幻冬のルナパーク

築山の変化

７月の後半に、築山とブルーベリー狩りに出かけることになった。当日、築山が車で私の家の近くまで迎えに来てくれた。

彼は明るい黄緑色のシエンタに乗っていた。淡い水色のシャツと白いパンツをはいて、私と目が合うと軽く手を挙げて挨拶した。

私は紺色の半袖シャツに白のロングスカートをはいていた。


「久しぶり。元気か？」築山が窓を開けて言った。「乗って」


「久しぶり、元気だよ。迎えに来てくれてありがとう」


　私はそう言って助手席に乗った。男の人との２人きりの状況に、少し緊張する。築山は私がシートベルトを付けたのを確かめて車を発進させた。


「仕事辞めて、今家で何してんの？　職場探しって言ったって、そんなに時間かからないだろ？」彼が横浜の狭い街中を運転しながら聞いた。


「うん、そんなに時間はかからないね。実家から近いところでいくつか目星は付けたし。あとは失業保険が切れたら面接に行くだけだよ。残った時間で元気に自宅警備してね」私が言った。
築山は、職場でたまに聞いた懐かしい明るい笑い声を上げた。


「なに、自宅警備って。お前ニートかよ」


「まあ、変わらないよね。ネトゲはしてないけどさ。築山は仕事は順調？」私が聞いた。


「いつも通りの単調な日々だよ。順調かはわからないけどな」


「いいじゃない。問題もなく淡々と過ぎていくことが順調ってことだよ」


　車は湘南の海沿いを通って神奈川の南方へ向かっていた。太陽は厚い雲の向こうに隠れていて、海も暗い色をして静かに波を立てていた。


「やっぱ天気微妙だったな。まだ梅雨も明けてきってないし。もうちょっと後にすれば良かったかな」築山が残念そうに言った。


「梅雨明けなんて読めないし、仕方ないよ。でも、もうすぐ明けるね、この辺も」


「まあな。そしたら暑くなるな。ところで、水上って彼氏いないよな」彼が唐突に聞いた。


「え？　うん、いないよ。いるのに今日ここに来たらまずいでしょう」私は笑って言った。


「ごめん、急に変なこと聞いて」築山が安心したように言った。


「いいよ。そういえば、私の記憶では築山の方こそ彼女がいたと思うんだけど」


働いている頃、彼の口から長く付き合っている彼女がいると聞いたことがあった。


「ああ。いたけど結構前に振られた。向こうに好きな人ができたんだってさ」築山が何事も無さそうに言った。