでも出発するという。

「そうなのか……」

 レムリが生きていることをヴェルネルに伝えれば、戦闘は回避できるんじゃないか、そんな考えが過る。

 シェルが真っ直ぐな瞳で右手を勢いよく差し出す。

「レムリさんのことは聞いたよ。だけど、今が絶好のチャンスだ。アイレ、一緒に行こう」

「シェルの言うとおりだ。アイレ、お前はヴェルネルを殺すことに抵抗があるのはわかる、だがこんな機は何度も訪れない。仕掛けるときに全力を出すべきだ」
「私も……同意見です」

「ああ……。もちろんわかってる、俺も……行くよ」

 三人に促されるように、アイレは頷いた。心の底ではモヤが晴れずにいる。

「よし、あまり大人数では目立つ、少数精鋭でいこう。僕は根城《アジト》周辺の詳細な地図を確認するためルクレツィアの王のところへ行ってくるよ」
「あたしもついていこう、誰を連れていくかも精査《せいさ》しないといけないしな」
「あ、あの――」

 アイレが何か言いかけて、クリアが察して、

「アイレさん、レムリさんは……意識はまだ戻っていませ。ですが、命に別状はないようで、今は城の病室でゆっくり眠っています! 護衛兵も付いているみたいなので、安心してください!」

 申し訳なさそうに、それでいて励ますように言った。

「ありがとう。だったら、安心だな。みんながどこにいるか知ってるか?」
「グレースさんがさっき戻ってきてから、みんなで城内にある兵士の食堂に行ったみたいです。この話も通っているはずですから、のちのち合流できると思います」

 それから一時間後、フェローが選んだ冒険者とガルダスと数名の兵士。そして、アイレたちを含めた15人ほどで根城《アジト》に向かうことが決まった。全員が準備を済ませると
正門に集合した。 時刻は23時を過ぎており、城の外は真っ黒で何も見えない。

 フェロー、シェル、クリア、グレース、アズライト、フェア、アイレ、ガルダス、インザーム、冒険者数名、兵士数名。

 アイレがアズライトの姿を見つけて駆け寄る。

「ルチルは?」
「私が呼べばどこでも来れるので、ここにいてもらうことにしました」
「そうだな、レムリのことも考えると安心だ」
「リンも、戦いますッ! とかいってたけど、あたしが止めといた~」

 これから起きる出来事を前にしても、グレースは平常心でいる。一方でアイレとフェアとインザームは、冷静を保つので必死だった。
 フェアとインザームは一言も発せず、複雑な想いを抱えているようだった。

 それからガルダスが全員の前に出て注目を集めた。

「これから魔王軍の根城《アジト》に向けて出発する。真っ暗だが、道中の案内は俺たちルクレツィアの兵士についてこれば問題ない。近くについたら、この娘(クリア)の魔法で姿を消して
総攻撃を仕掛ける。遠慮はいらねえ、弁解する暇も与えず、すべての魔力を初撃に込めろ。卑怯なんて言葉は戦場にはねえ、それを肝に銘じてくれ」

 これからの作戦を簡潔に伝えるとすぐに移動の指示を出す。ガルダスが戦闘を歩き、全員がそれに続いた。
 龍車や馬は使わず、音が極力出ないように徒歩になった。シェルが言うには、日が昇るまえには辿り着けるとのこと。

 暗闇の中をひたすらに全員で歩いた。ルクレツィアの兵士たちは、そんな中でも進路を取っている。たまに方向を変えたりもするので、アイレがどうやってるのかと尋ねると歩行距離を数えているとのことで、とても真似できない芸当だと思った。

