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目指せ!王国騎士団長
7年生 異例中の異例
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マルスは、6年生の時に、第1騎士団を撃破したことから、特例により、希望者はそのまま、騎士団の末席に配属されることが決まった。
もちろん、当時の6年生は、全員の志望先がこの新しい騎士団だった為、誰一人欠けることなく団員30名の騎士団が設立された。
騎士団の正式名称は、第21騎士団。全20団編成の騎士団に加わる、新しい騎士団である。しかし国民は、第21騎士団を敬意を込めて、【覇道の騎士団】と呼んでいた。
しかし、この呼び名が、ダンテ国王には気に食わなかったようだ。
覇道の騎士団(第21騎士団)に所属する騎士は、マルスの希望通り、騎士階級による差別を受けない騎士団となるのだが、それが今回の問題の始まりでもあった。
~王宮内、会議室~
会議は、自由に行動する騎士団を管理するために、30日に1度、定期的に招集される。
その会議には、それぞれの騎士団長と副団長2名の3名が出席できる。
マルスたち、第21騎士団は、団長マルス、副団長アロン、副団長ルナが会議に出席をしていた。
王国の宰相マルゲリータ(各騎士団長の行動の結果を国王に報告する役目の人物、言わば陰の騎士団長のトップと言える人物)が、各騎士団の報告を聞いていく。
各騎士団は、この1カ月間の報告を行う。と言っても、戦争に参加している、第3騎士団や、第11・12・13・14・18騎士団のように、遠隔地の騎士団は会議には参加していない。
宰相がマルス達、第21騎士団に話を始める。
「マルス団長、お前たちは初めての会議であったな。」
「はい。マルゲリータ様。」
「では、この1か月の行動予定を報告せよ。」
「はい。この1ヶ月は、メイガス校長より、軍事演習の強化と、下級生の軍事始動の演習が言い渡されており、その任務を遂行する予定であります。」
「うむ。来月の予定は。」
「はい。今のところ、何も任務がないので、王都周辺の治安改善を重点に山賊の掃討作戦を行う予定になっております。」
「そうか、では、山賊の掃討作戦は、今月中に、第19騎士団に任せるとしよう。第21騎士団は、各地方をめぐり、2カ月で民間兵を500徴収し軍事演習を行い、軍備を整えるように。その後、その徴収した民間兵を率いて、侵攻してきたカティン教和国の軍団を、西の山脈まで追い払うように。」
第1騎士団のムーンフェストが口を挟む。
「宰相、先月、民間兵の徴収を行ったばかりです。すぐには民間兵は集まりません。それに、カティン共和国の軍団は強力です。先日も、第2・4・5騎士団の連団が敗退してきたばかりではないですか。」
「これは、命令だ。必要であれば、軍資金を他の騎士宅から徴収し、傭兵団を雇えばいいであろう! 必ず集めよ。それに、聖騎士団を破った程の実力だ。黒の騎士団を追い返すことくらい簡単にできるはずだ!!」
「・・・畏まりました。」
会議も終わり、それぞれが、騎士団の宿舎に戻ってくる。
マルス達、第21騎士団の宿舎は無く、学校の寮が宿舎になっている。
会議の結果を、騎士団員に伝えると、リサが大きな声で反論している。
「そんなの無理に決まってるじゃない。これからの時期、農村では種まきなんかが始まるんだよ。それに、軍資金の調達だって、騎士宅から徴収ってどうやってやるのよ。」
アロンも同意する。
「そうだよな。それに、先月も民兵の徴収をやったばかりなら、農民も集まらないよな。それに、俺たちは、騎士階級の外なんだぜ、上級騎士は金を出さないだろうし、中級、下級騎士も、出さなくてもいいものは出すはずないだろ。最悪、俺が家から持ってきたとしても、金貨100枚がいいところだぜ。」
ルナも同意する。
「こんなに明確な嫌がらせがあると 気分が悪くなっちゃうね。ちょっと抗議してこようか。マルゲリータの奴、昔から嫌いだったんだよね。
それに、集めたばかりの兵士たちで、黒の騎士団と戦うとか、無謀だよ。せめてちゃんと訓練をしている戦士ならまだしも・・・。」
ウィンが、激しく首を縦にふる。
「まあ、落ち着いてくれ。俺に作戦がある。そのためには、騎士団の生徒全員に協力してもらう必要もある。おれは、民兵の徴収をするためにしばらくの間、留守にする。その間、上級生は、軍事演習をしながら、上級生、全員分の装備一式を、フルフェイスの兜で集めて欲しい。あと、余裕があれば、余分に騎士盾を集めておいてくれ。」
「マルスはどうするの?」
ルナが心配そうに質問する。
「俺と、ルナは、別行動で戦士を集めてくる。」
「えっ! 私も!?」
「そう、ルナの力が必要なんだ。」
マルスは、笑顔でルナを見る。
ルナは、照れてしまい、恥ずかしそうに髪を触っている。
~レヴィア商会の洋品店~
マルスは、久しぶりにレヴィアの店を訪れた。もう3年ぶりくらいだろうか。
マルスと、正装したルーナが店に入ると、ルーナを見つけて、店長が接客に来る。
「ルーナ姫、この度は、当店にお越しいただき、まことにありがとうございます。」
「いいのよ。レヴィア会長か、ミザリ副会長を呼んで頂戴。」
「はい、レヴィア会長は、外出中ですが、ミザリ副会長は、20分ほどで店に戻ってまいります。」
「そう。では、待たせていただこうかしら。」
店長は、すぐに奥のVIPルームへと2人を案内した。
マルス1人では、前回のような押し問答で、ミザリの戻りを確認することも出来なかっただろう。
店長は、VIPルームへと案内すると、飲み物をとりに、部屋を出ていった。
「ねえ、マルス、まさか、この為だけに、私を連れてきたんじゃないでしょうね!」
「い、いや。そんなことないよ。」
「あやしい、マルスは、私に嘘をつくとき、胸の前で手を小刻みに振るんだよね。」
マルスは、指摘を受けて自分の手を見てみる。
確かに、胸の前で手を振っていた。
「ごめん。ここの役目は、これまでなんだ。」
「ほらね。罰として、この後のデートをエスコートしてもらうからね。」
椅子に座っている ルーナが、悪戯っぽくマルスを見上げる。
その上目使いの表情は、可愛らしく、抱きしめたくもなるが、後々面倒なことになりそうなので、マルスも我慢する。
マルスは、普段と違い、女性らしい格好をした ルーナを意識し始めたのか、2人きりの時間が恥ずかしくなり、トイレへと駆け込む。
気持ちを落ち着かせて戻ると、ルーナの前に座る ミザリ副会長がいた。
ミザリ副会長は、あたふたしていて、面白かった。
入り口で見ていたマルスに、ミザリが気づく。
「マ、マルス!? えっと、え、え、どうしたの?」
ルーナが口を開く。
「ミザリ副会長、今日は私は用は無いって言ってたじゃないですか。用があるのは、彼ですよ。」
「え、姫とマルスって、どういう関係なの?」
「私の婚約者です。」
「ええ、ダンテ国王に反対されてますけど、そういう約束はしてしまいました。」
「マルスは、恥ずかしがっているんですよ。マルスが告白してきたんですから、私の婚約者です。」
マルスは、本題に入りたかったので、ルーナの意見に全面同意した。
マルスは、ミザリに、騎士団の会議で決まったことを説明した。
ミザリは、早急にレヴィアに連絡を取り、戦士を騎士団に一時的に編成することを約束した。マルスの采配力は、レヴィアも高く評価していたし、レヴィア団を任せられるものなら、任せたいと言っていたそうだ。しかし、レヴィア団の人数は少数精鋭の為、500名の部隊となると、傭兵団や冒険者の雇用も必要になるようで、食費や移動費用など、軽く見積もっても、金貨3,000は必要だということだった。もちろん、傭兵団や冒険者は、装備の心配はいらないので、その分の価格や訓練の手間を考えれば、安上がりかもしれない。
マルスは、1か月後にレヴィア達との合流を約束し、店を出ようとした。
ミザリは、マルスの腕を掴み、マルスに話しかける。
「マルス、ちょっといいかな。ルーナ姫に聞かれるとマズイことなんだけど。」
マルスは、ルーナをVIPルームに待たせて、更に奥の副会長室へ移動する。
「あのさマルス、ちょっと言いにくい話なんだけど、あの借用書を覚えてる?
