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ディソナ王国編
王国歴1年 諸国の解放、敵の思惑
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聖王歴1年 冬の始まり
独立して2か月後のことである。
国王マルスは、国境を西の大山脈とし、国内に陣を張っている同盟国以外の軍隊に撤収を命じた。
この国境線の制定に、カティン教和国は反発し、ディソナ王国に使者を送る。
~謁見室~
謁見室には、カティン教和国の使者と、マルス国王、ルーナ王妃、軍師ブックバック(ブック)、ローランド団長(ランド)、ピーター団長、メリッサ団長などの各団長も集合している。
「マルス国王、この度は、独立おめでとうございます。しかしながら、今回の国境線の件ですが、我々カティン教和国としても、意見させていただきたくお伺いさせていただきました。」
ルーナが、マルスの意思を、使者に通訳する。
「西の大山脈の境界線は、ダンテ王国時代からの境界線です。過去の同盟国の黒の騎士団の軍勢が残っているからと言って、国境の境界線を動かす言われはありません。」
「しかし、ダンテ国王は、土地の安全と引き換えに、教主様と交わした盟約に乗っ取り、あの土地は、我々カティン教和国の領土となっておりましたから…。」
「では、土地のやり取りが残っている書簡でもお持ちなのでしょうか。」
「使者を介しての密約だったので、その使者が先の戦争で死亡し、書簡に残っておりませんし…。」
なぜ、カティン教和国は、この男を使者として出したのだろうか。
カティン教和国の使者は、モゴモゴと話をしている。
マルス達が強気に出るのも理由がある。カティン教和国との密約を交わしていたのは、ダンテ王国のマルゲリータ宰相であり、マルゲリータ宰相の執務室から、個人的に作成したと思われる、ダンテ王の刻印と、書簡が発見されていた。
この密約は、執務室に残された日記から、ダンテ国王の知らない密約であること、国を明け渡す代わりに、時期が来れば、ダンテ国の王には、マルゲリータ宰相を推薦することなどが、記載されていた。
「これ以上は、言うことはないわ。すぐに軍を引き上げて下さい。」
「私も使者で来た以上、引けません。もし軍を引き上げろというなら、カティン教和国との全面戦争になりますぞ。」
「なぜ、そこまで意地になっているの。資源を採掘できる、地獄の門の迷宮があるからなの? 地獄の門の迷宮は宝石を有する魔物が消えてしまい、残されたのは、悪魔たちが暮らす不毛の地が広がる地獄へと繋がる門だけよ。」
ルーナは、マルスの話した内容をそのまま伝える。
「何だと! 神々の楽園をバカにしおって!!!」
いままで丁寧に話をしていた、カティン教和国の使者が怒鳴り始める。
どうやら、カティン教和国では、天国の門と言われており、神々の世界に通じる扉であると伝えられているようだ。そのため、地獄の門の迷宮を聖地とあがめているようであり、ルーナの一言が、自国の神々を悪魔と言っていると誤解して、頭にきたのだろう。
カティン教和国の使者は、怒りに身を任せ、ルーナ王妃に暴言を吐き、逃げ出すように謁見室を出た。
「マルス国王、先ほどの使者ですが、始末しましょうか。」
ピーターと、メリッサは、使者の態度や暴言に怒りの表情を見せていた。
(大丈夫だ。撤退の条件が呑めないのであれば、彼には戦争開始の旗を振ってもらわなければならない。こちらも、領土奪還の戦争準備をするとしよう。リサ大使と
、ブルック団長には、それぞれ、国の治安維持と、同盟国との貿易の活性化を命じる。)
「任せてよ! ブルック団長、お互いに頑張ろうね!」
「マルス王、治安維持や防衛は、特に自信があります。安心してお任せ下さい!」
ブルックと、リサが謁見室を退出する。
(ルーナ、ピーター、騎馬部隊を組織せよ。今後、騎馬部隊は山脈越えが難しくなるだろうから、国境沿いの循環警備を任せることになる。そのことも考え編成するのだ。)
「畏まりました。」
ルーナと、ピーターが退出する。
(ブック、ランド、別動隊を率いて砂漠を超えソドム王国のあった場所まで侵攻せよ。)
「任せてよ。マルス王なら、そう言うだろうと思って、ランド騎士団を軽装歩兵特化で訓練させておいたから。ソドムの獣人も解放するんでしょ。
だけど、ここから砂漠を超えるとなると、少数の部隊とはいえ、半年はかかるよ。」
(問題ない。さすがブック軍師だな。)
「あー、それで軽装での訓練をしてたのか。てっきり、俺の戦い方を見直したのかと思ってたよ。」
ランドが、何か納得したようだ。
(ランドの個人の武力は、素晴らしいよ。だけど、敵の攻撃を目視後に回避できるのは、ランドとメリッサだけだろ。そんなことは、一般兵には出来ないから。)
笑顔のランドと、ブックも謁見室を出る。
(ウィン、アマゾネス公国に迎い、レヴィア公主に援軍の要請を頼む。すでに話をつけているから、行動は早いと思うが、いまから、8日目に援軍を出すように依頼してくれ。)
「任せて下さい!」
(その後、レヴィア公主に指示を仰ぎ、戦場へ戻ってこい。山脈越えの先方は、ウィン団長に任せようと考えている。今後の活躍を期待しているぞ。)
「マルス王の期待に添えるように敵を撃破します!」
マルスは、何かをウィンに伝えようとしたが、辞めておいた。
ウィンも謁見室をでていく。
ウィンの考え方では、争いに勝利できても 先が見えない。
命を奪う重みを知らなければ、ウィンは命を落としてしまう。このことは、人に言われて分かることではない。ウィンをアマゾネス公国軍に行かせたのは、命を懸けた 想いの戦い を知ってもらいたいという、賭けでもあった。
(メリッサ、君に残りの騎士団を全軍指揮してもらいたい。
もちろん俺も出陣するが、敵は俺を警戒しているだろうから、本陣の動きに注意するはずだ。そこで、俺が決死隊を率いて敵の虚を突き、一気に蹴散らそうと思う。)
「しかし・・・。」
(大丈夫だ。俺に策がある。それは・・・。)
マルスは、メリッサだけに聞こえるように説明を始めた。
~数日後~
ディソナ王国軍は、森の外れで陣を張る。
ここは、マルスが初陣で完全勝利を納めた場所だ。
敵の軍勢も、前回のような、軽装歩兵の先発隊ではなく、重装歩兵も含まれている。
しかし、敵の数が密偵の報告の半分にも満たない。
また、防御の陣形を取り、攻めてくる気配がない。
おそらく、アマゾネス公国を攻める為に大部隊を動かしているのだろう。敵が攻めてくるつもりがないのも、大部隊の戻りを待っているからだろう。
ディソナ王国軍
○義勇歩兵 3000名
◎弓槍騎兵 2000名
●魔法兵 600名
X獣人弓兵 200名
計 5800名
カティン教和国軍
重装歩兵 5000名
軽装歩兵 3000名
魔法兵 1000名
計9000名
メリッサは、敵の陣形を確認する。
敵の陣形は、逆釣鐘の陣のような 防御の陣形を組んでいる。
メリッサは、軍団に号令を出す。
「双頭の陣を組め! 今回は防衛線ではない! 我々は攻める側だ、一気に攻め、敵を大山脈に押し返してやれ!!」
メリッサの号令で、軍が生き物のように形を変えていく。
○○○ ○○○
○○○ ○○○
○●○ ○●○
○●○ ○●○
○●○ ○●○
○○○X X○○○
騎馬部隊は、後方の森の中に 伏兵として控えている。
敵は、防御の陣なのだろう。攻めてくる気配はない。
メリッサは、軍を戦場の中腹まで進める。
敵の魔法攻撃は、魔法兵を防御に専念させて迎撃していく。双方に弓の届く範囲になってきた。
「いまだ! 左右に分かれ竜顎の陣を展開し森を目指せ!」
敵の軍勢は、ディソナ王国軍が左右に展開したため、何か罠を警戒しているようだ。
敵の攻撃が、左右に別れ、攻撃が混乱している。
(騎馬部隊、己の肉体を風と化し、いまこそ敵を打ち破る突風となるのだ!)
「「「おおぉぉぉ!」」」
マルスの奏でる歌と共に、後方の森の中から、全速力の騎馬部隊が、雄たけびをあげながら突撃をしてくる。
騎馬部隊の前衛は、騎士盾を構えたケンタウロスで、敵の攻撃を寄せ付けない!
ディソナ騎馬部隊は、まさに吹き付ける突風のごとく、敵本陣付近まで、一気に貫く。
左右に分けられた歩兵部隊は、敵の伏兵を撃破しながら、本陣へと突撃する。
作戦としては、完璧だったのだが、数が大きく違うため、混戦になってしまう。
乱戦を避けたいマルスは、ピーターに指示を出し、騎馬部隊を中央から左に向かうように進路を変えて移動をさせる。
マルスは、ルーナと少数の部隊を率いて、その場でとどまり、本陣に圧力をかける。
敵の部隊は、左右の歩兵を迎撃するように展開していたが、中央にマルスを発見し、集結してくる。
(左右の歩兵部隊は、そのまま中央を挟撃せよ、俺たちは一度後方に下がる。ピーターは、俺の合図と共に中央を目指して転進せよ!)
