老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

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ルクレツィア国

第86話:地下道

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 クルムロフ城内は、アイレが思っているよりも広く、罠のことも考えて探索は慎重を期した。
 まずは王座の間から見てみようと、ヴェルネルの案内でそこにたどり着いた。
 中に入ると、左右に歴代の王の銅像が等間隔に並んでいる。その奥にはステンドグラスで出来た女神のガラスの絵が飾られていた。それはどこかレムリに似ていて、どこか落ち着く気がした。

「レムリ……」

 ヴェルネルが女神の絵をチラリとだけ見てからぼやく。

「本当にこの城にいるのか?」
「それは間違いない、説明はできないけど、わかるんだ」

 アイレがどこか不安に感じて、レムリとルチルのことを想う。

「あなたと……レムリが攻撃を受けていた広場はどうかしら? あそこは広いし、魔術を行うにもうってつけだわ」

 当時のことを思い返しながら、フェアが早口で二人に顔を向ける。

「……わかった。行ってみよう」

 ――――
 ――
 ―

「ここもいませんね……」

 アズライト、インザーム、グレースは部屋の扉を開けて閉めてを繰り返していた。今のところ、罠に遭遇はしていないが、いつ何が起きてもいいようにとインザームが魔力で眼を凝らしながら、何かの痕跡はないか確かめている。その部屋は応接間のようで、長椅子が二脚と大きなテーブルが設置されている。

「――あいつが嘘をついてる可能性は?」

 グレースがインザームに疑いの目を向ける。

「……わからぬ。じゃが、あの魔力の微弱さはお主も見たじゃろう、何か小細工を仕掛けれるような状態ではなかったはずじゃ」
「操られている可能性もゼロとは言い切れませんが、今は信じて行動することだけを考えましょう。次は地下室に急ぎます。城内の造りはどこもある程度似ていますから、何となく場所は想像できます、行きますよ」

 アズライトが部屋の扉を勢いよく開けて外に出て、インザームが続く。少し不満そうにグレースも走って追いかける。

 ――――
 ――
 ―

 クルムロフ城の階段の途中で、フェローは突然に壁をぶち破った。それから鞭の武器を使って、器用に足場の穴をあけると、まるでロッククライミングのように登っている。
 それになんとか必死で着いていっているクリアは、下を見ないようにしているが、突風が吹いて何度か落とされそうになっていた。

「し、師匠ぉ~! ど、どこまで行くんですか~!」

 クリアの掛け声も空しく、フェローは鞭と手足を使ってぐんぐんと壁を登っていく。

「この城を結界で覆うなら、てっぺんに魔法具を置くのが一番だ」
「そ、そうだとしても、な、なんで城の外から行くんですか~!?」

 クリアの魔法のローブが、風でばたばたと音を立てながらなびいている。フェローは下を振り返ることなく、黙って着いてこい、と一言。
 クルムロフ城のてっぺんは遥かに高くて遠い。老朽化のせいか、外壁はボロボロに崩れ落ちている箇所も少なくはない。実際に何度か二人とも落ちかけている。

「たどり着く前に死んじゃいますよ……」
 
 ――――
 ――
 ―

 アイレたちが広場に到着する前、フェローたちが城のてっぺんにたどり着く前、アズライトたちが地下室への階段を見つけた。螺旋階段を下りながら、深くて暗いその場所は何か嫌な予感を感じさせる。

「こんな――とこにっいるのかよっ」
「すべての可能性を潰す意味でもですよ」

 その途中で、一番後ろにいたインザームが何かの音に気づく。

「……まずいぞ! 急げ!」

 上を見上げると、今まで下ってきた螺旋階段の足場が崩れ落ちてきている。アズライトとグレースもそれに気付き、足早に下って行くがとても間に合わない。
 下まではまだ遥か遠く、真っ暗闇で何も見えない。

「なっなんだよこれはっ!」
「……これではいずれ追いつかれてしまいます。――仕方ない、行きますよっ」

 するとアズライトが、螺旋階段の中心目がけて飛んだ。その姿はやがて暗闇で消えてしまい、上で崩壊している階段の音だけが残った。取り残されたグレースとインザームが上を見上げる。

「ええい、いくぞ!」
「だあぁあもう!――まじかよっ」

 続いて二人も悪態をつきながら暗闇飛び込んだ。

 それからすぐにアズライトの目に飛び込んできたのは、無数の針だった。地面に落下するだけでもただでは済まないのは明らかだが、この上に着地すれば身体を貫かれて間違いなく死ぬ。 いつもならルチルを呼んで魔法防御や物理防御をかけてもらうところだが、今はそうもいかない。

 自分が今までどれだけ甘えていたのか、それが心にしみるようだった。しかしアズライトはすぐに頭を切り替えた。
 空中で剣を構えると、風の魔法を素早く詠唱して針に向かって薙ぎ払った。剣先から空気を切り裂いて、鋭いかまいたちが針を粉々に砕いた。これで貫かれて失血死は免れたが、まだ助かる余地はない。
 それからアズライトは、過去に巨樹《きょじゅ》でアイレがインザームに突き落とされた時のように壁に剣をめり込ませると、自身の落下速度を著しく弱めた。衝撃で腕が吹き飛ばされそうになるが、魔力を込めてそれを防ぐ。剣が壁で削れて、金属音がギリギリと高音で鳴り響く。

 そのすぐ上で同じように落下しているインザームは、光魔法を詠唱すると、着地に備えて身体を防御して覆う。それは少し上にいたグレースの身体にも意思を持って纏《まと》わりつくように飛んだ。

 アズライトは、粉々に砕かれた針の上に無事に着地すると、すぐ横にあった扉を見つけ、鍵がかかっているかどうかも確かめもせず、剣で薙ぎ払いこじ開けた。上を見上げると、インザーム、グレース、そして螺旋階段が崩壊して落ちてきている。

「降りたらすぐ横へ!!!」

 光魔法で保護された身体で無事着地すると、インザームはすぐに横の扉に飛び込んだ。少し遅れてグレースも落ちてきたが、間に合わないとアズライトが腕を無理やりひっぱる。
 それからすぐに螺旋階段は大きな音を立てながら、いくつもの瓦礫《がれん》を積み上げた。今までいた場所は完全に封鎖されて、戻ることは出来ない。

「あぶなかったの……」

 インザームがほっとして螺旋階段から目を離して前を向いたとき、アズライトがグレースの手を引っ張った衝撃で地面に倒れて抱き合っているように見える。
 そんなことは気にしない様子で、至近距離の顔を合わせながら、グレースに向かって、

「大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶだよ! って、ちけえよ!」

 心配そうな顔を向ける。グレースはすぐに起き上がると、少し照れた様子で身体の汚れを払う。アズライトは身体を起こすと、

「これでは戻れませんね……行き止まりではないことを祈って先へ進むしかないでしょう、しかしこんな罠があるということは……私たちのことはバレている可能性は高そうです」

 瓦礫に少しだけ目をやると、すぐに前を振り向いた。その先は一本道の地下道で、地面は液状化しているのか、水がごぼごぼと溢れて汚れている。鼠《ねずみ》がいてもおかしくなさそう場所で、天井には小さな一本のロープがぶら下がっていて、そこに魔法の灯りが等間隔で付いている。

「何かの道……か? 次はワシが先に行こう」

 インザームが先導して、アズライトがそれに続く。その後ろでグレースが、

「……ありがとな」

 小さな声でお礼をぼそっと言いながら、歩きはじめた。
 


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