うちのバカ亭主と、ミーナが渡したラアラと一緒に買い物した時の分だけど、まだ、お金を貰ってないんだよね。」
「・・・借用書を返して貰ったので、無効になったのかと思ってました。」
「うん。ごめんね。本当は、そうなんだけど、ほら、信用の世界だからさ。」
「はい。給与日に持ってきます。6日後です。」
ミザリは、満面の笑みで、マルスの腕を離し、マルスとラーナを見送る。
「また来てくださいね。ラーナ姫!」
ミザリは、店の外まで見送りをして、大きな声で別れの挨拶をしている。
たぶん、店の宣伝に、ラーナを利用したのだろう。
ミザリが店内に引き上げると、ゾロゾロと貴婦人たちが店に集まっていくのが見えた。
「ねえ、マルス。私に聞かれるとマズイ話ってなによ!」
マルスは、考えた。本当のことを言えば、また怒りだして大変だろう・・・。
「秘密にしておきたいことなんだけど、ルーナを、がっかりさせるような事じゃないよ。」
ルーナは、満面の笑みで答える。
「私は、8号だよ。」
「?」
「もぉ、指輪のサイズだよ。ちゃんと覚えておいてね!」
どうやら、いいように解釈しているようだった。
またレヴィア商会で借用書を書く必要がありそうだ。
~魔法養成学校~
マルス達は、魔法養成学校の、ドーラ特別講師を訪ねた。
そとの応接室で、しばらく待っていると、奥からドーラ特別講師がやってきた。
「2人ともどうしたの? 騎士を辞めて、魔法使いを目指す気にでもなった?」
「いえ、騎士は辞めませんよ。先生、ちょっと相談があって来ました。」
「どんな相談?」
「はい、資金提供です。軍備費用の増強が必要で、1月以内に、金貨5,000枚ほど準備をする必要があります。」
「準備できないことはなけど、そんな大金を提供するつもりはないわ。」
「ええ、俺もタダで資金提供をしてもらおうと考えてません。父から受け継いだ魔法を、魔導書に書き入れてきました。全ての魔法ではないですが、暴風雨の大障壁や、滅炎の光の矢、無音の空間などの下級魔法しかご存じないようだったので、ドーラ先生にも価値のある物だと思いますが。」
ドーラは、マルスの書いた魔導書を見て、驚きを隠せない様子だ。
「獄炎の台所、砂音の王国、香りの選定。こんな魔法まであったなんて・・・。」
「どうしますか。レヴィア商会に販売する方法も残っていたのですが、他国に渡れば危険な魔法もあります。」
「分かったわ、倍の金貨10,000枚で買い取りましょう。その代わり、今後、魔導書を書かないでちょうだい。」
「もちろん、それは約束します。強力な魔法が氾濫すると、地上の生物も危険にさらされますから、広めるつもりはありません。ドーラ先生だから、安心して渡せる魔導書です。」
ドーラは、知的好奇心から、魔導書をどんどんと読み進める。
「・・・エイト先生が、地獄で編み出した魔法もあるのね。まさにタイトルの死者の書にふさわしい魔導書だわ。」
マルスは、ドーラに別れを告げて、寮に戻る。
~1か月後、騎士養成所の中庭~
そこには、第21騎士団と、4・5・6年生の、137名
レヴィア団の、200名
ソドム王国軍、80名
ベール傭兵団、13名
ベルバランス騎兵隊、100名
以上、530名が集まった。
レヴィア団は、冒険者の集団で、もともとウィンター商会に雇われていた冒険者を雇用しているようである。ウィンター商会とは、レヴィア商会に続き規模の商人協会のメンバーで、大規模な冒険者の集団を雇用していた。ウィンター会長が天に召され、跡を継いだカルロス会長から、解雇を言い渡されていたのをレヴィアが雇用したらしい。
年齢は高めだが、魔装具や戦闘の知識、罠を張り巡らせたりが得意なようで、工作兵としての能力を使ってほしいとレヴィア団長からの要望があった。また戦場になる土地は、レヴィア団が最初に拠点を築いた土地で、市街地戦まで押し込めれば、レヴィア団の団員はみな、土地勘があるのだそうだ。
・個人での戦闘力が高そうなのは、レヴィア、レイザー、アリスの3人だろう。
ソドム王国軍は、獣人で組織されている軍隊で、虎や狼の獣人(歩兵)50名。
ウサギの獣人(弓兵)30名の部隊である。彼らの特徴は、一切の魔法攻撃が効かないところだろう。もともと生まれ持った能力だそうで、大魔法や、魔法は全て無効化されてしまう。逆に言えば、傷つけば回復の手段が薬に頼るしかないということだ。
また、ウサギの獣人(弓兵)は、狩りの名手だそうで、長さ2mもある弓を使用している。
その威力は、通常の弓が届かない距離でも、革鎧を貫通して攻撃ができるそうだ。
獣人全体に言えることだが、身体能力が高く、うまく起用すれば、かなりの戦力が期待できる。
・個人での戦闘力が高そうなのは、虎の獣人のガルモンテ隊長、狼の獣人のヴェン副隊長の2人だろう。
ベール傭兵団は、ベール先輩が騎士団を脱退して作った傭兵団だそうで、自警団を引退した人たちで構成されているらしい。主な活動は、地方の治安維持の仕事だそうだが、正直、戦争への参加は不安が大きい。本人たちのやる気は高いのだが、体がついて行かないだろう。ベール先輩を除くと、平均年齢68歳だそうだ。
・正直、戦闘での期待は薄い。
ベルバランス騎兵隊は、ルナに敗れたケンタウロスが指揮する、ケンタウロスを主軸とした騎馬部隊だ。ケンタウロス80名。人間20名の部隊で、全員が騎馬戦を得意としていて機動力が期待できる。
・個人での戦闘力が高そうなのは、隊長のピーターだろう。ピーター曰く、全員が精鋭と話していた。
マルスは、レヴィア団長や、ソドム王国軍の隊長ガルモンテ、ベール傭兵団のベール先輩、ベルバランス騎兵隊の隊長ピーターと挨拶をかわし、大まかな作戦を伝える。
レヴィアからも情報提供があり、黒の騎士団には、魔法を無効化する装備があるそうだ。
マルスが、第21騎士団の元に戻ると、ルナが心配そうに話しかけてくる。
「マルス、上級生を勝手に連れて行って大丈夫?」
「ああ、それは問題ないよ。戦場には連れていかないから。あくまで訓練の2カ月間だけだから。その間に、ランドとリサは、義勇兵の募集と言って、町で声をかけてくれ。」
「義勇兵?」
「そう、正義の為、己の意思で国を守る勇者達の兵士だ。」
「聞こえがいいね。集まるかもね。」
「ああ、俺は義勇兵に志望だな!」
「・・・ランドって、年々バカになっていくよね。昔は何も喋らない可愛い弟だったのに。」
マルスが手配を終われせると、戦士が集結していると噂を聞きつけた、第1騎士団と自警団が学校の外に集結してくる。
「マルス、この騒ぎはいったい何だ?」
「ムーンフェスト団長、民間兵の募集が終わったところです。数は、ちょうど530です。」
「さすがだな。」
ムーンフェスト団長は、戦士たちを見渡す。
「では、宰相に挨拶に行くとしよう。私も同行させてもらうが、生徒のフルフェイスは脱げないように注意しとくんだぞ。」
どうやら、ムーンフェスト団長には見破られていたようだ。
まあ、校庭内と言うこともあり、兜を脱いでいたこともあるのだろう。