全軍に歌を奏でると同時に、敗走するように、マルスの部隊は 後退する。
マルスを危険視していた敵の軍団は、勢いを増し中央に集結していく。
功を焦ったのか、騎馬部隊のマルスを追い込む為に、左右の軽装歩兵部隊を重装歩兵部隊と分断し、追撃に向かわせる。
(ピーター、転進して中央本陣を狙え!)
軽装歩兵が完全に分断されるのを見て、マルスは号令をかけた。
歩兵部隊は、敵の歩兵部隊を押さえ、騎馬部隊本体のピーターは、中央本陣を目指す。
(ルーナ、このまま俺の部隊を率いて、右旋回で左舷の歩兵部隊の応援に向かってくれ。右舷の歩兵部隊は、鉄壁の陣で壁を作り、敵の退路を断て!)
○○○○
中 ○○
央 ○○ ●X
敵 ○○ ● 森
軍 ○○ ●
○○○
ルーナ率いる騎馬部隊は、引き付けた敵の軽歩兵を一気に引き離し、右旋回で、左舷の歩兵部隊の増援に向かう。マルスは、そのまま単騎で180度方向を変え、敵の軽歩兵をなぎ倒し 単騎で駆け抜ける。その姿は荒々しく、追ってきた敵の軽歩兵3000は、先頭を走る数名の兵士が剣を交え切り殺されただけで、後方の軽歩兵は、何事か理解することもできず、ただマルスが走り抜けるのを避けてみていた。
敵の騎馬が単騎で3000もの兵士の間を走り抜けることなど考えてもおらず、マルスの騎馬突進を見ると、敵が来ると思っていないからなのか、本能で自然と道を開けてしまう。
3000の軽歩兵は、何もすることが出来ず、マルス単騎に中央を突破される。
このとき、マルスは、無傷で走り抜けたと言われている。
のちの世では、このマルスの行動を【軍神の単騎駆け】と呼び、猛将の代名詞ともなる。
マルスの単騎駆けで、味方の指揮は大いに高まり、敵の指揮は、精鋭部隊が混乱を起こす程に低下した。
マルスは、そのままの勢いで混戦の中、敵の総大将に一騎打ちを挑む。
敵の総大将は、混乱を治める為、黒の騎士団の英雄を呼び寄せた。
黒の騎士団の英雄は、地上戦で決着を要求し、それに応じたマルスとの一騎打ちが始まる。
敵の英雄は、地上戦用の短めの斧槍(2m程)を装備している。
斧槍は、突く、斬る、強打と、3拍子揃った攻撃ができ、熟練した戦士であれば、戦場にて単独で活躍できる程の破壊力がある。
対する マルスは、ラアラの形見の騎士剣(守護の聖騎士剣)を装備し、魔法に対する備えはあるものの、破壊力やリーチは、斧槍にはるかにおとる。
周囲を敵の重装歩兵が取り囲む。
マルスは、即座に敵を沈黙させるために、右足を前に出し、騎士剣を持った両手を上段に構えた。
敵の英雄は、マルスのガラ空きの胴めがけて、突きを放つ。
次の瞬間、マルスは身体を前に進め、敵の突きをかわす。斧槍は、そこから敵を薙ぎ払うこともできる。
敵の重装歩兵たちも勝利を確信した。
ドサ!
しかし、斧槍は 薙ぎ払われることなく、地面に落ちる。
飛び込んだマルスの移動速度が速く、敵の突きの突進にカウンターを取る形で、頭上から兜を割り、敵の英雄の頭を潰す。
マルスは、自軍に敵の英雄の撃破を伝える。
「マルス王が、敵の英雄を一撃で仕留めたぞ!」
そのことで、味方の兵士の指揮は高まり、敵の混乱は、さらに大きくなる。
マルスは、さっそうと馬に乗り、混乱している重装歩兵の包囲を切り崩し、そのまま敵の総大将を追い詰める。
敵の総大将は、生きた心地がしなかったのだろう、単騎で敵の重装歩兵の間を切り抜けて、そこで軍の英雄を、たった1撃で葬った男が、自分の命を奪うために突進してくる。
敵の総大将は、武器を投げ捨て敗走を始める。
マルスは、そのことも歌を奏で、自軍に伝える。
英雄を撃たれ、総大将は、撤退をはじめ、敵の9000の軍団は大混乱へと陥った。
命令を守り、その場で立ち止まり殺される者、その様子を見て逃げ出す者、その逃げ出す兵を押さえようとする指揮官に、敵に殺される前に 指揮官を殺して逃げようとする者。
まさに地獄のような世界だった。
マルスは、全軍の動きを止め、全兵士に 大合声を指示する。
「「「投降する者の命を奪わない。しかし、戦う者、逃亡する者は、軍神マルスの軍勢が、地の果てまで追い、必ず命を奪うだろう。」」」
その声を聴き、武器を捨て兜を脱ぎ 投降するものが多い。
それでも戦い続ける敵を、ディソナ王国軍は、徹底的に倒していく。
しかし、約束通り、武器を捨て兜を脱ぎ、降伏の意思表示が出来ている兵士は殺されない。
その様子を見た兵士たちは、次から次に、投降していく。
総大将と逃げた兵士たちを、マルスとピーターの騎馬部隊が追撃をかける。
総大将を含め、逃げ出した兵士たちは、重い鎧が邪魔をしたのか、町の門をくぐる前に、全て殺された。
逃亡した総大将の死から、さらに投降兵が増えていく。
マルスは、ルーナに勝鬨を上げさせる。
残った敵の兵士たちも全て投降することになった。
戦死者は、双方合わせて、約5000名にもなった。
ディソナ王国軍
○義勇歩兵 1800名。△ 200
◎弓槍騎兵 1700名。△ 300
●魔法兵 600名
X獣人弓兵 200名
計 4300名
【投降兵】 4100名
黒の騎士団軍
重装歩兵 1300名。△2700
軽装歩兵 2600名。△ 400
魔法兵 200名。△ 800
【投降兵】 △4100
計 0名
マルスは、敗戦処理でも敵の兵士に温情を見せた。
国に身寄りがなく、帰る必要がない者は、3度の兵役で ディソナ王国の国民と認めた。
カディン教和国に帰る者は、腕に刺青を入れ、帰国することを許した。
しかし、ピーターが横から口を挟む。
「もし次、その刺青を見れば、助かる命はない。その次がなくていいように、国に戻り、兵士を辞め、家族と余生を暮らせ」と。
4100名の兵士は、約半数の1900名が、ディソナ軍の参加に組み込まれることになった。戦争の大義名分は、宗教の考え方の違いだそうだが、実際この土地で暮らしてみて、教和国の話しているような違いは感じられなかったという。
残りの2200名は、それでも国へ帰りを待つ人がいるということで、装備を全て没収され、腕に刺青を入れられ、カティン教和国へと帰還を許された。
マルスは、ピーター団長に布の様なものを持たせ、弓槍騎兵 1500名を任せて南のアマゾネス公国の救援に向かわせる。密林での戦闘は、騎馬部隊にとって、絡みつくツタが不利だが、増援が駆け付けたという事実が大事になると考えた。
マルスの読み通り、アマゾネス公国と、カティン教和国の戦闘は拮抗していた。
そこへ、後方から突如、ディソナ軍が現れたので、カティン教和国の兵士は動揺した。
なぜなら、後方から攻撃を受けるということは、後方の本体が全滅した恐れがあるからだ。
もちろん、ディソナ軍が本体を避け攻撃を加えてきた可能性もある。しかし、その可能性は、ディソナ軍の持っていた ボロボロの軍団旗を見て、打ち崩される。
援軍に駆け付けた、ディソナ軍が持っていた軍団旗は、カティン教和国の本陣旗であった。その旗を持っているということは・・・。
カティン教和国軍は、アマゾネス公国軍に一気に押し込まれる。
アマゾネス公国軍の、2大主力部隊(狂戦士部隊、獣歩兵部隊)は、逃げ惑う兵士を皆殺しにする。この戦場では、降伏は認められていないようだ。泣きながら命乞いをする兵士さえも、獣歩兵部隊は、躊躇なく命を奪う。
獣人は祖国を奪われた苦しみ、家族を殺された悲しみ、そして、まだ国に取り残されている獣人の迫害に対する怒りで殺戮を止めることは出来ない。
ディソナ軍が身柄を保護することもできたが、ピーターは、それをしなかった。
ケンタウロスという種族、獣人族の苦しみを理解できたからだろう。
この戦場では、多くの血が流れすぎた。
獣人族の想いが形となって表れた結果だろう。
戦死者、
アマゾネス公国 3800名
