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かつて男爵令嬢だった私
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私は伯爵家でメイド長を務めている。
そして、伯爵家令嬢の乳母でもあった。
私はかつて、男爵令嬢だった。
そして、その前は孤児院にいる娘でしかなかった。
メイドをしていた母と男爵の間に生まれた私は、孤児院で育った。
捨てられたのか、それとも母が死んだのか、それすら私は知らない。
ある日、私の暮らす孤児院に男爵家の人がやって来て、男爵家に連れて行かれた。
私は男爵令嬢となって、王立学園へ通うこととなった。
「高位貴族の令息に気に入られるように」
「親しくなったら、金品を貢がせろ」
そう男爵様に命じられ、私は学園に通い始めた。
何も分からず、心細くて泣いていると、騎士団長の嫡男だという生徒に声をかけられた。
彼は優しく明るく、知らない人ばかりの中、緊張した日々を過ごしていた私は、彼と話すときだけが楽しかった。
そのうち、侯爵家や伯爵家の令息たちを紹介され一緒に過ごすことが増えた。
そんなある日、私は彼らに襲われた。そして、身籠った。
相手は誰なのかも分からない。
学園に通い続けることもできず、男爵家からも追い出されることとなり、もはや身を投げるしかないと考えていた。
すると、伯爵家の次男という生徒が声をかけてきた。
「僕の家で、乳母を探している。その子どもと同じくらいに生まれる予定だと思う。行くところがないのなら、僕の家に来て、メイドの仕事をやりながら、そのまま乳母にならないか?」
どうして、私に優しくしてくれるのかと訊くと
「あんな奴らに、いいようにされて、子どもまでできたのに、行くところがないなんて、酷いだろ」
そう話す彼の横には、彼の婚約者が立っていて、同じ女性として耐えられないことだと言って泣いていた。
彼は、卒業したら彼女の家の婿になることが決まっているのだそうだ。
こんなに優しい人たちに会えて、私は幸せだ。
紹介された伯爵家で私は働いた。
メイドの人たちも事情を知ってか、とても優しかった。
そして、子どもが産まれた。男の子だった。
暫くして、伯爵家に第二子が産まれた。女の子だった。
まるで双子を産んだような大変さだったが、子どもたちは可愛かった。
すくすくと育つ子どもたち。
幸せな日々だった。
ある日、高位貴族の方が伯爵家にやってきた。
子どもを見せてもらいたいとのことだった。
あの日、あの場にいた令息たちの一人か。体が震える。怖い。
メイド長が抱き寄せてくれた。
「息子に似てるな」
貴族様はそう言うと、子どもを寄こすようにと言った。
「どうしてですか……」
震える声で問うた私に
家門の血が勝手に広がるのは困ると答えた。
息子の父親は誰なのかも分からないのだと言っても、万が一があっても困るのだと言われてしまった。
「家門の中でしっかりと育てるから、安心して欲しい」
と言われ、それ以上は何も言えなかった。
息子を奪われて、私はお嬢様を実の娘のように可愛がった。
お嬢様の母親は旦那様の愛妾であったが、お嬢様は対外的には奥様の娘ということになっていた。
当然のことながら、奥様はお嬢様には関心を持たず、愛妾様も隣国に嫁がれることになり、ますます私はお嬢様を可愛がった。
本当の娘のように。
数年が過ぎ、町へ買い物に出かけたときのこと。
「ミアか?」
と声をかけられた。
孤児院で一緒だった男の人だった。
孤児院を出た後、どうしてたのかと訊かれて、今は伯爵家でメイド長をしていると答えた。
「マルコな、山の向こうの炭坑の町にいるぞ」
頭が真っ白になった。
かつて将来を約束した人。
「マルコ、どうしてた?元気だった?」
「ん……炭坑で怪我して、片脚無くしてな……今は炭坑の町で職人やってる。あいつ、手先器用だったろ?」
「け……結婚は?」
「してないって言ってた」
マルコが生きている。
会いたい!会いたい!