マルス達は、色々な種族や兵種が混在する騎士団を総称して、黒の騎士団に対抗する意味を込め、白の騎士団と名乗ることにした。
マルス達、白の騎士団が城門前に待機し、宰相に軍団結成の報告に駆けつける。
しばらくすると、宰相が城内から出てきた。
宰相は、ひどく動揺している。
「ど、どうやって集めたんだ・・・。そんな、できるはずないのに・・・。」
「宰相、これから2カ月間の訓練の後、黒の騎士団との戦闘に向かいます。勝利の報告を楽しみに待っていて下さい。」
マルスは、宰相にそれだけ伝えると、白の騎士団をまとめて、騎士養成所に引き返した。
~騎士養成所・会議室~
マルス達は、裏庭の一角に、テントを張り、そこを白の騎士団の会議室とした。
身体の大きな ケンタウロスたちには、校舎は狭く、落ち着いて話も出来ないだろうということで、ベルバランス騎馬隊の持参したテントを建てたのだ。丈夫なテントを持参する所からも、準備の良さが伺える。
マルスは、訓練を始める前に、会議にて 黒の騎士団について情報の共有を図る。
「では、会議を始める前に、自己紹介をしておこう。俺は、騎士団長のマルス。城の騎士団を勝利に導くために軍団を指揮していく。宜しく頼む。」
「私は、みんな知ってると思うが、レヴィア団の団長、レヴィアだ。宜しく頼むね。」
「俺様は、ソドム王国軍、第2部隊隊長のガルモンテだ。レヴィア団長には、命を救われて、その恩を返す為に 一緒に行動している。」
「私は、元騎士団のベールです。私たちは、後方支援に回ると思いますが、宜しくお願いします。」
「私は、ベルバランス騎兵隊遊撃部隊隊長のピーターだ。ブックバック軍師の指示により、馳せ参じました。」
全員の自己紹介が終わり、マルスが訓練の内容を説明する。
マルスの考える訓練は、
1・ソドム王国軍の弓兵部隊と、ベルバランス騎馬隊による弓の特訓。
2・ソドム王国軍の歩兵部隊を交えた、第21騎士団の合同演習。
3・レヴィア団とベール傭兵団の工作訓練。
「俺の作戦は、ソドム王国軍の弓兵部隊とベルバランス騎馬隊による弓の波状攻撃から戦闘を始めようと思う。
その後、歩兵部隊による戦闘に突入する訳だが、ここで一番重要になってくるのが、歩兵部隊の陣形だ。」
「ちょっと待ってくれよ。俺様は反対だぜ。弱っちい人間に合わせて戦闘なんてしてりゃ日が暮れちまう。」
「マルス団長、我々、ベルバランス騎馬隊も、その意見には反対です。我々の突撃からの戦闘開始で敵を一気に蹴散らしてやります。」
マルスは、笑顔で答える。
「その戦い方では、黒の騎士団に敗北してしまうだろうね。まず、ガルモンテ隊長、いままで最強の種族である獣人族が黒の騎士団に敗北を続けてきたか考えたことは?」
「それは、あいつらが頑丈な陣け・・・。その、なんだ、ほら。」
「そう、陣形を組んで戦っていたからなんだ。俺は、黒の騎士団に敗北した部隊に所属していた騎士団から話を聞くことが出来た。その騎士の話では、前に前に進んでいたはずなのに、気が付くと、敵の側面に移動していたと言っていた。
彼は先陣を切って突撃したから、そのまま逃げることができたそうだが、後方の部隊は大接戦で民兵の大半が死亡したそうだ。」
ガルモンテは、黙っている。
「それから、ピーター隊長。俺は君たちの機動力があるからこその戦いだと思っている。その機動力を戦闘に使わなくてどうするんだ。弓を覚えるのは、敵の攻撃の届かない位置から弓で攻撃し、機動力を生かして距離を取り、また弓で攻撃して、距離を取り、これを繰り返すことで、敵の前線を引き延ばすことに意味がある。その後、ピーター隊長率いる騎馬部隊には、槍に持ち替えてもらい、伸びきった敵の急所を一気に貫く仕事を任命しようと思ている。」
「申訳ない。ブックバック軍師の話していた通りの作戦です。今回の人員、戦場、季節を考慮した結果。我々は、武器の変更を考えておくように言われておりました。」
マルスは 驚いた。マルスは、部隊の装備状況や、得意な戦法。そういった事象を確認しながら考えていった作戦だったのだ。
それを、レヴィア団に応援を要請したという内容の手紙だけで、ブックは判断したことになる。いったいブックは、どれほど軍師として成長しているのか、マルスの想像がつかない神の戦略の領域までたどり着いているんじゃないのか。そう考えてしまうほどだ。
そこから2か月間、軍事訓練を行う予定だったが、敵の増援が山脈を越え始めたという知らせを聞き、わずか、5週間で戦争に出発することになった。義勇軍は、わずか30名ほどしか集まらず、上級生を除くと大幅な戦力の低下につながってしまった。
~日暮れ前・黒の騎士団の拠点都市付近~
マルスは、出来れば市街地戦は避けたかった。
なぜなら、野戦と違い、双方の兵士が傷つくだけでなく、町や、そこに隠れるように暮らす人々にも被害が及んでしまうからだ。
それに、市街地戦は 防御側に有利になり、乱戦になると 個隊の陣形の戦力を活かしにくくなる。
拠点都市付近に到着すると、レヴィアがマルスに話しかけてくる。
「マルス団長、ここいらで休もうよ。」
「いや、まだ距離があるから進もうと思っているんだが。この付近は何か軍を隠すような地形でも?」
「そうじゃないんだよね。ここは、アルルとエイトが、初めて出会った場所でね。
昔の話なんだけど、この近くに教会があったんだ。そこの教会には、都市に忍び込むための隠し通路が掘ってあったのを思い出したんだよ。」
「なるほど。しかし、森を切り開いただけのここで陣を張るのは危険かな。森を抜けた所で陣を張りましょう。」
「ありがとう。レイザーと、アリスには場所を伝えてあるから、10名の兵士を連れて隠し通路に向かわせるよ。」
「ベール傭兵団も連れて行ってもらっていいかな。」
マルス達は、森を抜けた所で陣を張る。
そこからは開けた場所が続く。南や北の方は、まだ開拓前の森が残っており、敵兵が隠れるには、もってこいの場所になるだろう。
~翌朝~
黒の騎士団にも動きがある。都市から出るように陣形を組み始めている。
マルス達、白の騎士団も歩兵に陣形を組ませる。
「個隊を組め!」
全軍、個隊を組み始める。
○歩兵部隊は、獣人を含め、300名
(30部隊)
×弓兵は、獣人の30名
(1部隊)
◎弓騎兵は、100名
(4部隊)
「弓騎兵は、攻撃開始!敵を撃破しながら取り込め!」
「歩兵部隊、双頭の陣を組みそのまま前進!」
「弓兵は待機し、敵を引き付ける!」
◎◎ ◎◎
○○○ ○○○
○○○ ○○○
○○○ ○○○
○○○ ○○○
○○○ ○○○
×
ルナがマルスに話しかける。
「マルス、敵は倍くらいの人数がいるよ。一時撤退して増援を待つ?」
「いや、問題ないだろう。見たところ、槍や片手剣を装備した歩兵と、魔法兵が主力の部隊のようだから。」
「でも、魔法は危険なんじゃない?」
「魔法は無音の空間を掛けるから、それで敵の魔法兵は無力化できる。そうすれば、兵士の数はそこまで変わらないだろうね。」
そういうと、マルスは魔法を詠唱し、その後歌を歌っていた。
「無音の空間(LV24)」
「何を歌ってるの?」
