不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【幼児ブロマンス期→BL期 成長物語】

はぴねこ

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お披露目編

78 計略の下準備(カルロ視点)

 下町へ行くというリヒト様を見送ってから、僕はリヒト様の乳母で僕の養母でもあるヴィント侯爵の許可を得て、魔塔へと向かった。

 リヒト様がいないと魔塔へは入れないけど、魔塔の最上階の魔塔主の執務室は中から外が見えたはずだ。
 外からは中が見えずに黒曜石のような壁のままだけど、リヒト様と一緒に行った部屋からは外が見えたわけだから、きっと大丈夫。

 僕はそう考えて、僕の影から触手を伸ばして最上階付近の壁をコンコンッと叩いてみた。
 すると、狙い通りに目の前にぽっかりと入り口が開いた。
 おそらく魔塔主が開いたのであろうその魔塔の入り口に足を踏み入れる。



 ちなみに、影から伸びた触手の魔法は魔塔主に教わった最初の魔法だ。
 敵を捕獲するための魔法として教えてもらったのだが、まだ高いところに手が届かない身長の低い僕は今のところ手の届かないところにある物を取る魔法として使っている。

 この魔法を初めて見た時、僕はリヒト様と出会う前のことを思い出した。
 リヒト様に出会う前は毎日がつまらなくて、足元の影ばかり見つめていた。
 何も語らない影は、いつだって黙って僕のそばにいた。
 そんな影から触手が出てきて、僕の意思を汲んで動いてくれる。

 うにょうにょ動く触手に愛着を覚えたが、はたとリヒト様のことが気になった。
 真っ黒な触手が動く様を気持ち悪いと思われていたらどうしようと思って急いでリヒト様の方を見れば、神様みたいに微笑んでいた。

 穏やかに、優しく、慈しむみたいな眼差しに僕の頬は熱くなって、つい俯いてしまった。
 僕はリヒト様のあの眼差しに見つめられるといつもドキドキして、困ってしまう。

「可愛いね」

 リヒト様は僕の触手にそっと触れた。
 触れられた触手から、リヒト様の魔力を感じることができた。
 温かくて、柔らかで、包み込まれるような感覚がした。

「リヒト様は触手が好きなのですか?」

 そう聞けば、リヒト様はおかしそうに笑った。
 その顔はいつもよりも幼く見えて、また僕の心臓はドキドキする。

「カルロの影から出ている触手だから可愛く見えるけど、魔塔主の触手は全然そんな風には見えないよ」

 そうか、リヒト様は僕の触手だから好きなんだ。
 僕が嬉しくなると、僕の触手は自然とリヒト様の手に巻き付いた。

「ご、ごめんなさい!」

 慌てて触手を離そうとしたけれど、リヒト様はむしろ握手するみたいに触手を掴んだ。

「やっぱり可愛いな」

 リヒト様の笑顔のせいなのか、魔力のせいなのか、ひどく頬が熱くなってしまった。



 魔塔の真っ暗な入り口を通って、僕は魔塔主の執務室にいた。

「従者君だけでここに来るなんて珍しいですね」
「リヒト様を守るために相談に来ました」
「リヒト王子に何かあったのですか?」

 魔塔主の目が珍しく真剣なものとなった。

「前王のお話はご存知ですか?」
「リヒト王子に出会うまでエトワール王国に興味がなかったので知りません」

 私は魔塔主に前王について説明した。

「そのようなヘンタイが、リヒト王子を狙っているのですか? なぜ誰もそのヘンタイを抹殺しないのですか?」
「前王だからですよ。それに、一応、まだ表立ってリヒト様に何かしたわけではないので捕らえるわけにもいきません」
「それでは、リヒト王子を再び帝国に避難させるのですか?」
「いえ……」

 それでは、リヒト様とナタリア様の接点が増えてしまうのであまり都合がよくありません。
 オーロ皇帝はリヒト様とナタリア様を結婚させて、後々リヒト様を皇太子にしたいと考えているのかもしれませんが、そんなのは絶対に阻止です!

「リヒト王子が帝国に避難することを考えていないということは、従者君は私にヘンタイの抹殺を依頼しに来たのでしょうか?」
「その様な依頼を引き受けてくれるのですか?」
「本来ならばやりませんが、リヒト王子のためですから」
「そうですか。でも、今回は僕に魔法を教えてくれるだけでいいです」

 リヒト様を守るのは僕の役目なのだから。

「前王のそばには優秀な魔法使いがいるのですよね?」
「エルフだから見た目が若いという噂もあります」
「前王の従者がエルフだったとしても、エルフは魔法を使うことに長けた種族ですから、どの道、彼は優秀な魔法使いでしょう」
「その優秀さを利用します」

 僕の言葉に魔塔主は「ほう……」っと興味を持った目を僕に向けました。
 僕は影の中から再び触手を伸ばして、魔塔主の机の上にあるペンを触手で持ち、そのまま影の中に触手を戻しました。