私は伯爵家を辞めて、マルコのところに行くことにした。
マルコには手紙を書いた。
『伯爵家で幸せに暮らせ』
そう返事が来たが、私の幸せは、マルコと一緒に暮らすことなのだ。
お嬢様が悲しそうな顔で私を見送る。
「お嬢様、お元気で」
そういうのが、精一杯だった。
そして、伯爵家令嬢の乳母でもあった。
私はかつて、男爵令嬢だった。
そして、その前は孤児院にいる娘でしかなかった。
メイドをしていた母と男爵の間に生まれた私は、孤児院で育った。
捨てられたのか、それとも母が死んだのか、それすら私は知らない。
ある日、私の暮らす孤児院に男爵家の人がやって来て、男爵家に連れて行かれた。
私は男爵令嬢となって、王立学園へ通うこととなった。
「高位貴族の令息に気に入られるように」
「親しくなったら、金品を貢がせろ」
そう男爵様に命じられ、私は学園に通い始めた。
何も分からず、心細くて泣いていると、騎士団長の嫡男だという生徒に声をかけられた。
彼は優しく明るく、知らない人ばかりの中、緊張した日々を過ごしていた私は、彼と話すときだけが楽しかった。
そのうち、侯爵家や伯爵家の令息たちを紹介され一緒に過ごすことが増えた。
そんなある日、私は彼らに襲われた。そして、身籠った。
相手は誰なのかも分からない。
学園に通い続けることもできず、男爵家からも追い出されることとなり、もはや身を投げるしかないと考えていた。
すると、伯爵家の次男という生徒が声をかけてきた。
「僕の家で、乳母を探している。その子どもと同じくらいに生まれる予定だと思う。行くところがないのなら、僕の家に来て、メイドの仕事をやりながら、そのまま乳母にならないか?」
どうして、私に優しくしてくれるのかと訊くと
「あんな奴らに、いいようにされて、子どもまでできたのに、行くところがないなんて、酷いだろ」
そう話す彼の横には、彼の婚約者が立っていて、同じ女性として耐えられないことだと言って泣いていた。
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こんなに優しい人たちに会えて、私は幸せだ。
紹介された伯爵家で私は働いた。
メイドの人たちも事情を知ってか、とても優しかった。
そして、子どもが産まれた。男の子だった。
暫くして、伯爵家に第二子が産まれた。女の子だった。
まるで双子を産んだような大変さだったが、子どもたちは可愛かった。
すくすくと育つ子どもたち。
幸せな日々だった。
ある日、高位貴族の方が伯爵家にやってきた。
子どもを見せてもらいたいとのことだった。
あの日、あの場にいた令息たちの一人か。体が震える。怖い。
メイド長が抱き寄せてくれた。
「息子に似てるな」
貴族様はそう言うと、子どもを寄こすようにと言った。
「どうしてですか……」
震える声で問うた私に
家門の血が勝手に広がるのは困ると答えた。
息子の父親は誰なのかも分からないのだと言っても、万が一があっても困るのだと言われてしまった。
「家門の中でしっかりと育てるから、安心して欲しい」
と言われ、それ以上は何も言えなかった。
息子を奪われて、私はお嬢様を実の娘のように可愛がった。
お嬢様の母親は旦那様の愛妾であったが、お嬢様は対外的には奥様の娘ということになっていた。
当然のことながら、奥様はお嬢様には関心を持たず、愛妾様も隣国に嫁がれることになり、ますます私はお嬢様を可愛がった。
本当の娘のように。
数年が過ぎ、町へ買い物に出かけたときのこと。
「ミアか?」
と声をかけられた。
孤児院で一緒だった男の人だった。
孤児院を出た後、どうしてたのかと訊かれて、今は伯爵家でメイド長をしていると答えた。
「マルコな、山の向こうの炭坑の町にいるぞ」
頭が真っ白になった。
かつて将来を約束した人。
「マルコ、どうしてた?元気だった?」
「ん……炭坑で怪我して、片脚無くしてな……今は炭坑の町で職人やってる。あいつ、手先器用だったろ?」
「け……結婚は?」
「してないって言ってた」
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会いたい!会いたい!
私は伯爵家を辞めて、マルコのところに行くことにした。
マルコには手紙を書いた。
『伯爵家で幸せに暮らせ』
そう返事が来たが、私の幸せは、マルコと一緒に暮らすことなのだ。
お嬢様が悲しそうな顔で私を見送る。
「お嬢様、お元気で」
そういうのが、精一杯だった。
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