「いや、何でもないよ。黒の騎士団は完全に魔法を無効化する術を持ってるみたいだね。」
弓騎兵が敵の部隊に先制攻撃を掛ける。
黒の騎士団は、魔法が発動できないことに気づき、魔法兵を後ろへ下げ、第1歩兵隊が前に出て、弓騎兵を撃破するべく盾を構え突進してくる。
マルスは、状況を確認し、全軍に指示を出す。
「全軍陣形を維持したまま待機! 弓騎兵部隊を待て!」
弓騎兵が、Hit&Away 作戦で敵を引き付け、歩兵の最前列に近づくころには、敵の部隊も、かなりの被害を受けていた。
そのまま、弓騎兵部隊は、軍の中央を通り抜け最後尾まで移動する。
最前線では、敵の歩兵部隊と戦闘が始まっている。
中央は弓騎兵が通り抜けた隙間があり、そこを敵の歩兵も全速力で突進してくる。
「弓兵部隊、中央の敵に攻撃を放て! ルナ」右舷より騎馬部隊を率いて後方の第2歩兵隊に横槍を喰らわせてやれ!」
「任せて! ピーター! 私についてきて!!」
ピーターは、騎馬部隊に槍を装備させ鼓舞をし、ルナに続く。
マルスの号令で、中央後方に待機していた弓兵部隊が一斉掃射を始める。
長弓の攻撃を至近距離で受けた敵の歩兵は、盾を貫通した矢に鎧ごと串刺しにされていく。
「弓兵部隊、後方に移動。歩兵部隊、双翼の陣を展開し、残りの敵兵を殲滅せよ!」
「レヴィア!3部隊を率いて、北の森を索敵し、伏兵を発見した場合は、そのまま合図を送り、殲滅してくれ! 敵の魔法は封じているから、心配はない!」
「ああ、助かるよ。レヴィア団、本領発揮だよ!」
レヴィアは、ルナたち騎馬部隊の後を右舷の部隊を率いて追走する。
その頃には、中央で包囲されていた黒の騎士団の第一前衛は撃破されていた。
「上弦の陣で、騎馬部隊と合流するように、敵を殲滅せよ!」
○○
○○
○○○
○○○○○○○○○
× ○○○○○○○○
こちらの被害も大きいが、それ以上に黒の騎士団の被害が大きい。
北の森に索敵に入ったレヴィア達からの合図の火矢が上がる。
マルスの読み通り、北の森でも戦闘が起きているようだ。
ルナ率いる騎馬部隊は、敵の第2部隊を側面から叩く。
黒の騎士団は、山を越えてきた部隊だけあって、装備は軽装で、騎馬などもない。
軽装歩兵にとって、ケンタウロスの騎馬部隊は、恐怖の存在だろう。第2部隊は混乱し、陣形を保つことが出来ないほどだ。
騎馬部隊から逃げるように、混乱した第2部隊は、第1部隊と合流する。
その結果、黒の騎士団の前線は、完全に崩壊した。
また、都市の方から、3種類の狼煙があがってくる。
マルスは、馬を動かし、味方の中を駆け抜け最前線に移動し、ランドとガルモンテを呼ぶ。
「ランド、ガルモント、5部隊を率いて、南の森を索敵、遭遇があれば殲滅、その後、森を抜け都市を目指せ!」
「ルナ、ピーターついてこい! 全軍突撃! いまが勝機だ!!」
マルスの鼓舞に、白の騎士団が呼応する。
黒の騎士団は、恐怖から逃げ出す兵も現れた。
南の森には、敵の伏兵はいなかったようだ。
白の騎士団は全軍、都市になだれ込む。
敵の本陣が、都市の広場にあり、そこに軍団長の姿が見えた。
マルスは、馬を降り、敵の軍団長を一騎打ちで捕らえ、勝鬨をあげる。
白の騎士団は、黒の騎士団 相手に勝利を納めた。
マルス達、白の騎士団は、旧メイガス邸を拠点にし、都市の復興準備を始めた。
殲滅した敵の部隊は、
軽装歩兵880 魔法兵220
それに対し、死亡した白の騎士団は、
第21騎士団と義勇兵 6名
レヴィア団 17名
ソドム王国軍 獣歩兵 3名
ベール傭兵団 2名
ベルバランス騎兵隊、ケンタウロス 11名 人間 2名
計41名だったという。
まさに圧勝であったのだが、マルスは浮かない顔をしている。
傷だらけのルナが、マルスに声を掛ける。
「どうしたの。大丈夫?」
「ああ、敵の本体が向かってるって聞いてたけど、この都市では迎え撃てないよね。何か手を打たなければ・・・。」
それを聞いていたレヴィアが、口を挟む。
「ああ、それは心配しなくていい。ソドム王国の部隊が集結して、カティン教和国に襲撃を掛ける手筈になっている。その為の伝書鳩を送ったから、黒の騎士団の本体は、引き上げるしかないだろうね。」
「よかった。レヴィア団長、それに他の代表者にも協力を願いたいのだが、俺は国に報告に戻らなければいけない。その間、副団長のアロンの都市復興に協力してもらえないだろうか。」
「もちろん。レヴィア団の出発点でもあるからね。レヴィア団や、ガルモントたちは喜んで復興支援に協力するよ。」
「あ、ああ。獣人も全面的に協力しよう。」
マルス団長の協力要請に、誰も反対するものはいなかった。
ピーターも心配していたので、念のために、山道の警備は続け、他は都市の復興に力を注ぐことになった。
その間に、マルスとルナは、王都に報告の為、戻ることにした。
~王宮・謁見室~
マルスと、ルナは、戦果を報告すると、そのまま謁見室に通される。
謁見室でしばらく待つと、報告を受けた、ダンテ国王と、マルゲリータ宰相が現れた。
「お前は、何てことをしたんだ!」
マルゲリータ宰相が声を上げる。
「すみません。意味が分かりません。」
「口答えをするな! せっかくあそこに敵をおびき寄せて殲滅する作戦だったのに、お前たちが勝手に行動をしたせいで、作戦は台無しだ! お前からは騎士団長の資格の剥奪と、軟禁を命じる!」
マルスや、ルーナが、反論するも、マルゲリータ宰相は、完全にとぼけて無視する。
それどころか、マルスを捕らえさせ、口を布で塞いでしまう。
「ルーナ姫も、わがままを言われては 困ります。ダンテ国王、ルーナ姫もマルスと一緒に軟禁をしてはいかがでしょうか。」
「うむ。マルゲリータに任せる。」
そういうと、ダンテは奥へと引き上げていった。
マルゲリータは、息子のトレイト第2騎士団長を呼び寄せる。
「トレイト、お前に白の騎士団を任せる。今後は、第2騎士団の傘下とし、黒の騎士団を殲滅せよ。」
「畏まりました。白の騎士団の軍団長として立派に責務を果たしましょう!」
その後、マルスは舌を抜かれ言葉を奪われた。
その魔力が強大すぎた為だと思われる。
ルーナ姫は、マルスと共に軟禁状態になり、東の国境沿いの砦に捕らえられてしまう。
風の噂で聞いた話によると、白の騎士団は全滅し、黒の騎士団の軍勢は、王都まで迫ってきているとのことだそうだ。
もちろん、当時の6年生は、全員の志望先がこの新しい騎士団だった為、誰一人欠けることなく団員30名の騎士団が設立された。
騎士団の正式名称は、第21騎士団。全20団編成の騎士団に加わる、新しい騎士団である。しかし国民は、第21騎士団を敬意を込めて、【覇道の騎士団】と呼んでいた。
しかし、この呼び名が、ダンテ国王には気に食わなかったようだ。
覇道の騎士団(第21騎士団)に所属する騎士は、マルスの希望通り、騎士階級による差別を受けない騎士団となるのだが、それが今回の問題の始まりでもあった。
~王宮内、会議室~
会議は、自由に行動する騎士団を管理するために、30日に1度、定期的に招集される。
その会議には、それぞれの騎士団長と副団長2名の3名が出席できる。