「僕の影の中には物を入れることができるということは、影の中に何らかの空間があるということですよね? おそらく、自分自身も中に入れると思うのですが、それがなかなかうまくいかないのです」

 闇属性の便利な魔法の一つとして、影の中に物を入れて保管しておくことができると魔塔主に教えてもらった。
 影の中にほぼ制限なく物を入れることができるため、視察に行った先で色々な物を購入してもたくさん収納できるとリヒト様に喜んでいただいた。

「あなたはなかなか面白いですね。これまで自分の影の中に入りたいなどと言う者はいませんでしたよ」
「中に入ったら、影の中の空間を明るい部屋のようにしたいので、それも教えて欲しいです」
「どうして、そのようなことを?」
「自分の好きな人を真っ暗闇の中に閉じ込めておきたい人などいないと思うので」

 いや、もしかするとそんな人間もいるのかもしれないが、少なくとも僕は違う。
 僕は明るい光の中でリヒト様に会いたい。

「もしかして、リヒト様を閉じ込めてしまおうと考えているのですか?」

「いいえ」と僕は首を横に振った。
 リヒト様を閉じ込めるなどとんでもない。
 僕は前王の従者とは違う。
 あんな愛に飢えた眼差しだってしていないはずだ。
 だって、僕はリヒト様にたくさんの慈悲を与えられているのだから。

「前王の従者に教えてあげようと思っているのです」

 僕の言葉に魔塔主は「なるほど」と思案顔になった。
 僕はリヒト様を僕の中に閉じ込めようなんて烏滸がましいことは考えていない。
 もちろん、僕はリヒト様の中に入りたいけれど。
 きっとリヒト様の影の中なら温かくて居心地がいいはずだ。
 しかも、影なら、絶対に離れることがないのだ。

「とは言っても、どうしましょう。影の中に入ろうなどと思ってもみなかったので、これまでやったことはありません」

 魔塔主は全属性を使え、その中でも得意なのが光属性と闇属性だという変わった人だ。
 得意になったのは、興味深い属性だったから色々と研究をしていた結果だそうだ。

「案外役に立ちませんね」
「ひどい言われ様ですが、面白い研究を持ってきてくれたのですからやってみましょう。魔法は欲求を叶える手段です。影の中に入るための欲求を作り出す必要がありますね」

 そこまで言った魔塔主は僕の顔をじっとみて、それからニッと笑った。

「従者君たちにとっては意外に簡単かもしれません」
「どういう意味ですか?」
「想像してください。君の影の中に、リヒト王子がいるところを」

 次の瞬間、僕は真っ暗闇の中にいた。
 そして、そこが僕の影の中だとすぐに理解できた。

 でも、影の中に入って想像通りの真っ暗闇にちょっとがっかりした。
 こんなところにリヒト様を入れるわけにはいかない。
 リヒト様は明るい空間が似合うのだから。
 リヒト様に似合う部屋の様子を思い浮かべた瞬間、真っ暗だった空間は明るい日差しの差し込む理想的な部屋に変わった。

 魔塔主は魔法は欲求を叶える手段だと言っていた。
 まさにその通りなのだろう。
 僕の影の中は僕の魔力で構成されているのだから、空間を変化させることなど造作もなかったのだ。

 新しい魔法を手に入れた僕はすぐにでもリヒト様に会いたくなった。
 すると、僕の目の前にキラキラと輝く道ができた。
 まるで光の粒で作られたような道の先に僕はリヒト様の気配を感じてその道を急いだ。

 道はまるで坂のように上へと続いている。
 そして、その先にリヒト様の姿が見えた。
 それが、足元から上を見上げるようにリヒト様の後頭部が見えて、僕はこの道がリヒト様の影に続いていることを理解した。
 僕はまだお話し中の様子のリヒト様からは離れて、元の魔塔主の執務室に戻った。

「少しの間、従者君の影が消えていましたが、どこかに行っていたのですか?」
「リヒト様の影に繋がったようでした」
「影と影が繋がる……そんな面白いことが起こっていたのですか? しかし、それならば、そのままリヒト様の元に行けば良かったでしょうに、なぜこちらに戻ってきたのですか?」

 魔塔主は不思議そうに僕をじっと見た。

「常日頃、リヒト様は感謝を伝えることは大切だとおっしゃっておられますので、お礼を言いにきました。影の中にも入れましたし、影の中が僕の思った通りに変化することもわかりました。それから、僕がリヒト様の元にいつでも行けることもわかったので大収穫です。ありがとうございました」
「私は君も他の無能と変わらないと思っていたのに、そのように素直にお礼を言われてはやり難くなりますね」
「リヒト様を守るためには僕が強くなる必要があります。これからも鍛えてください」

 別に魔塔主のお気に入りになりたいとは思わない。
 でも、リヒト様を守るために魔塔主を利用できるのならば、いくらでも利用する。

「仕方ないですね」と魔塔主が僕の頭を撫でようとしたので反射的にその手を払ってしまったが、魔塔主が怒った様子はなかった。
 むしろさらに機嫌が良くなったようだった。






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