内訳(獣人族2700名、狂戦士1100名)
カティン教和国 15000名(全滅)
「なぜ、ここまで殺しあうのだろう・・・。」
マルスの指示で、レヴィアの元で参戦したウィンが、呆然と戦場を見て回る、近くで負傷者の治療にあたっていた獣人が答える。
「お前も戦士なら 分かるだろ。これが悲しき戦争、・・・復讐の戦争だ。」
いままで闘争の中で育った環境の違いだろうか、騎士道を邁進してきたウィンには、分からない感情でもあった。
勝利したはずのウィンの目には、涙が溢れていた。
~大山脈麓の町~
アマゾネス公国軍と合流した、マルスたちは、兵士を総動員し、大山脈の山頂に砦を築き始める。
その砦は、東からは容易に攻めれるように、斜面を整備し西側からは攻めにくいように、わざと作業で動かした岩を捨てる。
そして、麓の町と大山脈頂上の間に、中継の詰所を設置することにした。
詰所は、ルーナの助言で門を設置してあり、山道を塞ぐように建設してある為、関所としての機能もするように工夫した。
まだ雪の降る時期である。いまの時期であれば、雪山を越えての大部隊の進軍は考えにくい。この建設を雪解けの季節までに急がせた。
~春のおとずれ~
大山脈の砦を築き始めて5か月目。
砦や、詰所(関所)は完成し、町の復興も進んでいた。
マルス国王が直接、町づくりをすると聞きつけ、一目見ようと集まってくる観光客もいるほどだ。
アマゾネス公国は、本来の温泉施設としての姿を取り戻しつつあった。もともと狂戦士部隊は、温泉の従業員だったことや、町から離れた場所での戦闘だったので、復興が早かったようだ。
マルスは、大山脈の雪が解け始めたころ、部隊を再編成し、ソドム王国跡を目指すことを公言した。この発表に、ディソナ王国や、近隣国に散らばっていた獣人族が、マルス軍の元に集結し、兵員として志願してきた。志願してきた獣人の数は、8000名にもなり、その中には、まだ幼い子供や、女性や老人などの姿もあった。
~元メイガス邸、会議室~
マルスは、今後の作戦を、次の戦闘に参戦する軍団長たちに説明する。
会議に参加した軍団長は、
ディソナ王国軍所属の、ルーナ、メリッサ、ピーター、ウィン。
元ソドム王国軍の、虎の獣人ガルモンテ、狼の獣人ヴェンザード(ヴェン)、兎の獣人ミモザ。
アマゾネス公国軍所属の、ルーベンス。
以上、マルスを含め、9名である。
マルスが会議前に、軍団長たちに話し出す。
(今回の戦争は、我々が侵攻する形となる。しかし、この侵攻はソドム王国を取り戻す為の名誉ある聖戦でもある。しかし、侵攻は侵攻だ。敵の反撃も、いままでにない程、激しくなるだろう。それでも、皆には ついてきてほしい。)
元ソドム王国の騎士団長ガルモンテが、立ち上がり声を出す。
「もちろんだ! 我々は、祖国と獣人の誇りを取り戻す為に参戦している。この戦争で命を落とすことになったとしても、かならず女王を助け出し、ソドム王国を再建させる!」
同じ獣人のヴェンザード、ミモザだけでなく、ピーターも大きく頷いている。
その様子をみて、ルーナが口を出す。
「ねえ、まさかピーターも山越えをするの?」
「何か問題でも?」
「い、いえ。ピーターがいいんなら、それでいいけど。」
あまりにも普通に答えたピーターに、ルーナが困った顔をする。
マルスは、ルーナだけに事情を説明する。
ピーター達、ケンタウロス部隊には、大山脈を越えず、国内の警備を任せるはずだった。
しかし、ピーターたちケンタウロス部隊は、無謀だと分かっていても、同じ獣人の危機に立ち上がりたいという強い信念があった。そこでマルスは、レヴィア公主に飛空艇での兵員輸送を依頼した。レヴィア公主は、ケンタウロスの意思を組み取り、大型飛空艇の飛空艇に乗れるケンタウルスの定員、600名だけを輸送してくれる約束をしてくれた。
(では、作戦を指示する。)
全員がマルスの作戦を確認し、準備の為に会議室を出ていく。
マルスの作戦は、本体が陽動を行う作戦だそうだ。
あと2週間もすれば、ブックたちの別動隊が、ソドム王国の北にある砂漠を抜け、王城に到着する。
ブックとランドの別動隊は、ソドム王国までの町を開放して、獣人を仲間に加え規模を増やしているようだ。いまでは、50名のディソナ王国軍と、獣人200名の部隊になっている。
その別動隊と、ソドム王国の王城の戦闘開始に合わせて、本体も 南東より王城を攻める。
そこで今回の作戦だが、この本体の総攻撃を合図に、マルス、ミモザが、城外からの隠し通路を抜け、城内に潜入する。そのまま、敵のスキをつき、女王を救出する。
その後、女王の指揮の元、捕らわれていた獣人を鼓舞し城門を開け、陽動を掛けていた本陣と合流して挟撃する作戦だ。
面倒な作戦のようだが、ソドム王国は、少数でも籠城できるほど、堅牢な城の作りをしているので、正攻法の城攻めをすると、時間がかかってしまい、南のドワーフ国から敵の増援が到達してしまう。
敵の増援も早さが求められる。そのことから、軽装歩兵の部隊を組み、増援を行うだろう。
そこで、ピーター達、弓槍騎馬部隊の役目だが、敵の増援を撃破、または、城攻めが終わるまで足止めをすることである。
今回の作戦は、いかに早く 城を攻め落とすかが、重要なところだろう。
~ソドム王国、王城付近~
マルスの読み以上に、砂漠を侵攻してきた別動隊は、規模が大きくなり、全体で600名を超える部隊と、1000名程の一般人(非戦闘要員)になっていた。獣人の非戦闘要員も 弓を装備している為、遠目に見れば、中規模の部隊に見えるだろう。
ディソナ王国軍の本体も南東の山脈を超え城攻めに突入する。
敵は城内に立てこもり、籠城する作戦のようだ。
「マルス国王、そろそろ行きましょうか?」
ミモザの案内の元、城の近くの村に入る。
村の中の井戸にロープを垂らし、中に降りていく。
「マルス国王、いまから水を抜きます。その後、水位が下がったら横穴に入って下さい。」
まだ水位が下がりきっていないようだが、ミモザの指示通り、マルスは横穴に飛び込む。
ミモザも横穴に飛び込み、マルスを急かす。
「マルス国王、水位が徐々に上がってきます。急いで進みましょう。」
水路の横穴は、直線という話だが、先が見えない。
全力で走れば、余裕で間に合うと言われたが、獣人の全力と人間の全力では、速度が全然違う。
しかも、水位が徐々に上がってきて、かなり走りにくい。
マルスは、なんとか泳いで城内の地下水路に辿り着く。
先に辿り着いていたミモザは、着替えを済ませているようだ。
マルスは、近くの部屋に入り、ミモザが持ってきた防水布袋の中に収納していた敵の軍服に着替える。
「ここからは、別行動をしましょう。獣人の私と、マルス国王が一緒に行動すれば怪しまれます。私は、このまま地下道を進み、捕らえられている獣人たちを開放しに行きます。」
マルスは、頷き、女王が捕らえられているだろう、塔の最上階を目指す。
~女王が幽閉されている塔~
塔の階段前(入口)には、敵の見張りが3名待機していた。
マルスは、3人が話をしている隙をつき、最初の1人目を後方から斬りつけ、1撃で仕留める。
他の2人は、とっさに剣を抜こうとするが、マルスは流れるように騎士剣を振り上げ、左側の兵士の喉に、騎士剣を突き立てる。
そのまま、右の兵士の剣の柄を押さえ、剣を抜けないようにし、騎士剣を手放した左手で腰の短剣を抜き、右の兵士の喉を切り裂く。
まさに一瞬の出来事だった。
3人の兵士は、応援を呼ぶ間もなく、地面に横たわる。
マルスは、階段を上り、女王の元へ向かう。
塔の最上階、立派な扉をくぐると、そこには1人の老女がいた。この女性が女王なのだろうか。獣人たちの話では、女王は200年も生きる蛇の獣人と聞いていた。
マルスは、老女(人間?)に、ガルモンテが書いた手紙を渡す。