マルスたち、第21騎士団は、団長マルス、副団長アロン、副団長ルナが会議に出席をしていた。
王国の宰相マルゲリータ(各騎士団長の行動の結果を国王に報告する役目の人物、言わば陰の騎士団長のトップと言える人物)が、各騎士団の報告を聞いていく。
各騎士団は、この1カ月間の報告を行う。と言っても、戦争に参加している、第3騎士団や、第11・12・13・14・18騎士団のように、遠隔地の騎士団は会議には参加していない。
宰相がマルス達、第21騎士団に話を始める。
「マルス団長、お前たちは初めての会議であったな。」
「はい。マルゲリータ様。」
「では、この1か月の行動予定を報告せよ。」
「はい。この1ヶ月は、メイガス校長より、軍事演習の強化と、下級生の軍事始動の演習が言い渡されており、その任務を遂行する予定であります。」
「うむ。来月の予定は。」
「はい。今のところ、何も任務がないので、王都周辺の治安改善を重点に山賊の掃討作戦を行う予定になっております。」
「そうか、では、山賊の掃討作戦は、今月中に、第19騎士団に任せるとしよう。第21騎士団は、各地方をめぐり、2カ月で民間兵を500徴収し軍事演習を行い、軍備を整えるように。その後、その徴収した民間兵を率いて、侵攻してきたカティン教和国の軍団を、西の山脈まで追い払うように。」
第1騎士団のムーンフェストが口を挟む。
「宰相、先月、民間兵の徴収を行ったばかりです。すぐには民間兵は集まりません。それに、カティン共和国の軍団は強力です。先日も、第2・4・5騎士団の連団が敗退してきたばかりではないですか。」
「これは、命令だ。必要であれば、軍資金を他の騎士宅から徴収し、傭兵団を雇えばいいであろう! 必ず集めよ。それに、聖騎士団を破った程の実力だ。黒の騎士団を追い返すことくらい簡単にできるはずだ!!」
「・・・畏まりました。」
会議も終わり、それぞれが、騎士団の宿舎に戻ってくる。
マルス達、第21騎士団の宿舎は無く、学校の寮が宿舎になっている。
会議の結果を、騎士団員に伝えると、リサが大きな声で反論している。
「そんなの無理に決まってるじゃない。これからの時期、農村では種まきなんかが始まるんだよ。それに、軍資金の調達だって、騎士宅から徴収ってどうやってやるのよ。」
アロンも同意する。
「そうだよな。それに、先月も民兵の徴収をやったばかりなら、農民も集まらないよな。それに、俺たちは、騎士階級の外なんだぜ、上級騎士は金を出さないだろうし、中級、下級騎士も、出さなくてもいいものは出すはずないだろ。最悪、俺が家から持ってきたとしても、金貨100枚がいいところだぜ。」
ルナも同意する。
「こんなに明確な嫌がらせがあると 気分が悪くなっちゃうね。ちょっと抗議してこようか。マルゲリータの奴、昔から嫌いだったんだよね。
それに、集めたばかりの兵士たちで、黒の騎士団と戦うとか、無謀だよ。せめてちゃんと訓練をしている戦士ならまだしも・・・。」
ウィンが、激しく首を縦にふる。
「まあ、落ち着いてくれ。俺に作戦がある。そのためには、騎士団の生徒全員に協力してもらう必要もある。おれは、民兵の徴収をするためにしばらくの間、留守にする。その間、上級生は、軍事演習をしながら、上級生、全員分の装備一式を、フルフェイスの兜で集めて欲しい。あと、余裕があれば、余分に騎士盾を集めておいてくれ。」
「マルスはどうするの?」
ルナが心配そうに質問する。
「俺と、ルナは、別行動で戦士を集めてくる。」
「えっ! 私も!?」
「そう、ルナの力が必要なんだ。」
マルスは、笑顔でルナを見る。
ルナは、照れてしまい、恥ずかしそうに髪を触っている。
~レヴィア商会の洋品店~
マルスは、久しぶりにレヴィアの店を訪れた。もう3年ぶりくらいだろうか。
マルスと、正装したルーナが店に入ると、ルーナを見つけて、店長が接客に来る。
「ルーナ姫、この度は、当店にお越しいただき、まことにありがとうございます。」
「いいのよ。レヴィア会長か、ミザリ副会長を呼んで頂戴。」
「はい、レヴィア会長は、外出中ですが、ミザリ副会長は、20分ほどで店に戻ってまいります。」
「そう。では、待たせていただこうかしら。」
店長は、すぐに奥のVIPルームへと2人を案内した。
マルス1人では、前回のような押し問答で、ミザリの戻りを確認することも出来なかっただろう。
店長は、VIPルームへと案内すると、飲み物をとりに、部屋を出ていった。
「ねえ、マルス、まさか、この為だけに、私を連れてきたんじゃないでしょうね!」
「い、いや。そんなことないよ。」
「あやしい、マルスは、私に嘘をつくとき、胸の前で手を小刻みに振るんだよね。」
マルスは、指摘を受けて自分の手を見てみる。
確かに、胸の前で手を振っていた。
「ごめん。ここの役目は、これまでなんだ。」
「ほらね。罰として、この後のデートをエスコートしてもらうからね。」
椅子に座っている ルーナが、悪戯っぽくマルスを見上げる。
その上目使いの表情は、可愛らしく、抱きしめたくもなるが、後々面倒なことになりそうなので、マルスも我慢する。
マルスは、普段と違い、女性らしい格好をした ルーナを意識し始めたのか、2人きりの時間が恥ずかしくなり、トイレへと駆け込む。
気持ちを落ち着かせて戻ると、ルーナの前に座る ミザリ副会長がいた。
ミザリ副会長は、あたふたしていて、面白かった。
入り口で見ていたマルスに、ミザリが気づく。
「マ、マルス!? えっと、え、え、どうしたの?」
ルーナが口を開く。
「ミザリ副会長、今日は私は用は無いって言ってたじゃないですか。用があるのは、彼ですよ。」
「え、姫とマルスって、どういう関係なの?」
「私の婚約者です。」
「ええ、ダンテ国王に反対されてますけど、そういう約束はしてしまいました。」
「マルスは、恥ずかしがっているんですよ。マルスが告白してきたんですから、私の婚約者です。」
マルスは、本題に入りたかったので、ルーナの意見に全面同意した。
マルスは、ミザリに、騎士団の会議で決まったことを説明した。
ミザリは、早急にレヴィアに連絡を取り、戦士を騎士団に一時的に編成することを約束した。マルスの采配力は、レヴィアも高く評価していたし、レヴィア団を任せられるものなら、任せたいと言っていたそうだ。しかし、レヴィア団の人数は少数精鋭の為、500名の部隊となると、傭兵団や冒険者の雇用も必要になるようで、食費や移動費用など、軽く見積もっても、金貨3,000は必要だということだった。もちろん、傭兵団や冒険者は、装備の心配はいらないので、その分の価格や訓練の手間を考えれば、安上がりかもしれない。
マルスは、1か月後にレヴィア達との合流を約束し、店を出ようとした。
ミザリは、マルスの腕を掴み、マルスに話しかける。
「マルス、ちょっといいかな。ルーナ姫に聞かれるとマズイことなんだけど。」
マルスは、ルーナをVIPルームに待たせて、更に奥の副会長室へ移動する。
「あのさマルス、ちょっと言いにくい話なんだけど、あの借用書を覚えてる?
