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プロローグ
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―――――――――――――――――――――――――
AW_04: |コロニー第12区画 機動調査隊養成機関前
―――――――――――――――――――――――――
「ごめんね、ミサキちゃん。起動できなきゃどうしようもないんだよ。」
かがんだ女性に頭を撫でられながら、そう告げられる女の子。
女性の後方にそびえ立つ建物の窓からは、慣れない表情ながらも武装した少年少女たちが、何かの訓練をしている。
女性の方を見つめるミサキは、目には涙を浮かべつつ、それをじっとこらえている。
「養成機関に入れなくても、他にも楽しいことはたくさんあるよ。ほら、あれ見て!」
女性はミサキの後ろの方を指出す。
軍服とも鎧とも取れるその装備が、ジャラリと音を立てた。その重そうな音が、ミサキとその女性隊員との "違い" を言い表すかのようだった。
後ろを振り向いたミサキの視線の先には、パンを焼く中年女性と、それをニコニコしながら手伝う男の子の姿があった。
「コロニーにはいろんな仕事があるの。機動調査隊だけじゃないよ。…ね?」
それでも、ミサキの表情は救われなかった。
「外に出たいの。コロニーの外に。だから、パン屋さんだと駄目なの。」
ミサキはそう言って、首にかけていたペンダントを女性隊員に見えるように取り出して見せた。
女性隊員は、それがどういう意味か最初はわからなかったが、ミサキから見せられたそのペンダントを手に持って気づいた。
「…えっと、このペンダントの持ち主を探しにいきたいの?」
ミサキは深くうなずく。
「…そっか。でも、 AW歴以前の所持品 については、調べちゃいけないことになってるの。だから…ごめんね。」
そう言いかけた女性隊員は、上司と思われる他の隊員に声を掛けられて、そのままどこかへ向かい始める。
「あっ、もし私がわかったらこっそり教えてあげる!じゃあね!」
女性隊員は去り際にそう言った。
幼心ながら、ミサキはなんとなく、彼女がその探し物を見つけてくれることはないのだろうと感づいていた。
ただ一人で呆然と立ち尽くすミサキの前を、白衣を着た男の人が立ち止まる。
ミサキは首をめいいっぱい上げて見上げる。その中年は、メガネなのかサングラスなのかよくわからないものを掛けていた。その表情はよくわからなかったが、怒っても笑ってもいないように感じた。
「適材適所というものがある。君は一生機動調査隊の一員にはなれない。私の研究所に来なさい。勉強して、技術研究員になれ。」
ゴホン、と咳払いして、その白衣の中年はミサキの前でしゃがんだ。
ミサキは、ただ無言で、先程よりも距離を感じなくなったその中年のあごヒゲを見つめた。
「機動調査隊ほど頻繁ではないが、技術研究員には、何年かに一度、コロニーの外に出て実地調査をする機会に恵まれる。君が本当に心の底から捜し物を見つけたいと思うのなら、私の提案を…この千載一遇のチャンスを掴め。」
子供にとって難解なその言葉のすべての意味を、ミサキは理解しきれなかった。
しかし、その白衣の男が発した言葉には、救いがあると感じた。
ミサキは男の白衣の裾をギュッと掴んだ。
男は、それを承諾の意として受け取り、しゅっと立ち上がるとラボの方を指さした。
ミサキの頬には、これまでずっと我慢していた涙がひたひたとこぼれ落ちて落ちていった。
ゆっくりと歩き始める二人。
ミサキは、歩きながら、右手では男の白衣の裾を掴みながら、左手ではペンダントを握りしめながら、声を上げて泣きじゃくり続けた。
「おいおい、忙しいヤツだな。私の白衣にハナミズつけるなよ。」
白衣の男は優しい声で、独り言のように言った。
目元は、メガネなのかサングラスなのかよくわからないものを掛け隠されていたが、口元はミサキに笑いかけるようにニコリと動いた。
AW_04: |コロニー第12区画 機動調査隊養成機関前
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「ごめんね、ミサキちゃん。起動できなきゃどうしようもないんだよ。」
かがんだ女性に頭を撫でられながら、そう告げられる女の子。
女性の後方にそびえ立つ建物の窓からは、慣れない表情ながらも武装した少年少女たちが、何かの訓練をしている。
女性の方を見つめるミサキは、目には涙を浮かべつつ、それをじっとこらえている。
「養成機関に入れなくても、他にも楽しいことはたくさんあるよ。ほら、あれ見て!」
女性はミサキの後ろの方を指出す。
軍服とも鎧とも取れるその装備が、ジャラリと音を立てた。その重そうな音が、ミサキとその女性隊員との "違い" を言い表すかのようだった。
後ろを振り向いたミサキの視線の先には、パンを焼く中年女性と、それをニコニコしながら手伝う男の子の姿があった。
「コロニーにはいろんな仕事があるの。機動調査隊だけじゃないよ。…ね?」
それでも、ミサキの表情は救われなかった。
「外に出たいの。コロニーの外に。だから、パン屋さんだと駄目なの。」
ミサキはそう言って、首にかけていたペンダントを女性隊員に見えるように取り出して見せた。
女性隊員は、それがどういう意味か最初はわからなかったが、ミサキから見せられたそのペンダントを手に持って気づいた。
「…えっと、このペンダントの持ち主を探しにいきたいの?」
ミサキは深くうなずく。
「…そっか。でも、 AW歴以前の所持品 については、調べちゃいけないことになってるの。だから…ごめんね。」
そう言いかけた女性隊員は、上司と思われる他の隊員に声を掛けられて、そのままどこかへ向かい始める。
「あっ、もし私がわかったらこっそり教えてあげる!じゃあね!」
女性隊員は去り際にそう言った。
幼心ながら、ミサキはなんとなく、彼女がその探し物を見つけてくれることはないのだろうと感づいていた。
ただ一人で呆然と立ち尽くすミサキの前を、白衣を着た男の人が立ち止まる。
ミサキは首をめいいっぱい上げて見上げる。その中年は、メガネなのかサングラスなのかよくわからないものを掛けていた。その表情はよくわからなかったが、怒っても笑ってもいないように感じた。
「適材適所というものがある。君は一生機動調査隊の一員にはなれない。私の研究所に来なさい。勉強して、技術研究員になれ。」
ゴホン、と咳払いして、その白衣の中年はミサキの前でしゃがんだ。
ミサキは、ただ無言で、先程よりも距離を感じなくなったその中年のあごヒゲを見つめた。
「機動調査隊ほど頻繁ではないが、技術研究員には、何年かに一度、コロニーの外に出て実地調査をする機会に恵まれる。君が本当に心の底から捜し物を見つけたいと思うのなら、私の提案を…この千載一遇のチャンスを掴め。」
子供にとって難解なその言葉のすべての意味を、ミサキは理解しきれなかった。
しかし、その白衣の男が発した言葉には、救いがあると感じた。
ミサキは男の白衣の裾をギュッと掴んだ。
男は、それを承諾の意として受け取り、しゅっと立ち上がるとラボの方を指さした。
ミサキの頬には、これまでずっと我慢していた涙がひたひたとこぼれ落ちて落ちていった。
ゆっくりと歩き始める二人。
ミサキは、歩きながら、右手では男の白衣の裾を掴みながら、左手ではペンダントを握りしめながら、声を上げて泣きじゃくり続けた。
「おいおい、忙しいヤツだな。私の白衣にハナミズつけるなよ。」
白衣の男は優しい声で、独り言のように言った。
目元は、メガネなのかサングラスなのかよくわからないものを掛け隠されていたが、口元はミサキに笑いかけるようにニコリと動いた。
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