老女は、マルスから手紙を受け取ると、奥の部屋に移動して行く。
奥の部屋から、薄い絹布を羽織った美しい半裸の女性が手紙を持って現れた。
この女性が女王だろうか、歳はマルスよりも少し上、22~23歳くらいにみえるのだが。
彼女は、上半身が人間、下半身が大蛇といった、半人半蛇のような見た目の獣人だ。
彼女の羽織っている薄い絹布は、風のない室内でも、周囲の気流の乱れでヒラヒラと動くほど薄く、絹布を纏っているとは言え、日の光が直接差し込むところでは、絹布が透け 薄っすらと白く美しい肌が透けて見える。
「そなたが、マルスじゃな? レヴィア姉さんから、英雄譚は聞いておるぞ。」
レヴィアの妹なのだろうか。それとも、レヴィアを慕って、レヴィア姉さんと呼んでいるだけなのだろうか。
300年も生きているということから、おそらく後者の、レヴィアを慕っているで、間違いなさそうだ。
マルスは、いろいろと考えていると、女王が口を開く。
「話をすることが出来んとは、まことに不便じゃな。」
女王は、マルスの顔を見に来ただけなのか、また奥の部屋に引き返し、服装を整え再び現れた。その姿は、執務をすると言うより、胸当てとガントレットを装備し、前線で戦う格好のようだが・・・。
「さあ、準備は出来たぞよ。まずは、王座の間に寄ってバルコニーに向かうとするかの。」
「エキドナ様、お気を付けください。」
女王は、心配する老女に安心して待つように告げ、マルスを誘導するように、マルスの手を引き、王座の間へと案内する。
塔の階段を下りたところで、兵士の死骸を見て、マルスに声をかける。
「なるほど、腕は確かなようじゃな。わらわの次と言ったところじゃろうか。」
女王は振り返り、自慢げに笑顔を見せる。
そのまま、マルスの手を引き、王座の間に辿り着く。
王座には、1人の騎士が座って瞑想をしているようだ。
騎士は、マルスたちの気配を感じたのか、目を開き、マルスたちに声をかける。
「エキドナ女王、見張りの兵士はどうしたのかな。彼らは近衛兵を務めたこともある精鋭だったのだが。」
「あれが精鋭だったのか。英雄マルスに瞬殺にされていたようじゃな。」
「そちらの戦士が、英雄マルスなのかな。」
王座に居座る騎士は、マルスをみる。
マルスは頷き、騎士剣に手をかける。
「その黒髪に黒い瞳、言葉を発しない所をみると、本物のようだな。」
騎士は、立ち上がり、片手剣と盾を構え、マルスと対峙する。
マルスも、騎士剣を構えて、エキドナに後ろに下がるように身振りで伝える。
「私の名は ブレイブ、勇者ブレイブと呼ばれている。魔王マルス、この場が貴様の墓場になるだろう。」
ブレイブは、名乗りを上げると、魔法を詠唱する。
「炎の矢(LV9)」
マルスは、魔法を見極め、魔装具(守護の聖騎士剣)で無効化し、ブレイブとの距離を詰める。ブレイブは、マルスに魔法が効かないと分かると、別の魔法を詠唱し始める。
「これでどうだ! 滅炎の光の矢(LV15)」
ブレイブの唱えた魔法が、炎の光をなってマルスを襲う。
大魔法クラス(※目指せ!地獄の門を参照)になると、マルスの魔装具でも無効化できない。マルスは、滅炎の光の矢の軌道を読み、回避しながら距離を詰める。
滅炎の光の矢を避けられると思ってなかったのか、ブレイブは、マルスに接近を許してしまう。
マルスは、上段からの振り下ろしでブレイブの頭を狙う。
その攻撃をブレイブは、左手の盾で受け流す。そのまま、右手の片手剣で突きを放つ。
マルスは、さらに前進し、姿勢を屈めブレイブの攻撃を回避し、右側に受け流された騎士剣を全身で振り上げ、攻撃する。
ブレイブは、左足をあげ、脛の甲冑で攻撃を防ぐが、バランスを崩し、3歩ほど後退する。
「さすが魔王、生まれて初めて後退させられたよ。雷神の雄たけび(LV15)」
ブレイブは、話しかけている隙に、魔力を高め魔法を詠唱する。雷神の雄たけびは、扇状に広がる魔法だ。使用者の魔力にもよるが、有効範囲は20~30mほどもある。マルスは、雷神の雄たけびの詠唱が終わる直前に、左前方に転がるように回避する。
ブレイブの唱えた、雷神の雄たけびは、マルスに命中することなく王座の間の壁を破壊する。
「な、なぜだ!」
マルスは、呪文をことごとく回避する。それも、ギリギリの回避ではなく、ゆとりを持って回避しているようだ。
この世界、勇者ブレイブの唱えているような、大魔法を詠唱できるのは、エルフを除き、10人にも満たない。その中でも、有名なのは、勇者ブレイブ、メイガス3姉妹、大商人ミザリくらいだろう。それに加え、勇者ブレイブの魔法レベルは、他の4人と比べると かなり高く、発動速度も段違いに違う。
それなのに、マルスには、まったく当たらない。
マルスは、ブレイブが動揺している隙に、態勢を立て直し、騎士剣を構える。
ブレイブも、魔法が当たらないので、気持ちを切り替えて接近戦に集中するようだ。
「やはり、魔王は違うな。筋力増強(LV9)」
ブレイブは、身体強化の呪文を自身に唱え、マルスに飛びかかってくる。
マルスは、左手を柄から離し左足を引き攻撃をかわす。ブレイブは、右手の盾でマルスに殴りかかる。マルスは、ダメージ覚悟で、右手の騎士剣を両手で持ち、振り上げる。
身体強化をしているブレイブの攻撃速度が速く、マルスの騎士剣は、当たらない。
盾の直撃を受けたマルスは、2mほど弾き飛ばされ、地面に倒れる。ブレイブは、その隙を見逃さず、更に突進を加える。
上半身を起こしたマルスは、魔装具(魔法の力場盾【LV3】)を発動し、ブレイブの斬撃を回避する。
そのまま右手を地面につけ、左足でブレイブの胴を蹴り上げるように、蹴り飛ばす。
ブレイブは、よろけるも、すぐに戦闘態勢にはいる。
マルスも立ち上がり、騎士剣を構える。
「魔王マルス、この魔装具は使いたくなかったが、仕方がない。お前の命を消滅させ、世界に平和を築くためだ!」
ブレイブは、装備していた片手剣で自分の左腕を傷つけ、血を吸わせる。
片手剣は、禍々しい黒い炎を纏う。
それは、7年前、ラアラの命を奪った元凶の炎のようだ。
マルスを激しい怒りが包み込む。
勇者ブレイブは、マルスの怒りのままに放出する魔力に声を失う。
このとき、魔法を使えない人間ですら感じるほどの魔力を周囲に解き放っていた。
城の外では、城内の異変に戦士たちの動きが止まってしまうほどであった。
その魔力は、まるで地獄に踏み入れたかのような異様な風を放っていた。
魔法を無効化し、強靭な戦士たちの獣人でさえも、恐怖で動けなくなるものもいた。
意思の弱い人間は、恐怖から涙を流し糞尿を漏らす程だったという。
「お、おのれ魔王め! 聖なる魔法の剣で貴様の心臓を貫き焼き尽くしてくれる!」
ブレイブが、恐怖を克服するためになのか、大きな声をあげ、突進してくる。
マルスは、この炎に触れれば、命がないのは知っている。
冷静にブレイブの強打を、大きめに回避し騎士剣を上段に構える。
そのままブレイブの両手を一振りで切断する。
ブレイブは、直近でマルスの怒りの感情を受けたからなのか、両腕を切断されたからなのか、発狂し大声をあげバルコニーの方へ走って逃げていく。
そのまま、バルコニーから転落し、地上に激突し命を落とす。
その様子を見ていたカティン教和国の戦士たちは、何が起きたのか、おおよそ理解できたようだ。勇者ブレイブが落ちたバルコニーに、魔装具(四操剣の龍玉)を装備したエキドナ女王が立つ。
エキドナの周囲には、4本の剣が取り囲むように浮遊している。
その姿は、獣人たちに希望を与えた。
エキドナは、よくとおる凛々しい声で、獣人に号令をかける。
「我ら獣人の民よ、獣人の怒りの魂により、悪の騎士ブレイブは発狂し、自ら命を絶った。いまこそ獣人族が一丸となり立ち上がり、ソドム王国を取り戻すときだ!