うちのバカ亭主と、ミーナが渡したラアラと一緒に買い物した時の分だけど、まだ、お金を貰ってないんだよね。」
「・・・借用書を返して貰ったので、無効になったのかと思ってました。」
「うん。ごめんね。本当は、そうなんだけど、ほら、信用の世界だからさ。」
「はい。給与日に持ってきます。6日後です。」
ミザリは、満面の笑みで、マルスの腕を離し、マルスとラーナを見送る。
「また来てくださいね。ラーナ姫!」
ミザリは、店の外まで見送りをして、大きな声で別れの挨拶をしている。
たぶん、店の宣伝に、ラーナを利用したのだろう。
ミザリが店内に引き上げると、ゾロゾロと貴婦人たちが店に集まっていくのが見えた。
「ねえ、マルス。私に聞かれるとマズイ話ってなによ!」
マルスは、考えた。本当のことを言えば、また怒りだして大変だろう・・・。
「秘密にしておきたいことなんだけど、ルーナを、がっかりさせるような事じゃないよ。」
ルーナは、満面の笑みで答える。
「私は、8号だよ。」
「?」
「もぉ、指輪のサイズだよ。ちゃんと覚えておいてね!」
どうやら、いいように解釈しているようだった。
またレヴィア商会で借用書を書く必要がありそうだ。
~魔法養成学校~
マルス達は、魔法養成学校の、ドーラ特別講師を訪ねた。
そとの応接室で、しばらく待っていると、奥からドーラ特別講師がやってきた。
「2人ともどうしたの? 騎士を辞めて、魔法使いを目指す気にでもなった?」
「いえ、騎士は辞めませんよ。先生、ちょっと相談があって来ました。」
「どんな相談?」
「はい、資金提供です。軍備費用の増強が必要で、1月以内に、金貨5,000枚ほど準備をする必要があります。」
「準備できないことはなけど、そんな大金を提供するつもりはないわ。」
「ええ、俺もタダで資金提供をしてもらおうと考えてません。父から受け継いだ魔法を、魔導書に書き入れてきました。全ての魔法ではないですが、暴風雨の大障壁や、滅炎の光の矢、無音の空間などの下級魔法しかご存じないようだったので、ドーラ先生にも価値のある物だと思いますが。」
ドーラは、マルスの書いた魔導書を見て、驚きを隠せない様子だ。
「獄炎の台所、砂音の王国、香りの選定。こんな魔法まであったなんて・・・。」
「どうしますか。レヴィア商会に販売する方法も残っていたのですが、他国に渡れば危険な魔法もあります。」
「分かったわ、倍の金貨10,000枚で買い取りましょう。その代わり、今後、魔導書を書かないでちょうだい。」
「もちろん、それは約束します。強力な魔法が氾濫すると、地上の生物も危険にさらされますから、広めるつもりはありません。ドーラ先生だから、安心して渡せる魔導書です。」
ドーラは、知的好奇心から、魔導書をどんどんと読み進める。
「・・・エイト先生が、地獄で編み出した魔法もあるのね。まさにタイトルの死者の書にふさわしい魔導書だわ。」
マルスは、ドーラに別れを告げて、寮に戻る。
~1か月後、騎士養成所の中庭~
そこには、第21騎士団と、4・5・6年生の、137名
レヴィア団の、200名
ソドム王国軍、80名
ベール傭兵団、13名
ベルバランス騎兵隊、100名
以上、530名が集まった。
レヴィア団は、冒険者の集団で、もともとウィンター商会に雇われていた冒険者を雇用しているようである。ウィンター商会とは、レヴィア商会に続き規模の商人協会のメンバーで、大規模な冒険者の集団を雇用していた。ウィンター会長が天に召され、跡を継いだカルロス会長から、解雇を言い渡されていたのをレヴィアが雇用したらしい。
年齢は高めだが、魔装具や戦闘の知識、罠を張り巡らせたりが得意なようで、工作兵としての能力を使ってほしいとレヴィア団長からの要望があった。また戦場になる土地は、レヴィア団が最初に拠点を築いた土地で、市街地戦まで押し込めれば、レヴィア団の団員はみな、土地勘があるのだそうだ。
・個人での戦闘力が高そうなのは、レヴィア、レイザー、アリスの3人だろう。
ソドム王国軍は、獣人で組織されている軍隊で、虎や狼の獣人(歩兵)50名。
ウサギの獣人(弓兵)30名の部隊である。彼らの特徴は、一切の魔法攻撃が効かないところだろう。もともと生まれ持った能力だそうで、大魔法や、魔法は全て無効化されてしまう。逆に言えば、傷つけば回復の手段が薬に頼るしかないということだ。
また、ウサギの獣人(弓兵)は、狩りの名手だそうで、長さ2mもある弓を使用している。
その威力は、通常の弓が届かない距離でも、革鎧を貫通して攻撃ができるそうだ。
獣人全体に言えることだが、身体能力が高く、うまく起用すれば、かなりの戦力が期待できる。
・個人での戦闘力が高そうなのは、虎の獣人のガルモンテ隊長、狼の獣人のヴェン副隊長の2人だろう。
ベール傭兵団は、ベール先輩が騎士団を脱退して作った傭兵団だそうで、自警団を引退した人たちで構成されているらしい。主な活動は、地方の治安維持の仕事だそうだが、正直、戦争への参加は不安が大きい。本人たちのやる気は高いのだが、体がついて行かないだろう。ベール先輩を除くと、平均年齢68歳だそうだ。
・正直、戦闘での期待は薄い。
ベルバランス騎兵隊は、ルナに敗れたケンタウロスが指揮する、ケンタウロスを主軸とした騎馬部隊だ。ケンタウロス80名。人間20名の部隊で、全員が騎馬戦を得意としていて機動力が期待できる。
・個人での戦闘力が高そうなのは、隊長のピーターだろう。ピーター曰く、全員が精鋭と話していた。
マルスは、レヴィア団長や、ソドム王国軍の隊長ガルモンテ、ベール傭兵団のベール先輩、ベルバランス騎兵隊の隊長ピーターと挨拶をかわし、大まかな作戦を伝える。
レヴィアからも情報提供があり、黒の騎士団には、魔法を無効化する装備があるそうだ。
マルスが、第21騎士団の元に戻ると、ルナが心配そうに話しかけてくる。
「マルス、上級生を勝手に連れて行って大丈夫?」
「ああ、それは問題ないよ。戦場には連れていかないから。あくまで訓練の2カ月間だけだから。その間に、ランドとリサは、義勇兵の募集と言って、町で声をかけてくれ。」
「義勇兵?」
「そう、正義の為、己の意思で国を守る勇者達の兵士だ。」
「聞こえがいいね。集まるかもね。」
「ああ、俺は義勇兵に志望だな!」
「・・・ランドって、年々バカになっていくよね。昔は何も喋らない可愛い弟だったのに。」
マルスが手配を終われせると、戦士が集結していると噂を聞きつけた、第1騎士団と自警団が学校の外に集結してくる。
「マルス、この騒ぎはいったい何だ?」
「ムーンフェスト団長、民間兵の募集が終わったところです。数は、ちょうど530です。」
「さすがだな。」
ムーンフェスト団長は、戦士たちを見渡す。
「では、宰相に挨拶に行くとしよう。私も同行させてもらうが、生徒のフルフェイスは脱げないように注意しとくんだぞ。」
