不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【幼児ブロマンス期→BL期 成長物語】

はぴねこ

文字の大きさ
49 / 292
帝国編

49 ノアールの怖い話


 夕食を呼びに来たノアールの隣にシュライグが立っていた。

 シュライグは最近、ノアールから仕事や所作などを学んでいる。
 帝国の傘下に入るからには、帝国共通の作法を学ぶ必要があるとは考えていたのだが、シュライグがこちらに到着してから率先して学んでくれているのだ。

 ちなみに、騎士の作法については騎士団の財政管理をしているマルクが帝国騎士団の者に教えてもらっているそうだ。

「シュライグ、帝国の作法とエトワール王国の作法は違いますか?」

 食堂へ向かう途中にそのように尋ねるとシュライグは私の歩く速度に合わせて歩き、声を抑えて教えてくれた。

「作法が違う部分もありますが、それよりも注目するべきは作法が多い点でしょうか。エトワール王国では特に決められた作法がなかった部分でも、帝国では作法が存在します」
「それは覚えるのが大変ですね」
「しかし、覚えてしまえば新人でもある程度の礼節のある動きができます」

 なるほどと私は頷く。
 エトワール王国ではこれまで何年も貴族や王族に仕えていた者たちがなんとなくやってきた優雅に見える動きが、帝国の決められた作法を覚えることで新人でもそれらしく見えるようになるのだろう。

「ノアール、シュライグの教育までしていただいてありがとうございます」
「シュライグはとても物覚えがいいので教えがいがあります」

 現在はノアールの息子のネグロが執事長だが、その前はノアールが執事長だったという。
 帝国の城の執事を束ねていたノアールが褒めるのだから、シュライグは確かに優秀なのだろう。
 私もシュライグのことを優秀だと思っていたが、その評価は執事としてというよりは、カルロを守ろうとしてくれた人物像に対しての評価だった。

「あの……」と、シュライグが何やら意を決したように、ノアールに声をかけた。

「不躾ではありますが、ノアールさんには礼法以外にも教えていただきたいことがあるのです」

「なんでしょうか?」とノアールは穏やかに微笑んだが、「なんでも聞いてください」というような安請け合いをしないところはさすがだ。

「こちらの城の使用人はどのような基準で採用しているのでしょうか? 面接などで必ず聞くことや気をつけて見ている点などがありましたらご指導いただきたいのですが……さすがに、ダメでしょうか?」

 シュライグの言葉に、私は以前にノアールが話していたことを思い出した。

「確か、使用人たちを雇う時には出身や思想、思惑など十分に注意していると言っていましたね」

 私の言葉にノアールは微笑んだ。

「リヒト様は記憶力がいいですね」

 そして、続いてノアールは「残念ですが」と言った。

「やはり、他国の者にそのようなことを指導することはできませんよね……」

 先ほどの話とは違い、今度は皇帝に確認する前に断られてしまった。
 ダメ元で頼んだシュライグよりも私の方が落胆してしまった。
 しかし、ノアールは「そうではありません」と笑った。

「使用人の面接時には出身や思想、思惑など十分に注意するとお話しした通り、いくつもの国を束ねる帝国ではそのようにしていますが、それがエトワール王国で通用するかというと違うと思ったのです」
「どういうことでしょうか?」
「基本的な考え方やものの捉え方、根本の思想は出身地によってある程度作用されます。例えば、南の地方から来た者は比較的楽観的で、自分のために生きている者が多いです。そうした者にはあまり情報を扱うような仕事は任せられません。悪気なく情報漏洩する可能性があるからです。逆に北の地方から来た者は生真面目で頑固な者が多いです。自身の感情を隠すことも多く、親しくなるまで時間がかかる者もおります。もちろん、個人の個性もありますが、育った土地による特性もありますから出身地を気にします。しかし、それは多数の国を抱える帝国の皇帝が住まう城だからこその問題なのです」

 私は「なるほど」と頷いた。

「エトワール王国はまだ帝国傘下にはないですから、城で働きたいという者はエトワール王国内の者です。おそらく、帝国傘下に入ったところでそれは変わらないでしょう。わざわざ小国に居住を移してその国の城で働こうとする者はいないでしょうから」

 同じ国内であれば、思想や感覚のずれはそれほど大きくはないはずだ。

「そうなると、注意すべきは思惑でしょうか?」

 シュライグの言葉にノアールは頷いた。

「この思惑を見抜くのはその手のプロであればあるほど難しいものです。城の備品を盗んで売る程度のこそ泥なら見抜きやすいので面接で落とすことはよくありますが、情報を盗み取るプロや暗殺者など嘘がうまい者は一度会っただけではわからないこともありますし、面接で全て排除する努力をした結果、安心してその後の警戒を怠るのもよくありません」

「ですので」とノアールは穏やかな眼差しで話を続ける。

「排除の方も徹底します」

 その言葉はノアールの穏やかな眼差しとはチグハグな非常に違和感を感じさせるものだった。

「我々使用人はお互いを監視し、排除された者の情報は常に共有し、怪しい動きのある者は即刻上司に伝え、その話が本当である確認が取れ次第即刻排除します」

 その後、ノアールは食堂に着くまでの間、排除の具体例を話し続けてくれた。

 給仕女のエプロンのポケットにハンカチ以外の重そうなものが入っていた時にはメイド長が指摘し、その給仕女が持病の薬だと言うのでそれなら飲んでみれと飲ませてみれば即死した。

 頼んでもない部屋の掃除に向かった掃除夫を監視していたところ、重要な書類を盗もうとしたが、防衛の魔法陣が発動して書類に触れた指が2本吹っ飛んだ。
 切断された指を2本治療するのも面倒だろうから、一本で済むように腕を切り落として城から追い出した。

 大した権力を持たない貴族に雇われた者であればこれらの実例を休憩時間に聞かされた時点で自ら辞めるという。
 命をかけるだけの報酬も後ろ盾もないからだ。

 しかし、王族や大貴族に雇われた者たちはそれなりの実力もあり、成功報酬も満足のいくものであったりするからかなり頑張るそうだ。
 まぁ、かなり頑張ったとしても今現在オーロ皇帝が元気であり、帝国も安泰なので、頑張った結果排除されているということなのだろう。



 そんな話をノアールに聞いているうちに食堂に着いた。
 我々は口を閉ざして、背筋を正して、ノアールに教育されたシュライグが開けた扉の中に入る。

「遅かったなリヒト」

 多忙なオーロ皇帝は後から食堂に来ることの方が多いが、今日は先に食堂に来ていたようだ。




感想 30

あなたにおすすめの小説

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております) ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? 表紙は自作です(笑) もっちもっちとセゥスです!(笑)

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます

ひと息
BL
突然の過労死。そして転生。 休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。 転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。 そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・ 知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?