幻冬のルナパーク

黒猫

「玲はたしか少し年の離れたお兄さんがいたわよね」絵海が言った。「もしかしてもう姪っ子や甥っ子はいる？」


「まだですね。彼女だっているのかどうかも分からないなあ」私が困ったように言った。


「そういう話、しないんだ」


「全然。たまに会っても何を話せばいいのかも分からないですよ。８つも離れていると、子供のころだってロクに話した記憶がないですし。だから仲の良い兄妹っていうのがよくわからないですね」


「そうなんだ」


「ええ。絵海さんは姉妹仲が良いんですね。仲が良いとそういう休日の過ごし方になるんですね」私が感心して言った。


「ええ。小さい頃はケンカもたくさんしたけどね。今は仲が良いわ。同じ家で育った分、価値観だって似てると思うし」


そのうちにどこからか猫が１匹やって来た。耳の先から尻尾まで真っ黒な色をした猫で、吸い込まれそうな黄色く光る目に縦長の黒い瞳孔が浮かんでいた。


猫は私たちと目が合うと、赤い首輪に付いた鈴を鳴らしながらこちらに寄って来て、絵海の足に体をすりつけた。


「人懐こい猫ね。首輪が付いているから、この辺で飼われているんでしょうね」


彼女はそう言ってしばらくその猫の顎や背中を撫でていた。私はしばらくそんな彼女の姿を横から眺めていた。


やがて猫は私たちに甘えても何も出ないことを悟ったのか、長い尻尾をピンと立てながら何処かへスタスタと歩き去ってしまった。