さあ、本能のままに叫べ、本能のままに殺戮せよ!」
「「「ウオォォォ!」」」
女王エキドナの号令で、城内の解放された獣人たちは、城門を開き、一斉に突撃し敵を殲滅していく。
カティン教和国の戦士たちは、勇者の敗北や、自身の感じた恐怖から、獣人の怒りの魂を実感し、恐怖から持ち場を放棄し逃走を始める。
獣人は、戦う者、逃げる者、混乱し泣き叫ぶ者、全ての敵を殺戮していく、その血しぶきは、マルスたち同盟国でさえ恐怖を感じるほどであった。
命からがら城内から逃げ出す兵は、逃がすようにマルスが身振りで伝える。
エキドナは、嫌な顔をするが、国の恩人であるマルス王の意思に従うことにした。
マルスは、ディソナ王国軍に、弓槍騎馬部隊の応援に向かうように指示を出す。
ブックの指揮のもと、ピーターたち、弓槍騎馬部隊と合流したディソナ軍本体は、増援部隊を撃破することに成功したようだ。
勝因は、マルスが逃がしたカティン教和国兵であろう、混乱を起こしていた血まみれの兵士の逃亡、勇者ブレイブの死、それが伝わり、増援部隊も混乱を起こしたことが勝利につながったようだ。
終戦後、マルスは、エキドナ女王と同盟を結び、ドワーフ王国の解放に向けて軍の整備と、町の復興を手助けすることになった。
ソドム王国の復興には、まだまだ時間もかかるだろう。
マルスは、駐屯部隊を除き、国に一時帰国することにした。
国に帰ると、騎士王マルスの凱旋で、英雄の噂は更に広がり、軍神マルスと呼ばれるようになる。まさに、神の軍隊を指揮する者であり、国民の人気は絶頂であった。
また、軍神マルスの兵に志願する為、様々な種族、人種の民が集まっていた。
~その頃、カティン教和国~
勇者ブレイブの死が国中に広がり、勇者を信仰する勢力が衰退していった。
その一方で、魔王マルスを退治するための準備を始めていた。
首都の大教会の一室の扉の先から声が聞こえる。
「救世主様、魔王マルスの勢いは凄まじく、勇者ブレイブの力を持ってしても退治することが出来ません。なんとか軍備を増強し、前線の維持を図りましょう。」
「マルス=アテラティッツ・・・。我に考えがある。軍備を増強し、生け捕りにせよ。エイト亡きいま、奴を殺してはならん。」
独立して2か月後のことである。
国王マルスは、国境を西の大山脈とし、国内に陣を張っている同盟国以外の軍隊に撤収を命じた。
この国境線の制定に、カティン教和国は反発し、ディソナ王国に使者を送る。
~謁見室~
謁見室には、カティン教和国の使者と、マルス国王、ルーナ王妃、軍師ブックバック(ブック)、ローランド団長(ランド)、ピーター団長、メリッサ団長などの各団長も集合している。
「マルス国王、この度は、独立おめでとうございます。しかしながら、今回の国境線の件ですが、我々カティン教和国としても、意見させていただきたくお伺いさせていただきました。」
ルーナが、マルスの意思を、使者に通訳する。
「西の大山脈の境界線は、ダンテ王国時代からの境界線です。過去の同盟国の黒の騎士団の軍勢が残っているからと言って、国境の境界線を動かす言われはありません。」
「しかし、ダンテ国王は、土地の安全と引き換えに、教主様と交わした盟約に乗っ取り、あの土地は、我々カティン教和国の領土となっておりましたから…。」
「では、土地のやり取りが残っている書簡でもお持ちなのでしょうか。」
「使者を介しての密約だったので、その使者が先の戦争で死亡し、書簡に残っておりませんし…。」
なぜ、カティン教和国は、この男を使者として出したのだろうか。
カティン教和国の使者は、モゴモゴと話をしている。
マルス達が強気に出るのも理由がある。カティン教和国との密約を交わしていたのは、ダンテ王国のマルゲリータ宰相であり、マルゲリータ宰相の執務室から、個人的に作成したと思われる、ダンテ王の刻印と、書簡が発見されていた。
この密約は、執務室に残された日記から、ダンテ国王の知らない密約であること、国を明け渡す代わりに、時期が来れば、ダンテ国の王には、マルゲリータ宰相を推薦することなどが、記載されていた。
「これ以上は、言うことはないわ。すぐに軍を引き上げて下さい。」
「私も使者で来た以上、引けません。もし軍を引き上げろというなら、カティン教和国との全面戦争になりますぞ。」
「なぜ、そこまで意地になっているの。資源を採掘できる、地獄の門の迷宮があるからなの? 地獄の門の迷宮は宝石を有する魔物が消えてしまい、残されたのは、悪魔たちが暮らす不毛の地が広がる地獄へと繋がる門だけよ。」
ルーナは、マルスの話した内容をそのまま伝える。
「何だと! 神々の楽園をバカにしおって!!!」
いままで丁寧に話をしていた、カティン教和国の使者が怒鳴り始める。
どうやら、カティン教和国では、天国の門と言われており、神々の世界に通じる扉であると伝えられているようだ。そのため、地獄の門の迷宮を聖地とあがめているようであり、ルーナの一言が、自国の神々を悪魔と言っていると誤解して、頭にきたのだろう。
カティン教和国の使者は、怒りに身を任せ、ルーナ王妃に暴言を吐き、逃げ出すように謁見室を出た。
「マルス国王、先ほどの使者ですが、始末しましょうか。」
ピーターと、メリッサは、使者の態度や暴言に怒りの表情を見せていた。
(大丈夫だ。撤退の条件が呑めないのであれば、彼には戦争開始の旗を振ってもらわなければならない。こちらも、領土奪還の戦争準備をするとしよう。リサ大使と
、ブルック団長には、それぞれ、国の治安維持と、同盟国との貿易の活性化を命じる。)
「任せてよ! ブルック団長、お互いに頑張ろうね!」
「マルス王、治安維持や防衛は、特に自信があります。安心してお任せ下さい!」
ブルックと、リサが謁見室を退出する。
(ルーナ、ピーター、騎馬部隊を組織せよ。今後、騎馬部隊は山脈越えが難しくなるだろうから、国境沿いの循環警備を任せることになる。そのことも考え編成するのだ。)
「畏まりました。」
ルーナと、ピーターが退出する。
(ブック、ランド、別動隊を率いて砂漠を超えソドム王国のあった場所まで侵攻せよ。)
「任せてよ。マルス王なら、そう言うだろうと思って、ランド騎士団を軽装歩兵特化で訓練させておいたから。ソドムの獣人も解放するんでしょ。
だけど、ここから砂漠を超えるとなると、少数の部隊とはいえ、半年はかかるよ。」
(問題ない。さすがブック軍師だな。)
「あー、それで軽装での訓練をしてたのか。てっきり、俺の戦い方を見直したのかと思ってたよ。」
ランドが、何か納得したようだ。
(ランドの個人の武力は、素晴らしいよ。だけど、敵の攻撃を目視後に回避できるのは、ランドとメリッサだけだろ。そんなことは、一般兵には出来ないから。)
笑顔のランドと、ブックも謁見室を出る。
(ウィン、アマゾネス公国に迎い、レヴィア公主に援軍の要請を頼む。すでに話をつけているから、行動は早いと思うが、いまから、8日目に援軍を出すように依頼してくれ。)
「任せて下さい!」
(その後、レヴィア公主に指示を仰ぎ、戦場へ戻ってこい。山脈越えの先方は、ウィン団長に任せようと考えている。今後の活躍を期待しているぞ。)
「マルス王の期待に添えるように敵を撃破します!」
マルスは、何かをウィンに伝えようとしたが、辞めておいた。
ウィンも謁見室をでていく。
ウィンの考え方では、争いに勝利できても 先が見えない。
命を奪う重みを知らなければ、ウィンは命を落としてしまう。このことは、人に言われて分かることではない。ウィンをアマゾネス公国軍に行かせたのは、命を懸けた 想いの戦い を知ってもらいたいという、賭けでもあった。
(メリッサ、君に残りの騎士団を全軍指揮してもらいたい。
もちろん俺も出陣するが、敵は俺を警戒しているだろうから、本陣の動きに注意するはずだ。そこで、俺が決死隊を率いて敵の虚を突き、一気に蹴散らそうと思う。)
「しかし・・・。」
(大丈夫だ。俺に策がある。それは・・・。)
マルスは、メリッサだけに聞こえるように説明を始めた。
~数日後~
ディソナ王国軍は、森の外れで陣を張る。
ここは、マルスが初陣で完全勝利を納めた場所だ。
敵の軍勢も、前回のような、軽装歩兵の先発隊ではなく、重装歩兵も含まれている。
しかし、敵の数が密偵の報告の半分にも満たない。
また、防御の陣形を取り、攻めてくる気配がない。
おそらく、アマゾネス公国を攻める為に大部隊を動かしているのだろう。敵が攻めてくるつもりがないのも、大部隊の戻りを待っているからだろう。
ディソナ王国軍
○義勇歩兵 3000名
◎弓槍騎兵 2000名
●魔法兵 600名
X獣人弓兵 200名
計 5800名
カティン教和国軍
重装歩兵 5000名
軽装歩兵 3000名
魔法兵 1000名
計9000名
メリッサは、敵の陣形を確認する。
敵の陣形は、逆釣鐘の陣のような 防御の陣形を組んでいる。
メリッサは、軍団に号令を出す。
「双頭の陣を組め! 今回は防衛線ではない! 我々は攻める側だ、一気に攻め、敵を大山脈に押し返してやれ!!」
メリッサの号令で、軍が生き物のように形を変えていく。
○○○ ○○○
○○○ ○○○
○●○ ○●○
○●○ ○●○
○●○ ○●○
○○○X X○○○
騎馬部隊は、後方の森の中に 伏兵として控えている。
敵は、防御の陣なのだろう。攻めてくる気配はない。
メリッサは、軍を戦場の中腹まで進める。
敵の魔法攻撃は、魔法兵を防御に専念させて迎撃していく。双方に弓の届く範囲になってきた。
「いまだ! 左右に分かれ竜顎の陣を展開し森を目指せ!」
敵の軍勢は、ディソナ王国軍が左右に展開したため、何か罠を警戒しているようだ。
敵の攻撃が、左右に別れ、攻撃が混乱している。
(騎馬部隊、己の肉体を風と化し、いまこそ敵を打ち破る突風となるのだ!)
「「「おおぉぉぉ!」」」
マルスの奏でる歌と共に、後方の森の中から、全速力の騎馬部隊が、雄たけびをあげながら突撃をしてくる。
騎馬部隊の前衛は、騎士盾を構えたケンタウロスで、敵の攻撃を寄せ付けない!
ディソナ騎馬部隊は、まさに吹き付ける突風のごとく、敵本陣付近まで、一気に貫く。
左右に分けられた歩兵部隊は、敵の伏兵を撃破しながら、本陣へと突撃する。
作戦としては、完璧だったのだが、数が大きく違うため、混戦になってしまう。
乱戦を避けたいマルスは、ピーターに指示を出し、騎馬部隊を中央から左に向かうように進路を変えて移動をさせる。
マルスは、ルーナと少数の部隊を率いて、その場でとどまり、本陣に圧力をかける。
敵の部隊は、左右の歩兵を迎撃するように展開していたが、中央にマルスを発見し、集結してくる。
(左右の歩兵部隊は、そのまま中央を挟撃せよ、俺たちは一度後方に下がる。ピーターは、俺の合図と共に中央を目指して転進せよ!)