どうやら、ムーンフェスト団長には見破られていたようだ。
まあ、校庭内と言うこともあり、兜を脱いでいたこともあるのだろう。
マルス達は、色々な種族や兵種が混在する騎士団を総称して、黒の騎士団に対抗する意味を込め、白の騎士団と名乗ることにした。
マルス達、白の騎士団が城門前に待機し、宰相に軍団結成の報告に駆けつける。
しばらくすると、宰相が城内から出てきた。
宰相は、ひどく動揺している。
「ど、どうやって集めたんだ・・・。そんな、できるはずないのに・・・。」
「宰相、これから2カ月間の訓練の後、黒の騎士団との戦闘に向かいます。勝利の報告を楽しみに待っていて下さい。」
マルスは、宰相にそれだけ伝えると、白の騎士団をまとめて、騎士養成所に引き返した。
~騎士養成所・会議室~
マルス達は、裏庭の一角に、テントを張り、そこを白の騎士団の会議室とした。
身体の大きな ケンタウロスたちには、校舎は狭く、落ち着いて話も出来ないだろうということで、ベルバランス騎馬隊の持参したテントを建てたのだ。丈夫なテントを持参する所からも、準備の良さが伺える。
マルスは、訓練を始める前に、会議にて 黒の騎士団について情報の共有を図る。
「では、会議を始める前に、自己紹介をしておこう。俺は、騎士団長のマルス。城の騎士団を勝利に導くために軍団を指揮していく。宜しく頼む。」
「私は、みんな知ってると思うが、レヴィア団の団長、レヴィアだ。宜しく頼むね。」
「俺様は、ソドム王国軍、第2部隊隊長のガルモンテだ。レヴィア団長には、命を救われて、その恩を返す為に 一緒に行動している。」
「私は、元騎士団のベールです。私たちは、後方支援に回ると思いますが、宜しくお願いします。」
「私は、ベルバランス騎兵隊遊撃部隊隊長のピーターだ。ブックバック軍師の指示により、馳せ参じました。」
全員の自己紹介が終わり、マルスが訓練の内容を説明する。
マルスの考える訓練は、
1・ソドム王国軍の弓兵部隊と、ベルバランス騎馬隊による弓の特訓。
2・ソドム王国軍の歩兵部隊を交えた、第21騎士団の合同演習。
3・レヴィア団とベール傭兵団の工作訓練。
「俺の作戦は、ソドム王国軍の弓兵部隊とベルバランス騎馬隊による弓の波状攻撃から戦闘を始めようと思う。
その後、歩兵部隊による戦闘に突入する訳だが、ここで一番重要になってくるのが、歩兵部隊の陣形だ。」
「ちょっと待ってくれよ。俺様は反対だぜ。弱っちい人間に合わせて戦闘なんてしてりゃ日が暮れちまう。」
「マルス団長、我々、ベルバランス騎馬隊も、その意見には反対です。我々の突撃からの戦闘開始で敵を一気に蹴散らしてやります。」
マルスは、笑顔で答える。
「その戦い方では、黒の騎士団に敗北してしまうだろうね。まず、ガルモンテ隊長、いままで最強の種族である獣人族が黒の騎士団に敗北を続けてきたか考えたことは?」
「それは、あいつらが頑丈な陣け・・・。その、なんだ、ほら。」
「そう、陣形を組んで戦っていたからなんだ。俺は、黒の騎士団に敗北した部隊に所属していた騎士団から話を聞くことが出来た。その騎士の話では、前に前に進んでいたはずなのに、気が付くと、敵の側面に移動していたと言っていた。
彼は先陣を切って突撃したから、そのまま逃げることができたそうだが、後方の部隊は大接戦で民兵の大半が死亡したそうだ。」
ガルモンテは、黙っている。
「それから、ピーター隊長。俺は君たちの機動力があるからこその戦いだと思っている。その機動力を戦闘に使わなくてどうするんだ。弓を覚えるのは、敵の攻撃の届かない位置から弓で攻撃し、機動力を生かして距離を取り、また弓で攻撃して、距離を取り、これを繰り返すことで、敵の前線を引き延ばすことに意味がある。その後、ピーター隊長率いる騎馬部隊には、槍に持ち替えてもらい、伸びきった敵の急所を一気に貫く仕事を任命しようと思ている。」
「申訳ない。ブックバック軍師の話していた通りの作戦です。今回の人員、戦場、季節を考慮した結果。我々は、武器の変更を考えておくように言われておりました。」
マルスは 驚いた。マルスは、部隊の装備状況や、得意な戦法。そういった事象を確認しながら考えていった作戦だったのだ。
それを、レヴィア団に応援を要請したという内容の手紙だけで、ブックは判断したことになる。いったいブックは、どれほど軍師として成長しているのか、マルスの想像がつかない神の戦略の領域までたどり着いているんじゃないのか。そう考えてしまうほどだ。
そこから2か月間、軍事訓練を行う予定だったが、敵の増援が山脈を越え始めたという知らせを聞き、わずか、5週間で戦争に出発することになった。義勇軍は、わずか30名ほどしか集まらず、上級生を除くと大幅な戦力の低下につながってしまった。
~日暮れ前・黒の騎士団の拠点都市付近~
マルスは、出来れば市街地戦は避けたかった。
なぜなら、野戦と違い、双方の兵士が傷つくだけでなく、町や、そこに隠れるように暮らす人々にも被害が及んでしまうからだ。
それに、市街地戦は 防御側に有利になり、乱戦になると 個隊の陣形の戦力を活かしにくくなる。
拠点都市付近に到着すると、レヴィアがマルスに話しかけてくる。
「マルス団長、ここいらで休もうよ。」
「いや、まだ距離があるから進もうと思っているんだが。この付近は何か軍を隠すような地形でも?」
「そうじゃないんだよね。ここは、アルルとエイトが、初めて出会った場所でね。
昔の話なんだけど、この近くに教会があったんだ。そこの教会には、都市に忍び込むための隠し通路が掘ってあったのを思い出したんだよ。」
「なるほど。しかし、森を切り開いただけのここで陣を張るのは危険かな。森を抜けた所で陣を張りましょう。」
「ありがとう。レイザーと、アリスには場所を伝えてあるから、10名の兵士を連れて隠し通路に向かわせるよ。」
「ベール傭兵団も連れて行ってもらっていいかな。」
マルス達は、森を抜けた所で陣を張る。
そこからは開けた場所が続く。南や北の方は、まだ開拓前の森が残っており、敵兵が隠れるには、もってこいの場所になるだろう。
~翌朝~
黒の騎士団にも動きがある。都市から出るように陣形を組み始めている。
マルス達、白の騎士団も歩兵に陣形を組ませる。
「個隊を組め!」
全軍、個隊を組み始める。
○歩兵部隊は、獣人を含め、300名
(30部隊)
×弓兵は、獣人の30名
(1部隊)
◎弓騎兵は、100名
(4部隊)
「弓騎兵は、攻撃開始!敵を撃破しながら取り込め!」
「歩兵部隊、双頭の陣を組みそのまま前進!」
「弓兵は待機し、敵を引き付ける!」
◎◎ ◎◎
○○○ ○○○
○○○ ○○○
○○○ ○○○
○○○ ○○○
○○○ ○○○
×
ルナがマルスに話しかける。
「マルス、敵は倍くらいの人数がいるよ。一時撤退して増援を待つ?」
