老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴

文字の大きさ
111 / 114
最後の戦い

第103話:元勇者の偉業

しおりを挟む
 アズライトの言葉で全員の顔色が蒼ざめる。ルチルが死人という事実は世界の終わりを意味していた。拙い望みに全身全霊をかけたが、得られのは絶望の二文字。
 アイレたちが勝利するにはルチルを倒すしか手段はない。だがそれは現状不可能に近い。

 勝利への糸口を手繰り寄せようとしていたことがそもそもの間違いだったと悔やんだ。
 
 これはシンドラが用意したゲーム。はじめから主人公たちアイレが勝てるようには作られていなかった。残された道はただ呆然とその場に佇むこと。たとえ全勢力でルチルを倒倒せたとしても、後にはシンドラ《レムリ》が控えている。

 その事実が全員の心を折った。誰もが項垂《うなだ》れた。あの、アイレでさえも。

 全身の力が抜けて、血の気が引いていく。膝をついて頭が真っ白になる。終わり、終焉、最後。
 色々な言葉が頭を駆け抜けてく、どれも結果は同じ。それならいっそシンドラの仲間になるか? 笑える。地球に戻ることも出来るかもしれない。それもいいか。

 その想いは全員の心にも。あのフェローも「ここまでか」と呟き、今まで頑張ったなと自分に言い聞かせた。インザームは無念の二文字を思い浮かべ、フェアは亡くなった家族のこと、シェルはアクアの顔を思い返した。

 アズライトは母ローズのこと想い、父上と最後まで仲良く出来なかったことを悔やんだ。

 全員が死を覚悟した。


 この場にいない一人を除いて――。


 今は魔力をほとんど持たない上に、シンドラに蘇らせられたことが功を奏していた。魔力が同化していて感知されなかった。見つからないように魔物や人影に隠れつつ、それでいて素早く。
 真正面から戦っても自分ではアイレたちの足手まといになるとわかっていた。
 幸運なことにシンドラは油断している。この世界で最強の手下を手に入れていたことで盤石だと勘違いしていた。誰も自分に辿り着くことさえ出来ないと。

 アイレたちも今は同じ感情を抱いている。  しかし、ヴェルネルだけは違う。
 たとえ勝利の糸口が見えなかったとしても前に進むことが出来る。それが勇者と呼ばれた所以《ゆえん》。

 もちろん、今のアイレたちがどうなっているのか、ルチルが死人だったことも知らない。しかしもしその場にいたとしても、ヴェルネルは項垂《うなだ》れてはいない。
 どれだけ心に闇を抱えたとしても、ヴェルネルは勇者でそれは変わらない。

 ヴェルネルは静かに剣を構えると、渾身の力でシンドラに一撃を与えた。

 背後から心臓を一突き。普通に考えれば、今のヴェルネルがシンドラ《レムリ》の体に傷をつけることは出来ない。
 けれども、シンドラ《レムリ》はルチルを遠隔で操作していた。如何にシンドラ《レムリ》であろうとも、あれほどの魔力を持つルチルを死人使《ネクロマンサー》いの能力で扱うのは並大抵のことではない。
 そのためこの最終勝負には、全神経を集中させていた。そのことはヴェルネルに知る由はない。
 この世界に降り立ってからヴェルネルは一度も心が折れたことはない。レムリが殺されたときでさえ、方法は間違っていたが諦めてはいない。シンドラに騙されていたと知ったときも転移された今この瞬間でさえも。
 ヴェルネルの諦めない心、アイレたちの全身全霊の攻撃がこの偶然を必然まで辿り寄せたといっても過言ではない。

 背後から心臓が貫かれたことに驚いて後ろを振り返る。魔力は込められていない剣だといえども、致命傷は免れない。

「……貴様、どこから……」

 ヴェルネルは肩で息をしながら、両腕で剣を突き出している。今までの想いがすべて込められていた。

「レムリにこれ以上苦しみを与えるな」

 その行動により、ルチルに異変が起きる。

 そのことにいち早くアイレが気づいた。

「魔力が弱まっていく……?」

 突如ルチルは完全に魔力を失った状態で空中から落下した。まるで操っていた糸が切れたかのように。
 それは項垂《うなだ》れていた全員の表情を一辺させる。

 瞬時に顔を見合わせて駆け寄る。この出来事がヴェルネルによって引き起こされていることは誰にもわからない。

 先ほどまでとは打って変わって、ルチルはただ眠っているように見える。または突然の死亡。現状で何をするべきか、アズライトは理解している。その心を代弁するようにフェローが口を開く。

「――今しかない。殺そう」

 全員がルチルを囲んで同じことを考えたが口に出すことが出来なかった。
 アイレ、フェア、インザームがアズライトに視線を変える。

「誰もやらないならあたしが殺す」

 フェローがアズライトの剣を奪い取ろうとするが、手を離さない。

「なにしてんだよ! いつ動き出すか――」
「私がやります」

 フェローの言葉を遮った直後にレムリの魔力が微かに揺れはじめた。

「おい……はやくしろ!」

 アズライトはまだ動かない。先ほどのルチルに戻りつつある。

「ルチル……。これで本当のお別れだ。今まで――ありがとう」

 目に涙を浮かばせながら、眠っているルチルの心臓を突いた。すでに死んでいるとは思えないほど、赤い血がごぼごぼと胸から溢れる。表情は安らかなままだが、白い肌と見慣れた服が血で染まっていく。
 全員が思わず視線を背けたが、アズライトだけは最後まで目を離さず、魔力が完全に消え失せるまで手を緩めることもなかった。

 こういった形で勝敗が決するとは誰もが思ってもみなかった。一体ルチルに何が起きたんだと、シンドラに顔を向けたが姿はない。周囲は今だに魔物との戦闘が続いていた――。

『ゲームは終わりだ。興が削がれた』

 頭の中からシンドラ《レムリ》の声がふたたび響く。
 呼応するかのように、大勢の魔物と滅びた国の兵士が地面に倒れ込むと息絶えた。視界を遮ぎっていたものがなくなる。
 上空にはシンドラ《レムリ》がヴェルネルの腕を掴んで浮遊していた。呻《うめ》き声をあげている様子から、まだ生きている。

『こいつはゲームの邪魔をした。元勇者とは思えないほど卑怯で屑だ』

 シンドラ《レムリ》の胸には大きな穴が開いている。ヴェルネルがやったんだと、アイレは察した。
 また、ヴェルネルのことが敵だと考えていた兵士たちは理解不能だった。

『ほんの少し可能性を与えようとした私が愚《おろか》だった』

 直後、ヴェルネルを空中から投げ捨てた。瞬時に駆けたアイレが受け止める。身体に触れた瞬間、もうあと数十分、いや数分でヴェルネルの魔力が完全に消え失せ、この世からいなくなると感じた。

『皆《みんな》、騙《だま》されないであれはレムリの姿を偽ったシンドラよ!』

 フェアがシンドラと同じく全員の頭に声をかける。いつのかまにか古代禁忌魔法を詠唱しており、インザームが心を痛めた。アイレはフェアのとんでもない魔力に気づいたが、命を削っていることは知らない。


『黙れ、ハーフエルフ。今となればもうどうでもいい。私はもうお前らに未練はないが、最後に顔を焼き付けておこう』

 そしてシンドラ《レムリ》はその場にいる8割以上を消し去った。
 



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...