全軍に歌を奏でると同時に、敗走するように、マルスの部隊は 後退する。
マルスを危険視していた敵の軍団は、勢いを増し中央に集結していく。
功を焦ったのか、騎馬部隊のマルスを追い込む為に、左右の軽装歩兵部隊を重装歩兵部隊と分断し、追撃に向かわせる。
(ピーター、転進して中央本陣を狙え!)
軽装歩兵が完全に分断されるのを見て、マルスは号令をかけた。
歩兵部隊は、敵の歩兵部隊を押さえ、騎馬部隊本体のピーターは、中央本陣を目指す。
(ルーナ、このまま俺の部隊を率いて、右旋回で左舷の歩兵部隊の応援に向かってくれ。右舷の歩兵部隊は、鉄壁の陣で壁を作り、敵の退路を断て!)
○○○○
中 ○○
央 ○○ ●X
敵 ○○ ● 森
軍 ○○ ●
○○○
ルーナ率いる騎馬部隊は、引き付けた敵の軽歩兵を一気に引き離し、右旋回で、左舷の歩兵部隊の増援に向かう。マルスは、そのまま単騎で180度方向を変え、敵の軽歩兵をなぎ倒し 単騎で駆け抜ける。その姿は荒々しく、追ってきた敵の軽歩兵3000は、先頭を走る数名の兵士が剣を交え切り殺されただけで、後方の軽歩兵は、何事か理解することもできず、ただマルスが走り抜けるのを避けてみていた。
敵の騎馬が単騎で3000もの兵士の間を走り抜けることなど考えてもおらず、マルスの騎馬突進を見ると、敵が来ると思っていないからなのか、本能で自然と道を開けてしまう。
3000の軽歩兵は、何もすることが出来ず、マルス単騎に中央を突破される。
このとき、マルスは、無傷で走り抜けたと言われている。
のちの世では、このマルスの行動を【軍神の単騎駆け】と呼び、猛将の代名詞ともなる。
マルスの単騎駆けで、味方の指揮は大いに高まり、敵の指揮は、精鋭部隊が混乱を起こす程に低下した。
マルスは、そのままの勢いで混戦の中、敵の総大将に一騎打ちを挑む。
敵の総大将は、混乱を治める為、黒の騎士団の英雄を呼び寄せた。
黒の騎士団の英雄は、地上戦で決着を要求し、それに応じたマルスとの一騎打ちが始まる。
敵の英雄は、地上戦用の短めの斧槍(2m程)を装備している。
斧槍は、突く、斬る、強打と、3拍子揃った攻撃ができ、熟練した戦士であれば、戦場にて単独で活躍できる程の破壊力がある。
対する マルスは、ラアラの形見の騎士剣(守護の聖騎士剣)を装備し、魔法に対する備えはあるものの、破壊力やリーチは、斧槍にはるかにおとる。
周囲を敵の重装歩兵が取り囲む。
マルスは、即座に敵を沈黙させるために、右足を前に出し、騎士剣を持った両手を上段に構えた。
敵の英雄は、マルスのガラ空きの胴めがけて、突きを放つ。
次の瞬間、マルスは身体を前に進め、敵の突きをかわす。斧槍は、そこから敵を薙ぎ払うこともできる。
敵の重装歩兵たちも勝利を確信した。
ドサ!
しかし、斧槍は 薙ぎ払われることなく、地面に落ちる。
飛び込んだマルスの移動速度が速く、敵の突きの突進にカウンターを取る形で、頭上から兜を割り、敵の英雄の頭を潰す。
マルスは、自軍に敵の英雄の撃破を伝える。
「マルス王が、敵の英雄を一撃で仕留めたぞ!」
そのことで、味方の兵士の指揮は高まり、敵の混乱は、さらに大きくなる。
マルスは、さっそうと馬に乗り、混乱している重装歩兵の包囲を切り崩し、そのまま敵の総大将を追い詰める。
敵の総大将は、生きた心地がしなかったのだろう、単騎で敵の重装歩兵の間を切り抜けて、そこで軍の英雄を、たった1撃で葬った男が、自分の命を奪うために突進してくる。
敵の総大将は、武器を投げ捨て敗走を始める。
マルスは、そのことも歌を奏で、自軍に伝える。
英雄を撃たれ、総大将は、撤退をはじめ、敵の9000の軍団は大混乱へと陥った。
命令を守り、その場で立ち止まり殺される者、その様子を見て逃げ出す者、その逃げ出す兵を押さえようとする指揮官に、敵に殺される前に 指揮官を殺して逃げようとする者。
まさに地獄のような世界だった。
マルスは、全軍の動きを止め、全兵士に 大合声を指示する。
「「「投降する者の命を奪わない。しかし、戦う者、逃亡する者は、軍神マルスの軍勢が、地の果てまで追い、必ず命を奪うだろう。」」」
その声を聴き、武器を捨て兜を脱ぎ 投降するものが多い。
それでも戦い続ける敵を、ディソナ王国軍は、徹底的に倒していく。
しかし、約束通り、武器を捨て兜を脱ぎ、降伏の意思表示が出来ている兵士は殺されない。
その様子を見た兵士たちは、次から次に、投降していく。
総大将と逃げた兵士たちを、マルスとピーターの騎馬部隊が追撃をかける。
総大将を含め、逃げ出した兵士たちは、重い鎧が邪魔をしたのか、町の門をくぐる前に、全て殺された。
逃亡した総大将の死から、さらに投降兵が増えていく。
マルスは、ルーナに勝鬨を上げさせる。
残った敵の兵士たちも全て投降することになった。
戦死者は、双方合わせて、約5000名にもなった。
ディソナ王国軍
○義勇歩兵 1800名。△ 200
◎弓槍騎兵 1700名。△ 300
●魔法兵 600名
X獣人弓兵 200名
計 4300名
【投降兵】 4100名
黒の騎士団軍
重装歩兵 1300名。△2700
軽装歩兵 2600名。△ 400
魔法兵 200名。△ 800
【投降兵】 △4100
計 0名
マルスは、敗戦処理でも敵の兵士に温情を見せた。
国に身寄りがなく、帰る必要がない者は、3度の兵役で ディソナ王国の国民と認めた。
カディン教和国に帰る者は、腕に刺青を入れ、帰国することを許した。
しかし、ピーターが横から口を挟む。
「もし次、その刺青を見れば、助かる命はない。その次がなくていいように、国に戻り、兵士を辞め、家族と余生を暮らせ」と。
4100名の兵士は、約半数の1900名が、ディソナ軍の参加に組み込まれることになった。戦争の大義名分は、宗教の考え方の違いだそうだが、実際この土地で暮らしてみて、教和国の話しているような違いは感じられなかったという。
残りの2200名は、それでも国へ帰りを待つ人がいるということで、装備を全て没収され、腕に刺青を入れられ、カティン教和国へと帰還を許された。
マルスは、ピーター団長に布の様なものを持たせ、弓槍騎兵 1500名を任せて南のアマゾネス公国の救援に向かわせる。密林での戦闘は、騎馬部隊にとって、絡みつくツタが不利だが、増援が駆け付けたという事実が大事になると考えた。
マルスの読み通り、アマゾネス公国と、カティン教和国の戦闘は拮抗していた。
そこへ、後方から突如、ディソナ軍が現れたので、カティン教和国の兵士は動揺した。
なぜなら、後方から攻撃を受けるということは、後方の本体が全滅した恐れがあるからだ。
もちろん、ディソナ軍が本体を避け攻撃を加えてきた可能性もある。しかし、その可能性は、ディソナ軍の持っていた ボロボロの軍団旗を見て、打ち崩される。
援軍に駆け付けた、ディソナ軍が持っていた軍団旗は、カティン教和国の本陣旗であった。その旗を持っているということは・・・。
カティン教和国軍は、アマゾネス公国軍に一気に押し込まれる。
アマゾネス公国軍の、2大主力部隊(狂戦士部隊、獣歩兵部隊)は、逃げ惑う兵士を皆殺しにする。この戦場では、降伏は認められていないようだ。泣きながら命乞いをする兵士さえも、獣歩兵部隊は、躊躇なく命を奪う。
獣人は祖国を奪われた苦しみ、家族を殺された悲しみ、そして、まだ国に取り残されている獣人の迫害に対する怒りで殺戮を止めることは出来ない。
ディソナ軍が身柄を保護することもできたが、ピーターは、それをしなかった。
ケンタウロスという種族、獣人族の苦しみを理解できたからだろう。
この戦場では、多くの血が流れすぎた。
獣人族の想いが形となって表れた結果だろう。
戦死者、
アマゾネス公国 3800名
内訳(獣人族2700名、狂戦士1100名)
カティン教和国 15000名(全滅)
「なぜ、ここまで殺しあうのだろう・・・。」
マルスの指示で、レヴィアの元で参戦したウィンが、呆然と戦場を見て回る、近くで負傷者の治療にあたっていた獣人が答える。
「お前も戦士なら 分かるだろ。これが悲しき戦争、・・・復讐の戦争だ。」
いままで闘争の中で育った環境の違いだろうか、騎士道を邁進してきたウィンには、分からない感情でもあった。
勝利したはずのウィンの目には、涙が溢れていた。
~大山脈麓の町~
アマゾネス公国軍と合流した、マルスたちは、兵士を総動員し、大山脈の山頂に砦を築き始める。
その砦は、東からは容易に攻めれるように、斜面を整備し西側からは攻めにくいように、わざと作業で動かした岩を捨てる。
