幻冬のルナパーク

桜の下でふたり

絵海を看病しに行ってから、私たちの距離はぐんと近づいた気がした。メールも続いたし、他愛のない話題で盛り上がったりもした。


桜の花が開き、ウグイスが民族楽器のような美しい声で鳴く頃、私は絵海と横浜市内の公園で待ち合わせた。彼女からこの間のお礼をしたいから食事でもいきましょうとメールが来て、ちょうど桜の時期だからふたりで花見をしようと私が誘ったのだ。


公園の周りには樹齢五十年は超えるであろう大きな桜の木が植えられていた。広く枝を伸ばしたソメイヨシノが青空の下に桃色の屋根を作り出している。芝生に覆われた広場では冬を越えて生まれ変わったばかりの草花が眩しいくらいの生命の輝きを放っていた。


絵海は茶色のチェック柄のパーカーに黒いパンツを履いて待ち合わせ場所に現れた。私はグレーのシャツに白いスプリングコートを羽織り、紺のジーンズを履いていた。


「体調、良くなりました？」私が聞いた。


「ええ、もうすっかり。はい、これ」


絵海が箱の入った黒い紙袋をくれた。この間のお礼のクッキーを買ってくれたらしい。私がお礼を言って受け取っ
た。


「桜もちょうど見頃でしたね。ね、あれ見てください。おもしろそうじゃないですか」


私が指さした先には黄色のキッチンカーが停まっていて、カップの上に綿あめが乗った飲み物を売っていた。


　絵海が食べてみようと言ったので、ふたりでそれを買った。カップにはコーヒーが入っていて、その上に桜と同じ色の綿あめが乗っている。


私たちは桜の下のベンチに並んで座った。絵海と肩の触れ合いそうな距離に心臓が高鳴る。