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56.

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56.

大牛の雄叫びに呼応するように、周囲に点在する大牛たちも雄叫びをあげ始める。
君は警戒を強め、カバの群れがいた場所を注視した。

(な、なんなんだ!?)

注視する先の草が激しく揺れる。
広範囲に渡り激しく揺れる草。
(何かの群れ!?
 いや、草の揺れ方が他に比べて激しすぎる。巨大な何かが潜んでいるのか?)

君の表情に 何かを察したリノが、君の注視する方に視線を送る。

「・
 ・
 ・
 フカワだ。
 リュート兄ちゃん、大牛が脅える相手なんてフカワしかいないよ。」

リノが君に声をかけるのと同時に、巨大な蛇のような生き物が鎌首をもたげた。
その巨大な蛇は、全身を硬い鱗が覆い、細長い口に並んだ鋭い歯、背中には立派な立髪、体高は1m程度だが 体長は20mはあるだろう。
遠くに見える巨大な蛇の姿は、まるで東洋の龍のようだった。

「リノ、アレに勝てると思うか?」

「いいや、空飛ぶ大蛇だって半分くらいの大きさだったよ。
 リュート兄ちゃん、まだコッチに気づいてないみたいだし、気付かれないことを祈ろうぜ。」


そう言うとリノは、興奮する大牛をなだめる為に 聞き慣れない言葉で歌い出した。
リノの歌を聴き、落ち着いた大牛に語りかけるように リノが優しく澄んだ声で何かを呟く。

「イアサ ニルメン、エティスン イースナ...。」


すると大牛は、何事もなかったように、ゆっくりと前に進み始めた。

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