「いや、問題ないだろう。見たところ、槍や片手剣を装備した歩兵と、魔法兵が主力の部隊のようだから。」
「でも、魔法は危険なんじゃない?」
「魔法は無音の空間を掛けるから、それで敵の魔法兵は無力化できる。そうすれば、兵士の数はそこまで変わらないだろうね。」
そういうと、マルスは魔法を詠唱し、その後歌を歌っていた。
「無音の空間(LV24)」
「何を歌ってるの?」
「いや、何でもないよ。黒の騎士団は完全に魔法を無効化する術を持ってるみたいだね。」
弓騎兵が敵の部隊に先制攻撃を掛ける。
黒の騎士団は、魔法が発動できないことに気づき、魔法兵を後ろへ下げ、第1歩兵隊が前に出て、弓騎兵を撃破するべく盾を構え突進してくる。
マルスは、状況を確認し、全軍に指示を出す。
「全軍陣形を維持したまま待機! 弓騎兵部隊を待て!」
弓騎兵が、Hit&Away 作戦で敵を引き付け、歩兵の最前列に近づくころには、敵の部隊も、かなりの被害を受けていた。
そのまま、弓騎兵部隊は、軍の中央を通り抜け最後尾まで移動する。
最前線では、敵の歩兵部隊と戦闘が始まっている。
中央は弓騎兵が通り抜けた隙間があり、そこを敵の歩兵も全速力で突進してくる。
「弓兵部隊、中央の敵に攻撃を放て! ルナ」右舷より騎馬部隊を率いて後方の第2歩兵隊に横槍を喰らわせてやれ!」
「任せて! ピーター! 私についてきて!!」
ピーターは、騎馬部隊に槍を装備させ鼓舞をし、ルナに続く。
マルスの号令で、中央後方に待機していた弓兵部隊が一斉掃射を始める。
長弓の攻撃を至近距離で受けた敵の歩兵は、盾を貫通した矢に鎧ごと串刺しにされていく。
「弓兵部隊、後方に移動。歩兵部隊、双翼の陣を展開し、残りの敵兵を殲滅せよ!」
「レヴィア!3部隊を率いて、北の森を索敵し、伏兵を発見した場合は、そのまま合図を送り、殲滅してくれ! 敵の魔法は封じているから、心配はない!」
「ああ、助かるよ。レヴィア団、本領発揮だよ!」
レヴィアは、ルナたち騎馬部隊の後を右舷の部隊を率いて追走する。
その頃には、中央で包囲されていた黒の騎士団の第一前衛は撃破されていた。
「上弦の陣で、騎馬部隊と合流するように、敵を殲滅せよ!」
○○
○○
○○○
○○○○○○○○○
× ○○○○○○○○
こちらの被害も大きいが、それ以上に黒の騎士団の被害が大きい。
北の森に索敵に入ったレヴィア達からの合図の火矢が上がる。
マルスの読み通り、北の森でも戦闘が起きているようだ。
ルナ率いる騎馬部隊は、敵の第2部隊を側面から叩く。
黒の騎士団は、山を越えてきた部隊だけあって、装備は軽装で、騎馬などもない。
軽装歩兵にとって、ケンタウロスの騎馬部隊は、恐怖の存在だろう。第2部隊は混乱し、陣形を保つことが出来ないほどだ。
騎馬部隊から逃げるように、混乱した第2部隊は、第1部隊と合流する。
その結果、黒の騎士団の前線は、完全に崩壊した。
また、都市の方から、3種類の狼煙があがってくる。
マルスは、馬を動かし、味方の中を駆け抜け最前線に移動し、ランドとガルモンテを呼ぶ。
「ランド、ガルモント、5部隊を率いて、南の森を索敵、遭遇があれば殲滅、その後、森を抜け都市を目指せ!」
「ルナ、ピーターついてこい! 全軍突撃! いまが勝機だ!!」
マルスの鼓舞に、白の騎士団が呼応する。
黒の騎士団は、恐怖から逃げ出す兵も現れた。
南の森には、敵の伏兵はいなかったようだ。
白の騎士団は全軍、都市になだれ込む。
敵の本陣が、都市の広場にあり、そこに軍団長の姿が見えた。
マルスは、馬を降り、敵の軍団長を一騎打ちで捕らえ、勝鬨をあげる。
白の騎士団は、黒の騎士団 相手に勝利を納めた。
マルス達、白の騎士団は、旧メイガス邸を拠点にし、都市の復興準備を始めた。
殲滅した敵の部隊は、
軽装歩兵880 魔法兵220
それに対し、死亡した白の騎士団は、
第21騎士団と義勇兵 6名
レヴィア団 17名
ソドム王国軍 獣歩兵 3名
ベール傭兵団 2名
ベルバランス騎兵隊、ケンタウロス 11名 人間 2名
計41名だったという。
まさに圧勝であったのだが、マルスは浮かない顔をしている。
傷だらけのルナが、マルスに声を掛ける。
「どうしたの。大丈夫?」
「ああ、敵の本体が向かってるって聞いてたけど、この都市では迎え撃てないよね。何か手を打たなければ・・・。」
それを聞いていたレヴィアが、口を挟む。
「ああ、それは心配しなくていい。ソドム王国の部隊が集結して、カティン教和国に襲撃を掛ける手筈になっている。その為の伝書鳩を送ったから、黒の騎士団の本体は、引き上げるしかないだろうね。」
「よかった。レヴィア団長、それに他の代表者にも協力を願いたいのだが、俺は国に報告に戻らなければいけない。その間、副団長のアロンの都市復興に協力してもらえないだろうか。」
「もちろん。レヴィア団の出発点でもあるからね。レヴィア団や、ガルモントたちは喜んで復興支援に協力するよ。」
「あ、ああ。獣人も全面的に協力しよう。」
マルス団長の協力要請に、誰も反対するものはいなかった。
ピーターも心配していたので、念のために、山道の警備は続け、他は都市の復興に力を注ぐことになった。
その間に、マルスとルナは、王都に報告の為、戻ることにした。
~王宮・謁見室~
マルスと、ルナは、戦果を報告すると、そのまま謁見室に通される。
謁見室でしばらく待つと、報告を受けた、ダンテ国王と、マルゲリータ宰相が現れた。
「お前は、何てことをしたんだ!」
マルゲリータ宰相が声を上げる。
「すみません。意味が分かりません。」
「口答えをするな! せっかくあそこに敵をおびき寄せて殲滅する作戦だったのに、お前たちが勝手に行動をしたせいで、作戦は台無しだ! お前からは騎士団長の資格の剥奪と、軟禁を命じる!」
マルスや、ルーナが、反論するも、マルゲリータ宰相は、完全にとぼけて無視する。
それどころか、マルスを捕らえさせ、口を布で塞いでしまう。
「ルーナ姫も、わがままを言われては 困ります。ダンテ国王、ルーナ姫もマルスと一緒に軟禁をしてはいかがでしょうか。」
「うむ。マルゲリータに任せる。」
そういうと、ダンテは奥へと引き上げていった。
マルゲリータは、息子のトレイト第2騎士団長を呼び寄せる。
「トレイト、お前に白の騎士団を任せる。今後は、第2騎士団の傘下とし、黒の騎士団を殲滅せよ。」
「畏まりました。白の騎士団の軍団長として立派に責務を果たしましょう!」
その後、マルスは舌を抜かれ言葉を奪われた。
その魔力が強大すぎた為だと思われる。
ルーナ姫は、マルスと共に軟禁状態になり、東の国境沿いの砦に捕らえられてしまう。
風の噂で聞いた話によると、白の騎士団は全滅し、黒の騎士団の軍勢は、王都まで迫ってきているとのことだそうだ。
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