そして、麓の町と大山脈頂上の間に、中継の詰所を設置することにした。
詰所は、ルーナの助言で門を設置してあり、山道を塞ぐように建設してある為、関所としての機能もするように工夫した。
まだ雪の降る時期である。いまの時期であれば、雪山を越えての大部隊の進軍は考えにくい。この建設を雪解けの季節までに急がせた。
~春のおとずれ~
大山脈の砦を築き始めて5か月目。
砦や、詰所(関所)は完成し、町の復興も進んでいた。
マルス国王が直接、町づくりをすると聞きつけ、一目見ようと集まってくる観光客もいるほどだ。
アマゾネス公国は、本来の温泉施設としての姿を取り戻しつつあった。もともと狂戦士部隊は、温泉の従業員だったことや、町から離れた場所での戦闘だったので、復興が早かったようだ。
マルスは、大山脈の雪が解け始めたころ、部隊を再編成し、ソドム王国跡を目指すことを公言した。この発表に、ディソナ王国や、近隣国に散らばっていた獣人族が、マルス軍の元に集結し、兵員として志願してきた。志願してきた獣人の数は、8000名にもなり、その中には、まだ幼い子供や、女性や老人などの姿もあった。
~元メイガス邸、会議室~
マルスは、今後の作戦を、次の戦闘に参戦する軍団長たちに説明する。
会議に参加した軍団長は、
ディソナ王国軍所属の、ルーナ、メリッサ、ピーター、ウィン。
元ソドム王国軍の、虎の獣人ガルモンテ、狼の獣人ヴェンザード(ヴェン)、兎の獣人ミモザ。
アマゾネス公国軍所属の、ルーベンス。
以上、マルスを含め、9名である。
マルスが会議前に、軍団長たちに話し出す。
(今回の戦争は、我々が侵攻する形となる。しかし、この侵攻はソドム王国を取り戻す為の名誉ある聖戦でもある。しかし、侵攻は侵攻だ。敵の反撃も、いままでにない程、激しくなるだろう。それでも、皆には ついてきてほしい。)
元ソドム王国の騎士団長ガルモンテが、立ち上がり声を出す。
「もちろんだ! 我々は、祖国と獣人の誇りを取り戻す為に参戦している。この戦争で命を落とすことになったとしても、かならず女王を助け出し、ソドム王国を再建させる!」
同じ獣人のヴェンザード、ミモザだけでなく、ピーターも大きく頷いている。
その様子をみて、ルーナが口を出す。
「ねえ、まさかピーターも山越えをするの?」
「何か問題でも?」
「い、いえ。ピーターがいいんなら、それでいいけど。」
あまりにも普通に答えたピーターに、ルーナが困った顔をする。
マルスは、ルーナだけに事情を説明する。
ピーター達、ケンタウロス部隊には、大山脈を越えず、国内の警備を任せるはずだった。
しかし、ピーターたちケンタウロス部隊は、無謀だと分かっていても、同じ獣人の危機に立ち上がりたいという強い信念があった。そこでマルスは、レヴィア公主に飛空艇での兵員輸送を依頼した。レヴィア公主は、ケンタウロスの意思を組み取り、大型飛空艇の飛空艇に乗れるケンタウルスの定員、600名だけを輸送してくれる約束をしてくれた。
(では、作戦を指示する。)
全員がマルスの作戦を確認し、準備の為に会議室を出ていく。
マルスの作戦は、本体が陽動を行う作戦だそうだ。
あと2週間もすれば、ブックたちの別動隊が、ソドム王国の北にある砂漠を抜け、王城に到着する。
ブックとランドの別動隊は、ソドム王国までの町を開放して、獣人を仲間に加え規模を増やしているようだ。いまでは、50名のディソナ王国軍と、獣人200名の部隊になっている。
その別動隊と、ソドム王国の王城の戦闘開始に合わせて、本体も 南東より王城を攻める。
そこで今回の作戦だが、この本体の総攻撃を合図に、マルス、ミモザが、城外からの隠し通路を抜け、城内に潜入する。そのまま、敵のスキをつき、女王を救出する。
その後、女王の指揮の元、捕らわれていた獣人を鼓舞し城門を開け、陽動を掛けていた本陣と合流して挟撃する作戦だ。
面倒な作戦のようだが、ソドム王国は、少数でも籠城できるほど、堅牢な城の作りをしているので、正攻法の城攻めをすると、時間がかかってしまい、南のドワーフ国から敵の増援が到達してしまう。
敵の増援も早さが求められる。そのことから、軽装歩兵の部隊を組み、増援を行うだろう。
そこで、ピーター達、弓槍騎馬部隊の役目だが、敵の増援を撃破、または、城攻めが終わるまで足止めをすることである。
今回の作戦は、いかに早く 城を攻め落とすかが、重要なところだろう。
~ソドム王国、王城付近~
マルスの読み以上に、砂漠を侵攻してきた別動隊は、規模が大きくなり、全体で600名を超える部隊と、1000名程の一般人(非戦闘要員)になっていた。獣人の非戦闘要員も 弓を装備している為、遠目に見れば、中規模の部隊に見えるだろう。
ディソナ王国軍の本体も南東の山脈を超え城攻めに突入する。
敵は城内に立てこもり、籠城する作戦のようだ。
「マルス国王、そろそろ行きましょうか?」
ミモザの案内の元、城の近くの村に入る。
村の中の井戸にロープを垂らし、中に降りていく。
「マルス国王、いまから水を抜きます。その後、水位が下がったら横穴に入って下さい。」
まだ水位が下がりきっていないようだが、ミモザの指示通り、マルスは横穴に飛び込む。
ミモザも横穴に飛び込み、マルスを急かす。
「マルス国王、水位が徐々に上がってきます。急いで進みましょう。」
水路の横穴は、直線という話だが、先が見えない。
全力で走れば、余裕で間に合うと言われたが、獣人の全力と人間の全力では、速度が全然違う。
しかも、水位が徐々に上がってきて、かなり走りにくい。
マルスは、なんとか泳いで城内の地下水路に辿り着く。
先に辿り着いていたミモザは、着替えを済ませているようだ。
マルスは、近くの部屋に入り、ミモザが持ってきた防水布袋の中に収納していた敵の軍服に着替える。
「ここからは、別行動をしましょう。獣人の私と、マルス国王が一緒に行動すれば怪しまれます。私は、このまま地下道を進み、捕らえられている獣人たちを開放しに行きます。」
マルスは、頷き、女王が捕らえられているだろう、塔の最上階を目指す。
~女王が幽閉されている塔~
塔の階段前(入口)には、敵の見張りが3名待機していた。
マルスは、3人が話をしている隙をつき、最初の1人目を後方から斬りつけ、1撃で仕留める。
他の2人は、とっさに剣を抜こうとするが、マルスは流れるように騎士剣を振り上げ、左側の兵士の喉に、騎士剣を突き立てる。
そのまま、右の兵士の剣の柄を押さえ、剣を抜けないようにし、騎士剣を手放した左手で腰の短剣を抜き、右の兵士の喉を切り裂く。
まさに一瞬の出来事だった。
3人の兵士は、応援を呼ぶ間もなく、地面に横たわる。
マルスは、階段を上り、女王の元へ向かう。
塔の最上階、立派な扉をくぐると、そこには1人の老女がいた。この女性が女王なのだろうか。獣人たちの話では、女王は200年も生きる蛇の獣人と聞いていた。
マルスは、老女(人間?)に、ガルモンテが書いた手紙を渡す。
老女は、マルスから手紙を受け取ると、奥の部屋に移動して行く。
奥の部屋から、薄い絹布を羽織った美しい半裸の女性が手紙を持って現れた。
この女性が女王だろうか、歳はマルスよりも少し上、22~23歳くらいにみえるのだが。
彼女は、上半身が人間、下半身が大蛇といった、半人半蛇のような見た目の獣人だ。
彼女の羽織っている薄い絹布は、風のない室内でも、周囲の気流の乱れでヒラヒラと動くほど薄く、絹布を纏っているとは言え、日の光が直接差し込むところでは、絹布が透け 薄っすらと白く美しい肌が透けて見える。
「そなたが、マルスじゃな? レヴィア姉さんから、英雄譚は聞いておるぞ。」
レヴィアの妹なのだろうか。それとも、レヴィアを慕って、レヴィア姉さんと呼んでいるだけなのだろうか。
300年も生きているということから、おそらく後者の、レヴィアを慕っているで、間違いなさそうだ。
マルスは、いろいろと考えていると、女王が口を開く。
「話をすることが出来んとは、まことに不便じゃな。」
女王は、マルスの顔を見に来ただけなのか、また奥の部屋に引き返し、服装を整え再び現れた。その姿は、執務をすると言うより、胸当てとガントレットを装備し、前線で戦う格好のようだが・・・。
「さあ、準備は出来たぞよ。まずは、王座の間に寄ってバルコニーに向かうとするかの。」
「エキドナ様、お気を付けください。」
女王は、心配する老女に安心して待つように告げ、マルスを誘導するように、マルスの手を引き、王座の間へと案内する。
塔の階段を下りたところで、兵士の死骸を見て、マルスに声をかける。