 うっすらと前にいる人物だけを見据えて、砂砂漠《すなさばく》を進みながら、アイレは後ろにいるフェアに声をかけた。

「フェア、もしこれですべてが終わったらどうする」
「……わからないわ。今はなにも……考えられない」
「そう……だよな……」

 砂を蹴る音だけが、頭に響いた。

 それから数時間後、ガルダスが行進を止めた。そして全員を集めると、岩の影で灯りを兵士につけさせた。

「ここから約数キロメールと先に、シェルが発見した根城《アジト》があるはずだ。ここからはクリアの魔法で姿を隠して移動する」

 アイレがアクアに顔を向ける。

「大丈夫なのか?」
「大丈夫、だけど魔力は間違いなく切れると思う。後は……任せる」

 魔力が切れるということは、自衛の手段もなくなるということ。皆《みんな》を信頼して、クリアはしっかりと頷いた。

 フェローがクリアの頭ぽんぽんと叩きながら、

「守ってやるから安心しな」
「僕もだ」

 頼もしく言った。シェルもそれに続く。

「ここから会話は一切禁止する。何か伝えたいことがあれば今話しておいてくれ」

 ガルダスの言葉に、アイレはフェアとインザームを呼び寄せた。最後の……気持ちの確認をしたかった。
 グレースはそれに気付いて、そっと離れる。

 インザームとフェアは過去の記憶を思い返しながら、

「……ヴェルネルを完全に悪だとは思っておらん。じゃが、罪の償いはせにゃならん。安心しろ、するならワシがやる」
「……私も同じ覚悟だわ」

 ハッキリと意思を示した。アイレは目を瞑り覚悟を決めて、
 
「……するなら俺がやる。これは誰にも譲らない」

 二人の顔を真っ直ぐに見た。

 フェアとインザームは、その覚悟の強さを感じ取り、言葉を返すことはなかった。そしてクリアが全員に姿を消す魔法を詠唱すると
再び行進をはじめた。

 それから一時間もしないうちに、シェルが予《あらかじ》め伝えていた根城《アジト》が見えはじめた。

 何の変哲もないような煉瓦の建物がいくつか立っており、今は使われていないような古ぼけた塔や手つかずの畑。捨てられた村ということだった。
 しかしおかしなことに、ヴェルネルたちの気配はまったく感じられない。
 事前に聞いていた情報と少しだけ誤差を感じたが、村の近くまで静かに歩み寄ると、ガルダスは手信号で全員に指示を出した。

 村の中にゆっくりと忍び込んだが、やはり虫の鳴き声しか聞こえない。もうどこかに移動した後なのかもしれない、全員がそう思ったとき――

 地面が光はじめると、無数の魔法陣が浮かび上がった。するとその中心から大勢の魔物が召喚された。
 その数はザッと見ても、100匹は下らない。どの魔物も高い魔力を有している。

 そして誰かが叫んだ。

「罠だ!!!!!!!!」

 その言葉で、全員が戦闘態勢を取った。姿を消す魔法は一定以上の魔力を漲らせると、はじけ飛ぶように解除される。
 魔物は召喚されるいなや、お腹を空かしているのか人間を見つけると興奮して叫びはじめる。

 アイレたちは何だかわからないまま、戦うことになった。
 クリアは魔力を切らしていたので、フェローはその場から動かず、払いのけるように魔物を排除する。
 アイレは出し惜しみせずに神速を発動させると、暗闇の中でも音を聞き分け、次々と魔物の首を切断していった。

「ちきしょう! どういうことだ!」
「なんなのこよこれ!」

 インザームも、フェアも、アズライトも、手あたり次第に襲いかかってくる魔物を払いのけるように戦うが、仲間の位置が特定できずに魔法の詠唱を躊躇《ためら》う。
 そのせいで、誰もが苦戦を強いられている。 魔物の叫び声と誰かの声が重なり合う。その戦闘は夜通し続き、誰かが最後の一匹を殺したときに日が昇りはじめていた。地面は魔物の死体で溢れていて、その中に冒険者数名とルクレツィアの兵士の姿もある。生き残った誰もが魔物の返り血で染まっていた。

 幸いにも、アイレたちのよく知るメンバーは誰も死んではいないようだったが、あのフェローでさえも怪我を負っている。魔力切れのクリアが寄り添って支えていた。

 インザームもフェアも満身創痍《まんしんそうい》という状態で言葉を発することができずにいた。

 肩で息をしながら、アイレがようやく口を開いた。

「いったい……何が起きたんだ……」

 すると、すぐさまアズライトが大声で叫びながらうろたえはじめた。

「はやく戻らなければ!」

 脇腹から服にしみこむほど血が流れている。アイレはすぐに駆け寄ると身体を支えた。

「おい! 大丈夫か!?」
「はやく……戻らないと……」

 そこでようやく気付く。

「……ルチルは!?」
「戦闘中もずっと呼んでいましたが、応答がないんです。魔法で妨害されているのかと思いましたが……。それに……やはり彼の姿が……見えません……」

 アズライトがよろめきながら、全員の顔を見渡す。それを見て、アイレも異変に気づいた。

 シェルの姿が、どこにもみえないことに。

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