「なるほど、腕は確かなようじゃな。わらわの次と言ったところじゃろうか。」
女王は振り返り、自慢げに笑顔を見せる。
そのまま、マルスの手を引き、王座の間に辿り着く。
王座には、1人の騎士が座って瞑想をしているようだ。
騎士は、マルスたちの気配を感じたのか、目を開き、マルスたちに声をかける。
「エキドナ女王、見張りの兵士はどうしたのかな。彼らは近衛兵を務めたこともある精鋭だったのだが。」
「あれが精鋭だったのか。英雄マルスに瞬殺にされていたようじゃな。」
「そちらの戦士が、英雄マルスなのかな。」
王座に居座る騎士は、マルスをみる。
マルスは頷き、騎士剣に手をかける。
「その黒髪に黒い瞳、言葉を発しない所をみると、本物のようだな。」
騎士は、立ち上がり、片手剣と盾を構え、マルスと対峙する。
マルスも、騎士剣を構えて、エキドナに後ろに下がるように身振りで伝える。
「私の名は ブレイブ、勇者ブレイブと呼ばれている。魔王マルス、この場が貴様の墓場になるだろう。」
ブレイブは、名乗りを上げると、魔法を詠唱する。
「炎の矢(LV9)」
マルスは、魔法を見極め、魔装具(守護の聖騎士剣)で無効化し、ブレイブとの距離を詰める。ブレイブは、マルスに魔法が効かないと分かると、別の魔法を詠唱し始める。
「これでどうだ! 滅炎の光の矢(LV15)」
ブレイブの唱えた魔法が、炎の光をなってマルスを襲う。
大魔法クラス(※目指せ!地獄の門を参照)になると、マルスの魔装具でも無効化できない。マルスは、滅炎の光の矢の軌道を読み、回避しながら距離を詰める。
滅炎の光の矢を避けられると思ってなかったのか、ブレイブは、マルスに接近を許してしまう。
マルスは、上段からの振り下ろしでブレイブの頭を狙う。
その攻撃をブレイブは、左手の盾で受け流す。そのまま、右手の片手剣で突きを放つ。
マルスは、さらに前進し、姿勢を屈めブレイブの攻撃を回避し、右側に受け流された騎士剣を全身で振り上げ、攻撃する。
ブレイブは、左足をあげ、脛の甲冑で攻撃を防ぐが、バランスを崩し、3歩ほど後退する。
「さすが魔王、生まれて初めて後退させられたよ。雷神の雄たけび(LV15)」
ブレイブは、話しかけている隙に、魔力を高め魔法を詠唱する。雷神の雄たけびは、扇状に広がる魔法だ。使用者の魔力にもよるが、有効範囲は20~30mほどもある。マルスは、雷神の雄たけびの詠唱が終わる直前に、左前方に転がるように回避する。
ブレイブの唱えた、雷神の雄たけびは、マルスに命中することなく王座の間の壁を破壊する。
「な、なぜだ!」
マルスは、呪文をことごとく回避する。それも、ギリギリの回避ではなく、ゆとりを持って回避しているようだ。
この世界、勇者ブレイブの唱えているような、大魔法を詠唱できるのは、エルフを除き、10人にも満たない。その中でも、有名なのは、勇者ブレイブ、メイガス3姉妹、大商人ミザリくらいだろう。それに加え、勇者ブレイブの魔法レベルは、他の4人と比べると かなり高く、発動速度も段違いに違う。
それなのに、マルスには、まったく当たらない。
マルスは、ブレイブが動揺している隙に、態勢を立て直し、騎士剣を構える。
ブレイブも、魔法が当たらないので、気持ちを切り替えて接近戦に集中するようだ。
「やはり、魔王は違うな。筋力増強(LV9)」
ブレイブは、身体強化の呪文を自身に唱え、マルスに飛びかかってくる。
マルスは、左手を柄から離し左足を引き攻撃をかわす。ブレイブは、右手の盾でマルスに殴りかかる。マルスは、ダメージ覚悟で、右手の騎士剣を両手で持ち、振り上げる。
身体強化をしているブレイブの攻撃速度が速く、マルスの騎士剣は、当たらない。
盾の直撃を受けたマルスは、2mほど弾き飛ばされ、地面に倒れる。ブレイブは、その隙を見逃さず、更に突進を加える。
上半身を起こしたマルスは、魔装具(魔法の力場盾【LV3】)を発動し、ブレイブの斬撃を回避する。
そのまま右手を地面につけ、左足でブレイブの胴を蹴り上げるように、蹴り飛ばす。
ブレイブは、よろけるも、すぐに戦闘態勢にはいる。
マルスも立ち上がり、騎士剣を構える。
「魔王マルス、この魔装具は使いたくなかったが、仕方がない。お前の命を消滅させ、世界に平和を築くためだ!」
ブレイブは、装備していた片手剣で自分の左腕を傷つけ、血を吸わせる。
片手剣は、禍々しい黒い炎を纏う。
それは、7年前、ラアラの命を奪った元凶の炎のようだ。
マルスを激しい怒りが包み込む。
勇者ブレイブは、マルスの怒りのままに放出する魔力に声を失う。
このとき、魔法を使えない人間ですら感じるほどの魔力を周囲に解き放っていた。
城の外では、城内の異変に戦士たちの動きが止まってしまうほどであった。
その魔力は、まるで地獄に踏み入れたかのような異様な風を放っていた。
魔法を無効化し、強靭な戦士たちの獣人でさえも、恐怖で動けなくなるものもいた。
意思の弱い人間は、恐怖から涙を流し糞尿を漏らす程だったという。
「お、おのれ魔王め! 聖なる魔法の剣で貴様の心臓を貫き焼き尽くしてくれる!」
ブレイブが、恐怖を克服するためになのか、大きな声をあげ、突進してくる。
マルスは、この炎に触れれば、命がないのは知っている。
冷静にブレイブの強打を、大きめに回避し騎士剣を上段に構える。
そのままブレイブの両手を一振りで切断する。
ブレイブは、直近でマルスの怒りの感情を受けたからなのか、両腕を切断されたからなのか、発狂し大声をあげバルコニーの方へ走って逃げていく。
そのまま、バルコニーから転落し、地上に激突し命を落とす。
その様子を見ていたカティン教和国の戦士たちは、何が起きたのか、おおよそ理解できたようだ。勇者ブレイブが落ちたバルコニーに、魔装具(四操剣の龍玉)を装備したエキドナ女王が立つ。
エキドナの周囲には、4本の剣が取り囲むように浮遊している。
その姿は、獣人たちに希望を与えた。
エキドナは、よくとおる凛々しい声で、獣人に号令をかける。
「我ら獣人の民よ、獣人の怒りの魂により、悪の騎士ブレイブは発狂し、自ら命を絶った。いまこそ獣人族が一丸となり立ち上がり、ソドム王国を取り戻すときだ!
さあ、本能のままに叫べ、本能のままに殺戮せよ!」
「「「ウオォォォ!」」」
女王エキドナの号令で、城内の解放された獣人たちは、城門を開き、一斉に突撃し敵を殲滅していく。
カティン教和国の戦士たちは、勇者の敗北や、自身の感じた恐怖から、獣人の怒りの魂を実感し、恐怖から持ち場を放棄し逃走を始める。
獣人は、戦う者、逃げる者、混乱し泣き叫ぶ者、全ての敵を殺戮していく、その血しぶきは、マルスたち同盟国でさえ恐怖を感じるほどであった。
命からがら城内から逃げ出す兵は、逃がすようにマルスが身振りで伝える。
エキドナは、嫌な顔をするが、国の恩人であるマルス王の意思に従うことにした。
マルスは、ディソナ王国軍に、弓槍騎馬部隊の応援に向かうように指示を出す。
ブックの指揮のもと、ピーターたち、弓槍騎馬部隊と合流したディソナ軍本体は、増援部隊を撃破することに成功したようだ。
勝因は、マルスが逃がしたカティン教和国兵であろう、混乱を起こしていた血まみれの兵士の逃亡、勇者ブレイブの死、それが伝わり、増援部隊も混乱を起こしたことが勝利につながったようだ。
終戦後、マルスは、エキドナ女王と同盟を結び、ドワーフ王国の解放に向けて軍の整備と、町の復興を手助けすることになった。
ソドム王国の復興には、まだまだ時間もかかるだろう。
マルスは、駐屯部隊を除き、国に一時帰国することにした。
国に帰ると、騎士王マルスの凱旋で、英雄の噂は更に広がり、軍神マルスと呼ばれるようになる。まさに、神の軍隊を指揮する者であり、国民の人気は絶頂であった。
また、軍神マルスの兵に志願する為、様々な種族、人種の民が集まっていた。
~その頃、カティン教和国~
勇者ブレイブの死が国中に広がり、勇者を信仰する勢力が衰退していった。
その一方で、魔王マルスを退治するための準備を始めていた。
首都の大教会の一室の扉の先から声が聞こえる。
「救世主様、魔王マルスの勢いは凄まじく、勇者ブレイブの力を持ってしても退治することが出来ません。なんとか軍備を増強し、前線の維持を図りましょう。」
「マルス=アテラティッツ・・・。我に考えがある。軍備を増強し、生け捕りにせよ。エイト亡きいま、奴を殺してはならん。」
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